発:海軍省 宛:トラック泊地鎮守府司令長官   作:戦闘工兵(元)

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こんなに艦娘の皆の登場回数や頻度が極端に少ない艦これ二次は珍しい……と思う私。

と、とりあえずいつものを…

◆どうでも良い帝国海軍講座◆

帝国海軍と帝国陸軍は仲が悪く反りが合わなかったのは皆さん御承知でしょう(現場レベルはそうでもなかったようですが)。

「国を護っているのは俺達だ!」という自負も原因だったのではないかなぁ?と思います。

でもね……同じ物品を別の呼び方をするのはどうよ?

弾薬盒を陸軍では“弾薬盒”や“弾入れ”と呼び、海軍では“胴乱”。

艦これでもお馴染みの大発。今年の春イベでもお世話になりましたが海軍での書類上の名称はーー“十四米特型運貨船”。

文献か何かの資料で出て来て「なんじゃこりゃ?」となった記憶がある私。




32

ーー信号弾(流星)の一ツ星、色は赤。

 

 第一次攻撃隊指揮官機から十年式信号拳銃を用いて撃ち上げられた信号弾を真珠湾へ迫る攻撃隊の全機が目撃した。

 

 それが意味するのはーー“奇襲”。

 

 地上からの対空砲火、邀撃機の姿を認めなかった指揮官が決断を下したのだ。

 

 併せてト連送を艦隊へ打電する。

 

 艦攻隊隊長機、そして艦爆隊隊長機に率いられた各機、直掩となる戦闘機隊が別れて突撃隊形を構成した。

 

 第四航空戦隊 瑞龍から発艦した黒川一飛曹率いる一個小隊は2000mの高度を保ったまま真珠湾へ侵入する艦爆隊の直掩に就く。

 

 黒川一飛曹は自身が駆る五二型の計器盤上部にある四式射爆照準器の光源を点灯させ、反射透明硝子へ蜘蛛の巣を思わせる照準環を浮かび上がらせた。

 

 既に機銃弾の収束点は200m先となるようトラック泊地の飛行場で調整を済ませており、機銃の安全装置の解除及び試射は海上の上空で終わらせている。

 

 後は照準環に敵機を収め、左手で握る絞弁把柄と共に付いている機銃の発射把柄を引くだけだ。

 

 ーー遂に攻撃隊が真珠湾上空へ侵入した。

 

 間を置いて攻撃隊が編隊を組む鼻先へ黒い華ーー上空侵入を阻止しようとする対空砲弾の炸裂が始まる。

 

 今更遅い、と黒川一飛曹が今頃になって弾幕を張り出した深海棲艦を鼻で笑う。オマケとばかりにその弾幕の密度は疎らだ。

 

「ーーおっと」

 

 真珠湾中央にある島ーーかつて米軍が飛行場を設営していたフォード島の滑走路に動くモノを黒川一飛曹が発見した。

 

 離陸しようとしている敵機だ。

 

 それを捉えていたのは彼だけではなかった。

 

 同じく艦爆隊を直掩していた戦闘機隊隊長機を操る水野大尉が手信号を黒川一飛曹へ送る。

 

ーー邀撃セヨーー

 

 それを認めた彼が大きく頷き、指揮下の小隊3機へバンクを振る。

 

ーー我ニ続ケーー

 

 胴体下に吊るしていた増槽を切り離し身軽となった機を降下させる。

 

 風防がビリビリと軋み、降下によって生じるGが身体を座席へ押し当てる。

 

 腹筋に力を入れつつ黒川一飛曹は射爆照準器の反射透明硝子に映る照準環へ離陸しようとしている地上で滑走を始める平べったい形状の敵機を収めた。

 

 発射把柄上部にある赤いスイッチを尾翼側へ倒し、両銃4挺を同時に射撃出来るよう設定する。

 

 彼我の距離がグングンと縮まり、照準環内の敵機が大きくなっていく。

 

ーー今っ!ーー

 

 機銃弾の収束点となる200m先の敵機を狙い左手の指へ力を込め、発射把柄を握り込んだ。

 

 その瞬間、両翼と機首の両銃四挺が甲高い連続の銃声を奏で出す。

 

ーー引き起こしーー

 

 握り込んでいた発射把柄を離した刹那、彼は操縦桿を自身の胴体側へ勢い良く引き、機体を上昇させる。

 

