ロクでなし天才少女と禁忌教典   作:“人”

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暴力描写が苦手な人はブラウザバックをオススメする回。溜まったストレスを解消するべく何も考えずに書いた結果、こうなった。


……やっちまったなぁ。


番外編 特務分室の初任務(閲覧注意)

「……はぁ……はぁ」

 

肩で息をしながら、リーナは影から前方の様子を伺う。薄暗いこの洋館は至る場所に罠が仕掛けており、探査魔術で慎重に進まなければたちまち影も形も残らなくなるくらい悪辣な場所だった。

 

(…なんで初の仕事がこんな出鱈目な任務なのよ?恨むわよ、イヴ……)

 

イヴに誘われ、『特務分室の兄の記録』を対価に協力を約束したのはつい最近の話だ。セリカが魔術学会などの用事で留守にしている時を見計らって引きこもりの義兄に(恐れ多くも)睡眠薬を盛り、監視の目がない状況を作り出してはコソコソと帝国軍の拠点へ足を運ぶ毎日。そのために昼は学院、夜は軍と寝る暇もない生活が続いていた。

 

 

(…頑張りなさい、わたし。無事に仕事を終わらせれば、兄様に近づけるわ)

 

彼の歩んだ修羅の道を知り、同じ仕事を経験する。義兄の心の痛みを知るには、同じ環境に身を置かねばならない。

 

 

——————この時の彼女は、その(グレン)でも困難な任務をやらされるなどとは、全く想定していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

リーナの初任務の内容は、『外道魔術師の捕縛および証拠品の取り押さえ』だ。違法な魔術触媒や薬を高く売り、そこで得た金で非人道的な実験や儀式を繰り返し、その儀式の過程で得られる魔術薬や触媒を売るというサイクルで生活する魔術師。どうやら人間を含む様々な動物を嬲り殺しにするような実験らしく、近隣の街でも被害者が出ており、また他の部署では対応できないがために特務分室に回ってきた案件らしい。

 

 

(よりにもよって、プロで解決できなかった事件がわたしの初任務って、おかしいでしょう?まさか特務分室以外の軍人様方が揃って無能であるわけでもないでしょうし)

 

もしもリーナの心の声をイヴが聞いていたとしても、彼女は決して否定しなかっただろう。もしかすると、「有能ならこんなに苦労してないわよ」と小言を付け加えたかもしれない。

 

本来ならば外道魔術師を先に捕縛し、あとで邪魔の入らないように証拠品を見つけたいところだったが、生憎と件の魔術師は行方知れず。先にその魔術師の住処にて証拠品を抑え、『戦力を割くに値すると上層部に知らしめること』が特務分室の方針。今回はあくまで『証拠品の発見』に注力し、後に他の部署の戦力をかき集めての捕縛だとイヴは言っていた。

 

(人の気配はなし。鍵もかかっていたし、やっぱり誰もいないのかしら?)

 

 

だからといって警戒を怠るつもりはない。罠を掻い潜りながら、慎重に歩を進めること1時間。

 

—————-リーナの目の前には、硬く閉ざされた鉄扉が。

 

(……大金庫、かしら?)

 

他の部屋の扉に比べ、明らかに「何かありますよ」とでも言いたげなその扉。扉の大きさや強度から、重要な資材が保管されているのは想像に難くない。

 

——————探査魔術を使用すると、扉の前にはいくつものトラップ。

 

間違いない。

周囲を警戒しつつ、罠の解除を試みる、と——————

 

 

「………————ッ‼︎」

 

悪寒。唐突に解除を中止し、後ろに跳ぶ。—————その直後、『ズガンッ‼︎』と気持ちの良い音を立てて頭上から落ちてきたギロチンが床に突き刺さった。

 

「………嘘でしょう?」

 

思わずそう呟いた。

落ちてきたギロチンは刃の根元まで床に埋まり、床には亀裂が走っている。明らかにギロチンの重さだけではこうはならない。恐らく、なんらかの魔術で落下速度を急激に上昇させているのだろう。あのまま罠に気を取られて回避するのが一瞬でも遅れていたら、真っ二つになるどころか身体が四散していたかもしれない。殺す気満々、油断なしの初見殺しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?……—————⁉︎」

 

 

 

 

————気がつくと、拘束された状態で座っていた。

 

 

本当に唐突に、なんの脈絡もなく。ギロチンを躱し、その威力に驚いた次の瞬間、椅子に座らされた状態で鎖で縛られていた。

当然ながら、魔術も封じられている。魔術的な仕掛けが施された鎖なのだとリーナは当たりをつけた。

 

(ねえ起きてる、アル?これはどういう状況?)

