《覇王龍ズァーク》の進化形態はよ   作:ほったいもいづんな

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アークファイブはアークソだけどアークファイブのBGMほんすこ。

レディエンの時のBGMはネタを抜きに好き。


「ペンデュラムが描く笑顔」

 未だ遊矢戻らず、地上では『The A.R.C』がその巨躯を見せびらかしていた。 そしてズァークはいよいよ痺れを切らしデュエルを終わらせようとする。

 

「ちぃ! もう限界だ! 動けぬデュエリストにターンは回らぬ!」

「まだだ! 遊矢は必ず戻ってくる!」

 

 声を荒げる権現坂だけでない、このデュエルを見ている全次元の人間が遊矢の帰還を信じて疑わなかった。 そんな光景がズァークの神経を逆撫でる。

 

「……ならばやつが出てくるまで全次元を攻撃してくれるわ!」

「なんだと!?」

 

『The A.R.C』がスタンダードの次元目掛けて砲撃の準備を始める。 それを目の当たりにしている遊勝塾の面々だが……

 

「……来るなら来い!」

「俺たちは遊矢兄ちゃんを信じてる!」

「遊矢お兄ちゃんは負けないって!」

「うおおおぉぉ! この俺が! 必ず塾生達を守る! 熱血だぁー!!」

 

 怯まない。 ズァークの攻撃に物ともせずに、立ち向かっている。 その姿もまたズァークを苛立たせる要因となる。

 

「ならば……仇花と散れ!!」

「っ!!」

 

『The A.R.C』の攻撃が放たれようとした瞬間。

 

「っ!? 何だ!?」

「これは……」

「辺りが暗く……?」

 

 融合次元全体が、まるで明かりが落ちた部屋のように暗くなる。 思わぬ事態に攻撃を中断し辺りを警戒するズァーク。 そんなズァークの耳にある言葉が入って来る。

 

 ーーーーレディース……

 

「こ、この声は……!?」

 

 ーーーーアーンド……

 

「ま、まさか……」

 

 ズァークだけでなく誰もが辺りを見渡し、その声の主を探す。 そして耳が特に鋭い月影が遊矢の落下した水面の地点を指差す。

 

「あそこからでござる!」

 

 そのポイントに皆が注目し息を飲む。 そして数秒後……水中からそれが現れる。

 

 

 

 

 

 

 

『ジェントルメーン!!』

 

 榊 遊矢、肉体を取り戻した柚子と魔術師達と手を繋ぎ、水中から一気に水しぶきを上げながら空中に飛び出す。

 

「遊矢ー!!」

「遊矢ー! 柚子までー!」

「うおおお! 漢、権現坂……このような事で泣いたりなど……うおおおおおおん!!」

 

 ランサーズの面々に浮かぶ安堵の表情。 そして笑顔と少しの涙、どちらも感動によるものだ。

 

「遊矢お兄ちゃんに柚子お姉ちゃんまで!」

「柚子……柚子ぅぅぅぅぅぅぅ!! うおおおおおお!! 柚子ぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「塾長うるさいって! ……でも柚子姉ちゃんが帰ってきてくれて俺も嬉しくて痺れる〜!!」

「遊矢兄ちゃんが約束を守ってくれたんだ!!」

 

 スタンダードの人間もまた柚子の元気な姿に歓喜の涙を流す。 ……若干一名ほどとんでもない量の涙を流しているが。

 

「榊 遊矢……!」

 

 ズァークは奥歯を噛み締めながら遊矢、そして共に現れた柚子の姿を憎らしそうに見る。

 

「レイめ……柊 柚子らの為に自分の肉体を捨てたな……!!」

 

 ズァークは睨んでいるものの、全次元の人間から歓声を浴びながら遊矢と柚子は魔術師達に地上に届けられる。 地上に着いた遊矢は先ほどの攻撃の影響など感じさせない程の元気をズァークに見せつける。

 

「待たせてすまなかったなズァーク、今からエンタメの再開だ!」

「ほざけ! もはや貴様のフィールドで『The A.R.C(オレ)』を倒すことなど不可能だ!」

「それはやって見ないと分からないんじゃないかしら?」

 

 ズァークに異論を唱えるのは柚子。 因みにクソださピンクシャツのままだ。

 

「遊矢のデッキにカードは残ってる! デュエリストならそれだけで逆転出来るんだから! それは貴方だって知っているはずよ」

「ぐ……」

『それに私達の思いはまだ負けてない!』

「瑠璃……? 瑠璃!?」

『それを貴方に届けるまで終わらないのよ!』

『ランサーズから教わった、楽しむためのデュエルを貴様に叩き込んでやる!』

 

