ロクでなし天才少女と禁忌教典   作:“人”

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明日はとうとうBD発売日!特典小説に期待!……飛ばした分の追加シーン、あるといいな。



ロクでなし魔術講師の本気宣言

「……まさか、こんな短時間で解くとはな」

 

「……?だって簡単じゃない」

 

セリカが考え込んだ施錠術式をさらりと解読し、解錠呪文を割り出したリーナ。

 

「…………」

 

「たかが小テストだもの。これくらいなら解けるわ」

 

「………うちの娘、すごい」

 

セリカとリーナの導いた正解の呪文は同じ。つまり、リーナが間違えた、ということはあり得ない。

 

ーーーリーナ=レーダスは天才である。それは魔術の才能だけでなく、単純な思考能力においても適用されるというのか。十数年しか生きていない少女が、こと一分野とはいえ400年以上生きている魔術師を上回ったという事実はそれだけ衝撃的なことだ。

 

 

 

 

 

「……あら?他の生徒はともかく、システィーナまで手こずっているわね。難しく考え過ぎなんじゃないかしら?」

 

遠見の魔術で教室の様子を窺っていたリーナがボソリと呟く。

 

—————グレンの意地の悪い術式の書き方によって、その『難しく考えないこと』が既に難しいのだが、彼女はそれに気づかない。

 

 

一応補足しておくなら、リーナが解けた理由は何も『彼女の頭が良いから』という理由だけではない。無論、良いことは良いのだが、セリカが勘違いしているような、とんでもない明晰さなどリーナは持っていないのだ。

 

—————では、何故リーナはセリカでさえ手こずった問題を簡単に解けたのか?

 

その答えはただ一つ。『グレンが作ったから』に他ならない。

そもそも、幼い頃からリーナはグレンに魔術を教わっていた。時に意地の悪い問題を出されたこともある。その経験の積み重ねや、日頃の授業におけるグレンの観察によって、彼女はグレンの問題の出し方、傾向を把握しているため、『この問題はグレンがどんな意図で作成したのか』『どんな解き方がもっとも効率的か』を瞬時に理解できるのだ。

 

 

————それは言い換えれば、『とある一面において、リーナはグレンを誰よりも理解している』とも言える。

グレンのロクでなしな部分————例えば、こっそりギャンブルに行ったせいで今月がピンチなことももちろんリーナは知っている。そしてそれを必死に隠そうとしていることも。知った上で、何も言わない。グレンが危惧しているような、『兄離れ』は起こらないのだ、絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほいほーい、それでは先週やった小テストの結果発表をしまーす」

 

「うわあぁぁ……」と、半ば嘆きに近い溜息が教室中に広がる。無理もない。グレンが「本気を出す」宣言をして行った抜き打ちの小テストは、クラスのほぼ全員が手も足も出なかったのだから。

 

「じゃじゃ〜ん!なんと、めでたい事に白猫は今回初めての満点です。おめでと〜う」

 

そんな中、満点をとった優等生が1人。誰であろう、システィーナ=フィーベルである。

 

「ま、まあ、今回は割と基礎的でしたし?このくらい当然です!」

 

「よかったね、システィ」

 

言葉に反して嬉しそうなシスティーナ。それをルミアは微笑ましそうに見つめている。

 

「…そしてなんと二位は3人。ルミアとウェンディ、そしてギイブル。同点だ」

 

「このくらい当然ですわ!」

 

「……フン」

 

ウェンディはどこか誇らしそうに、逆にギイブルは心なしか少し悔しそうにしている。ウェンディからすれば、以前痛い目を見た小テストを克服すべく努力した結果が出た形であり、ギイブルからすればシスティーナを追い抜く目標を達成できなかった。同じ点数であっても、目的が違う。態度の差はこれに起因するものだ。

別に、ウェンディはシスティーナをライバル視していないわけではない。「いつか絶対に追い抜いてやる」と思っている。しかし、それはまずいつもの3人が高得点をとる小テストで安定して点数が取れるくらいになってからだ。ウェンディにとって、そう思ってしまうくらいには以前の小テストの結果は酷かった。

 

 

 

「あ、あと言い忘れてたが、今回の小テストは成績に反映するから、そのつもりで」

 

 

「「「………な」」」

 

先程までの空気が、凍る。凍りつく。

 

 

 

 

 

「「「なにぃぃィィーーーーーーーッ⁉︎」」」

 

 

そして、一気に爆発した。

 