 

自分の内に住む白い天使に問いかけるも、反応はない。

 

(……まさか、精神系の魔術?それで気絶でもさせられた?)

 

内に住む天使、アルテリーナとリーナは精神的に繋がっている。しかし、何らかのきっかけで不意に気を失ったりするとその繋がりが途絶え、アルテリーナとの会話が出来なくなってしまうのだ。

リーナは精神系の魔術に対し強い耐性を持っているが、完全ではない。恐らくギロチンの威力に驚いた隙に気が緩んだのだろう、と推測するが————。

 

(わたしが、魔術の発動に気がつかなかった?そんな馬鹿な)

 

 

どれだけの素早さ、どれだけの練度なのか。もしも本当に精神に干渉する魔術でリーナを気絶させたのだとしたら、その腕前は学院のツェスト男爵に匹敵、あるいは凌駕する。

そして悪辣なトラップ。てっきり事前に仕組まれた大掛かりな罠はギロチンを喰らわせるための囮だと思っていたが、そのギロチンすらもまた囮。仮にリーナの意識が飛んだ魔術が精神系の白魔術だった場合、敵は幾重にも罠を仕掛ける周到さと卓越した魔術の腕、そして接近する気配にリーナが気付かないほどの体捌きを持っていることになる。

 

周囲を見渡すと、悍ましい景色が広がっていた。

まず、部屋の隅にいくつも存在するガラスケース。透明な円柱状の容器の中に浮かべられた臓器や脳には無数の電極が突き刺さり、一目で違法な人体実験の研究材料であることが伺える。

そして、壁に飾られた様々な道具。鋸、金槌、鎖のついた鉄球、ナイフ、その他多くの血に染まった刃物やら鈍器やらが無数に引っ掛けられていた。一目で拷問用であると判る。血を落とさないのは相手を怯えさせるためか。それともあえて手入れを怠り、切れ味を落とすことで苦痛を冗長させるためか。どちらにせよ碌な理由ではない。

 

(……本当に、恨むわよイヴ)

 

こうして捕らえられた以上、自分がどのような目に遭うのかは想像に難くない。部屋の景観を脳が認識するにつれて、リーナの全身に冷や汗が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

——————屋敷の主がやってきたのは、それからおよそ10分経った頃だった。

 

赤いドレスを着た、藍色の髪と金色の瞳の美女。纏う雰囲気はまさしく獲物を前にした肉食獣。

 

「ん?起きたか、侵入者」

 

残念ながら、アルテリーナとの繋がりが蘇らないまま時間だけが過ぎた。結局脱出の目処が立たないままタイムオーバー。まさに絶体絶命。

 

「そう身構えなくてもいい。問答無用で殺す、という事はしない。見たところお前は、軍の人間で相違ないな?」

 

返事はしない。相手が精神系の魔術の使い手ならば、気を抜いた瞬間に掌握される。故に沈黙。下手に情報を話して事態を悪化させてしまうよりも、アルテリーナが出られるようになるまでの時間を稼ぐことを彼女は選んだ。

その様子をみた女は、「やれやれ」とでも言いたげに肩を竦め、壁に掛けられた鉄球を手にし、そして。

 

 

 

 

「答えろよ」

 

 

 

「…おぐっ⁉︎」

 

 

 

 

一切の躊躇なくリーナの腹部に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑固だなぁ、小娘。壊れるくらいならさっさと話せば良かったものを」

 

 

部屋の中には凄惨な光景が広がっていた。

様々な拷問器具が使い捨てるように血に濡れて転がっており、拘束椅子の足元にはズタボロの少女が裸同然の状態で血の海に沈んでいる。

 