 柚子から瑠璃、リンからセレナ、次々と姿を変えてズァークに言葉を投げつけていく。 途中瑠璃のターンで兄である黒咲が異様に反応したが、ここはスルーを貫いた。

 

「さぁ行って! 遊矢!」

「おう、俺のターンだ!」

 

 遊矢:LP100 手札0枚 伏せ0枚 ペンデュラムスケール/『星読み』1ー『時読み』8

 

 遊矢はドローをする前に再び皆に呼びかける。

 

「レディースアーンドジェントルメーン! 皆さまお立ち会い!」

「遊矢のエンタメキター!!」

「おおっ!」

 

 その掛け声にファンであるグレースだけでなく、隣で子ども達に懐かれている野呂 守も思わず声を上げる。

 

「私フィールドに残されているのはペンデュラムスケールにセッティングされている2体の魔術師のみ。 手札も0枚、実質これが最後のドローとなっております!」

「ふん、その割には随分と楽しそうだな。 遊矢よ」

「しかし! 私のデッキにはこの状況から逆転出来るカードが眠っております! 私がそれを引けるか……皆さま刮目して見ていてください!」

 

 今までの遊矢ならドローしたカードを確認してからエンタメを始めていた。 だがそれでは観客達に緊張感が伝わらない。 遊矢はドローをする前からエンタメを始める事で観客、そして相手にドキドキを持ってもらおうとしているのだ。

 

「そんな都合よく逆転の札が引けるとでも思っているのか!」

「そんな事ないわズァーク。 貴方だって知っているはずよ」

「何?」

 

 都合のいい奇跡など起きるはずもない、そう言い切るズァークに柚子は諭すように、優しく問いかける。

 

「貴方だってそうだったでしょ?」

『絶体絶命のピンチに陥った時……』

『自分のデッキを、仲間を信じていれば……』

『必ず仲間達はそれに応えてくれると』

「貴方もそうやってきたんじゃない」

「ッ!!」

 

 柚子達の言葉にズァークは目を見開く。 そして不意に蘇るかつての自分。

 

 ーーーー俺のターン! 頼むぜ俺のデッキ!

 

 かつて全ての世界が一つの次元だった時、ズァークはリアルソリッドビジョンシステムによるデュエルで一躍注目を浴びていたデュエリストだった。 そしてズァークも観客を盛り上げる為に絶体絶命のピンチでも諦める事なく仲間を信じて戦ってきた。

 

 ーーーードロー! ……よっしゃー! サンキュー俺のデッキ!

 

 それは観客の為でもあったが己の為でもあった。 ギリギリの状況で仲間を信じなければデュエルは勝てない。 何より自分を支えてくれるドラゴン達に申し訳が立たないからだ。 だからズァークは仲間を信じて戦っていた。

 

「…………」

 

 かつての自分が信じて疑わなかったもの。 それは自分のデッキ。 しかしそれは《覇王龍ズァーク》から『The A.R.C』になる過程で自ら捨ててしまった。 柚子達の言葉でズァークは己のしてきた愚かな行動に、ようやく気付いた。

 

「……『オッドアイズ』……『ダーク・リベリオン』……『クリアウィング』……『スターヴ・ヴェノム』……オレは……オレは……!」

 

 自責の念に押し潰されそうになるズァーク。 だがそんなズァークの両頬に手を添える者が一人。

 

 ーーーーそんな顔をしないでズァーク

 

「レイ……!」

 

 存在が柚子に集約されたと思われていたレイが、アストラル体となってズァークの元にやってきたのだ。 レイは悲しげな顔をしているズァークを、子どもをあやす母親のように優しく語りかける。

 

 ーーーー貴方は何にも悪くない。 誰だって道に迷い、道を外し、闇の中に身を投げてしまう時もある。 でも大切なのは仲間を忘れない事よ

 

「オレは……違う……オレはオレの為に……!」

 

 ーーーー大丈夫、きっと仲間達と仲直りできるわ。 だって知っているもの

 

「知っている……?」

 

 ーーーーだって、あんなにモンスターと仲良くしている姿、私は初めて見たわ

 

「ーーーーッ!!」

 

 それはかつてレイが父親である零王と共にデュエルを観戦していた時の事だ。 レイはそこでモンスターと共に地を蹴り宙を舞い、モンスターと共にフィールド内を駆け巡る姿を見た。 そしてモンスターと仲良く、力を合わせているズァークの姿に歓声を上げ、笑顔になっていた。

 

「オレは……どうして今になって……!!」

 

 突如ズァークに襲いかかる後悔の波。 仲間を捨てて『The A.R.C』となった事で失われていた大切なもの。 それを今ようやく気付くことになった。

 

 ーーーー大丈夫よ、そんなに怖がらないで

 

「レイ……」

 

