ロクでなし天才少女と禁忌教典   作:“人”

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明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。






アンケートでR18の要望が出て、少し驚いた。取り敢えず、その事に関してまたアンケートを取りますね。


楽園

「それでは、作戦を開始する」

 

サイネリア島に到着し、宿泊する旅籠にて食事と入浴を済ませた二組一行。しかし就寝時間になったその時、旅籠本館と別館を挟む中庭に彼らの姿はあった。

彼らはカッシュ率いる二組男子。『我がクラスが誇る美少女達と一緒に遊ぶ』という使命の下、規則違反の危険を冒してまで『女子の部屋へこっそり遊びに行く』為だけに集まった猛者達である。

 

「まず、別館と本館をつなぐ回廊。これは流石に使えない。目撃される可能性が高すぎる……」

 

あまり成績が良いとは言えないカッシュだが、頭の回転そのものは悪くない。彼は魔術競技祭において、『咄嗟の状況判断に優れる』という理由で『決闘戦』のメンバーに選ばれた男なのだ。

その後も潜入ルートの確認をする一同。予め一部の女子生徒に協力してもらい、巡回ルートを確認している彼らには油断も慢心もなかった。

 

 

「俺、今夜は徹夜でリィエルちゃんと双六するんだっ!」

 

「俺はルミアちゃんとトランプだっ!」

 

「僕はこの機会にリンちゃんとたくさんお話しするんだっ」

 

「ウェンディ様に罵倒されたい……。素足で踏まれてパシられたい…」

 

「じゃあリーナちゃんは僕がもらっていきますねーっ!」

 

「…見える。グレン先生に捕まるお前の未来が見える」

 

「システィーナは…別にいいや。説教うるさいし、面倒だし」

 

「「「うんうん」」」

 

各々の願望を口にする勇者達。…しかし、システィーナはあんまりな扱いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の入り組んだ雑木林をプロの隠密部隊に匹敵するスピードで踏破する。カッシュはこの為だけに食事をサボってまで周辺の調査をしたのだが、その甲斐は十分にあったと言えるだろう。

 

 

———ただ、彼らの誤算があったとするならば。

 

 

「ば、馬鹿なっ⁉︎」

 

 

 

 

———彼が想定とは違い、真面目(ルート通り)に巡回など行っていなかったということ。ただそれだけである。

 

 

 

 

「なんであんたがここにいるんだ⁉︎グレン先生!」

 

林の中にぽっかり空いた円形状の広場にて待ち受けていたグレンは、その問いに仁王立ちしながら答えた。

 

「甘い。甘いぜ、お前ら。……お前らの考えてることくらい、この俺には最初からお見通しだぜ?なにせ———」

 

グレンは不敵な笑みを浮かべ、堂々と言った。

 

 

 

 

「俺がお前らだったら、このタイミング、このルートを使って、リーナの部屋に行くからなぁ‼︎」

 

 

 

「「「なんか違う⁉︎」」」

 

 

 

別に、完全に違う訳ではない。リーナも女子だし、間違ってはいないのだが……。それ以外の女子が抜けている。

 

 

 

「ま、そういうわけだ。部屋に戻れ、お前ら。うちのリーナとお近づきになりたいのは嫌というほどよく分かる………が、これでも一応兄貴なんでな」

 

 

 

(((…うわぁ………)))

 

ドヤ顔で宣うグレンに対し、男子生徒達の胸中は一致した。すなわち、

 

 

 

———身贔屓にも程がある!ここまでくると気持ち悪い!

 

 

自意識過剰ならぬ、妹意識過剰。

この男、リーナ以外の女子がまるで眼中にない。…教師という立場上、あったら問題なのだが。

確かに、リーナは可愛い。入学当時から外見の美しさ、可愛さで言えば二組の中でもルミア、システィーナ、リーナは抜きん出ていた。

 

 

 

———しかし、実際の『学院で恋人にしたい女子ランキング』では。

 

 

 

 

一位、ルミア=ティンジェル。

二位、リゼ=フィルマー。

三位、ウェンディ=ナーブレス。

 

 

ルミア以外は三位以内に入っていない。

システィーナはその内面の生真面目さ、融通の利かなさから付き合いにくく、『可愛いけど面倒くさい』『窮屈な思いをしそう』などというレッテルを貼られ、あまり人気がなく。

 

リーナに関しては、『付いてくる兄貴がいらねえ』という意見が多数寄せられた。告白はする前に察知されたグレンに阻まれ、ラブレターを渡そうものなら没収される。こうしてグレン本人による虫除けの結果、リーナは『可愛いけどモテない子』の仲間入りを果たしてしまったのだ。

 

無論、システィーナのように本人が原因ではない為、好意を寄せている男子が未だ一定数いるのだが。

 