 機体を引き起こす瞬間に銃撃を加えた敵機から火が吹き上がり、バランスを崩してそのまま滑走路を転げ回ったのを彼は認めた。

 

 機体を僅かに降下させつつ黒川一飛曹は再び発射把柄を握り込む。

 

 先程、離陸を阻止した敵機の後ろに別の機体が続いていたのを視認しこれも撃破しようとしたのだ。

 

 指揮下の3機も地上にいる敵機へと襲い掛かり銃撃を加え出す。

 

 邀撃に上がれぬようここで徹底的に叩くーーそう言わんばかりに彼等は容赦なく地上の敵機を片端から撃って行く。

 

 ーーそろそろかーー

 

 機体を上昇させ、滑走路への攻撃を中止した黒川一曹が駆る小隊長機を3機が追い掛ける。

 

 彼等が操る零戦と急降下する彗星が入れ替わるように擦れ違いーー胴体へ納めていた爆弾が投下された。

 

 ーー命中。良い腕だーー

 

 次々と投弾される爆弾が滑走路を穴だらけにして行く。

 

 これで敵機の生き残りは空へ上がる事が出来なくなった。

 

 真珠湾の制空権を奪った事を確信した黒川一飛曹は再び上空を飛び、水平爆撃に移ろうとしている艦爆隊の直掩へ回ったーー

 

 

 

 

 

 

「ーー第一次攻撃隊より入電!“敵ノ損害甚大ナレド第二次攻撃ノ要ヲ認ム”!」

 

「…甚大か。こう言っては何だが重要な情報が欠如しておる」

 

 第四艦隊旗艦 蔵王の艦橋で報告を受けた桂木は長官席へ腰掛けつつ眉根を寄せて唸る。

 

「ーー確かに停泊中の敵艦隊は何杯か、その種別は何か、如何程に損害を与えたのか、いずれの情報も欠如している状況であります。然れど空を制し、敵艦を漸減させ、出撃する艦娘達の戦闘が有利に運ぶよう第二次攻撃は実施すべきかと。もはや奇襲とはならず攻撃隊は激しい抵抗を受けるのは必定ですが…やはり発艦させるべきです」

 

 桂木の背後に控えていた第四艦隊参謀長の須藤大佐が口を開いた。

 

「ーー水雷屋なので航空戦は素人ですが…素人意見ながら私も須藤の具申に賛成であります。長官、御決断を」

 

 蔵王艦長 前原大佐が海兵同期にして自身が預かる艦へ乗り組んだ艦隊参謀長の具申に頷き、桂木へ決断を促す。

 

「ーー瑞龍へ信号。“第二次攻撃隊、発艦始メ”」

 

「直ちに送ります」

 

 桂木が決断を下し、それに頷いた艦長が命令を下達する。

 

 背後でやり取りされる内容を聞いていた桂木へ須藤参謀長が声を掛ける。

 

「ーー長官はお年の割にとても落ち着いておられますな」

 

「…戦果を聞いて驕る若造故、やも知れんがな」

 

 桂木の軽口に三種軍装を纏い、肩から参謀飾緒を下げた須藤大佐の口元が綻ぶ。

 

「御謙遜を。私が長官と同じ歳の頃はそのように落ち着いてはおれませんでした」

 

「須藤に同じくです。御世辞抜きに長官は落ち着いておられる。新聞で拝見した通り、古の英傑を彷彿とさせます」

 

「過分な評価だが……受け取っておこう」

 

 彼が二人へそう返した頃、第四航空戦隊の空母2隻や他の航空戦隊からも第二次攻撃隊が次々と発艦を始めた。

 

 その様子を眺めていた桂木はーー不意に言い知れぬ胸騒ぎを覚え、眼を細めつつ水平線の彼方へ視線を遣る。

 

 まるで睨むようにーー敵を威嚇するが如く眼を細め、水平線の彼方に視線を送る彼の姿を見た前原艦長が小首を傾げる。

 

「ーー長官。どうかなされましたか?」

 

「…艦長。済まないが瑞龍へもう一度信号を」

 

「なんと送りますか?」

 

「艦隊の防空に上げる戦闘機は残っているかどうかを確認してくれ。予備機でも良い。あるならば上げるようにと」

 

「ーー了解」

 

 桂木の下達を直ちに実行するよう前原艦長が指示を出す。

 

 何を警戒したのか、それを正しく受け取った参謀長が若い長官へ声を掛けた。

 