 レイは金色の輝きを抑え本来の姿へと変わる。 そしてアストラル体となってズァークの隣で遊矢を指差す。

 

 ーーーー大切なものは、彼らが見せてくれるから

 

 ズァークはレイの指差す方を見る。 遊矢は両腕を上に上げ、ドローの体勢に入っていた。

 

「……俺、今すっごいワクワクしてる! 沢渡のデュエルの時みたいに!」

「私もよ。 ……ううん、遊矢のエンタメに、みんながワクワクしてる!」

「行くぞ……!」

 

 遊矢は目を閉じ精神を集中させる。 今、全次元の人間が遊矢のドローに視線を集中させる中、遊矢は勢いよく目を開けてドローする。

 

「ドロォォォォォ!!」

 

 そのドローはペンデュラムの軌跡を描くようだった。 誰もが固唾を呑む中、遊矢はドローしたカードを確認し、笑う。

 

「……皆さん来ましたー!!」

『オオオオオオオ!!』

()()()()()() ()()()()()()()()()()()()

「ッ!!」

 

 それは奇しくもかつてのズァークと同じ言葉。 不意に、何故かズァークは涙を流していた。

 

 ーーーーズァーク、泣いてるの?

 

「…………」

 

 遊矢の言葉からズァークが忘れていた大切なものを思い出す。 それはデュエルを仲間と楽しむ心。 そしてそれは一度『The A.R.C』になる上でズァークが捨てたものだった。 ズァークが捨てた遊矢達によって、大切な心を取り戻したのだ。

 

「……って何でズァーク泣いてるの!?」

「……貴様には関係ない」

「……だったら涙も吹き飛んでしまうくらいの笑顔をお前に届けてやる!」

「ふん……やれるものならやってみろ」

 

 ーーーーズァーク……あなた……!

 

 この時、レイだけが気付いていた。 ズァークが少しずつ、笑っていることに。 ズァークが取り戻したワクワクとドキドキの心がズァークに少しずつ変化をもたらしている。

 

「皆さま! 本日最後の演目、クライマックスに相応しい最高のショー! その名も『ミラクル・スマイル・ルーカス』をお届けします!」

「『奇跡の笑顔の軌跡』か……実に君らしいな遊矢」

 

 最後のエンタメに、零児も珍しく心を躍らせていた。 驚天動地のエンタメデュエル、零児もまた笑顔になろうとしていた。

 

「私はマジックカード、《エンタメ・クライマックス・チェンジドレス》を発動!」

「チェンジドレス……ってことはお色直しってわけか!」

 

 遊矢がマジックカードを発動すると、ペンデュラムスケールに存在する2体の魔術師達が赤のカーテンに囲まれる。

 

「このカードはペンデュラムスケールにセッティングされている2体のペンデュラムモンスターを表側表示でエクストラデッキに加え、2体のスケールの間の数字の数と同じスケールになるようにデッキから『EM』ペンデュラムモンスターを2体セッティングする!」

「『時読み』と『星読み』のスケールは1と8だから……?」

 

 柚子の言葉に全員が計算を始める。 至極簡単な計算だ、遊勝塾の生徒ですら簡単に解ける問題。 タツヤはすぐに計算を終えていた。

 

「ペンデュラム召喚できるのは2.3.4.5.6.7のレベルを持つモンスター、つまり6!」

「正解! 私はデッキからスケール2の《EMスマイリング・ヒッポ》とスケール9の《EM笑顔の魔術師》でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 新たにセッティングされたペンデュラムモンスターは《スマイル・ワールド》のスタンプが顔に押されているヒッポと五色の色で彩られた魔術師。 スケールの間の数字の数は6、条件はクリアしている。

 

「ふん、だが貴様のエクストラデッキからまともに戦えるのは『時読み』と『星読み』のみ。 一体どうするつもりだ?」

「…………!」

 

 ここでズァークがまさかの参加に思わず面を食らうも、すぐにエンタメに戻る。

 

「いい質問だ! このセッティングにより最後の扉が開かれたんだ!」

「最後の扉……?」

「俺は墓地に存在する《オッドアイズ・ペンデュラムゲート》の最後の効果を発動!」

「最後の効果だと!?」

 

 ーーーーいっぱい効果があるカードなのね

 

 これには流石にレイも驚いている。 『オッドアイズ』の特殊召喚からサポート、ダメージの軽減効果まであるというのにここで最後の効果を発動してくるというのだ。 流石に詰め込み過ぎである。

 

「墓地のこのカードとエクストラデッキで表側表示で存在するペンデュラムモンスターの中から、レベル7のモンスターがペンデュラム召喚可能になる組み合わせを除外する!」

「レベル7のモンスターをペンデュラム召喚する……まさか!」

「除外するのは当然スケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》!」

 

