発:海軍省 宛:トラック泊地鎮守府司令長官   作:戦闘工兵(元)

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史実の真珠湾攻撃は企図していた空母を沈められなかった等の結果から失敗とみなされますが、作戦劈頭からミスが続きました。

一、信号弾の見落しと誤認(と言って良いのかな?)
 第一次攻撃隊指揮官の淵田中佐が地上からの対空砲火や戦闘機による邀撃がない為、奇襲に成功したと確信。信号弾(赤一発)を撃ち上げ、雷撃の開始を命じたのですがーー雷撃隊隊長の村田少佐がこれを見落としたのか攻撃に移らない。

 淵田中佐がもう一度「奇襲」の意味で赤を一発撃ち上げたのですがーー雷撃隊ではなく高橋少佐率いる艦爆隊が突撃を開始。

たぶん淵田中佐は「ちょ、えっ、マジ!?」となったでしょう(超失礼ながら)

淵田中佐が信号弾を赤二発撃ち上げたのを見た高橋少佐はこれを「強襲」と捉え、事前の打ち合わせ通りに艦爆隊による攻撃へ入ってしまった、というものです。

二、標的艦への攻撃
 攻撃隊による「奇襲(実際は強襲)」が始まり、その戦果を確認していた淵田中佐は湾内の北西岸に停泊中の“ユタ”を攻撃している機があるのを認めてしまい驚いたとか。
 老朽艦を改装しただけで戦闘力は皆無と言ってしまえばそれまでの標的艦へ攻撃を加えてしまい貴重な弾薬と燃料を消費してしまった。

 “ユタ”ですが標的艦としてではなく交戦で沈没した撃沈という最期を遂げました。戦艦として建造されたので……こういってはアレですが名誉といえば名誉……。


 どれだけ綿密に計画しても軍事作戦である以上、企図した事が100%達成できる作戦は存在しません。ヒューマンエラーもある上、戦闘するのは結局のところ人間ですから感情や精神状態によっても変わって来るでしょう。

………前書きに書く事だろうか? これも作者の心理状態が不安定な為ーー


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 あの日の事かね? あぁ…もう随分と昔の話になるが良く覚えているよ。忘れもしないあの日ーー照和20年7月14日の早朝に当時は海軍中将だった桂木長官が座乗する艦隊旗艦の蔵王のメインマストにZ旗と戦斗旗が翻った。それを見た私は直ぐに伝声管を引っ付かんで艦橋へ報告したよ。私が当時、所属してたのは第四航空戦隊の旗艦瑞龍。そこの見張員だったんだ。戦斗旗がメインマストに揚がったという事は作戦ーーケ号作戦が開始された事を意味する。この旗が降ろされるのは作戦が終わった時か艦が沈没する時ーーそれか敵に降伏する時だけだね。もっともあの時の深海棲艦相手じゃ降伏は意味なかったんだが。Zの信号旗の意味は言うまでもないよね? そう“皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ”だ。対馬沖で日露の艦隊が戦った日本海海戦以来、帝国海軍では大規模な作戦の際にZ旗を揚げるのが通例となっていたんだけど、この時はちょっと違った。伝声管で上がって来た訓示に“暁ノ水平線ニ勝利ヲ刻メ”という文句が最後に付け加えられていたんだ。初めて聞いたけどアレを聞いた時は「良し!やってやる!」と言った具合に血が沸き立ったよ。見張員の何人かは雄叫びを挙げてたしね。たぶん艦の各部署でも似たような感じだったんじゃないかな。 あの時は艦全体の士気と戦意が正に最高潮と言った具合だったよ。きっと艦隊全部がそうだったろうね。そして艦隊全艦のメインマストに戦斗旗が揚がりーー第四艦隊の空母二隻、第六艦隊の空母三隻、第七艦隊の空母二隻から百機以上の第一次攻撃隊が発艦を始めた。手空き総員でハワイに向けて飛び立った攻撃隊に帽振れをやったよ。戦争だとは分かっていたんだけど……水平線の彼方からゆっくり朝日が昇って来る中、百機以上の航空機の主翼に光が反射してキラキラと光っていた……まるで宝石か朝露に濡れた花みたいにね。とても綺麗だったよ。

ーー第四艦隊 第四航空戦隊 瑞龍乗組員の回想ーー

 

 

 

 

 

【大海令第五十三號】

 

  照和二十年六月二十五日

   奉勅   軍令部総長 山口多聞

 

     南雲第一航空艦隊司令長官ニ命令

 