 

「おい、嘘だろ⁉︎嘘だと言ってくれよ、先生⁉︎」

 

「……これ、単位落ちたんじゃ……」

 

「ていうか良いのか、先生!これが成績に反映されるのだとしたら、リーナちゃんはどうするんだっ!」

 

ガヤガヤ騒ぐ男子生徒たち。リーナを引き合いに出してはいるが、どう見ても自分の成績保持の為に言っている。

 

「…良いんだよ、リーナは。あいつどうせ単位取るし。何週間休もうがテスト欠席だろうが、単位あげるし」

 

「それは贔屓だっ!」

 

「ええい、喧しい!文句あるならトップ取れやあっ!」

 

実際、リーナは問題ない。かなり危ないのは確かだが、先日の事件の解決に貢献した功績と、それによる負傷を癒すための休養であることが考慮され、彼女には特別措置が取られている。前期の期末試験で一定以上の点数が取れれば、リーナは全教科問題なしだ。

 

————もっとも、その措置もリーナが優秀であればこそだ。仮に並の生徒が同じ活躍をしたとしても、同じ待遇を受けられたとは考えにくい。そういう意味では、確かにリーナは贔屓されている、と言えるかもしれない。

 

 

 

余談だが、リーナの傷は大分良くなってきている。この調子なら、遅くとも来週には登校できるだろう。

 

————当然、今後も身体に負担を掛けるのは厳禁であるため、近々開催される魔術競技祭は欠席だが。

 

 

「……そういや、種目決めどうすっかなあ?」

 

グレンの呟きに、クラスメイト達が反応する。

 

「先生、リーナは?」

 

「…今回は無理だな。あいつ治癒魔術が効きにくい体質のせいで、まだ怪我が完治してねえんだ。学院に来られるようになってもしばらくの間、激しい運動は禁止だ」

 

「…うわあ、マジか」

 

「本当に大丈夫かよ、リーナちゃん」

 

「………心配ですが、アルフォネア教授の屋敷に押しかけるわけにもいきませんし…」

 

「主力のリーナちゃんがいないなんて…」

 

「今年は優勝を逃すかな」

口々に言う生徒達。

年に3回ある魔術競技祭。一回ごとに競技を行う学年は異なり、今回は二年次生の部だ。去年はとある一種目を除いた全ての競技にリーナは出場し、そして参加した全ての競技で優勝した。つまり、前回の魔術競技祭の主力はリーナであり、彼女が抜けたことで得点が大幅に下がるであろうことは想像に難くない。

 

「みんな、何を言ってるの!去年は毎回リーナに頼り切りだったんだから、今年は彼女の代わりに私達みんなで優勝するべきでしょ⁉︎」

 

「情けなくないの⁉︎」と声を上げるシスティーナ。システィーナからしてみれば、去年の魔術競技祭でリーナばかりに負担を掛けていたという事実がそもそもおかしなことであり、今年こそクラス全員の力で優勝するべきだと思っていた。

 

だが、システィーナと同じ考えの人間はこのクラスでは少数派だ。例年、各種目において、クラスの成績優秀者が出場するのが恒例。優勝を狙うのなら、成績下位の者を出場させるわけがない。

 

 

(……まあ、なんでもいいか。種目決めなんて、どうでも————)

 

 

 

 

 

『ねえセリカ、今年の魔術競技祭は?』

 

『駄目に決まってるだろ?大人しくしてな?』

 

『でも、うちのクラス大丈夫かしら?わたしがいないせいで優勝できないのは嫌よ』

 

『なあに、大丈夫だろ。グレンがなんとかしてくれるさ。お前のお兄ちゃんなんだからな!』

 

『そうよね。兄様がいるなら、わたしも安心して休養できるというものだわ』

 

 

片耳につけた魔導器から、そんな会話が聞こえてきた。

 

 

 

……………。

 

 

 

「よーしやってやらあ‼︎よく聞け皆の者ォッ!」

 

突然のグレンの豹変に、生徒達は目を丸くした。

 

「今回の魔術競技祭、勝ちにいくぞォッ!」

 

 

 

 

 

 

 

そんな経緯で、真面目に種目決めをする気になったグレン。普段の授業から分析した生徒達の特性に合わせ、あっさりと種目を決めていく。幸か不幸か、グレンは『全員が参加しなくてはならない』と思っている。リーナが全種目出場した事はもちろん知っているはずだが、張り切り過ぎているあまり完全に失念していた。

