お気に入り、増えてる⁉︎登録して下さった方、ありがとうございます‼︎やっぱり水着回は需要あるんだなっ!
(やべえ、眠っちまってたか)
グレンが目を覚ました時、既に真夜中になっていた。この時間では、旅籠に入れるかどうかも怪しい。……だが。
(それを補って余りあるもんを手に入れたしな)
手には4人娘が遊ぶ姿を保存した小型射影機がある。あの光景を肴に安酒を飲み、酔って眠ってしまっても後悔はなかった。
普段あまりテンションの上がらないリーナがはしゃぎ、任務しか知らなかったリィエルが遊ぶ景色。あのひと時は、何物にも勝る至宝だとグレンは思う。
(できれば、ずっとこのままなら良いんだが……)
それは不可能だろう、とグレンは考える。リィエルは特務分室のエース。すぐにルミアの護衛任務が終わるとは思わないが、それでも日常をいつまでも謳歌するわけにはいかないだろう。
「……グレン」
そんなことを考えていると、知らぬ間に目の前には青髪の小柄な少女、リィエルの姿。相変わらずの無表情で、何を考えているのかが読み取れない。……何も考えていないのかもしれないが。
「なんでここにいるんだ、リィエル」
「グレンが部屋にいなかったから、探しに来た」
(……なるほど、じゃあリーナ達はもう寝たのか)
リィエルの任務内容を知っている彼女達なら、リィエルがルミアから離れる前に止めるだろう。高い確率で、リーナ達は今頃夢の中だ。
「…今はルミアの護衛任務中だろ?」
「……ん。でも、グレンに会いたかったから」
それを二組の男子共が聞けば、軽く殺意が沸くことだろう。「うらやまけしからん」とグレンを追いかけ回すかもしれない。だが当のグレンは、未だに自分に依存している節のあるリィエルに不安を覚えていた。
「……痛っ」
首の後ろあたりに針で突かれたような痛みが走り、リーナは飛び起きた。現在の時刻を確認すると、寝付いてからまだ2時間ほどしか経っていない。部屋を見渡すと、隣のベッドでシスティーナとルミアがぐっすり眠っているのが見えた。
(……ああ、嫌だわ)
部屋を見渡して、足りないものがある。それはリィエルの姿。軍の人間なのだから、当然真夜中にも任務やすべき事があるのだとは思うが、それでも尚嫌な予感がなかなか消えてくれない。
————時折訪れる、首の後ろの痛み。それをリーナは、警告と捉えていた。
この痛みを感じたあと、必ず何かが起こる。経験上、最短で数秒後。最長でも4日後。それを感じたが最後、リーナは必ず不幸な目に遭う。
———例えば、すぐ側にあった建物の壁が老朽化で崩れ、倒れてくる。
———例えば、外道魔術師同士の戦闘に巻き込まれ、流れ弾が直撃する。
———例えば、螺子が緩んだシャンデリアが落ちてくる。
———例えば、戦場跡地の地下に埋まっていた爆弾の爆発に巻き込まれる。
———例えば、街中を暴走する馬に轢かれる。
これらの全てが、今までリーナが実際に経験した不幸であり、死である。そのどれもが事故に近い形であり、その中には一つとしてリーナ個人を狙うものなどなかった。
幼い頃に何度も死に瀕した結果、セリカはリーナの身を案じ、リーナを外に連れ出さないようになった。暖炉や照明、本棚など、屋敷の中にいても死亡事故の要因になり得るものは毎日点検し、時に魔術で強固に固定。万が一にでもリーナが外に出ないよう、外出時には屋敷の結界を強化し、扉も魔術的・物理的に頑丈に封鎖した。ほとんど監禁のようなものだが、それでも本当の母親のように身を案じてくれるセリカに、リーナは感謝しかなかったのだ。
幸い、学院に通うようになってからは死亡事故の頻度は極端に少なくなった。精々がテロに巻き込まれるくらいである。だが、どうしてその不幸が少なくなったのか、どうしてセリカはその事を知っていたかのように学院に行くように勧めたのかが分からない。
(……当時のわたしは、本当に愚かだったわね)
確かあの時は、『兄様を見習って働きに出る』と言ったのだったか。『セリカの言う通り暇だし、死んでもどうせ生き返る』とも考えていた気がする。
———今思えば、なんて愚かだったのだろう。『生き返るから、死んでも良い』など。
死ぬ羽目になるのは、とても痛い。苦しい。それでも我慢すれば良いと、そう思っていたのに。
————今は、自分が傷つく事で悲しむ人間が多くいる事を知っている。
セラが亡くなり、初めて身近にいる人間が失われる事の恐ろしさを知った。そして、その恐怖を自分が死に瀕する度にグレンやセリカが味わっているであろうことも。できれば、そんな思いを周りの人間、特にシスティーナやルミア達にはして欲しくない、とリーナは願う。
(……セリカに、感謝しないと)
学院に通い、システィーナやルミアという友人ができた。もしもあのまま閉じこもったままだったら、きっとセラの死に悲しみこそすれ、今のような感情を抱くことはなかっただろう。リーナはそれを自身の成長であると自覚していた。
(……でも、できるかしら?今までこの警告の後、死なずに済んだことはないのに)
どんなに万全に準備しても、警告の後は必ず死が訪れる。物理的、魔術的に備えたとしても、それを上回る苦難が必ずやってくるのだ。リーナ1人で対処するのは、不可能に等しい。
———誰かに相談する、という選択肢はない。迂闊に話してしまっては、リーナを庇おうとしてグレン達が死傷する可能性があるからだ。
