無双の大英雄と駆ける外典   作:草十郎

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2話

 ランサーの「力の一端を見せて欲しい」という要望に応えて『赤』のセイバーを狙撃していたアーチャーはフィオレの指示に従いミレニア城塞に戻ると、入り口で待っていた彼女が笑みを浮かべて出迎えてくれる。

 

「お見事でした、アーチャー。伝承に違わぬ強さ、皆と同じく私もこの目に焼き付けました」

「賛辞はありがたく受け取ろう、フィオレ」

「ふふっ、ええ是非そうして下さい。ところで……先程の『赤』のセイバー、力量はどの程度のものだったでしょう」

 

 フィオレは車椅子を動かしてアーチャーに近づきつつ、そう訪ねた。

 

「ゴーレムとの戦闘から、最優の名に恥じぬ凄まじさは感じたのですが……貴方との戦闘ではいささか、その……」

 

 言いにくそうに口ごもるフィオレにアーチャーは続く言葉を察して口を開く。

 

「確かに、先程の戦闘は完全に有利がこちら側にある状態での事だから、いささか指標にはなりにくいな」

 

 ふむ、と思考するアーチャー。自身が見て取った限りの『赤』のセイバーの実力をフィオレにかいつまんで話す。

 

「実力でいうならば、現状ではこちら側のセイバーが最も近いか。だが、セイバー程の頑丈さはない故に真正面からぶつかったら一歩劣るだろう。できれば宝具を確認しておきたかったが……そこは『赤』のセイバーのマスターの迅速な判断によって叶わなかったな」

 

 なるほど、と頷くフィオレ。とそこでふいに思い出したかの様に続けた。

 

「そういえば先程ライダーが、アーチャーと話したい事があるから部屋に来て欲しい。と言っていましたよ?」

「そうか、すぐに向かうとしよう。マスターはこれからどうする?」

「私は礼装の調整の為に工房に向かおうと思っています、心配しなくとも大丈夫ですよ」

 

 了解した。と頷きつつ車椅子の取っ手をとるアーチャーにフィオレが「アーチャー?」と疑問符を浮かべる。

 

「なに、君の工房までのエスコートくらいは許していただきたいな、レディ」

 

 その言葉に一瞬ポカンとしたフィオレは思わず吹き出し、目尻に涙を多少浮かべ、「ええ、よろしくお願いします。アーチャー」と笑顔で答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ライダー、私に用とはなんだ?」

 

 アーチャーがライダーに与えられた私室の前まで来てそう声を掛けた次の瞬間、ドアが勢いよく開く。

 

「アーチャー! 待っていたよ、早く中へ入っておくれ!」

 

 早く早く! と急かすライダーの指示に従い素直に部屋に入ると、目に入ったのはベッドで横になり怯えた様子のホムンクルス。

 

「……意志を持っているな。ライダー、彼はどうした?」

「廊下で見つけて、助けを乞われたんだ。ボクはこの子をここから逃がしてあげたい、けどキャスターが探しているみたいでね。万が一を思うとアーチャーの協力を得たいなって」

 

 そのライダーのあっけらかんとした返答に1度首を縦に振ったアーチャーは、「協力はしよう。ここから逃げ出すまでの間、君をあらゆる災厄から守る事を誓う。しかし……」と続ける。

 

「しかし?」

「彼の生命は儚い、長くとも3年しか生きることは叶わないだろう。それでも、生きたいと願うか?」

「そんなもの当然に決まって……!」

 

 思わず声をあげた様子のライダーに「静かに」とソレを制するアーチャー。片膝をついて、ベッドから起き上がったホムンクルスと視線を出来るだけ合わせる。

 

「私は、彼に問いを投げている」

 

 アーチャーがそう言うが、未だに何かを言いたそうにしているライダーに内心で苦笑する。心が真っ直ぐで見ていて飽きない御仁だな、と。

 こちらを見つめるホムンクルスは、次第に口を開いた。

 

「……それでも、生き、たい」

 

 その答えに満足そうに頷くライダーを尻目にアーチャーは言葉を続ける。

 

「ならば、命の灯火が尽きる時に後悔しない様、生きていくという事を考え続けて欲しい」

 

 ただ無為に生きるだけでは、ここで死んでいく事と何も変わらない。と奇しくも彼は、別の世界線での、師であるケイローンと同じ結論を出す。

 しばらく固まった後、こくんと頷くホムンクルス。それを見たアーチャーは、ならば甘やかす訳にはいかないな、と更に言葉を重ねる。

 