——————女は「さっさと話せば良かった」などと言ったが、それはいの一番に鉄球で内臓を破壊され、呼吸さえも困難になった少女には無理な話だ。むしろこの状態で息があることが不思議だと言えるだろう。

 

当の少女は既に瀕死。目からは生気が失せ、小声でブツブツと何かを呟いている。四肢は裂かれ骨は砕かれ、切り開かれた腹部からはぐちゃぐちゃに潰れた臓器らしきものや骨と思しき破片がはみ出ており、そこにはかつての美しい『リーナ=レーダス』の姿はどこにもなかった。

 

 

——————ああ、ゾクゾクする。

 

女は、異常者だった。「かつて美しかったもの」が破壊されて変わり果てた姿を見るのが趣味であり、その破壊の過程を楽しむことが生き甲斐。彼女にとって、魔術も人も、さらには自分自身すらも己が欲求を満たす為の道具に過ぎない。結局のところ、世間一般の外道魔術師達に倣って侵入者を捕らえるような真似をして情報を吐かせようとしたのも、単なる気まぐれでしかなかった。

 

 

「…ふむ、少しやり過ぎたか。あまりにも良い声で鳴くものだから手が止まらなくなってしまった」

 

苦痛を堪えきれずに漏れる悲鳴も、苦悶に歪むその表情も、元々備えていた美しい容姿も一級品。これ以上の逸材はなかなか手に入らない。足元に広がった、少女から流れ出た液体で靴が汚れるのも構わず、寄り添うようにして女は少女に近づく。

 

 

「………けて…」

 

「…ふむ?」

 

近づくと、少女の呟き声が聞こえた。聞き取ろうと、倒れた少女の口元に耳を近づける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…たす、けて、……にいさま………たすけて」

 

 

 

 

 

 

少女の嘆願。己が目的も思想も忘れ、ただただ救済を求める哀れな姿。

 

 

 

 

 

 

「—————あは」

 

 

それを見て、女は。

「あは、アハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ‼︎」

 

今までにないくらいの興奮と喜悦を覚えた。

 

「そうか、そうか!兄がいるのか!壊れてなお縋るということは、余程愛してるんだろうな⁉︎」

 

人は極限状態になると、自分の『芯』にしがみつくようになる。絶望的な戦いに身を投じた戦士が愛しい恋人を想って奇跡の生還を果たす物語など、まさしくその象徴。愛、依存、闘争心、プライド。その『芯』はその人間の人格と積み重ねてきた経験から成り、同時にあらゆる局面における行動の優先順位を決定する基準になり得る。

 

 

 

——————それを消し去り、真の絶望を味あわせた時、この壊れた娘はどのような反応をしてくれるのか。

 

——————想像するだけで、たまらない。

 

 

 

「あは、ならばお前の目の前でその兄を殺してやろう。生きるための『芯』を崩し、苦痛と恥辱の限りを刻み込み、私以外の何もかもが目に入らないようにしてやるっ‼︎」

 

 

———————この愛しい玩具を他の誰にも渡してなるものか。

 

そうと決まれば、早速行動だ。何はともあれ、まずは治療。この姿のままにしておきたいのは山々だが、流石に放置しては死んでしまう。死なない程度までに傷を癒し、また後で壊して楽しむとしよう。

 

治療のため、()()()()()()()()()()()()()()()()。そうしないと、()()()()()()()()()からだ。

 

 

 

 

 

 

———————それが、いけなかった。

 

誰が想像できるだろうか。この状態になってなお、この少女に抵抗する力があるなど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かはっ?」

 

女の力の抜けたわずかな悲鳴。自分の身に何が起こったのか、まるで理解できない。

女の視界に入るのは、自分の胸を貫通する少女の腕。

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ね」

 

その一言を聞くと同時に、女は呆気なく絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……がほっ、げほっ、げぇ……」

 

