ロクでなし天才少女と禁忌教典   作:“人”

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4話目で原作主人公が登場。


ロクでなし魔術講師の来訪

「……遅い」

 

アルザーノ帝国魔術学院に入学して一年。リーナやシスティーナ、ルミア達は二学年に進級した。しかし、良い事ばかりではない。そのめでたい進級から数ヶ月後、唐突に2年2組の担任であるヒューイが学院を辞めてしまったのだ。

その枠を埋める為、学院は急遽セリカ=アルフォネア教授の推薦した非常勤講師を雇うことにしたらしいのだが——————。

 

「もう、授業開始時刻から20分よ⁉︎授業初日からどうしてこんなに遅刻するのよ!」

 

問題は、その非常勤講師が一向に姿を現さないことだった。

 

『今日からヒューイの代わりに、非常勤講師が来ることになっている。優秀な奴だから、期待してな』————そう、セリカは言った。

しかし、蓋を開けてみればどうか。初日の授業から20分もの遅刻。正直、期待はずれを通り越して驚いた。

 

「……何かあったのかな?」

 

ルミアが心配そうに呟く。確かに、これは普通ではない。もしや事故や事件に巻き込まれたのではないか?いや、むしろそうだとしか考えられない。

 

しかしシスティーナはそうは思わなかったようで、

 

「どんな理由があろうと、遅刻をするのは意識が低い証拠よ。来たら文句言ってやるんだから!」

 

などと憤る。

 

「ねえ、そう思うわよね、リーナ⁉︎」

 

すぐ隣の席にいるにも関わらず、一言も喋らないリーナに同意を求めるシスティーナ。それに対するリーナの返答は実に素っ気ない。

 

「……遅刻ならわたしもしているし、授業できればいいんじゃないかしら?」

 

 

 

—————その時である。

 

「…悪い悪い、遅くなったわ」

 

「…やっと来たのね!ちょっと貴方、今何時だと思ってるん……ですか…?」

 

途端、目を疑う。

入って来たのはとんでもない姿の男だった。左腕は包帯を巻いた上で首から吊るされ、頭には包帯。控えめに言って、満身創痍だった。そして何より、その風貌。

 

「…貴方、今朝の————」

 

ルミアとシスティーナがはっと息を呑んだところで、

 

「……兄様?」

 

リーナの驚きを孕んだ声音が教室に木霊した。

 

((………兄様?))

 

まさか、あの全身ズタボロの男が、普段からリーナが口にしているあの『兄』なのだろうか?……どうも聞いていたイメージとどこか違うような………?

 

そんな疑念の視線に気づかず、彼女はやってきた講師に慌てて駆け寄る。

 

「どうしたの兄様⁉︎あれだけ学院じゃ働かないって……いやそれより、その怪我は⁉︎昨日まで無傷だったのに、どうしてこんな痛ましい姿に⁉︎セリカお手製の服までボロボロにして……っ!」

 

リーナは今にも泣きそうだった。

 

そして男は答えた。曰く————。

 

遅刻ギリギリだと思って家を飛び出したら2人の学院の生徒と出くわし、すこしトラブルになって服がぐしょ濡れのボロボロに。結局時計がずれていただけで時間には余裕があったので急いで服を着替えようと思い、走って家に帰る途中で曲がり角から飛び出してきた馬車に轢かれ、骨折。仕方なく応急処置だけして学院に来た、ということらしい。とんでもなく災難な話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後リーナの治癒魔術によって全ての傷があっさり治った新任の講師は自己紹介を始めた。

 

「えー、グレン=レーダスです。これから一ヶ月間、微力ながらも皆さんの勉強のお手伝いをさせていただきます。………めんどくせーけど(ボソッ)」

 

最後の方は何を言っているのかわからなかったが、無難な自己紹介だった。……本人のやる気がなさそうなことを除けば。

ちなみに言っておくとこの男、最初は授業をする気などさらさらなかった。つい昨日まで、『適当に自習にでもしておくか』と考えていたくらいだ。そしてそのまま一ヶ月間ダラダラ過ごし、そのまま学院を辞めるつもりだった。

ところが困ったことに、昨晩、セリカからとんでもない事実を告げられた。

 

 

 

『ちなみにお前の赴任するクラスはリーナのいる2年2組な』

 

『……はっ?』

 

『いやー楽しみだなあ?リーナにはグレンが学院で働くことを伏せてあるし、私からのちょっとしたサプライズなんだが…。あいつ、きっと喜ぶぞ。何せお前のことをいつも友達に自慢しているくらいなんだからな。愛されてるな、お兄ちゃん!』

 

『…ふっざけんなああぁぁぁぁぁぁーーー⁉︎』

 

 

—————サボるわけにはいかなくなった。

 

リーナがグレンのことを学友に話しているということは、すなわち兄妹であることがすぐにバレる、ということで。

リーナのクラスを担当する、ということは、サボったりふざけたりなどすればリーナを失望させる、ということである。

 

そして、グレンの評判が悪ければその妹のリーナの評判にも影響する。

 

少々のトラブルで見捨てたり見下げ果てたりするような妹ではないが、期待されている以上応えないわけにはいくまい。ならばこそ、たとえ魔術がどれだけ嫌いであろうと授業だけはきちんとやらねばならない。絶対に。

 

—————というわけで。

 

「遅れてきてすまないと思ってるが、それはそれ。今から簡単な小テストをやりまーす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————どうやら自分は幸運だったらしい、とシスティーナは思った。

 

 

確かに簡単だ。このくらいの難易度なら、十分もかからずに解けるだろう。ーーーリーナのおかげで(・・・・・・・・)