「長官。敵の攻撃隊が来襲する、とお考えですか?」

 

「徒労かも知れんが…警戒するに越した事はなかろう。艦隊の位置はまだ捕捉されてはおらん筈だ。そうであれば疾うの昔に艦隊へ敵攻撃隊が来襲している」

 

「仰る通りです」

 

「しかし所詮は“まだ”に過ぎん。我々は敵がどのような手段で交信をしているのかさえ判らんのだ。万が一、後手に回ればーー敵機が襲い掛かって来る。上空が丸裸の艦隊の防空は高が知れる」

 

 首肯した参謀長が再び口を開く。

 

「併せて第六、第七の両艦隊へ信号を送りましょう。内容は先程と同じく」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

「ーー実包搬出!」

 

『ーー実包搬出っ!』

 

 海軍陸戦隊の士官が輸送艦内に設けられた分厚い扉の前で眼前に並ぶ8名の下士官へ吠えた。

 

 命令を復唱した彼等は解錠された扉を開け室内ーー弾薬庫へ足を踏み入れた。

 

 内部には山と積まれた木箱。そのいずれにも三八年式実包の名と共に製造された工廠の名が刻印されている。

 

 その木箱を二人掛かりで次々と室内から搬出して行き、釘打ちされた蓋を差し込んだバールで抉じ開けた。

 

 木箱の中にびっしりと敷き詰められているのは幾多の紙箱。

 

 新たな命令を下す為、士官が再び吠える。

 

「ーー実包配分!」

 

『ーー実包配分っ!!』

 

 通路で一列縦隊を組み整列していた陸戦隊の下士官、兵士達が一斉に復唱する。

 

「ーー120発!」

 

 木箱の前へそれぞれが進み出ると素早く弾薬を搬出した下士官が紙箱を8個ずつ手渡して来る。

 

「ーー120発!」

 

 復唱しつつ両手でそれを受領した兵士が通路の奥にある待機所へ進む。本来ならばこの場で受け取った弾薬の員数を確認しなければならないのだが、それでは迅速に各員へ配る事が出来ない為、別の場所で実施するのだ。

 

 彼等の中には柳瀬一水の姿もある。

 

 待機所へ進んだ彼も紙箱をひとつ開けて油紙の包装を破り、挿弾子へ5発ずつ組まれた計15発の弾薬を確認する。

 

「…5発…15発…異常なし…」

 

 受領した弾薬を腰へ巻いた三つの牛革で作られた弾薬盒(胴乱)に錆等の有無を確認しつつ納めて行く。

 

 腹側の左右へ装具した胴乱へそれぞれ30発ずつーー計60発を納めた時、柳瀬一水の肩が唐突に叩かれる。

 

「ーー柳瀬、あんべは?」

 

「ーー…あ、あんべ…?」

 

 彼の肩を叩いたのは訛りが酷い佐藤水兵長だった。

 

 彼も柳瀬一水と同様に受領した弾薬を確認している。

 

「んだ。あんべは?」

 

「えぇっと……」

 

 相も変わらず酷い訛りの佐藤水兵長になんと尋ねられたのか、そしてなんと返答すれば良いか柳瀬一水が困っていると助け船を出す者が現れる。

 

「ーー察するに体の具合はどうだ?って聞いたんだろう?」

 

「ーー水谷二曹」

 

「ーーんでがす」

 

 柳瀬一水の右隣に来た水谷二曹が苦笑いを零しつつ彼等と同じく弾薬の確認を始めた。

 

「ーー体調はすこぶる良好です」

 

「佐藤。いつも言うが貴様はもう少し俺達に通じる言葉を喋ってくれ。…済まんが東北訛りが酷くて良く判らん」

 

「…頑張ります…」

 

 今度は二人にも通じる言葉を一言だけだが佐藤水兵長が吐いた。

 

「あぁ…それとだ。破いた油紙は捨てずに胴乱の中に詰めておけ。少しでも湿気対策に努めろ」

 

 水谷二曹の注意に二人が頷く。

 

「ーー120発異常なし。…異常なしか?」

 

「異常ありません」

 

「こっちもでがーーです」

 

「戻るぞ」

 

 宛がわれた居室に戻る水谷二曹を二人が追い掛ける。

 

 寝起きに使っていた吊り床が全て納められ、がらんとした居室の片隅に各自毎の装具や叉銃された小銃が纏められている。

 