 

 

 

そして、この勇敢なる男子生徒の中にも、所謂『リーナ派』なる猛者はいる。逆に言えば、グレンが阻むべきなのはその『リーナ派』だけなのだが、彼が素直に通してくれるとは思えない。

 

 

 

「なーに、心配すんな。こんなのいちいち学院に報告なんかしねーよ。見なかったことにしてやるさ。だから……」

 

グレンは背を向け、ひらひらと手を振った、その時だった。

 

「それはできないぜ、先生……」

 

カッシュが決意のこもった目で、グレンに言い放った。

 

「……なんだと?」

 

「男には退けない時がある……。俺たちにとっては今がそうなんだ」

 

 

そう、カッシュには使命がある。なんとしてもこの防壁を突破し、可愛い女の子とキャッキャウフフと遊ぶという使命が。それに、たとえその先に地獄(ゲヘナ)が待っているとしても、それを知ってなお『リーナ派』でい続ける勇猛なる友がいる。彼のためにも、絶対にここを乗り越えて楽園(エデン)へと至らなければならない。

 

 

「そうか、……お前たちは既に覚悟を決めた人間なんだな?」

 

 

 

ふっと笑い、グレンが構え。

それを見てカッシュ達も魔術戦の態勢となった。

 

 

「いくぜ先生っ‼︎妹愛の貯蔵は十分かーっ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……加勢に行こうかしら」

 

「やめておきなさい。馬鹿が感染(うつ)るわ」

 

そして、グレンと男子生徒達のやり取りを見る影が二つ。リーナとシスティーナだ。

2人とも入浴からまだ時間が経っていないのか、ネグリジェに包んだ肢体からはほんのりと湯気が立っている。こんな状態で飢えた肉食獣(馬鹿な男子ども)に見つかったりなどすれば、確実に面倒なことになるだろう。眼下で繰り広げられる茶番劇にシスティーナは呆れ、リーナはそのお馬鹿な茶番に割とシリアスになっていた。

 

———リーナ=レーダスは、グレンが絡むとアホになる。

 

別に勉強ができなくなるとか頭の回転が悪くなるとか、そういうわけではなく。

ただ単に、思考が通常とは異なる方向に一本化する。狭い視野がさらに狭くなる。

 

 

 

 

例えば、このように。

 

(…兄様、どうして【愚者の世界】を使わないのかしら?まさか、アルカナを置いてきた?)

 

【愚者の世界】は、グレンにとって宮廷魔導士時代に使い続けた切り札であり、暗殺道具である。いくら非殺傷系の魔術とはいえ、そんなものを自分の生徒相手に振るうのはグレンにとって非常に気が引けることなのだが————今のリーナにはそれが分からない。

 

 

 

眼下では、グレンと男子生徒達の戦闘が繰り広げられている。さすが元魔導士と言うべきか、素晴らしい身のこなしで生徒達の【ショック・ボルト】を避ける。逃げるというよりは踊るように舞い、バク転や宙返りさえも利用してアクロバティックに回避する。

 

 

「ハハハハハっ!当たらなければどうということはない!」

 

「くそっ‼︎なんだこの動き⁉︎」

 

「呪文の一節詠唱もできないって聞いてたのにっ!」

 

 

たとえ呪文の詠唱が苦手でも、弱いとは限らない。その貧弱な魔術の才で数々の修羅場を潜り抜けたグレンにとって、学生に過ぎない男子の攻撃を捌くなど、リーナの好感度を稼ぐ案を出すことに比べれば容易いことだった。

 

 

 

 

———故に、調子に乗ってしまったのが運の尽き。

 

グレンのアクロバティックな動きには、当然ながら危険が伴う。器械体操はマットと十分な広さを準備し、環境をきちんと整えてから行うべきなのだ。

 

 

 

 

……結論から言えば、ずっこけた。

 

 

先程まで順調だったのに、着地時に踏み付けた落ち葉がズルッと滑り、転倒。綺麗に受け身を取った為に怪我こそしなかったものの、学生とはいえ魔術師である彼らに晒すには致命的なまでの隙を生んでしまった。

そして、それを見たカッシュの判断は正確であり、無慈悲である。

 

 

「今だっ!《雷精の紫電よ》‼︎」

 

「ちょ、やば」

 

「「「《雷精の紫電よ》‼︎」」」

 

「ギャアアアアアっ⁉︎」

 

 

カッシュの詠唱を復唱。放たれた電撃の全てがグレンへと殺到する。————不幸中の幸いだったのは、一節詠唱に加えて生徒達が未熟であったため、全弾命中しても命の危険はないことか。

 

 

 

「…やっぱり、加勢しようかしら?」

 