 

リーナと友達になって一年。この一年間、ルミアとシスティーナは放課後に毎日リーナに魔術を教わっていた。術式の構造、魔術の起動プロセス、呪文の即興改変。おかげで学生レベルの初歩的な魔術ならば、会話に用いるフレーズで起動できるようにもなった。

 

————そしてその教わったことの成果が、今一番発揮されている。

 

正直に言って、他の生徒には意味不明だろう、と思う。呪文をどれだけ効率よく覚え、使える魔術の数を増やすか。今までやってきた勉強とはそればかりで、魔術の原理や成り立ちについてはあまり学習していない。

 

(やっぱり、リーナのお兄さんなのね)

 

ならば期待できる。さて、その肝心のグレン先生はというと……

 

「ZZZ……」

 

教卓にもたれかかって眠りこけていた。

 

(………⁉︎まさか講師のくせに、居眠り?……いいえ、落ち着きなさいシスティーナ。あの人は今朝、とんでもない目にあったのだから、それできっと疲れているだけなのよ。断じて普段からだらけている、というわけではないわ!)

 

声を上げたいのを必死に抑える。今はテスト中。他の生徒のためにも、自分を抑えて静かにせねばならない。

 

 

 

 

そして、授業終了五分前になってグレンはむくりと起き上がった。

 

「じゃあそろそろ回収するぞー。まあ簡単だったし、みんなできてるだろ。……ああ、それと言い忘れてたが、これから1週間の間は全教科小テストな。お前らの実力も見ておきたいし、まあ基礎の確認ってことで」

 

その発言に、生徒達が絶望する。

 

(基礎の、基礎……?あれ、あんなの教科書に載ってたっけ?)

 

(………くっ……)

 

(マズイですわ、非常にマズイですわ!わたくしともあろうものがテストで赤点など……)

 

「あー、ちなみにこの小テストは成績には反映しない。……しないが、それはそれとして点数と順位は教室に貼り出すから、そのつもりで」

 

グレンはさらなる追い討ちをかけた。

 

 

 

そして、次の授業は錬金術。当然ながら、小テスト。

 

『あー、このテストは少し難しいかもしれんが…まあ、大丈夫だろ。基礎が分かってればいけるいける』

 

テスト開始前にグレンが言った言葉だ。

 

 

 

(……マズイですわ、非常にマズイですわっ)

 

 

ウェンディは涙目になっていた。羊皮紙に書かれているのは問題文と魔術式。

 

『問1 この術式はとある物質を錬成するためのものである。これについて、以下の問いに答えよ』

 

そしてその後に続くのは、文章の穴埋めや記述の問題。正直、わけがわからなかった。

 

そして、悩んでいる間に授業終了時刻となる。結局苦し紛れに書いたものの、ウェンディは納得のいく回答ができなかった。分かった部分もあったものの、点数は絶望的だろう。

 

 

 

 

 

「…ねえ、リーナ。他のみんなには教えなくていいの?なんか私たちだけって少し罪悪感が……」

 

その小テスト初日の放課後。リーナ達はいつも通り、空き教室に集まっていた。

システィーナの問いに、しかしリーナは微かに微笑んで答える。

 

「いいのよ。一度小テストで痛い目を見て、それから兄様の授業を受けた方が絶対効率的。今から教えたって付け焼き刃になるだけで、本人達のためにはならないもの」

 

「それに、」とリーナは続ける。

 

 

「わたしは魔術。ルミアは手芸。システィーナは魔導考古学。互いが各々の得意なものを教えあうって名目で集まってるんじゃない。わたし、タダ働きは御免よ」

 

 

ルミアもシスティーナも、ただ教えてもらっているばかりではない。それぞれが自分の得意なものを教えあい、高めあっている。そこへ第三者がただ施しを受けに乞食の如くやってくるなど、リーナには許せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、あっという間に1週間が過ぎ、一時限目の授業の前に教室内に大きな貼り紙がされた。

 

 

「はいちゅーもーく!これが1週間小テストをやった結果だが……正直、かなり酷かった。本当にこの学院、魔術のことなーんにも教えてくれないのな」

 

そこに貼り出された点数と順位を見て、ほとんどの生徒が顔を青ざめさせる。

 

「…でもリーナ、システィーナ、ルミア。この3人はダントツ。極めて優秀だ。特にリーナは満点、システィーナも一問ミスしただけだしな。ルミアも基礎は完璧にできてるって言って良い」

 

この3人は、座学において学年トップクラスの実力を持つ。それはクラス全員の総意だ。だが、まさかここまで他の生徒と差があるとは思っていなかった。

特にギイブルとウェンディの悔しさは人一倍だろう。2人ともシスティーナをライバル認定していたのだから。

 

 

 

「というわけで、今日はお前らに【ショック・ボルト】を教材にした魔術のド基礎を教えてやる。ま、興味ない奴は寝てな。さっき言った3人は理解できてる内容だから、別に受けなくても良いぞ」

 

 

しかし、当然ながら寝るような生徒はいない。皆小テストの結果で自身に危機感を抱いていた。

その場にいた面々にとって意外だったのは、あのリーナが自習を始めていないことだ。羊皮紙を広げ、羽根ペンを持ち、黒板に向かっている。彼女はグレンの言葉を一字一句聴き逃すまいと耳を澄ませていた。




アニメ最新話で、期待をバッサリ裏切られたのは俺だけじゃないはず。

……五巻までやるなら2クールにしてくれよ!省略しすぎなんじゃ!





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