ロクでなし天才少女と禁忌教典   作:“人”

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お察しの通り、やはり行き詰まり始めた。1ヶ月以上空いちゃったよ……。
原作最新刊ではこの作品で書いたことと矛盾する内容が登場したが……スルーしよっと。このまま突っ走る!




逃走

……どうして、こうなった。

 

順調に進んでいたはずの魔術競技祭。ルミアが精神防御の競技で優勝し、確実に総合優勝に向かっていた。その後のランチタイムでは、システィーナからのお裾分けを少しもらいつつ、システィーナ、ルミア、リーナの3人の会話を聞いていた。

 

 

 

———そして現在、魔術競技祭午後の部がそろそろ始まるというところで。

 

 

 

グレンは、リーナを抱きかかえつつ、ルミアと共にフェジテの街を走り回っていた。

 

「ちくしょう、しつこすぎるだろ⁉︎」

 

後ろを振り返ると、わずか20メトラ程後方には走って追ってくる王室親衛隊の面々が。白魔【フィジカル・ブースト】でグレンもルミアも加速しているにも関わらず、なかなか引き離せない。

 

「…兄様、そこの角を右に曲がった後、すぐに左に曲がって」

 

言われた通りに路地に入り込む。ここは建物が多い故に、慣れていなければ道に迷いやすい迷路のようなものだ。幼い頃からずっとフェジテで暮らしてきたリーナとグレンにとって、この街は庭のようなものだった。

 

 

『……くそっ、どこへ行った⁉︎』

 

『まだ遠くへは行っていないはずだ!手分けして探せ!』

 

そんな声が路地裏に響く。見つかるのは時間の問題だとグレンは悟った。

 

「しかし、なんでこんなことになってんだ?」

 

「それはわたしが聞きたいわ」

 

 

昼食後、競技の準備の為にシスティーナと別れたのがおよそ1時間前。まるでシスティーナがいなくなるのを見計らったかのように王室親衛隊が現れ、なぜか『大罪人』としてルミアとリーナの身柄を要求。それを拒否して目くらましを仕掛け逃走し、今に至る。

 

(…一体、何の冗談だ?女王陛下がこんな命令を出すとも思えんし……)

 

そもそも、王室親衛隊が妙に必死過ぎる。まるですぐにでも2人を捕獲しなければならないかのような雰囲気だ。

三年前、ルミアは表向き病死したことになり、王家から追放された。その理由はルミアが異能者であり、迫害される対象が王家の一員であることを知られる危険性を無視出来なかったからだ。

 

(まさか、王室親衛隊が勝手に動いている?ルミアの素性を知る一部の人間が暴走でもしてるのか?)

 

だがそうなると、今度はリーナが狙われる理由が分からない。

 

(…まさか、イヴがリーナを連れ戻そうと何らかの手を打った?)

 

そう思いつつ、いくら何でもそれはあり得ない、とグレンはその可能性を否定した。

 

(いくら特務分室の室長といえど、王室親衛隊を動かせる程の権力はねえ。それに奴なら、もっと確実かつ逃げ場のない手段を取ってくるはずだ…)

 

だが、だとしたら何故リーナが狙われるのか。本当に理由が分からない。まさか()()()()()()()()()()()()()()

 

リーナの素性は本人すら知らない。否、覚えていないと言うべきか。彼女の正体を知るのは自分とセリカのみ———。

 

「って、なんだ。最初からセリカに連絡すればいいんじゃねえか」

 

焦りすぎて冷静さを失っていたためか、そんな簡単な事も思いつかなかった。セリカならば女王陛下に進言して、この訳のわからない逃走劇を終わらせる事もできるだろう。善は急げ。見つかる前に事を済ませたい。手首の魔導器で通信魔術を起動し、セリカと連絡を取る。

 

………だが。

 

『すまない。私は何もできない』

 

「…は?」

 

協力を要請したグレンに対するセリカの返答は否だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セリカの役立たず宣言を、リーナを介して白い天使は聞いていた。

 

「正直、がっかりです。リーナの身の回りで最も強いはずのセリカでさえ手も足も出ないとは。それとも、ここは敵の周到さを評価するべきでしょうか?」

 

アルテリーナは、リーナ達の置かれた状況と、通信魔導器によるグレンとセリカの会話の内容から、女王陛下あるいは王室の重要人物の誰かが人質に取られている事を把握している。セリカが頑なに情報を漏らそうとしないのも、ルミアやリーナを必死に襲いかかってくる王室親衛隊の件もそれで辻褄が合ってしまうのだ。

 

ーーーそしてその黒幕は、高い確率で天の智慧研究会だ。そうでなければ、リーナが狙われる説明がつかない。

 

リーナの正確な情報は、アルテリーナ以外誰も知らない。グレンやセリカが把握しているのは、まだその一端に過ぎないのだ。ならば、以前学院で天の智慧研究会のメンバーが起こした事件の折に相手に知られたと考えるのが自然だろう。魔術を使えば遠距離から監視・盗聴する事も可能だ。おそらく敵の狙いはリーナの捕獲。事件の際に知られたならば彼女の不死性は向こうも意識しているからだ。

 