「まずは歩く練習から始めるといい、君の足はあまりに柔らかい。私とライダーは部屋を出るが、鍵はかけておこう。仮にもサーヴァントの私室だ、無理に鍵をこじ開けようとする輩はいないだろう」

 

 いざ出立の時が来れば渡したい物がある、楽しみにしているといい。そう言ってそのまま部屋を出ていくアーチャーに慌てて続くライダー。

 ドアに鍵をかけると、ライダーは不満そうに頬を膨らませる。

 

「厳しいんだね」

「君が甘い分、均等は取れているだろう」

 

 それとも、君は何もできない彼をそのまま外に放り出すつもりだったか? と少し意地悪に言うアーチャー。

 

「むう、そういう訳じゃないけど……ところで、あの子に渡したい物って?」

 

 先程のアーチャーの発言に好奇心を刺激された様子のライダーはストレートに疑問を口にする。それを受けておもむろに右手を目の前に出すアーチャーに「?」と首を傾げるライダー。

 次の瞬間、手の平に出現する黄金の林檎。それを見たライダーは目を輝かせる。

 

「わ! それってもしかして?」

「ああ、ヘスペリデスの黄金の林檎だ。宝具の一つとしてのこれに不死を得るほどの効果はないが、食すだけで恐らく彼の寿命は人並み程度には伸びるだろう」

 

 続けて口を開こうとするライダーだったが、直後にアーチャーにフィオレから念話が入る。ライダーにも同じ様に念話が来たようだ。

 

「聞いた? アーチャー」

「ああ、『赤』が動いたか」

 

 すぐに玉座に向かおう、と彼らは移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 玉座にて話された事とは、現在『赤』のバーサーカーと思わしきサーヴァントがここミレニア城塞に向かってきている事、そしてこれを捕獲するという内容だった。

 その為に現在、各自が位置についている。捕獲が難航した際の援護と周囲一帯の警戒の為に城塞にて待機の任を受けたアーチャーは早速その役割を果たす。

 

「フィオレ、『赤』のバーサーカーの他に2騎こちらに接近しているサーヴァントがいるぞ」

「わかりました、おじ様の指示を仰ぎます」

 

 アーチャーは隣にいるフィオレにそう伝えると、すぐにダーニックに確認をとった様でアーチャーに顔を向ける。

 

「『赤』のバーサーカーの援護に来たのかもしれない、足止めはできるか? と聞かれましたので、可能だと返答しました。お願いできますか、アーチャー」

「請け負った」

 

 信頼に満ちたフィオレの目に応えるべく、了承の意を示すアーチャー。ついでに、と言葉を続ける。

 

「『赤』のセイバー戦では遠距離からの狙撃をしたので、今回は近接戦闘を行おうと思う。マスターには、近遠どちら共で私がどの程度戦えるか把握しておいて欲しい」

 

 その言葉にフィオレは静かに頷く。それを見届けたアーチャーは、その手に弓ではなく斧を出現させて森の中の『赤』のサーヴァントの気配を感じるところへと移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 しばらく森の中を移動すると、鎧に身を包み槍を構え佇んでいる緑髪のサーヴァントに対峙する。気配を極限まで薄くしている様だが、少し離れた位置にもう1騎サーヴァントもいるようだ。

 その気配は覚えのあるものだったが、アーチャーは好戦的な雰囲気を隠そうともしない目の前の『赤』のサーヴァントに意識を集中する。

 

「ーー甘く見たな、『黒』のサーヴァントめが。この『赤』のライダーを倒したくば総出で掛かってこなければ勝機はないぞ?」

 

 そう軽い調子で挑発する『赤』のライダーにアーチャーも声を掛ける。

 

「一目で彼我の実力差がわからぬ様では程度が知れるぞ『赤』のライダー、貴様と『赤』のアーチャーの相手はこの私、『黒』のアーチャー1人で十分だ」

「ハッ、弓兵が白兵戦とは……その言葉、後悔するなよ」

 

 挑発をし返されるとは思っていなかったのか、若干こめかみに青筋を浮かばせつつそう言うと戦う姿勢となるライダー。

 そのまま戦闘に入るかと思いきや、ふと動きを止める。

 

「いや、待て。潜んでいるもう1騎がなぜアーチャーだと分かる?」

「この気配には覚えがある、かの純潔の狩人、アタランテであれば弓兵のクラス以外での召喚はありえないだろう」

「と言う事はアンタ、ギリシャの英雄か。ならば多少は期待できそうだな」

 

