ロクでなし天才少女と禁忌教典   作:“人”

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このお話は、設定捏造、オリジナル設定、魔術の原理の捏造、ご都合主義などがございます。嫌な人はブラウザバック!






————【天罰】

————レイクにとって、リーナという少女は恐るべき敵だった。

 

別に、始末するのに大した時間が掛かった訳でもない。寧ろ、数度の攻防で決着はついた。

 

————だが、それにはレイクとジンの2人がかりで、という前提がある。

 

呪文の即興改変により黒魔【ライトニング・ピアス】を高速で連射できるジンと、ジン以上の攻性魔術とボーン・ゴーレムの大量操作によって無尽蔵の波状攻撃が可能なレイク。寧ろ決着なら一瞬でつくべき状況だった。

 

————にも関わらず、彼女は短い時間とはいえ、2人と互角に渡り合った。

 

ジンの【ライトニング・ピアス】を防ぎつつ、結界を破壊しようとするゴーレムの対処をし、レイクの魔導器で切り裂いても魔術の行使は全く乱れることがなかった。魔術どころか体術すら用いて致命傷を避けていたようにも思える。そして隙を見て攻性魔術による攻撃。レイクもそれで腕に火傷を負った。

そんな攻防の最中、ジンの不意打ちによって胸に穴を穿たれ、彼女は呆気なく絶命した。————そしてその直後、突然ジンも死亡した。まるで心臓麻痺でも起こしたかのように。

これが偶然起こったことだと考えるほど、レイクは鈍くない。おそらく、自分の『死』をトリガーにした何らかの条件起動式の魔術が掛けてあったのだろう。その周到さ、自身の死すら勘定に入れた戦い方はどこか天の智慧研究会のメンバーに通じるところがあったようにすら思える。

 

————それに比べれば、この講師はまだまともな方だ。

 

初撃から殺す威力で殴り掛かり、さらには魔術を封じる手まで使ってきた時には驚いたが、所詮そこまでだ。相手もどうやら魔術を使えないようで、こちらの魔導器には素手で対応するしかない。ーーーチェックメイトだ。

 

「…これで終わりだ」

 

その声音には、自身の勝利を全く疑う響きがない。

だからこそ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。————お前の負けだ」

 

 

 

 

 

 

 

—————その奇襲に全く気付くことができなかった。

 

 

 

 

 

「……何?」

 

気が付いた時には、右腕が肘あたりから消失していた。断面から散る紫電の火花と共に、思い出したように激痛が走る。

 

黒魔【ライトニング・ピアス】。それが遅延発動により詠唱なくして放たれたことに、レイクはすぐに気付く。そして、振り返った視線の先には、

 

 

「油断し過ぎよ。一度殺したからって無視していると痛い目をみるわ」

 

 

 

死んでいたはずの少女が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「油断し過ぎよ。一度殺したからって無視していると痛い目をみるわ」

 

「……リーナ?」

 

「……う、嘘……」

 

システィーナもルミアも呆然とするしかない。

 

————蘇生の余地など、無いはずだった。

 

身体中傷だらけで、心拍も呼吸も完全に停止していて、体温もなくなっていたはずの少女。どんな手を使おうとも決して蘇るはずのない少女が、いつの間にか起き上がって魔術を行使したのだ。………正直、心臓に悪い。

 

魔術による幻覚だった、ということもあり得ない。その証拠に、彼女の流した大量の血が、今でも肌にべっとりと残っている。胸や腹に空いていた風穴は綺麗になくなっているものの、身体中の刺し傷や切り傷はそのままだった。

 

 

「ごめんなさい、2人とも。心配をかけたわ。……兄様に刃物を向けた害獣を駆除した後、ゆっくり説明するから」

 

 

 

 

 

 

「……ふざけるな」

 

幽鬼のように呻き声を出したのはレイク。焦げた腕の断面を気にすることなく、彼は激昂した。

 

「ふざけるなよ……っ!なぜ生きている‼︎貴様は先程まで死体だっただろうがっ!」

 

「アンタには答える義理なんてないんだけど、そうね。固有魔術(オリジナル)、とだけ答えておこうかしら?」

 

「…魔術、だと⁉︎ふざけるなっ!たとえ固有魔術であったとしても、そんなデタラメがあるはずが———」

 

 

