発:海軍省 宛:トラック泊地鎮守府司令長官   作:戦闘工兵(元)

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8/1(だったかな?)の日間ランキングが36位だったと気付き…思わず( ゚д゚)となりました。マ ジ か

お陰さまでお気に入りが1000件突破しました。厚く御礼申し上げますm(_ _)m

そして、りひゃると様。推薦文を書いて頂きまして誠にありがとうございます。この場を借りて重ねて御礼申し上げますm(_ _)m

しかし…帝国海軍の対空戦闘ってこれで良いのか……うん、たぶん間違いだらけだと思う………いやそれよりも艦娘の方にスポット当てなきゃ……


34

 真珠湾への奇襲に成功した第一次攻撃隊は雲上で編隊を組み、母艦への帰路に就いていた。

 

 奇襲とはなったモノの対空砲火によって9機が未帰還となり、帰還の途に就く多数の機体へも対空砲弾の破片による孔が穿たれている。

 

 攻撃隊の先頭を飛ぶ黒川一飛曹率いる一個小隊は幸いな事に一機も欠ける事なく編隊を組んで航路を消化していた。

 

 ひとまずは安堵した彼は自身が駆る愛機の風防を少しだけ開け、換気をしつつ持ち込んだ煙草を吹かしている。

 

(ーーそろそろだと思うが……)

 

 銜え煙草のまま彼は雲の切れ間から見える海面を見張り続ける。

 

 予定では、この海域でハワイへ進出途中の艦隊と合流出来る筈なのだ。

 

 チラリと燃料計の針を確認する。燃料の残りは30分程度だ。

 

 ーー間もなく雲が途切れる。

 

 真白い雲を飛び越えーー彼の眼下が一面の紺碧となった。

 

(ーー見付け………ん?)

 

 紺碧の海原に黒い点がいくつも見えた。それが味方の艦だと彼は気付くーーが同時に様子が妙である、とも気付いた。

 

 眼を細め更に確認するーー海原へ紅蓮の玉が墜ちていくのが見えた。

 

(ーー空襲!!)

 

 艦隊が空襲に晒されている事に気付いた彼は風防を思いっきり尾翼側へ滑らせ全開にすると銜えていた煙草を機外へ吐き捨てる。

 

 背後を確認しつつ愛機を僅かに失速させて戦闘機隊隊長機の真横へ占位する。

 

 隊長機を操る水野大尉も風防を後ろへ開け放つと顔を出して黒川一飛曹に手信号を送る。

 

ーー続ケーー

 

 大きく頷いた彼は攻撃隊指揮官機へ近付く水野大尉に続く。

 

 水野大尉の駆る機が指揮官機の真横へ占位する。

 

 指揮官と彼が手信号で遣り取りしている最中、黒川一飛曹の鍛えられた眼が黒い点にしか見えない艦隊からチカチカと規則的な光が点滅しているのを捉える。

 

 ーー発光信号だ。

 

 それに気付いた黒川一飛曹が注意を促す為、短連射で機銃を発砲する。

 

 銃声に驚いた様子で振り返った水野大尉に彼が艦隊から送られて来る信号を見るよう手信号で伝える。

 

 ーー我、敵機ノ空襲ヲ受ク。在空待機セヨーー

 

 その信号を正しく受け取った水野大尉が隣の指揮官機へ手信号で内容を告げるーー指揮官機側も同時に艦隊からの無電を受信していたようで委細承知の返答を送る。

 

 すると水野大尉が黒川一飛曹へ手信号を送って来た。

 

 ーー燃料ノ残リハ?ーー

 

 ーー巡航ニシテ30分程度ーー

 

 水野大尉が頷く。

 

 隊長機が翼を翻し、攻撃隊の先頭に占位した。

 

 黒川一飛曹が率いる一個小隊を集結させ、隊長機の真横につく。

 

 見渡せば隊長機の回りに直掩の戦闘機隊の全機が集っており、彼等へ水野大尉が信号を送る。

 

 ーー燃料、弾薬充分ノ機ハ我ニ続ケ。吶喊スーー

 

  水野大尉がバンクを振り、攻撃隊の編隊から抜けた。

 

 それに続き、黒川一飛曹を含めた15機が隊長機の後を追い掛けるーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵偵察機に発見された時点で敵機の来襲がほぼ確実となり、ハワイ攻略の任に就く三個艦隊は防空の指揮系統を第六艦隊司令長官 梶本中将を第一とし、彼の命令の下、輪形陣を形成した。

 

 陣形が形成されてほどなく敵攻撃隊が最左翼側から来襲ーーその最左翼側を航行していたのは桂木が預かる第四艦隊だ。

 

 艦隊の防空の為に空母から発艦していた戦闘機は20機。

 

 対して来襲した深海棲艦の第一波の攻撃隊は70機以上。

 

 艦隊への空襲を阻止しようと零戦が押し寄せる敵攻撃隊に吶喊するーー数機は叩き落としたが、ほとんどの敵機が戦闘機隊の攻撃を潜り抜けてしまった。

 

「ーー砲術長、主砲を急ぎ撃て!」

 