喉の奥からせり上がってくる鮮血が止まらない。これはまずい、と天使(アルテリーナ)は焦った。

死んでも【天の福音】で蘇るだろうが、致命傷になり得る傷があまりにも多い為、魔力が足りるのかが不明だ。魂を侵食してしまうリスクを承知で天使の力を使い、付けられた傷を痕跡すら残さず『消した』。

露出した臓器は時間が巻き戻るかのように本来の形を取り戻した後に腹の中に収まり、切り開かれた傷も消えていく。砕けた骨も、ズタズタにされた筋肉も元の姿を取り戻す。

 

 

「……くぅ…」

 

身体を動かすと、あまりの激痛に呻き声が漏れた。全ての傷を癒しはしたが、それを神経が認識出来ていない。幻痛を堪え、無理やり立ち上がった。

 

足元には、散々この娘(リーナ)を痛めつけ、辱めた忌まわしい女の遺体が転がっている。

 

 

「……ゴミめ」

 

感情のままに遺体を思い切り蹴り飛ばした。軽々と飛んだそれは壁に叩きつけられ、衝撃で壁の道具が床に散乱する。

 

 

天使は止まらない。

 

遺体の側まで歩み寄り、その頭を踏みつける。

 

 

「……消えろ、消えろ、消えろっ!この子にこんな真似をして、綺麗に死ねると思うな‼︎」

 

ガンガンと何度も頭を踏みつけ、8回目で頭蓋が砕けた。頭に詰まっていたものが『びちゃり』と弾けるのを見て、少しだけ溜飲を下げる。

 

そう、少しだけ。

 

 

(わたしの声が聞こえますか、リーナ?)

 

(…………)

 

返事はなく、守るべき娘は壊れたまま、心を閉ざしている。もはや何を言っても聞こえはしないだろう。

 

 

「あとはわたしがやっておきますし、忌まわしい記憶は全て封じて見られないようにしてあげます。今は安心してお休みなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんなの、これ?」

 

 

遠見の魔術で覗いていたイヴは、理解不能の事態を目の当たりにして震えていた。

まずは、部屋の前に仕掛けられていたトラップ。あのトラップで一度、リーナは死亡した。具体的には、ギロチンをかわした直後に背後の壁から飛び出した刃に首を刎ねられて即死した筈だった。

 

 

——————しかしその後、まるで時間が遡るかのように頭部が身体に戻り、蘇生した。

 

その時イヴは、驚きよりも安堵で胸中を満たした。しかしそこから、地獄のような光景を目にする事になる。

今回のターゲットである屋敷の主の女がリーナを拘束し、その後長時間に及ぶ虐待を行った。

 

傷ついていく体。目を覆いたくなるような拷問。美しい肌は裂かれ、血が飛び散り、女は歓喜し、少女が悲鳴を上げる。凶行はそれにとどまらず、屋敷の主人はナイフで彼女の腕の皮膚を剥いた後、白い骨がはっきりと見えるようにしてから金槌で叩き砕いた。

 

—————それからのことは、イヴはよく覚えていない。

 

あまりの衝撃に呆けてしまい、気がついたら髪を真っ白に染めたリーナが相手の頭を踏み砕いていた。その姿には、傷一つない。

 

もうどれが夢で何が現実なのか、イヴには判断が出来なくなっていた。しかし、分かったことが一つだけ。

 

 

 

—————彼女は死なない。

 

 

リーナが味わった苦痛から目をそらし、イヴはその事実を噛みしめる。彼女がリーナを使い潰すように決意するのに、さほど時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 




リーナさん、ごめんなさい。別にあなたに恨みがあるわけじゃないんだ。ただ、どうしても頭の中のイメージを文章化したらこうなってしまっただけで。大丈夫、本編では幸せにする予定だから(震え声)


もしも需要があるようなら、カットした虐待シーンを書くかも。……過激なのでR18で。
アンケートを取れないのがもどかしいが、それはそれ。お気に入りの増減、感想が好評かどうかで判断する。



というかこの話、大丈夫だろうか?運営から警告されない、かな?

(追記)お気に入り数が減り、また感想がないことからこの話は不評と判断します。よって、R18は無しの方向で。
リーナの身を案じ、悲しんでくれる心優しい読者さんが多くて嬉しい。

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