 

「さて」

 

 

レイクの言う事を完全に無視し、彼女は通達する。

 

「貴方にもう勝ち目はないわ。何か言い残すことはある?」

 

「……舐めているのか?片腕を失ったところで魔術の行使にはほとんど支障はない。満身創痍の貴様が加わったところで何ができるっ⁉︎」

 

確かに、満身創痍。残り少ない魔力は奇襲の【ライトニング・ピアス】で消費してしまい、立っているのもやっとの状態だ。そもそも、致命傷は塞がったとはいえ、全身の傷は未だに残っている。……誰がどう見ても、ボロボロの状態だった。

 

だが、

 

「何もする必要はないわ。……わたしの血に触れた時点で、貴方はもう終わっているもの」

 

—————ハッタリ、などではない。死の淵から蘇った少女は、ただただ事実を述べている。レイクはそう確信した。

 

「……何を、言って……」

 

「…じゃあ、逆に聞くけど、————」

 

リーナは一旦区切り、

 

「どうして、貴方の相方はわたしにトドメを刺した直後に亡くなったと思う?」

 

 

「……何?」

 

 

そう、よく考えればおかしな事だ。条件起動式によって呪殺されるのなら、前もって殺す対象に何かしらの細工をする必要があるはず。しかし、戦闘中にそんな様子はなかった。

 

————だが、そもそも細工など必要ないのだとしたら?

————自分がその呪殺の対象外などと、どうして言い切れる?

 

 

「【天罰】。あのチンピラ男の死因となったわたしの固有魔術の名よ。特定の条件に当てはまる対象に罰を与え、死滅させる。自動で発動するのはわたしが死んだその時だけで、他の条件ならば任意で『罰』を発動できる」

 

つまり、『自分の血に触れた敵である』という条件を満たすレイクはいつでも殺せる、とリーナは言った。

 

————それが事実ならば、とんだ怪物だ。

 

謎の蘇生魔術に、自身を殺傷した者を呪殺する固有魔術。これでは、敵は彼女を殺せない。たとえ世界中を敵に回しても、『殺される』限り敵の数は減っていくのだから。

 

恐るべき敵だ、と数十分前までは思っていたが、とんでもない。蓋を開けてみれば、恐ろしい天敵だった。

だが、後悔先に立たず。既に彼は己の運命を受け入れていた。

 

「さようなら」

 

全身に走る激痛を最後に、レイクの意識は消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドシャッ、と音を立て、男が倒れる。そして力を失った剣が床に落ちた。

 

そして、立っているのは、死に瀕していたはずの少女、リーナ。彼女に真っ先に駆け寄るのは、兄のグレンだった。

 

 

「馬鹿野郎っ!お前、本当に心配したんだぞっ!なんであんな無茶したんだっ⁉︎」

 

「……やめて、兄様。傷に響くわ」

 

「あ、悪い……」

 

必死に摑みかかるグレンをどうにかして宥め、引き離すと、今度はシスティーナとルミアが駆け寄ってくる。

 

「リーナ、大丈夫なの⁉︎」

 

必死に抱きついてくるシスティーナに、リーナはとうとう限界を迎え————

 

 

「……全然大丈夫じゃないわ。そろそろ死ぬもの」

 

 

そのまま、出血多量で意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生っ!リーナは大丈夫なんですか⁉︎」

 

「とりあえず応急処置はした。あとはセリカが来ないとなんにもできん」

 

リーナが倒れた後、グレンは彼女を医務室に運び、ベッドに寝かせた。傷口を消毒し、丁寧に処置したあと、包帯を巻く。

 

————治癒魔術の効果は見込めない。少なくともあと3日はこのままだろう。

 

 

「…というかだな、白猫。いくらなんでもあの状態で抱きつくな。危ないから」

 

「……ごめんなさい」

 

「リーナがまた死んだりしなかったから良かったものの、下手したら【天罰】で即刻あの世行きだぞ?」

 

「そういえば、なんでリーナは無事だったんですか?………どう見ても助からない状態だったのに」

 

ルミアの疑問はシスティーナも抱いていたものだ。固有魔術、と彼女は言ったが、それは本当に真実なのだろうか?

