ロクでなし天才少女と禁忌教典   作:“人”

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この小説は捏造設定、オリジナル設定盛り盛りです。どうかご了承を。

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BDは残念ながら追加シーンはなかった。その代わりに特典小説は面白かった。


記憶の穴

「……すまんな。本当ならずっと一緒にいてやりたいんだが」

 

「心配性ね。もう普通に歩けるんだし、大丈夫なのに」

 

魔術競技祭当日。

セリカは競技祭中、貴賓席で女王陛下と相席することになっている。いくらセリカといえど、この国の最高権力者の誘いを断るわけにはいかなかった。

 

「何かあったらすぐに呼べよ。飛んで帰るから」

 

「流石にセリカの【私の世界】を使う場面は出てこないと思うけど」

 

セリカの固有魔術、【私の世界】。先の事件でリーナが【天の福音】を使用した際、セリカがごく僅かな時間で学院に来ることができたトリックの正体だ。時間に干渉するタイプの魔術の中で唯一、魔導第二法則に捕らわれず、止まった時間の中を動くことのできる、セリカの切り札。セリカはこの魔術を惜しみなく使い、リーナの元へ駆けつけたのだった。

 

「じゃあ、行ってくる」と言い残し、セリカは屋敷を後にする。部屋に残ったのは、リーナ1人。

 

(……さて)

 

これからのことを考える。

身体機能はほぼ回復。傷はまだ残っているが、大したものではない。おそらく一、二ヶ月ほど経てば傷跡も綺麗サッパリ無くなるはずだ。そして今日は魔術競技祭であると同時に、久しぶりの登校日。病み上がりで、今日は授業がないこともあって何時に行ってもいい事にはなっているが、なるべく早く行ってシスティーナやルミアと話したいというのがリーナの本音だった。

 

「……ッ!」

 

ベッドから降りて立ち上がろうとした時に、腹部に鋭い痛みが走った。巻いてある包帯に血が滲んだ様子もないので、傷が開いたわけではないだろう。痛みを無視してそのまま立つ。

 

寝巻きを脱ぎ、久しぶりの制服に身を包んだ。

 

(………本当、この制服のデザイン、もう少しなんとかならなかったのかしら?)

 

無駄に肌の露出の多い装い。どう考えても、この制服をデザインした人間は女好きの変態に違いない、とリーナは思った。成長期に外気に肌を晒す事によって外界のマナを取り入れ、内部マナを活性化させることで成長を促す———とこのデザインの理由について聞いたことがあるが、納得がいかない。絶対にこじつけだ、とリーナは考えている。

そもそも、そんなメリットよりもデメリットの方が明らかに大きい。グレン以外の異性に無意味に肌を見られることになるし、今のように包帯を巻いた状態なら無駄に注目を集めてしまうだろう。

 

これからどんな目で見られるのかと珍しく頭を悩ませながら、セリカの作ってくれた朝食を食べる。メニューは、パンとサラダ、そして卵の炒め物。リーナの味覚に合わせ、味付けは薄めになっていた。

以前よりも長い時間を掛けて食事を終え、食器を片付ける。自分の行動一つ一つが遅いことと、以前よりも疲れやすくなったことで、体力や筋力がかなり落ちていることを実感しつつ、登校の準備を始め、

 

 

 

————そしてそんな時、ピピピッ、と音がした。

 

 

 

「………?」

 

その音の発信源は、久しく使っていなかった通学鞄の中。漁ってみると、見覚えのない通信用の魔導器。明らかに、グレンやセリカと連絡を取る為に使っているものとは違うものだ。

 

 

(………どういうことかしら?)

 

 

別の人の物であるとは考えにくい。学院では自分の鞄は基本的に手の届く範囲か、誰も手を出せないロッカーに保管している。故に、誰かが自分の鞄と間違えて入れてしまった、という可能性は低い。

 

リーナの視線の先には、未だに光を明滅させる魔導器の宝石。どうやら相手はまだ、この魔導器の持ち主が出るのを待っているようだ。

 

警戒心よりも好奇心が勝り、その通信に出る。聞こえてきたのは、若い女の声。聞き覚えのない声だ。

 

『ようやく出たわね。待ちくたびれたわよ、リーナ』

 

「……あなたは誰?どうしてわたしの名前を知っているの?」

 

その問いに、相手は短くため息を吐いた。

 

『イヴ=イグナイト。この名前に聞き覚えはないかしら?』

 

「ないわ。……それが貴女の名前?」

 

その答えに、相手の女はがっかりしたような口調で話す。

 

『……記憶を封じたのね、アルテリーナ(・・・・・・)

 

ーーーアルテリーナ。

 

(……何?)

 

知っているはずの名前。グレンやセリカと同等、否それ以上に近しいはずの、その名前。

 

思い出せない。ーーーそれは果たして、誰の名前だったのか。

頭が痛い。

 

イヴと名乗った女は続ける。

 

『無意味なことよ。どうせ侵蝕は止まらない。……ねえ、聞いているのでしょう、天使様?』

 

侵蝕。————そう、侵蝕。確か自分は、その事について散々『彼女』に警告されなかったか?

 

 

(………『彼女』?)