それに突っ込む生徒はいない。システィーナの『今年はみんなで優勝すべき』というセリフをグレンが汲んだのだと、生徒達は誤解していた。

 

グレンのやる気はマックスである。それこそ、生徒一人一人の力量を把握し、一対一の個別指導をするくらいに。

 

そして、いざ練習をしようと校庭に行ったところで、トラブルが起きた。

 

 

「ここは俺達1組の練習場所だっ!」

 

「2組だって練習すんだよっ!」

 

………場所取りで他のクラスと喧嘩。いい歳をして何をやっているのか。「子供かお前らは」と思ったが、グレンは口には出さなかった。

 

 

その後なんとか生徒達を仲裁し、『2組の練習人数が多いせいで練習場所が狭いのだ』という結論に至ったグレンは、当初の予定の半分のスペースを1組に譲ることを提案した。そもそも1組も練習さえできればよかったのか、あっさりと了承。何もかもうまくいき、万々歳————と、なるはずだった。

 

————だが、そこで口を挿んだのが1組の担任、ハーレイ=アストレイである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ちーすっ。ユーレイ先輩」

 

「ハーレイ‼︎ハーレイ=アストレイだっ!相変わらず私の名前を覚える気がないな、貴様は!……まあ良い。早く場所を空けろ。今年は私のクラスが優勝するのだからな」

 

「わー、熱血っすねー先輩(棒)。頑張って下さい!……ところで、場所空けるのってあの木の辺りまでで良いっすかね?」

 

相変わらず、グレンの応対は適当だ。果たして、その態度に腹を立てたのか。ハーレイは無茶苦茶なことを言い始めた。

 

「何を言っている。2組はこの中庭から出ていけ、と言っているのだよ」

 

「……いや、いくらなんでもそれは横暴ってもんでしょ」

 

『何言ってんだこいつ』とでも言いたそうな、呆れた表情を浮かべるグレン。

 

「何が横暴なものか。確かに、勝つ気のあるクラスならば、公平に練習場所を分ける事も考えよう。だが、貴様は勝つ気などないではないか。……役に立たん成績下位者を出場させ、リーナ=レーダスやシスティーナ=フィーベルなどの成績上位者を遊ばせているくらいなのだからな!」

 

(本当に何言ってんだこいつ……)

 

 

そう思い、ふと思い返す。………そういえば去年、リーナは全種目に出ていたな、と。

 

(あれ?ちょっと待てよ。……これもしかして、生徒使いまわしていいんじゃね?)

 

だが、今更撤回などできない。するつもりもない。仮にも自分が担任をしているクラスの生徒を「成績下位者」呼ばわりされて大人しく黙っているほど、グレンは腑抜けていなかった。

 

 

————そこへ、ハーレイがさらなる燃料を投下。

 

 

「そもそも、リーナ=レーダスは本当に療養しているのか?とうの昔に身体は治っているのに、サボっているわけではないだろうな?」

 

グレンは切れた。それこそ、今すぐ手袋を投げつけて決闘を申し込むと同時に【愚者の世界】で魔術を封じて格闘戦でフルボッコにしたいくらいに。

 

だが、すぐに思い直す。ここで暴力沙汰の問題を起こせば、良くて謹慎、普通に考えてクビだ。『自分が講師を辞めさせられてリーナが受けるショックと中傷』を無視するほど、彼は子供ではなかった。

 

 

「……半年分だ」

 

「は?」

 

「『俺のクラスが優勝する』に、給料半年分だ。この賭け、乗ります?先輩」

 

生徒達の間に衝撃が走る。いくらなんでも、それはやり過ぎだ、と。

 

 

ハーレイは考える。

 

(……給料半年分なぞ、いくらなんでもリスクが高過ぎる。負ける気はせんが、わざわざ付き合ってやる道理などない………)

 

ふと、視線を感じて振り返ると、そこには期待に満ちた眼差しでハーレイを見つめる1組の生徒達の姿が。

 

(…いや、駄目だダメだ!戸惑うなハーレイ=アストレイ。この賭けに乗るわけには……)

 

「あっれー、もしかしてせんぱぁい、自信ないんですかー?まさかとは思いますけど、まさかお金ないとかー?第五階梯なのにー?」

 

生徒達の期待の眼差しに揺らいだ決意が、グレンの煽りで決壊する。

 

「いいだろう!私も賭けてやる!給料半年分だ‼︎」

 

 




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