<ーー了解!その御命令を待ってました!>

 

 第四艦隊旗艦 蔵王の艦長である前原大佐が防空指揮所で伝声管を引っ掴んで吠える。

 

 銜え煙草のまま彼は首から下げた双眼鏡を手に取り、レンズを突撃隊形を保ったまま突っ込んで来る敵攻撃隊へ向けた。

 

 既に主砲である8門の50口径二号20.3cm連装砲は敵編隊に指向されている。艦の各部へ主砲の射撃が間近となった事を報せる警報が短音で数度鳴り響く。

 

 そして長音一声ーー主砲8門が斉射される。

 

(ーー五十口径二号二十糎砲の初速は835m/s…射撃した際の仰角は50度…射程は最大の29,432m。発砲したのは三式弾…艦の縦・横動揺角……敵攻撃隊の未来位置……命中界ーー)

 

 主砲が発砲され、その猛烈な衝撃波が顔面や身体を容赦なく叩く中、桂木が脳内に詰め込まれている艦砲射撃の教範や概説を用いて演算を瞬時に行う。

 

「ーー弾着……今」

<ーー弾着…今っ!!>

 

 双眼鏡を覗き込む桂木の呟きと伝声管を通して上がって来た砲術長の報告が重なったちょうどその時ーー空中で蔵王や他の艦、そして艦娘達から投射された三式弾が炸裂する。

 

 編隊の先頭を飛んでいた雷撃機と爆撃機が10機ほど火の玉となって海面へ墜ちて行くのを桂木は捉えた。

 

「ーー演算なされたのですか?」

 

「一応は鉄砲屋なのでな。まだ鈍っておらなんだようで安堵したよ」

 

 この状況で豪胆な方だ、と内心で桂木へ感嘆する艦長だったが丹田に力を込めて次の指示を出す。

 

「ーー主砲、撃ち方待て!左舷対空戦闘!高角砲、機銃撃ち方用意!」

 

<ーー主砲、撃ち方待て!左舷対空戦闘!高角砲、機銃撃ち方用意!ーー左舷対空戦闘用意良しッ!!>

 

「左30度より吶喊する敵雷撃隊を第一梯団とし右方向へ第二、第三、第四、第五梯団と呼称する!その上空、左25度から吶喊する敵爆撃隊の呼称は一爆とし右へ向かい二爆、三爆、四爆!」

 

<ーー委細承知!>

 

 銜えた煙草を揺らしながら艦長が双眼鏡越しに零戦の邀撃を掻い潜った敵攻撃隊を睨み付ける。

 

「ーー敵の目標は輪形陣中央の空母だ!一機でも多くここで叩き落とし、一機でも多く海の底へ叩き込め!」

 

『ーー応っ!!』

 

 意気軒昂と見張員達が艦長の訓示に応える。

 

 その様子を横目に桂木は尚も敵攻撃隊へ双眼鏡を向け続けーー異常を捉えて“しまった”。

 

「ーー第一、第二梯団降下!第三、第四も続く!!」

 

「ーーっ!?」

 

 桂木が警告するかの如く吠えると艦長は反射的に敵攻撃隊へ双眼鏡を向けた。

 

(ーー狙いは空母ではない!?)

 

 各隊ごと5機ずつで組まれた敵攻撃隊が降下し、まるで海面を滑っているように見える低い高度を保ったまま突っ込んで来る。

 

 それらの機首は全てーー蔵王に向いていた。

 

「ーー上…等…ッ!」

 

 血が滾るとはこの事、と言わんばかりに前原大佐がニイッと口角を吊り上げる。

 

「ーー第一、第二梯団、尚も本艦に近付く!その後ろに第三、第四、第五梯団!」

 

<ーー艦長!左舷対空戦闘始めて宜しいですか!?>

 

「応!!目標 第一、第二梯団!左舷対空戦闘!高角砲、撃ちぃ方ぁ始め!」

 

<目標 第一、第二梯団!左舷高角砲 撃ちぃ方ぁ始め!!>

 

 艦長、砲術長の号令が下されていき、吶喊して来る敵攻撃隊と正対する事になる左舷側へ配置されている2基の四十口径八九式十二糎七連装高角砲の砲口が次々に火を吹く。

 

 投射された三式弾が敵攻撃隊の鼻先で炸裂し弾幕を形成するーーがそれの密度は疎らであり、損害を与えているとは言えなかった。

 

「ーー続けて左舷機銃も撃ちぃ方ぁ始め!目標は先に同じ!!」

 

 高角砲に続き、左舷側へ配置された10基の九六式二十五粍連装高角機銃も唸りを上げて連射の銃声を奏で出した。

 

 思わず耳を塞ぎたくなるような鼓膜を容赦なく叩く砲声と銃声の只中。蔵王や対空戦闘を始めた他の艦や艦隊の防空に就いた艦娘達からも撃ち出された曳光弾が光の尾を曳いて低空で接近する雷撃隊へ向かう。

 

「ーー第二梯団の右翼機に被弾!墜ちーー続けてもう一機も墜ちる!!」

 