 

 

そう、確か彼女は、天使だったはずだ。

 

————ふと、脳裏に浮かぶのは、白い髪と赤い瞳を持つ、超常の少女の姿。

 

そのイメージを最後に、リーナの意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余計な真似をしてくれましたね。………そんなに死にたいのですか?」

 

『……その口調、アルテリーナかしら?やっぱり聞いていたのね』

 

リーナの意識を内側から(・・・・)強制的に封じ、表に出た少女の殺気に全く怯む事なく、イヴは続ける。

 

『どうしてあの子の記憶を封印したのかしら?おかげでこちらはとても迷惑したのよ?』

 

「貴様の都合など知った事ではありません。わたしはこの子の為にのみ行動する。……分かっているはずです。わたしがリーナの記憶を消した理由など」

 

『まさか、あなたのことを覚えているだけで(・・・・・・・・・・・・・・・)侵蝕が進むから、とでも言うつもりかしら?』

 

「わたしのことを覚えた状態で生活すれば、おそらくあと半年も保たない。そう判断しての行動だったのに、貴様はまたしても邪魔をした。………リーナを幾度も死なせたことといい、楽には殺しませんよ?」

 

通信器越しに殺気を向ける。しかし、イヴはクスクスと笑う。ーーー嗤う。

 

『それはただの八つ当たりにしかならないわ。リーナが任務で何度も死ぬ羽目になったのは彼女自身の力不足によるものでしょう?何度も蘇生した事によって侵蝕が進んだからといって、私に当たらないで欲しいわね。そもそも、』

 

『————あなたが記憶ごと戦闘経験を消したりしなければ、先の事件でリーナを死なせる事もなかった。違うかしら?』

 

その言葉は、白い少女の怒りに火をつけた。

 

「それを言うなら、そもそも貴様がリーナを宮廷魔導士団に組み込まなければこのような事態にはならなかった。『福音』だって、数回なら侵蝕は進まないはずだったのに!」

 

アルテリーナと呼ばれた『天使』は激昂する。その声には、あるいは何もできない自分への怒りも含まれていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

一年前、セラが死んだ後にイヴ=イグナイトはリーナ=レーダスに接触した。『殉職した宮廷魔導士の死亡状況を調べている少女がいる』、という噂を聞きつけ、出会ったのが彼女だった。

 

当然、事前にリーナについての情報は集めていた。学院に入学する前のデータは全く集まらなかったものの、学院での評価、講師たちの評判、生徒から見た彼女の印象など、集められる情報は全て揃えた。

 

そして、事前に情報を集めたにも関わらず、初対面で戦闘を仕掛けた際にイヴは驚愕した。

 

———魔術に関して、リーナ=レーダスは天才だった。それこそ、一対一で、正面から戦えばまず勝てない、と思わせるほどに。

 

『これは少し戦闘経験を積ませれば最強の即戦力になる』。イヴがそう考えるのは当然の帰結だろう。

 

———だが一方で、学生の身に過ぎないリーナを無理矢理宮廷魔導士にするのは不可能だ。

 

 

そこで、イヴは『餌』を用意した。

調査によると、彼女は授業中、兄の板書、台詞、仕草その全てを記録し、網羅しているのだという。正直に言って意味不明だったが、リーナが異常なまでにグレンに執着しているのは紛れも無い事実。よって、彼女の欲しがりそうな餌は自ずと見えてくる。

 

 

『もしも協力してくれたら、特務分室に所属していた時のグレンの記録を譲ってあげるわ。……そうね、任務一回につき一月分でどうかしら?』

 

ここでいう記録とは、グレンが始末した外道魔術師のリスト、その日何をしたかなどの報告書も含めている。イヴの申し出に、それまで乗り気でなかったリーナの顔色が変わった。

 

———それから、イヴの綱渡りの危険な生活が始まった。

 

なにせ、不足した戦力を補充するために学生を使おうというのだ。まさか自分が学生を餌で釣ったなどと知れたら、社会的に破滅する。そしてリーナに任せるのは危険度の高い任務ばかり。いくら無理矢理に、ではなく『本人から望んだ』形に収めたとはいえ、バレればイヴの未来は無い。

 

それでもなおリーナを訓練し、幾度も危険な任務に行かせたのは『人手がどうしても足りないから』だ。宮廷魔導士団の中でも特に魔術絡みの危険な任務を請け負う特務分室は、常に死の危険が付きまとう。当然、就職先の進路として選ぶ者は少なく、さらに任務で命を落とす者も多い。特務分室のメンバーは常に空席だらけだった。

 

———そんな時に、リーナ=レーダスという極上の駒がやってきた。

 

魔術の腕だけならば間違いなく特務分室で1、2を争い、戦闘経験を積めば間違いなくアルベルトに匹敵するエースとなり得る。将来正式に特務分室のメンバーになり得る事もあって、彼女をこのまま逃すわけにはいかなかった。

 

 

案の定、彼女は非常に優秀だった。家族であるグレンやセリカに見つかる事なくこっそり家を抜け出して訓練に参加し、帝国軍において『七星剣』と呼ばれる絶技をあっさりと習得。わずか3日でイヴが『任務に行かせても問題ない』と判断できるほどに成長したのだ。

 

———そして、その初任務でリーナはあっさりと命を落とした。

 

リーナが油断していたわけではない。想定よりも、敵の外道魔術師の実力が高く、また拠点に張り巡らされていた罠が非常に悪辣だったというだけだ。イヴにとって嬉しい誤算は、『リーナは殺しても生き返る』ことだった。

 

————遠見の魔術でその様子を見ていたイヴは、内心ほくそ笑んだ。

 

死んでも生き返るというのなら、任務の難易度や危険度を考える必要はなくなる。彼女ならば、アルベルトやリィエル、バーナードでも危険だと言われる任務でも、成功か失敗かを度外視すれば生きて帰ってくることはできるだろう。

 

———つまりは、使い捨て前提の偵察要員のような真似もできる、ということだ。

 

その非情な———アルベルトに言わせれば下衆な———イヴの考えによって、リーナは地獄のような任務を強いられることになった。

 

 


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