発:海軍省 宛:トラック泊地鎮守府司令長官   作:戦闘工兵(元)

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0430

 

 トラック泊地鎮守府司令長官兼ねてトラック泊地艦隊司令長官の桂木中将は普段通りの時刻に目が覚めた。

 

「……ふぁ……」

 

 欠伸をひとつ零しつつも横になっていた寝床から起き上がり、寝起きとは思えないテキパキとした動きで布団を畳む。

 

 ここは鎮守府の庁舎内にある長官私室ーーではない。

 

 鎮守府敷地内の片隅にある平屋一階建ての家屋の中だ。

 

 帝国海軍では各鎮守府や各艦隊司令長官に着任すると専用の“宿舎”が与えられる。

 

 有名なのは横須賀鎮守府司令長官宿舎であろう。

 

 海軍中将の東伏見宮依仁親王をはじめ、歴代の横須賀鎮守府司令長官が34代に渡って使用された宿舎であり、敷地面積は1027㎡、建坪560㎡にもおよぶ大きな屋敷だ。

 

 こういった宿舎は軍政会議や要人の接待などにも用いられ宿舎という私邸の名目の他に“公邸”としての側面を持つ。

 

 どの鎮守府、艦隊司令長官の宿舎にも言える事だが立地の条件として着任している鎮守府、または艦隊司令部に近い事が挙げられる。

 

 日々の出勤や急な出撃、もしくは要件へ迅速に対応する為である。

 

 トラック泊地鎮守府の長官宿舎は他の長官宿舎と比べてとてもーーいや非常に庁舎に近い。

 

 出勤時間はどれほどゆっくり歩いても6分掛かるかどうかであり、走れば2分を切るかも知れない。

 

 そして内装は非常に質素だ。

 

 一般家庭の住居と言われたら思わず納得してしまう程の質素さである。

 

 他の長官宿舎が広大な敷地を誇り、絢爛な内装を施しているのにも関わらず、この有り様なのは理由がある。

 

 それは予算の都合上というありふれた理由からだ。

 

 

 本来のトラック泊地鎮守府の長官宿舎はあった。ーーいや、建設の予定が“あった”という方が正しいだろう。

 

 深海棲艦との長きに渡る戦争は泥沼と化そうとしている。

 

 海軍は深海棲艦との戦いで予算は常時枯渇している状態だ。

 

 軍隊は金食い虫という上手い表現があるが、戦時ともなればそれに拍車が掛かる。

 

 予算や戦費の調達で四苦八苦している現状では無用の長物と判断されるモノにはビタ一文たりとも金は落ちない。

 

 よってトラック泊地鎮守府司令長官宿舎の建設は白紙に戻り、建設予定地であった土地は現在、畑となっている。

 

 

 では桂木が寝起きしているこの宿舎はなんなのか、という事になるがこれは新築されたは良いが使われる機会が少なかった当直士官の仮眠所である。

 

 桂木本人も別に長官私室でも充分に生活出来る為、長官宿舎は無用との判断だったのだがこれに異を唱えた士官がいた。

 

 それは竹田技術大尉だ。

 

 彼の言だが、他の鎮守府司令長官や艦隊司令長官にも宿舎が与えられているのにそれは良くない。長官のご意志は尊重出来るが海軍としての体裁というモノも考えてもらいたいーー等々と竹田大尉の“意見具申”は小一時間ほどにも及んだ。

 

 その意見具申に折れる形で桂木はこの宿舎(仮)で普段の寝起きをしている訳である。

 

 彼とのやり取りを思い出した桂木は苦笑しつつ寝巻きの浴衣姿のまま縁側へ通じるガラス戸を開けると煙草を一本銜えてマッチで火を点けた。

 

 

 

 

 

 0830

 

 日課の早朝鍛練、朝食、当直士官からの報告や掲揚される国旗への敬礼を済ませた桂木は長官宿舎へ戻ると身に纏っていた純白の二種軍装を脱ぎ、それを衣紋掛けへ掛けると和服へーー私服に着替えた。

 

 帯を締め終わった刹那、玄関の戸が数度軽く叩かれる音が鳴り響く。

 

 来たか、と彼は和服の袂へ財布と愛煙している煙草とマッチを滑り込ませた後、玄関で雪駄を履き、戸を開けた。

 

「ーーテートク Good morning♪」

 

「ーーおはようございます提督」

 

「ーーおはよー司令官♪」

 

「ーーお、おはようございます」

 

 玄関の外には四人の女性ーーいや“4隻の艦娘”と言った方が正しいかもしれない。

 

 とにもかくにも彼女達は小紋や袴、編み上げブーツーー外出用の服装をしていた。

 

 一見すれば女学生だが、艦娘であると名乗らなければ間違いなくそう見られる事だろう。

 

「おはよう。では、行こうか」

 

 

 

 

 




金剛達の服装ですがまるっきり神風型の制服(?)です。

何故か?私の趣味です(キリッ

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