一、 帝国ハ七月中旬ヲ期シ敵深海棲艦ニ占領セラル米国領土ニ対シ攻撃及ビ之レヲ占領スルニ決ス

二、 第一航空艦隊司令長官ハ北太平洋上ニ在ル敵艦隊及ビ航空兵力、地上兵力ヲ撃滅スルト共ニ敵艦隊本土方面ヘ来航セバ之レヲ邀撃撃滅スべシ

三、 第一航空艦隊司令長官ハ出師ノ各艦隊司令長官及ビ陸軍部隊ノ長ト協同シテ速ニ北太平洋上ニ於ケル敵深海棲艦ノ主要根拠地ヲ攻撃シ之レヲ占領確保スべシ

四、 第一航空艦隊司令長官ハ所要ニ応ジ各艦隊及ビ陸軍部隊ノ作戦ニ協力スべシ

五、 前諸項ニ依ル武力発動ノ時期ハ後令ス

六、 細項ニ関シテハ軍令部総長ヲシテ之レヲ指示セシム

 

 

 

 

「ーー既に作戦は始まっている頃だろうか…」

 

 一時間もせずに日付が変わる頃、帝都は宮中の一室で天皇が時計の針を見ながら傍らの侍従武官へ尋ねた。

 

「はい。時差を考えますと、あちらは夜明けでございます」

 

「そうか…」

 

 頷きつつ天皇は椅子から立ち上がると壁に掛けられた世界地図へ歩み寄り、北太平洋を見上げる。

 

「…山口の言う通り…この作戦は正しく乾坤一擲の大勝負であるな…」

 

「はっ。仰せの通りでございます。本作戦の結果如何で帝国はーー」

 

「皆まで言うな。山本や山口、南雲、参加する将兵全てが分かっている事だ」

 

「…失礼致しました」

 

「良い」

 

 侍従武官へ返しながら天皇は奏上に参内した軍令総長の山口の作戦説明の中でトラック諸島の警備、防衛の任に当たっている桂木が艦隊を率いてケ号作戦へ参加する旨を告げられた事を思い出した。

 

 つい先月の上旬に自身が補職したばかりの青年を思い出した天皇は古の言葉で祈りを口にする。

 

 それは戦勝と作戦に参加する将兵達の無事を祈願するものだった。

 

 

 

 

 

「ーー見えた」

 

 第一次攻撃隊の直掩の戦闘機隊の一機として参加したトラック泊地航空隊の黒川一飛曹が雲間の切れ目に見えた島影ーー目標のハワイを認めた。

 

 彼が駆るのは本拠地のトラックで乗り馴れた零戦二二型ではなく艦載型の五二型だ。

 

 母艦経験者である彼は第四航空戦隊は瑞龍への配置が命令され、機体を受領した後はトラックで習熟飛行の日々に追われた。

 

 久々の着艦は肝が冷えたーーだが腕は鈍っていない事に安堵しつつ黒川一飛曹は今日を迎えたのだ。

 

 尾翼を赤く塗った第一次攻撃隊指揮官機の天山が右へ舵を切ったーーそれに百機を超える攻撃隊の戦闘機、艦爆、艦攻が続く。

 

 右手で操縦桿を握りつつ黒川一飛曹は周囲へ視線を間断なく遣り、索敵を実施する。

 

ーー何も発見出来ない。

 

 彼が指揮を執るトラック航空隊から抽出された小隊の三機にも手信号で敵機発見の有無を問うーー返答は同じだった。

 

 チラリと計器盤へも目を遣り、発動機の回転数計や燃料計を確認する。

 

 燃費が少しばかり多い為、混合比を微調整すると改めて操縦桿を握るーーその時だ。

 

 彼の鍛えられた眼に空の彼方で何かが光ったのが見えた。

 

 自身が駆る機体の風防の反射ではないーー更に眼を細めて確認する。

 

ーー“何か”がいる。

 

 それを確信した彼は左手で風防を後方に滑らせて開け放つと操縦桿を左へ倒しつつ左フットバーを蹴り飛ばして指揮官機に近付いた。

 

 気付いた指揮官が黒川一飛曹が駆る艦戦へ視線を送ると彼は手信号で件の“何か”を発見した事と併せてそれを見付けた空域を示す。

 

 指揮官が頷いた。

 

 作戦劈頭で敵泊地を叩く空襲を成功させるには奇襲が最も有効である。

 

 奇襲の成功に万全を期す為、予定していた航路の変更を指揮官は決断した。

 

 操縦桿を握る部下に後続の攻撃隊へ航路の変更を伝える為、バンクを振るよう告げる。

 

 主翼を左右に振り“我ニ続ケ”と伝えると指揮官機が僅かに左へ変針する。

 