リーナが全てを思い出すまで、あと1日。
そして夜が明け、翌日。グレン率いる二組は、サイネリア島の中心部に位置する白金魔導研究所に向けて歩き始めた。
一応舗装された道を歩いてはいるものの、皆が歩き慣れているフェジテの街の石畳とは異なり、元々存在した自然の起伏がはっきりと残っている。石の並びも雑然としていて、歩きにくいことこの上なかった。
しかも、それなりに長距離である。軍生活の長かったグレンや、田舎からやってきたカッシュ達などの例外を除き、都会暮らしの生徒達は息が上がっている。
「……はぁ、はぁ」
「…ルミア?大丈夫?」
「…大丈夫、…じゃないかも……。システィは、強いね」
「……結構きついけど、まあなんとか」
息も絶え絶えになりながら歩くルミアに比べ、システィーナはまだ少しだけ余裕がある。普段の拳闘を用いた鍛錬が効いているのかもしれないと、システィーナは思った。
「…それに、リーナほどじゃないわ」
システィーナとルミアの数歩先を歩くリーナは、息切れどころか汗ひとつかいていない。時折、「不意打ちを防ぐ障壁……でも、そうするとマナの消費が……」などとブツブツ独り言を呟いているが、それでも疲労した様子はない。
「……本当に、すごいね」
「あの子、この間までほとんど寝たきりみたいなものだったのに……。どうなってるのよ」
病み上がりとはとても思えないスタミナ。システィーナやルミアは知り得ないことだが、リーナは幼少期からセリカの屋敷で家事を続けてきた猛者である。主にあの広大な屋敷の掃除は、リーナの体力作りに大いに役立っていた。さらに部屋の中には、リーナの運動不足を解消する為の器具が揃っている。華奢でひ弱そうに見えるが、体力だけなら同年代の少年少女に決して負けないのだ。
———しかし、いくら体力があろうとも足場が悪いことには違いないわけで。
「…きゃっ⁉︎」
「ちょっと……⁉︎」
思考により足元が疎かになっていたリーナは、石に躓いた。そのまま前のめりに倒れる。リーナの視線の先、ちょうど彼女の頭がぶつかるであろう地面には岩と言って差し支えないような大きな石が、尖った先端を上に向けて待ち構えており———。
(…嘘。まさか、昨夜の警告って、こんな下らない死因なの……?)
そのまま呆気なく、リーナが絶命————することはなかった。
「……危なかった。全くもう!きちんと前を見て歩きなさいよ!」
「シス、ティーナ……」
まさしく間一髪。
リーナが倒れこむ瞬間、全身の疲労を無視して駆け寄ったシスティーナが、リーナを受け止めていた。
「考えごとをするのはいいけど、ちゃんと周りも見て……って、どうしたの?」
システィーナは説教をしようとして、ふとリーナの様子がおかしいことに気づいた。まるで心ここに在らずといったような、明らかにいつもと違う表情。
「…いいえ、何でもないわ。ありがとう、助けてくれて」
「そう?……リーナ、やっぱり具合でも悪いんじゃ……」
その時、『パチン』と小さな音が聞こえた。
「…触らないで」
音のした方を見ると、そこにはルミアの手を跳ね除けるリィエルの姿。
「……えっと、リィエル?」
「もうわたしに関わらないで!いらいらするから!」
普段無表情のリィエルが、珍しく怒りを露わにしてルミアを拒絶し、1人で前にずんずんと進んでしまった。そこに残るのは、なんとも形容しがたい気まずさと、戸惑い。
「…あの4人って、仲よかったよな?」
「何かあったのかしら?」
周りのクラスメイトも、困惑を隠せない。当事者であるルミア、システィーナ、リーナの3人もそれは同様で、どうしてリィエルがあんなに怒っているのか分からなかった。
聞くところによると。
リィエルが機嫌を損ねたのは、昨晩兄がヘマをしたせいらしい。おそらくわたしが『警告』で目を覚ました時、彼女がいなかったことと無関係ではないわね。
(……わたし、薄情者ね)
今までわたしは、リィエルと深く関わろうとしなかった。もし関係を深めてしまったら、知りたくない、もしくは知ってはならない事を知る羽目になってしまうような、そんな予感がしたから。そのせいか、リィエルが理不尽に怒ってルミアから距離をとっても、さほどショックは受けなかった。……もしかしたら、これは。
(嫉妬、しているのかしら?)
リィエルがやってきたところで、わたしの居場所は失われない。新しく彼女の居場所ができるだけ。分かっている。
おそらく、小さい頃から屋敷から出なかった弊害。セラ以外にできた親友を取られたくないという、本来ならば幼子の時に通過していなければならない独占欲がわたしの心を蝕んでいる。自分でもなんて幼稚なのかと呆れてしまうけれど、仕方がない。寧ろ、そこまで入れ込むことのできる存在ができた事に喜ぶべきだと、わたしは開き直った。
不貞腐れたリィエルの事を頭の隅に置きつつ、同じ過ちを犯さないように足元に注意して歩く。やがて目の前に現れるのは、大自然に囲まれた石の建造物。あれが白金魔導研究所ね。
そこでわたしは、今まで考えないようにしていた事と直面することになるとは思ってもいなかった。
くっ……。せっかくアンケートとったのに、本編しか進められない…。
え?男子諸君への制裁?いつのまにかその痕跡すらも消えてるって?……彼らは何があったのか覚えていない。いいね?