「ーー第一梯団、一機撃ーー第一梯団、魚雷投下!雷跡4!」

 

「ーー取舵いっぱぁぁい!!急げぇぇ!!」

 

 雷撃隊の数機が対空砲火を浴び、火を吹きながら海面へと叩き付けられ水柱を上げるが敵第一梯団から四本の魚雷が投下された。

 

 投下を終えた敵機が離脱を始める中、すかさず前原艦長が転舵を命じたーー正に魚雷が海面を切り裂いて本艦へ向かって来る方向へ。

 

「ーーもどぉぉせぇぇぇ!!第二梯団は!?魚雷は落としたか!?」

 

「ーーまだ投下しておりませーー第二梯団、今、魚雷投下!!」

 

「面舵いっぱぁぁい!!急げぇぇ!!」

 

 矢継ぎ早に報告がなされる中、伝声管へ取り付く前原艦長もそれに負けじと命令を下していく。

 

「雷跡視認!!第二梯団より投下されし魚雷は3!本艦へ向かう!!」

 

「第一梯団の魚雷4、尚も接近ーー距離300っ!!」

 

「もどぉぉせぇぇぇ!!」

 

「ーーあと200っ!」

 

 桂木は紫煙を鼻孔から緩く吐き出しながら祈るしかない。自身よりも一回り年上の艦長の操艦の腕のみが頼りだった。

 

「ーーあと20っ!」

 

 白い泡を吐き出しつつ4本の魚雷が蔵王の左舷艦尾へ突き刺さろうとしたーーがそれは全て躱され、そのまま雷跡だけを残して後方へと流れていった。

 

「ーー雷跡3、尚も接近!」

 

「ーー第三、第四、第五梯団、低空飛行に入った!」

 

「ーー敵も忙しないな!煙草ぐらい吸わせてくれ!!とぉぉりかぁぁじ10度っ!!」

 

 チラリと桂木が横目に艦長を窺えば、彼が銜えていた煙草は根本近くまで灰となっている。

 

 桂木は新しい煙草を自身のポケットから取り出し、その内の真新しい一本を半分ほど燃え尽きた銜えている煙草を火種にして火を点ける。

 

 火が点いた煙草を摘まみつつ桂木が艦長の眼前へ差し出す。

 

 それに気付いた艦長は眼を瞬かせ、次いで桂木へ視線を滑らせると小さく頭を下げた後、新しい煙草を受け取り、唇の端へ銜えた。

 

 吸い終わった煙草を手袋をはめた片手で握り潰してポケットに収めた時ーー魚雷3本を回避した事が報告される。

 

(ーーまるで話に聞く森下参謀長だな)

 

 この状況下に似つかわしくない感想を心中で桂木が吐露した時、新たな転舵が下達されたーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーテートク……!」

 

 肩越しに振り向けば先程、出撃した蔵王をはじめとしたハワイ攻略艦隊が敵機の空襲を受けている。

 

 それを捉えた金剛が自身の指揮官と仰ぐ青年の姿を思い浮かべた。

 

「ーー大丈夫ですよ金剛さん」

 

 ふと彼女に声を掛けて来たのは同じくトラック泊地鎮守府に帰属する艦娘の赤城だ。

 

 直掩戦闘機隊と索敵の偵察機を発艦し終えた彼女が微笑みを浮かべつつ金剛へ向かい口を開く。

 

「私達の提督は豪胆な方です。きっと煙草でも召し上がりながら余裕綽々と対空戦闘を見守っておられますよ」

 

「ーーそうですよ」

 

 赤城の言葉に同意したのは大和だ。彼女は呉鎮守府帰属の艦娘だが、本作戦に際して一時的にトラック泊地鎮守府の預かりとなっている。

 

「あの程度の空襲ーーレイテや坊ノ岬に比べたらどうって事はありません」

 

「えぇ。在空の直掩もある事ですしね」

 

「それはーー判ってる…判ってるケド…」

 

 金剛が再び肩越しに振り向く。

 

 艦隊の上空に対空砲火の曳光弾、炸裂する三式弾の華が咲く中、彼女の人間の視力とは比較にならないそれが桂木が座乗する蔵王の姿を捉える。

 

「ーー大丈夫です」

 

 力強い声が金剛の耳を打った。

 

 それを発したのは大和だ。

 

 彼女へ金剛が視線を遣るとーー大和が強く頷いてみせる。

 

「ーー大丈夫です」

 

 根拠のない、大丈夫、という言葉だったが、それは金剛の胸に自然と落ちて行く。

 

 頷きを返し、金剛はーー艦娘だけで構成された艦隊は増速。一路、ハワイを目指した。

 

 

 

 




「撃ち方」と「打ち方」……どっちが正しいのかとウンウン悩みましたが結局前者としました。

桂木の身長は181cmと戦前、戦中の日本人にしては大きいですが…当時も割と背の高い人は多い。

有名な人物(帝国海軍)だと海相だった米内大臣(確か180cm?)。大和が沖縄へ特攻した時の第二艦隊司令長官の伊藤中将(189cm) 。そして雷の艦長だった工藤艦長は185cm。

……作者の身長?187cmです。

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