「ですが、みすみすこの娘を引き渡すわけにはいきません。そうするくらいならこの国を滅ぼした方がまだマシです」

 

 

実際の話。

別に何度リーナが死のうが、天使の力に彼女が呑まれようが実は大して問題はない。天使の力に呑まれようと、今の自我を獲得したリーナならば人格を損なう事はあり得ないからだ。否、あり得ないと信じている。故に短期的に見れば、リーナを犠牲にするイヴのあの作戦は合理的であったとさえ言える。

この場面を最低限の犠牲で済ませる策は、間違いなくリーナを囮にする事だ。彼女を囮にすれば時間を多く稼げる上に、敵の数もそれなりに減らせる。加減を誤れば人死にが出る恐れもあるが、アルテリーナにとってそれは些事だった。

 

「しかし、それではリーナの尊厳を無視してしまう」

 

グレンは彼女に危険が及ぶ事を決して許しはしないだろう。たとえ最終的には生き残るとしても、その過程でリーナが味わう苦痛を彼は絶対に無視しない。そうなるくらいなら、グレンは自分自身を囮にする。……たとえその選択が、3人全員が助かる可能性の低いものだったとしても。

 

———では、どうする?

 

どんな状況であれリーナを見捨てないのは彼の美徳。しかし、かと言ってリーナの為に他者を犠牲にする覚悟はない。否、学院の講師になってからはそもそも『犠牲にする』という思想そのものを捨てつつあるように思える。人間としては立派だが、リーナの『守護者』としては面白くない。リーナと同じく標的になっているルミアは言わずもがな。

 

————付け入る隙があるとすれば、『どのように人質を取られたか』の一点に尽きる。

 

「物理的に拘束されているだけ、のはずはないですね。何らかの魔術が仕掛けられているはず。とはいえ流石にリーナの『天罰』クラスの理不尽なトラップは無い、と考えていいでしょう。現代の人間にできることはたかが知れている。相手が現代人であると仮定するならば、……可能性として挙げられるのは条件起動式の呪殺具くらいでしょうか?」

 

これは推測でしかない。そもそも、この考え全てが的外れの可能性もある。

 

「呪殺具などの現代の魔術によるトラップならば、グレンがいるだけで事足りる。一応セリカの通信の内容とも辻褄は合いますね」

 

彼女は傍観者。暇潰しに推理紛いの事をしてみたはいいものの、それを彼らに教えることはない。『リーナの安定を望む』というアルテリーナの特性上、リーナの身に危険が及ぼうとも、大抵の場合は必要最低限の行動しかしないのが彼女だ。

 

————動くとすればそれは、手遅れ一歩手前になった時か。

 

思い出すのは怪物の群れ。人を喰らい、汚染し、犯して同族にする汚らわしい異形ども。

 

————あの光景だけは実現させまいと、彼女は心に誓っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたしが囮になれば、うまく逃げられるわ」

 

「そんな、ダメだよ!だったら私が囮に…」

 

「そもそもお前、ロクに走れないだろ。そんなんでどうやって囮をするんだ?」

 

「………えーと、無理矢理?」

 

セリカに助けを求められない状況で、不毛な話し合いが進む。セリカによれば、グレンがセリカと女王陛下の前に出た時点で問題は解決するらしいが、それそのものの難易度が非常に高い。どう考えてもリーナが足手まといになっているのが現状だ。

 

「そもそも、セリカも兄様も過保護なのよ。無理矢理にでも運動しなくちゃいつまで経っても動けるようになんてならないし、実際リハビリが手緩かったせいで今の危機を脱却できないわけで」

 

「それは偏り過ぎだろ」

 

リーナの言いたいことはわかる。要するに、『もっとキツめのリハビリをしていれば回復も早くなって、今頃走り回っても問題なかった』とでも言いたいのだろう。しかし。

 

(……お前、分かってるのか?あれでも一応、生と死の境目をフラフラ歩いているような状態だったんだぞ?)

 

リーナは『手緩い』と評したが、それは単に苦痛や疲労が正常に感知できないくらいにボロボロだったというだけの話だ。普通の事故や負傷ではあり得ない症状が現れている。『完全な死からの復活』は不安定で、未だ解明されていない謎も多い。そのような状態で、一体誰が無茶なリハビリをさせられると思うのか。

 

 

「そもそもこうなったのはお前があの事件で無茶をしたからで……」

 

「いたぞ!こっちだ!」

 

「げ……」

 

時間切れ(タイムアップ)。見つかった。

退路を確保しようと、追っ手とは逆の方向を見る。———敵影はなし。

 

「走るぞ!」

 

「は、はい!」

 

グレンとルミアは再び【フィジカル・ブースト】で加速、と同時に。

 

「《目を瞑って》!」

 

グレンとルミアへの指示をそのまま呪文に即興改変し、リーナの黒魔【フラッシュ・ライト】が発動。追っ手の視界を一時的に奪うことに成功した。

 

 




1ヶ月間ダラダラ書いた為、もしかしたらこの作品内ですら矛盾があるかもしれない……。が、それはそれとして。


最新刊でも、やはりジャティスが持ってった。戦闘力を『強さ』と認めたりしていなかったり、どこか憎めないところがあるよね!

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