 それに後続の攻撃隊の機体が続いたーー

 

 

 

 

 

 

「ーーあと30分で第一次攻撃隊が会敵する予想時刻です」

 

「応」

 

 第四艦隊 旗艦 蔵王の艦橋で海軍大佐の階級章を付けた艦長が長官席に腰掛ける若い艦隊司令長官へ告げる。

 

 司令長官である桂木が鷹揚に頷いてみせた。

 

 彼を蔵王に迎えて以来、緊張した姿をついぞ認めた事のない重巡蔵王艦長 前原大佐は自身より一回り年下の長官を盗み見る。

 

(ーー新聞で写真は見たが…やはり若いな…)

 

 三種軍装を纏う桂木は特段変わった様子がない。

 

 その姿を見る前原艦長は彼を滅多な事では動揺しない傑物かそれともただ単に酷く鈍感なだけかと判断に困っていた。

 

 いずれにせよ取り乱したりしないであれば非常に結構な事と自身を納得させた艦長は改めて走らせる艦の舳先を睨む。

 

「ーー艦長」

 

 不意に桂木が視線を向けず声だけを艦長へ向けて発した。

 

「はっ、なんでしょうか」

 

「若造に命令されるのは酷く屈辱だろう。…申し訳ないがこれも人事、そして軍務と割り切って宜しくお願いする」

 

 声音に滲む僅かな懇願を感じ取った艦長が暫し呆気に取られーーやがて微笑を浮かべる。それは侮蔑の類いではなく穏やかなモノだった。

 

「ーー長官。御気遣いは有り難い事ですがどうか今後はそのような事は一切仰らないで下さい。示しがつきません」

 

「……あぁ、判った。だが宜しくお願いする」

 

「お任せを」

 

 確かに桂木は彼自身が言う通り若造だろう。これは覆しようもない事実だ。

 

 星の数よりメンコの数、等と揶揄される軍隊という閉鎖された社会では階級よりも奉職した年数の方が重く捉えられる事が多々ある。

 

 陸海軍問わず少尉を任官したばかりでケツが青く、嘴が黄色い者よりも奉職年数の長い下士官の方が兵卒達の掌握は上手いのだ。

 

 言ってしまえば兵達に最もナメられるのが新米の士官や将校達と言える。

 

 逆にナメられないよう威張り腐ってしまうと下士官や兵達は「青二才の分際で生意気な」と言った具合に反抗心を抱いてしまう。

 

 指揮下の兵を掌握するのは非常に困難な事だ。

 

 桂木も似た経験をした事がある。

 

 それを先任の士官ーー兵学校時代、盛大にポカポカと殴られまくった“元”伍長へ相談した所、「己の領分を弁える事、下士官や兵と積極的に話をする事、エリート意識は捨てる事、率先垂範を旨とする事。以上が軍務を円滑に進めるのに必要不可欠」を助言された。

 

 加えてーー兵学校時代に殴り過ぎた事を謝罪されたのを桂木は良く覚えているという。

 

 その助言は確かに上手く行った。

 

 下級者かつ年長の者でもこちらからあらかじめ一言断っておけば全体の和を尊び、お人好しな人柄とも呼べる日本人という民族の性質上、邪険にする者は非常に稀だ。

 

 それでも邪険にする者は余程性根が腐っているのだろう、とは桂木に助言を与えた先任士官の言葉である。

 

 前原艦長も諫言はしたものの桂木が気遣いの出来る人物という印象を受けた。

 

 あとは戦上手であるならば言う事はないーーと彼が改めて考えていた時、一人の水兵が艦橋へ飛び込んで来る。

 

「一航艦 天城より入電!トラ・トラ・トラーー“我奇襲ニ成功セリ”!以上であります!」

 

「応。…南雲長官はMIへの奇襲に成功したか」

 

「長官、間もなく回頭点です。このまま艦隊を進出させて宜しいでしょうか?」

 

「あぁ。任せる」

 

「はっ。ーー航海長、艦をハワイへ向けろ」

 

「了解。オモーカージ!」

 

<ーーオモォォカァァジ!ーー面舵20度!>

 

 前原艦長が控えていた航海長へ艦の変針を命じた。

 

 操舵室へ繋がれている伝声管に取り付いた航海長が独特の間延びした口調で面舵を操舵員に命じる。

 

 やがて蔵王の艦首がググッと右へ回頭を始めた。

 

 その様子を睨み付けていた航海長が再び伝声管を通じて命じる。

 

「戻ーせー!」

 

<モドォォセェェ!ーー舵中央!>

 

 右へ舵を切っていた舵輪を戻した事が告げられる。

 