 そこへ歩み寄った彼等はそれぞれの背嚢を開け、中から覆いを付けた鉄兜を取り、略帽を被ったままの頭へそれを乗せると顎紐を締めた。

 

「ーーおい」

 

 不意に二人へ水谷二曹が人数分の小さい紙袋を手渡して来る。

 

 それを受け取った柳瀬一水が紙袋に印刷されている文字を見て一気に赤面した。

 

「み、水谷二曹!?」

 

「なんだ柳瀬」

 

「こ、これは…!?」

 

「“鉄兜”だが?」

 

 明らかに狼狽する柳瀬一水を見た二人が苦笑を始める。

 

「…いやはや流石は年頃だな」

 

「おらーー私も柳瀬ぐらいの頃は女子の事ばかり考えておりましたから」

 

 水谷二曹が苦笑を零したまま腕組みしつつ柳瀬一水に説明を始める。

 

「別にそれを貴様のラに付けてホールへ突っ込めとは言っておらん。それは銃口に被せて銃身内に水が入るのを防ぐためにするのだ。全員がするぞ?」

 

「あとは非常用に水を入れて口を縛り仕舞う…それか貴重品の防水処置…等でしょうか。創意工夫で色々と使えるぞ。…本来の使い方じゃないけどな…」

 

 説明を聞いた柳瀬一水は改めて自身の手中にある“鉄兜”ーー避妊具を見詰める。

 

「ど、道理で…乗艦前に大量に渡された理由が判りました。……ですが…防水処置ならば、これに実包を入れれば宜しいのではないでしょうか?」

 

「ふむ…そこに気付くのは良い事だが…もう少し頭を働かせろ」

 

「挿弾子ごと入るか?入ったとして装填する度にそれを破くのか?らずもねぇぞ?」

 

 あ、と根本的な事に気付いた柳瀬一水が間抜けのような声を漏らす。

 

 更に苦笑を深くする二人は柳瀬を放っておき、両足へ巻いたゲートルの具合を確める。

 

「設営隊の知り合いは破壊筒に使う点火具などを入れるらしい。判るか破壊筒?」

 

「は、はい。鉄条網や障害を吹き飛ばすモノであります。教育で使用は学びました」

 

「そうか。なら眼前で破壊筒を持った設営隊の班が殺られても使えるな?」

 

 突如として水谷二曹が柳瀬一水へ鋭い視線を向けつつ尋ねる。

 

 ゲートルの具合を確め終わった水谷二曹は立ち上がり、言い淀んでいる彼へ対して口を開いた。

 

「柳瀬。戦技や一般教養、学校で学ぶ勉学にしても“いざ”という時、役に立たないなら意味はないぞ。それでは無学の者にさえ劣る」

 

「は、はっ!」

 

「とはいえ…全く知らないという訳ではないのは結構な事なんだがな」

 

 水谷二曹が背嚢から取り出した雑嚢の紐を肩に掛ける。この中へは後で配分される手榴弾を入れておき、交戦前に軍袴のポケットへ納め、いつでも使用できるよう備えるのだ。

 

 二人も水谷二曹に倣い雑嚢を肩へ掛けた。

 

「ーーそういえば柳瀬の生まれは広島だったな」

 

「そうであります」

 

「そして佐藤は……東北の宮城だったか?」

 

「はい。宮城の北の方でがす」

 

「一応、尋ねるが……貴様の故郷の者達はそんなに訛っておるのか?」

 

「おらほーー…私の故郷の年寄りはもっと訛っております」

 

 水谷二曹と柳瀬一水は彼の返答を聞いて現在の佐藤水兵長よりも酷い訛りで喋る年配の者達を想像してみた。

 

 ーー結論としては、外国語の方が理解出来るかもしれない、というモノであったという。

 

「故郷は山と川が美しく…見渡す限りの田畑でして…田植えが終われば青田、秋は実った穂が黄金色に輝いております…冬は雪が降り積もり一面は銀世界…春には栗駒山の山肌に残った雪が駒の形になります…良い所でがす…」

 

 目を閉じれば佐藤水兵長の瞼の裏に生まれ育った故郷の光景が広がるーーその美しい光景を思い出した彼は感嘆の溜め息を吐いた。

 

「田植えの時、田んぼの畦を走ってたら…きゃっぽりして…親父(おやず)達にごしゃがれて…犬を散歩させてたら紐っこ放してしまって逃げられて…泣きながら探して…家さ、けえったら犬が先にけえってて…嗚呼…夏のお祭りも楽しかった…」

