発:海軍省 宛:トラック泊地鎮守府司令長官 作:戦闘工兵(元)
どうでも良いですが山風、めんこいですよね。
「構わないで」「放っておいて」なんて言われても………出来る訳ねぇだろぉぉぉぉぉ!!!
トラック泊地に戦艦、空母、重・軽巡洋艦、駆逐艦、揚陸艦等々の何十隻にも及ぶ大艦隊が錨を下ろす姿はかつての記憶の通りだーーそう桂木は長官室の窓から見える景色を眺めつつ思う。
煙草を銜え、マッチを擦ろうとした刹那、扉が数度ノックされた為、銜えたそれを取り除き入室の許可を告げる。
「ーー失礼します。山口総長、南雲長官がお待ちです」
「判った」
桂木と同じく二種軍装を纏った竹田大尉がそう告げると彼は煙草とマッチをポケットへ収め、長官室を後にした。
向かう先は一階の会議室だ。
先を歩く竹田大尉の後に続く桂木は階段を降りつつ自身の服装を軽く整える。
「大規模な作戦となるようですね」
「そうだな。作戦の細部は不明だが……敵前での強襲上陸の可能性もある」
「えぇ。特設輸送艦も多数投錨しておりました」
「我が泊地の陸戦隊も作戦へ加わるよう下達されている。陸戦隊司令へ物心両面の準備をするよう告げてくれーーここまでで良い」
「はっ」
会議室の扉を軽くノックした後、桂木は入室した。
「ーー失礼します。遅くなりました」
会議室の椅子へ腰掛け、桂木を迎えたのは南雲忠一海軍大将、軍令部総長である山口多聞海軍中将。彼等の背後には三種軍装を纏った複数の女性ーー艦娘達が控えていた。
彼等へ対して敬礼すると二人は軽い首肯で答礼とする。
「いや、構わんよ」
「久方ぶりだな。最近はどうだ?」
「近海での哨戒は継続しておりますが、この一週間は特に目立った事はーー」
山口に問われた桂木が近日における敵の動きを報告するがーー眼前の将官達は急に苦笑を始めた。
それへ内心、首を傾げていると南雲が苦笑いを浮かべたまま隣の椅子に腰掛ける軍令部総長へ視線を滑らせる。
「言っただろう山口。こいつは馬鹿がつくぐらい真面目だと」
「
やれやれとでも言いたいのか山口が苦笑いを零しつつ首を横に振る。
この人達は俺に何を求めているのだ、と桂木は憮然としてしまうが咳払いを軽くひとつし、改めて彼等へ視線を向けた。
「失礼ですが……彼女達は?」
「あぁ。本作戦に参加する艦娘達の代表だ。長門には以前会ったな」
「はっ。お久しぶりです」
「はい、桂木中将」
見覚えのある長い黒髪の艦娘ーー戦艦長門を認めた桂木が会釈すると彼女も頭を下げる。
「その隣が妹の陸奥だ。別嬪さんだろ?」
「もう提督?…戦艦陸奥です。宜しくお願いします」
長門の隣に立つ茶髪の色気のある美人ーー戦艦陸奥にも頭を下げる。
「そして横の五人が加賀、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴だ。ここの赤城も含めて機動部隊の要となる」
「世界最強の機動部隊が再び結成されるとは…感無量であります」
「あぁ。先に言っておくが飛龍と蒼龍に手は出すなーー」
山口が神妙な顔付きで桂木へ何かを告げようとした時、彼の頭を背後に控えていた飛龍が叩いた。
「ーー多聞丸?」
「あ、いや済まん」
桂木は有り得ない光景を見てしまった気がして何度も目を瞬く。
将官のーーそれも海軍全体の作戦立案や指揮権を有する軍令部の長の頭を叩くなど一体誰が出来ようか。
「……貴方が桂木中将ですね。新聞でお顔は拝見しております。申し遅れました。一航戦 加賀です」
「桂木であります。皆さんも宜しくお願いします」
抑揚のない静かな声を口から紡ぎ、表情を微塵も変える事なく加賀と名乗った艦娘が会釈した。
それに倣い、空母の艦娘達が頭を下げたのを見て桂木も会釈を返す。
「そして最後になったがーー大和、そして武蔵だ」
「ーーーえ」
窓辺にいた二人の艦娘が進み出ると片や深々と、そしてもう一人はややぶっきらぼうに頭を下げる。
「戦艦 大和です。桂木中将、宜しくお願い致します」
「大和型戦艦二番艦 武蔵だ」
「ーーー」
挨拶をされたが桂木にそれを返す余裕はなかった。
言葉が出なかったーーいや、何も考えられなかったという方が正しいだろう。
その様子を疑問に思ったのか室内の艦娘達が首を傾げる。
「ーー山口」
「えぇ。皆、私達は少し席を外すよ」
「では、お供をーー」
「いや大丈夫だ。少しこいつと話でもしていてくれ」
南雲と山口は連れ立って席から腰を上げると随伴しようとした加賀をやんわりと制した。
南雲は扉の前で大和へ視線を向けたまま固まっている桂木の肩を少し乱暴に叩く。
「ーー桂木。俺達は少し席を外す。彼女らと話をしていてくれ」
「ーーお膳立てって訳じゃないが…貴様も思う所があるだろう。作戦の細部は艦隊の参謀長や戦隊司令達が揃ってから話す」
二人が会議室を後にすると残された彼と彼女達の間に重い空気が流れた。