ロクでなし天才少女と禁忌教典   作:“人”

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オリキャラを新たに加えてしまった。……いいよね?

評価ありがとうございます!おかげさまで、調整平均7.77というラッキーな数字に!


そして感想を下さった方。………すまない。もしかしたらこれからチートになるかもしれない。


白の天使

「………痛い」

 

「そりゃそうだろ。あんだけ傷だらけになって、どうして痛くないなんて思ったんだ?」

 

既に天の智慧研究会による事件から2週間が経とうとしていた。セリカは宣言通り、24時間つきっきりで看病してくれたし、リーナ本人もおとなしく養生していたのだが…。

 

「……なんで前よりも治りが遅いのよ。セリカがこれだけやってるっていうのに…」

 

————本来ならば即座に全ての傷が癒えるであろうセリカの治癒魔術を以ってしても、リーナの傷はなかなか治らなかった。以前なら、治癒限界を脱しさえすれば半日ほど治癒魔術を掛ければ傷跡一つ残らなかったのに、今回は1週間以上もかかっている。治癒魔術を掛けては治癒限界に達し、またしばらく様子を見る。ここ最近はそれの繰り返しだ。

 

「まあ、そう言うなよ。本当ならお前、死んでたんだぞ?これに懲りたらもう、無茶な真似はするな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もうそろそろ、限界……でしょうね』

 

天空に浮かぶ島。そこに石造りの白いテーブルに白い椅子を置き、優雅に紅茶を飲む人影があった。白い髪に赤い瞳。白のワンピースに身を包んだ少女は、その美貌に悲嘆の表情を浮かべている。

 

『【天の福音】だって万能ではありません。人のまま蘇生できる回数には限りがあるというのに、まるで不死にでもなったかのようにあなたはその魔術を行使する。ーーーどうして気付かないの?『死』に対する恐怖が麻痺してきている時点で、精神が『わたし』に侵食されつつあることに』

 

それに答える者はいない。だから、これは彼女の独り言だ。

 

————『死』。それは本来、生きる者全てにいずれ訪れるもの。死因が何であれ、肉体が死を迎える際、その魂は激しい苦痛を味わう。たとえ生き返れるのだとしても、その苦痛は避けられない。

 

かつて、初めてリーナが『死』を体験した時。彼女は精神を壊しかけた。しばらくの間は情緒不安定になり、いきなり怒り出したり、泣き出したり、寝込んだりと、大変な有様だった。この浮島も嵐に見舞われ、天から落ちるのではと危惧したほどだ。

 

—————『もう死にたくない』。最後にそれを口にしたのは、果たしていつだったか。今はもう、死の際の『不安感を限界まで煮詰めたような苦痛』も感じなくなっているのだろう。

 

 

苦痛に慣れるのではなく、感じなくなる。それは人として生きる上で、あってはならない事だった。

 

 

『これはペナルティです。あなたが無茶をすると言うのなら、わたしはあなたの回復を妨げてでも、あなたを止める』

 

————リーナの傷の治りが遅いのは、リーナの『中』にいる『彼女』の仕業だった。

 

『あと一回。あと一回『福音』が発動したら、わたしはもうおとなしくなんてしていない。……自分の軽率な行動を後悔させてあげます』

 

 

リーナと同じ顔をした白い少女の決意は、怒りと優しさに満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アルザーノ帝国魔術学院にて。

二年二組の教室では、グレンによる錬金術の解説が行われていた。

 

「…で、まあこんな感じに、この術式を使うとあら不思議!どんなに価値のない石ころでも、めちゃくちゃ本物に近い金塊のような何かに早変わりってわけだ!小遣い稼ぎに最適だぞ」

 

 

「「「おお〜〜」」」

 

「「えぇ………」」

 

感心3割、呆れ2割。そして無反応5割。このグレンの授業におけるとある錬金術に対する生徒の反応は微妙だった。何せ、興味を示しているのが3割しかいない(しかもその大部分が男子である)。『おかしいな、なんか間違ったかなー』などとグレンは思った。

 

 

「……あの、先生?」

 

「ん?なんだ、白猫?」

 

恐る恐る、システィーナが問う。

 

「…なんで最近の授業って、こんなのばっかりなんですか?」

 

そう。グレンの授業は相変わらず質が高く、非常に分かりやすいのだが、最近は割とロクでもない授業になりつつある。具体的には、やる気がなかったり、なんか本来のテーマと大して関わりのないテーマだったり、授業中に脱線したり、やる気がなかったり、やる気がなかったり。とにかくやる気がない。

 

(いや、なんとなく理由は想像できるんだけど……)

 

「なんでって言われてもな〜。リーナがいないんじゃ、ぶっちゃけ俺がきちんと授業する意味がないっていうか。やる気全然出ねえんだよなー」

 

「…いや、それは分かりますけど」

 

グレンが度を越したシスコンであるのは周知の事実である。リーナ本人は気づいていないが、リーナに告白しようとした男子生徒を不意打ちの【スリープ・サウンド】で無理矢理眠らせ、ラブレターを書こうものなら本人が受け取る前に男子生徒から奪い取り、ストーカーでもしようものなら問答無用の【ショック・ボルト】で制裁する。それが学院内で幾度か目撃され、リーナに好意を抱く者達から背中を狙われているのは有名な話だ。

 

「リーナ好き過ぎて頭の中がおかしなことになっているのは分かってますけど、もうちょっと真面目にやって下さい!……リーナに言いつけますよ?」

 

「ちょっとそれは酷くね⁉︎せめてあいつの前では良い先生でいたいという俺の願望を台無しにする気か⁉︎」

 