 

 故郷の事を彼は訛り混じりに話し出す。

 

 やおら佐藤水兵長が胴乱へ納めていた挿弾子に組まれた5発の実包を取り出してみせる。

 

「故郷に細倉鉱山というのがあるんでがす。そこじゃ鉛やらを産出してまして…もしかすると…この実包にもその鉛が使われているかもしれない…」

 

「そうか…本当に良い所のようだな。話を聞いていたら俺も嫁や倅を連れて行きたくなってきた。…釣りの穴場はあるか?」

 

「えぇ、勿論です。子供の頃は川で色々と釣りましたよ。もしお越しになるなら是非、夏に。夜は蛍が綺麗です」

 

「ほぉ…そいつは良いな。まぁ倅に釣りを教えたいからもう少し先の話になりそうだが」

 

 そう笑いながら話し込む彼等の耳に外の通路から大声の命令が飛び込んで来た。

 

 手榴弾配分、そして上陸用舟艇である十四米特型運貨船(大発)への乗船用意のそれだ。

 

「ーーだそうだ。覚悟はーー」

 

 水谷二曹が下級者の二人へ問い掛けたーーが、その問いは愚問とばかりの視線と表情を見た彼は大きく頷く。

 

「ーー宜しい。解けぇ!銃っ!!」

 

 叉銃で組まれていた三挺の三八式歩兵銃を解いた彼等は遊底を引き、薬室内部を点検した後、引いていたそれを戻すと銃口を床へ向けて撃発を済ませる。

 

 カチンという乾いた空撃ちの音が響いた。

 

 そして負い革を肩へ掛けた彼等は揃って居室を後にしたーー

 

 

 

 

 

 

 

「ーー参謀長。やはり妙だ」

 

「はい。長官、警戒して偵察機を飛ばしましょうか?」

 

 護衛の駆逐艦や輸送艦を中心とした上陸する部隊や戦車等を積載している後方の船団へ上陸戦用意の命令を飛ばした桂木は、それを発してほぼ同時にもたらされた第二次攻撃隊からの報告を受けて悩んでいた。

 

「何故、真珠湾内に鬼や姫がおらん。これまでの作戦や戦闘では重要な拠点やその近辺の海域に出現、交戦の報告があった筈だ」

 

「その通りであります」

 

「…艦長、四航戦へ信号をーー別艦隊の長官へ併せて要請を出せ。偵察機を飛ばす余裕のある艦は直ちに、と」

 

「了解。航海ーー」

 

 前原艦長が桂木の命令を代わって下達ーーしようとした時、伝声管が吠えた。

 

<ーー対空電探に感ありっ!左20度方向!!>

 

 その報告を聞き、桂木以下の全員がさっと顔色を変えた。

 

 それに続いて防空指揮所へ通じる伝声管からも報告が来る。

 

<ーー左20度!距離4万!敵機2!!>

 

「ーー対空戦闘用意!!戦闘配置へ!!」

 

「ーー対空戦闘よぉぉぉい!!」

 

「ーー対空戦闘用ーー意!!戦闘配置に就けぇッ!!」

 

 発令と同時に伝声管へ取り付いていた者達が艦長の命令を各部へ伝える。それと同時に甲高い喇叭の音色が鳴り響く。

 

 桂木も長官席から立ち上がり、首から下げた双眼鏡を取って報告のあった左20度へ対物レンズを向ける。

 

「ーー偵察機かと思われます。……主砲を撃ちましょうか?」

 

「…いや、あの距離だ。間違いなく当たらんよ。無駄弾だ。…見付かったな」

 

「…はっ」

 

 前原艦長が重々しく頷いた。

 

 去っていく2機の敵機、そして撃墜しようと追い掛ける戦闘機一個小隊の姿を見送った桂木が双眼鏡を眼から離すと背後の艦長へ向けて口を開く。

 

「ーー艦長。急ぎ握り飯(戦闘配食)を各員ならびに艦娘達へ。直ぐ合戦になる」

 

「了解」

 

 一時的に対空戦闘の配置を解いた艦長が続けて主計に各員、そして艦娘への配食を命じる。

 

「……始まるか」

 

 敵機が去り、撃墜を諦めた小隊が防空へ戻る様子を睨みつつ桂木は呟いた。

 

 


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