「……あっ(リーナ派終了……)」

 

珍しくニッコリ笑顔のリーナ様は、大変お冠だった。

 

 

その後、リーナがグレンを助けに行ったのか、それともシスティーナが必死に抑えたのかは定かではないが、『リーナは怒らせると怖い』という認識が関係者に深く刻まれたことをここに記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが、砂浜……っ!」

 

「ほら、システィ、リーナ、リィエル!早く入ろうよ!」

 

「ええ!」

 

「うん、今行く!」

 

翌日の昼からは、皆が待ち望んでいた海水浴となった。リーナは砂浜と海面のコントラストに惹かれ、ルミアは一足先に水に入り、システィーナはリィエルの手を引いてルミアの側まで走って行く。

 

「ああ、尊い……」

 

「…楽園(エデン)はここにあったのか…」

 

そして、水着姿の彼女らを含む女子生徒を見て感動に打ち震える男子。リィエル以外はビキニであり、普段よりもさらに露出が多いこともその感動を後押ししているのだろう。

 

ルミアは白と青のストライプのビキニ。同年代でもトップクラスに位置する戦闘力を有する胸部装甲と、それに反してほっそりとした腰つきが存分にビキニに活かされ、滑らかな白い肌が太陽に照らされて眩く輝く。

システィーナは花柄の白いビキニ。腰にはパレオが巻かれ、それが全体的にスレンダーなシスティーナのアクセントになっている。女性らしさという点ではルミアにやや劣るものの、その分彼女の肢体の清楚さが強調されていた。

リィエルはルミアやシスティーナとは違い、露出度の少ない学院の競泳用の水着であり、女性の艶かしさはあまり感じられない。しかし彼女の容姿が同じ学年の女子よりも幼い為、かえってそれが他と区別される魅力を放っている。

 

 

だが、その3人に全く見向きもしない男がここに1人。……言わずもがな、グレンである。

 

 

(……よし、背中側はチェック完了。小さな傷跡も肌荒れもないな)

 

喜ぶ、というよりは安堵する気持ちでグレンはリーナの様子を観察していた。

 

 

————彼女が身につけているのは、所々にフリルの付いた青いビキニ。システィーナやルミアよりも暗い色の青が、リーナの肌の白さをより強調している。

 

彼女の潔癖な性格を考えれば、ビキニなど恐らくは進んで着なかっただろう。恐らくはセリカの計らいだ。『セリカグッジョブ!』とグレンは内心で褒め称えた。

 

リーナは普段、家では味の薄いものばかり食べる。本人曰く、『舌が鋭いから』らしい。それ故に、彼女は常人よりも塩分や糖分の摂取量が少ない。

 

————それはすなわち、彼女は意図せずして常時ダイエット状態になっていることを意味している。

 

世の女性が聞けば、嫉妬のあまり発狂しかねない理不尽な体質。常人と異なり、糖質や塩分を抑えることが全く苦にならない彼女は、その食生活に全くストレスを感じないため、ダイエットにつきものである『リバウンド』など起ころうはずもなく。

 

結果として、リーナは抜群のプロポーションを獲得していた。

ルミアほどではないにせよそれなりに育った胸と、それに反してほっそりとしたウエスト。腕も脚もすらっと細く、その身体は全体的に細さと女性らしさを両立した曲線美を誇っている。さらに青い水着が、その美しさを邪魔せず、かつ可愛らしさを際立たせる役目を果たしていた。

 

グレンは遠見の魔術———黒魔【アキュレイト・スコープ】の指定座標を変更。リーナの正面の映像が映るように調節する。映るのは、笑顔で水遊びをするリーナのドアップ。水滴が彼女の身体の曲線に沿って流れ、白い肌が陽光で眩しく煌めいた。

 

(……セリカ、グッジョブ)

 

一瞬だけ本来の目的を忘れ、呆けたグレンだが、すぐに我を取り戻して観察を続行。異常は————なし。

 

 

(本当に完治か。……とりあえずは、安心だな)

 

 

水着が邪魔でまだ隅々まで調べられていないというのが本音だが、まさか無理矢理脱がすわけにはいかない。いくら心配でも、超えてはいけないラインは存在するのだ。

 

(……少し、寝るか)

 

安堵したためか、グレンは睡魔に襲われた。思えば普段から授業の準備だのリーナの周囲の監視だの、早朝からの白猫の特訓だのであまり眠れていなかったかもしれない。

特に眠気を遮るものもなく、暖かい陽光に誘われ、グレンはすぐに眠りに落ちた。

 

 




新年の元旦から水着回を出す。季節外れ感半端ない。



……すまない。語彙力が無いせいで、脳内の映像を文章化して提供できなくて本当にすまない。

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