「じゃあ次の授業からは真面目にやって下さい」

 

グレンは知らないことだが、グレンが授業をしつつ片耳の魔導器でセリカの屋敷にいるリーナの様子を伺っている間、リーナはグレンの授業を盗聴しつつ遠見の魔術で盗み見している。つまり、リーナがいない間ロクでもない授業をしているのは本人にバレているのだ。

 

————もっとも、その事を知っている人間はこの場にはいない。システィーナの脅しは十分に有効だった。

 

「…しゃーねーな。久しぶりに本気出すか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……痛っ」

 

「せめて傷が完全に塞がるまでやめとけよ、リーナ。いくらお母さんでもそろそろ怒っちゃうぞ?」

 

「それはできないわ。兄様の授業を目と耳で事細かに捉え、記憶し、台詞と仕草を余すところなく記録する。これはわたしの生き甲斐の一つよ」

 

「…いやお前、盗聴してる途中でいきなり悶えたりするから傷に悪いだろ。……それにはっきり言って、そこまでするのは気持ち悪いを通り越して怖い」

 

「気持ち悪い⁉︎」

 

「ぶっちゃけ不気味」

 

「……いいえ、落ち着くのよリーナ。これは罠。セリカがわたしの身体を思ってわたしの趣味を取り上げようとする、愛に溢れたトラップ。兄様の行動を監、もとい見守るのはわたしの権利よ。なにもおかしなことはないわ」

 

必死に自分に言い聞かせるリーナに、セリカは一言。

 

「…何もかもがおかしいんだがな」

 

そもそも、身体の事を心配されているのが分かっているなら大人しくしていて欲しいものである。いくら当初に比べ回復してきているとはいえ、油断は厳禁。遠見の魔術程度でも使って欲しくない、というのがセリカの本音だった。

 

「というか、リーナ?騒いだらグレンにバレるんじゃないか?こっちの音もグレンに聞こえてるんだろ?」

 

「大丈夫よ。そこは抜かりないわ。……聞かれたくない時は、ダミーの音声が代わりに伝わるように改造しているから」

 

「なんという才能の無駄遣い……」

 

その技術力をもっとまともな事に使えないものか。『オーウェルと組ませたら面白そうなのにな』と、学院の面々が聞いたら発狂しそうなことをセリカは考えていた。

 

 

 

「次は小テストね。……なんだ、簡単じゃない。これなら安心して複製できるわ」

 

一体何の為にテストを複製するのか。復習などをするわけでもない。ただ、『兄の作った作品(・・)を残しておきたい』という理由だけで、彼女は小テストの問題を羊皮紙に書き写す。

 

セリカはリーナの手元を覗いた。

 

(……ほうほう。呪文の改変にマナ・バイオリズムの変動の仕方。各呪文の効果とその原理。割と基礎的だな)

 

そう、最初は思っていたのだが……。

 

(……ん?)

 

なんか、変な問題を見つけた。

 

『問15 以下の術式は、箱を施錠する施錠術式である。この鍵を解除する為の解錠呪文を割り出せ。』

 

そんな一文の下には、膨大なルーンやら数式やらが複雑に組み合わさった魔術式が。

 

(………これ、少し難しくないか?)

 

考えることおよそ1分。セリカにしてはかなり時間をかけて、ようやく正解の呪文を特定した。

別に、その術式になにか特別な方式などが用いられているわけではない。むしろ、使われている手法は教科書の応用だ。それが複雑怪奇に絡み合い、魔術の効果に関係のない無駄な部分さえも『重要な要素』であるかのように見せかける工夫がされている。これでは生徒たちは術式の本質を見破るのに苦労するだろう。見破れなければ、ミスリードされた間違いの答えが無数に生まれるだけだ。しかも、魔術式が複雑過ぎて、考えている途中で自分がどこまで辿ったのかも分からなくなる可能性がある。

このテストで試されるのは、魔術の才能というよりも、算術における短期記憶能力と、魔術式を全体的、あるいは局所的に正確に分析する能力。すなわち、単純な頭脳の明晰さ。ただ魔術を勉強した人間にはほとんど解けない、意地の悪い問題だった。

 

————どうやらグレンは、生徒に満点を取らせる気は無いらしい。

 

「〜〜〜♪」

 

そんなセリカの戦慄を他所に、リーナは書き写した小テストの問題を解く。基礎的な問題を容易く突破し、やがてセリカでさえ1分かかった問題に辿り着いた。

 

(……さて、何分かかる?)

 

普通の生徒にはまず解けまい。どんなに優秀な生徒でも、おそらく15分はかかる。400年魔術師をやっているセリカが1分かかった、というのはそれほど難易度が高いのだ。————もっとも、リーナは天才なので、おそらく3分くらいだろう。セリカはそう思っていた。

 

 

 

 

 

「……解けた」

 

「……⁉︎」

 

 

リーナが考え始めてから、およそ30秒。愛用の羽根ペンで羊皮紙に呪文を書き込む。

 

—————その紙面を見ると、確かに『ハーレム先輩のピンチな頭部防衛ライン』という失礼極まりない正解の解錠呪文が書かれていた。

 




ロクアカ二期を所望。本編の残りをじっくりやったり、短編のストーリーをOVA化してくれたらいいな。多分絶望的だけど。

……個人的には、アニメのロクアカは2巻までの内容と短編集のストーリーを1クールやるか、4巻までの内容を2クールかけてやると思っていたため、まさか飛ばしまくって5巻までやったことが衝撃だった。

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