 だが惰性で艦はいまだに右に回頭を続けていた。

 

「取舵に当てー!」

 

<トォォリカァァジに当てぇぇ!ーー取舵10度!>

 

 艦の回頭を抑える為、航路長が当て舵を命じ、明朗な復唱が返って来る。

 

「戻ーせー!」

 

<モドォォセェェ!ーー舵中央!>

 

「ーー45度、ヨーソロー!」

 

<45度、ヨーソロー!>

 

 ピタリと綺麗に回頭が終わった事に桂木は、ほぉ、と微かな感嘆の溜め息を吐いた。

 

 操艦する航海長は相当の経験を積んでいるのだろう、と想像しつつ桂木は長官席から立ち上がる。

 

 艦橋に数多ある伝声管の内のひとつへ歩み寄った彼は蓋を開け、口を近付けた。

 

「ーー対深海棲艦戦闘用意(ヨーイ)。艦娘諸艦(諸君)は艤装の最終点検を実施し別命あるまで待機せよ」

 

<ーー艦娘待機室、金剛デース。やっと出番デスカー?>

 

「いや、まだだ。だが直ぐに出番はやって来る。その時は宜しくお願いする」

 

<ーー了解ネ。テートク?〉

 

「あん?」

 

<無茶したらNoヨ?>

 

「……肝に銘じよう」

 

 艦内の待機室に詰めている艦娘達ーー代表として出た金剛と短いやり取りを済ませた桂木が再び長官席へ腰掛ける。

 

「…長官。お尋ねしても宜しいでしょうか?」

 

「なんだ艦長」

 

 桂木の傍らに侍った前原艦長が彼に問い掛ける。

 

「艦娘をどのようにお考えでしょうか?」

 

 その問いを受けた桂木は綺麗に髭を剃った顎へ手を遣って撫でながら考え込む。

 

 やや考え込んだ後、桂木は艦娘待機室へ通じる伝声管の付近にいた下士官へ蓋を閉じるよう身振りで伝え、話し声が届かない事を認めてから口を開いた。

 

「…艦娘の彼女達とまともに付き合って三ヶ月ほどだが…いまだに良く判らぬ。…判っておるのは人間大ーー女子の姿であること、深海棲艦と互角以上に渡り合えること、そして…こう言うと非常に語弊があるが…明確な意志を保有し喜怒哀楽の感情があり独自に思考し行動する兵器であるという事だ」

 

「…陸海軍の一部の間では、艦娘は深海棲艦側の間諜なのではないか、などの流言も飛び交っておるようです」

 

「あぁ…艦娘、そして深海棲艦という存在がほぼ同時期に確認されたからか?それだけで間諜とするには根拠が足らんな」

 

「はっ、仰る通りです」

 

 艦長が桂木の考えを肯定したーーそれが意外だった彼は隣に侍る艦長へ疑問を込めた視線を送る。

 

 なにが言いたいのか判った艦長は苦笑いをしながら口を開いた。

 

「もしや艦娘の戦闘運用やその存在を否定すると思われましたか?」

 

「…多少はな」

 

 その返答を聞いた艦長が苦笑いを更に深くする。

 

「いや確かに勿体振りはしましたが…神仏に誓ってそのような認識はしておりません」

 

「尋ねるが何故だ?」

 

「至極単純な話です。私も船乗りの端くれ。一度出港してしまえば次の港へ入るまで補給はなし。時として海は時化る。海上で自艦の現在位置を見失えば永遠に海を漂う事となる。そのような危険な海へ同様に漕ぎ出し、命を削って敵と干戈交えるのです……我々と彼女達の何処に違いがありますか。強いて言えば我々が海原を駆けるには艦が必要であるのに対し艦娘達は単独で事足りる。それぐらいでありましょう」

 

 一息に吐き切った艦長を見た桂木がフッと微笑み、次いで肩の力を少しばかり抜いた。

 

「前原艦長。貴官は尊敬に足る我が帝国海軍のーーいや船乗りの先達だ。此処に至るまで遅くなったが今確信した。艦長とは上手くやって行けそうだ」

 

「光栄であります」

 

 艦長も微笑むが直ぐに表情を引き締める。洋上にあって艦長が気を抜いてはならない。

 

 例え微笑んだとしても彼は直ちに顔を仏頂面へ戻す事にしていた。

 

 改めて彼が舳先を睨んだーーその時、再び水兵が飛び込んで来る。

 

「ーー第一次攻撃隊より入電!ト連送であります!」

 

 

 

 

 




お気に入りの件数が間もなく1000件突破……艦これの人気凄い……と思いながら私は資材集め資材集め……

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