 傲慢にも聞こえる言葉を発した直後、ライダーは神速をもってアーチャーに迫り戦闘が開始する。

 

 初撃、常軌を逸した戦闘能力を持つサーヴァントの中でも更に異色のその速度を存分に活かし心臓を狙った一突きを、容易くアーチャーの斧が防ぐ。

 だがライダーはそれだけでは終わらない、加速したまま四方八方から自慢の足と槍を用いた神速の連撃。その全てを容易く防ぐアーチャーだったが、その場から動くことができない。

 

「そらそらそらどうした『黒』のアーチャー! デカイ口を叩いていた割には動くこともままならぬか!」

 

 口ではそう発言しつつもライダーは違和感を感じている、自身の速度に翻弄されている様子はない。アーチャーはライダーの槍が届く直前、いやもう少し早いタイミングでまるで「そこに攻撃が来ることがわかっている」かの様に全てを危なげなく防いでいる。

 そこでようやくライダーは気付く、アーチャーの視線が一度たりとも自分から外れない(・・・・)。これはアーチャーがライダーの速度をものともしていないという意味。

 つまりアーチャーは、動けないのではなく、動かない。

 何故。ライダーの脳が警鐘を鳴らす。生前、勇者として戦場を駆けた時にすら経験した事がない事態に何かがおかしいと感じる。アーチャーはまるで、自分の一挙手一投足を観察(・・)しているかの様だ、と。

 

 しかし、そもそもライダーはあまりゴチャゴチャと考える事が得意ではない。アーチャーが何を企んでいようと真っ向から打破してやれば良い、そう結論づけると更に加速を強めようとする。

 だがその企みは、アーチャーが持っていた大斧の刃が迫る事で阻止され、驚愕しつつも慌てて避ける。

 

「見事な敏捷、見事な技量だ。だがそれらは最早見切った」

「なんッーー!」

 

 ライダーは言葉を続けられなかった。どこに動いても必ず目前に現れる大斧、一瞬にして入れ替わった攻防。先程とは打って変わり、攻めるのはアーチャー、避けるのはライダーとなっていた。

 得物を用いて防ぐという選択肢はない、そばで振るわれるだけで当たってすらいないというのに、破壊されていく環境から見て取れる大斧の破壊力を鑑みるにそれをすれば必ずや足を止める事となり、足を止めたならば仕留められてしまう。そう戦士としての直感が囁く。

 一度体勢を立て直そうと大きく後方に跳ぶライダー。アーチャーが追撃を仕掛けてくるのではないかと警戒したが、直後に『赤』のアーチャーから援護が入る。

 推定Aランクの威力の矢、それがほぼ同時に5本。

 それを『黒』のアーチャーは、驚くべき事に4本を大斧を持つ手とは反対の拳で撃ち落とし、1本を掴んで防いでいた。

 

「『赤』のライダーよ。未だ騎兵の本領は発揮しないのか? 確かに見上げた白兵能力だが、それだけではいささか物足りん」

 

 アーチャーの挑発じみた一言に、ライダーは口角を吊り上げる。

 

「弓兵でありながら近接戦においてオレを圧倒し、姐さんと知り合いであるという貴様の真名、おおよそだが予測がつく」

 

 気分が高揚している様子がありありと見て取れるライダーは、「今ここで我が戦車を出してしまえばそれこそ思うツボ」と続ける。

 

「乗り込む一瞬の隙をついて破壊されてしまうだろう、貴様にはそれができる」

「容易く轢き殺されてしまうかもしれんぞ?」

「抜かせ」

 

 軽い調子でいうアーチャーに鼻で笑うライダー、敵でありながら余程『黒』のアーチャーの実力を信頼している様だ。

 ライダーは話しながらも構えをより深くし、闘気をより鋭くしていく。

 

「師より伝え聞いたその実力、存分に味わわせてもらうぞ! 『黒』のアーチャー!」

 

 ライダーはその言葉と共に駆け出す、挑むはギリシャにいた男であれば誰もが一度は憧れ、目標とする最強の英雄ヘラクレス、相手にとって不足なし。




羅生門イベ、一年前はジャックちゃんにほぼ任せきりの周回だったけど、今だと色んな鯖で周回試せて楽しいっす

追記:ヘラクレスの斧はFGOのバサクレス第3再臨のモノです。この小説では、あの装備は召喚された際に、弓とかのようにデフォルトで持ってくるモノとしてます。

6/3追記:指摘して頂いた箇所を修正しました。

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