 

「あいつの固有魔術、【天の福音】。【天罰】によって殺傷した相手の肉体を分解して魔力に変換し、その得た魔力で『生存情報』とやらに介入して自分の状態を『死』から『生』に書き換える魔術……らしい。俺にもよく分からん」

 

魔力とはすなわち生命力である。当然、死んだ人間に魔力などあろうはずもない。だから、蘇生のための魔力に、敵の身体を利用する。……合理的ではあるが、倫理的に見れば真っ黒だ。

 

「…それ、良いんですか?」

 

「駄目、と言いたいところだが……それでリーナが生き返るならむしろ推奨する。どうせ自分を殺した敵の死体だしな」

 

「絶対誰にも言うなよ」などとグレンが締め括ったところで、グレンの手首の魔導器が鳴った。セリカからの通信だ。

 

 

「…てめえセリカっ‼︎なんで今まで連絡取れなかったんだよ⁉︎こっちは大変だったんだぞ‼︎」

 

 

『すまない、今まで講演中だったんだ。……何があった?』

 

「【天の福音】が発動した」

 

それだけで事態を察したのか、セリカの態度が一変する。

 

『今すぐに帰る。少しだけ待っていろ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いな、これは」

 

セリカは通信からほんの10分足らずでやってきた。転送方陣が使えない以上、交通手段は徒歩や馬車などに限られる。しかし、少なくとも4日かかる道のりをどうやって10分で踏破したのか。システィーナやルミアにはてんで分からない。

 

「……治りそうか?」

 

包帯を取り、傷を診察するセリカにグレンが問う。……リーナの怪我に関しては、セリカの方が詳しく分かるのだ。

 

「見た所、かなり危ない。致命傷は蘇生の際の白金術で塞がっているようだが、傷が深すぎる。内臓のいくつかもやられているぞ、これは」

 

セリカは懐から取り出した液体をガーゼに含ませ、傷口に押し当てる。染みるのか、リーナが「…うっ」と意識の無いまま呻いた。

 

「とりあえず治癒限界を脱出するまでは絶対安静だ。少なくともこのままじっとしていれば命に関わることはないだろ、……多分」

 

「……おいおい」

 

「多分」のフレーズにグレンが敏感に反応するが、セリカの険しい表情は変わらない。……それで、何の冗談も抜きに危険なのだと理解した。

 

「……そもそも、【天の福音】はあまりにも危うい状態で成り立っている固有魔術だ。死亡した原因を特定し、その死亡原因が発生する以前の肉体の情報を読み取って『福音』の発動時点での肉体との差分を割り出し、その差分を白金術によって文字通り傷口を塞ぐことで解消すると同時に、自身の状態を『死』から『生』に書き換える。それを死んで全く動かないはずの深層意識下で無理矢理やるわけだ」

 

「……ああ」

 

「…なら、そのプロセスの間で妨害を受けたらどうなると思う?」

 

————当然、魔術は失敗し、リーナは2度と生き返らなくなる。

 

「リーナが蘇生するまでにかなり時間がかかった、と言ったな。グレン?」

 

「…ああ、少なくとも20分以上は経っていたはずだ」

 

「以前リーナが蘇生するのにかかった時間は4分15秒前後。だが今回はその5倍近く掛かっている。おそらく、腹の傷のせいだろうな」

 

「腹の、傷?」

 

リーナの腹部には、おそらく剣の魔導器で付けられたであろう深い切り傷が刻まれている。

 

(…これが、時間の掛かった原因?)

 

すぐに違う、とグレンはその疑念を捨てた。致命傷に至らない傷程度では、あの固有魔術にとって何の問題もない。そのくらいには、グレンはリーナの蘇生能力を信頼していた。

 

「……胸と腹に、一つずつ。【ライトニング・ピアス】による穴が穿たれた形跡がある」

 

淡々と、セリカは言う。ーーーそれは敢えて落ち着いているように見せているのだと、その場にいる全員が理解した。

 

「見た所、胸の傷は【天の福音】が発動することになった要因。そして腹部の傷は、」

 

まるで言葉にするのが忌々しいとばかりに、セリカは怒りを滲ませた声音で告げた。

 

 

「———死んだ後に付けられたものだ」

 

 

 

 

 




レイクさんがかませになっている気がする。ジンは描写の無いまま死亡し、ヒューイ先生には誰も気づかない。書いている本人さえもさっきまで忘れていた。




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