 遊矢達の上空に巨大な『ペンデュラムゲート』が出現し、そこに『星読み』と『時読み』が飛んでいく。 そして『ペンデュラムゲート』の前で2体の魔術師は一つの姿へと生まれ変わる。

 

「あれは……!」

「『覇王龍』を呼び出した……!」

「《アストログラフ・マジシャン》…………」

 

 ズァークとエドと素良は知っている。 4体のドラゴンとズァークを一つにした時を操る魔術師。 この魔術師もまたズァークを救うために遊矢のエンタメに力を貸していた。

 

「除外されている《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》、そしてフィールドにセッティングされているペンデュラムスケールでペンデュラム召喚可能なレベル、またはランクを持つドラゴン族を通常モンスターとして扱い、可能な限り特殊召喚する!」

「何!? 除外されているモンスターをペンデュラム召喚だと!?」

 

 これには思わずズァークもいい反応をしてしまう。 皆も同じように反応し、そして今から目の前で行われるであろう展開に胸を躍らせずにはいられない。 ズァークとレイもまたワクワクしていた。

 

「次元の壁を乗り越えて現れろ! 俺の仲間達!!」

 

『スマイリング・ヒッポ』、『笑顔の魔術師』、《アストログラフ・マジシャン》が描く新たなペンデュラムの軌跡、それは『ペンデュラムゲート』を中心に徐々に大きくなっていく。 そしてそこから五つの光が飛び出してくる。

 

『こい! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!』

『翔け! 《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!!』

『戻っておいで! 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!!』

「来て! 《オッドアイズ・ドラゴン》!」

「行こう! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」

 

 五つの光が舞い降りた。

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》 ★4 ATK/2500 エクシーズ→通常モンスター

 《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》 ☆7 ATK/2500 シンクロ→通常モンスター

 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》 ☆8 ATK/2800 融合→通常モンスター

 《オッドアイズ・ドラゴン》 ☆7 ATK/2500 効果モンスター→通常モンスター

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》 ☆7 ATK/2500

 

『うおおおおおお!!』

「流石遊矢、僕の師匠なだけあるね!」

「己の使役するドラゴンを全て同時に呼び出すとは……この俺でも出来るか怪しい技をやってのけるとはな!!」

「流石ペンデュラムの創始者……!」

「すごいよ遊矢ー!!」(ぴょんぴょん)

 

 五体のドラゴン同時召喚に次々と感嘆の声を上げる面々。 特に零羅は子どものように楽しげに跳ねる。

 

「せっかくだ、『ストレートペンデュラム』の時は権現坂に取られたからな。 今度こそこの俺様がその召喚に名前を……」

「ドラゴンがそれぞれの姿を鼓舞しながら登場するその姿はまさに演舞! 感じる咆哮はまさに魂の鼓動!」

「名付けて『ドラゴビートペンデュラム』ってか!!」

「権現坂だけじゃなくてクロウにまで!?」

 

 クロウ命名、『ドラゴビートペンデュラム』。 今ここに誕生する。

 

「おっと、まだまだここから!」

「ほう、見所はこれだけではないと?」

「5体のモンスターが同時に特殊召喚した時、ペンデュラムスケールにセッティングされている『スマイリング・ヒッポ』のペンデュラム効果を発動できる!」

「ここで来るか……!!」

 

 ーーーーズァーク、楽しそうね

 

 ズァークはもう歪んだ笑みを見せていない。 純粋な笑顔を見せていた。 そこにいるのは『The A.R.C』ではなく、かつてのエンタメデュエリスト、ズァークの本当の姿があった。

 

「私はデッキから直接《スマイル・ワールド》を発動する! 発動しろ、《スマイル・ワールド》!!」

『ヒポ!』

 

『スマイリング・ヒッポ』が軽快なダンスを始めるとたくさんの笑顔がフィールド内を埋め尽くす。 いや、全次元に笑顔が届けられ、それに魅了されていく全次元の人々。

 

「遊矢さんの《スマイル・ワールド》!」

「きたきたー! やっぱり遊矢と言えばこれよね〜」

「くぅ〜痺れるぅ〜!!」

 

 《スマイル・ワールド》は確かに父親の主張である。 以前の遊矢ならこのカードに執着していたが、今の遊矢は違う。 仲間がいる、大切な人が側に居てくれる。 故にこのカードに縋らなくても遊矢は戦っていける。 そして己のエンタメの為に使うことができるのだ。

 

「みんな〜! 《スマイル・ワールド》の効果を忘れてないわよねー?」

 

 柚子の問いかけにアユ達が答える。

 

「もちろん!」

「《スマイル・ワールド》は発動時にフィールドにいるモンスターの数×100ポイントの攻撃力を……」

「フィールドの全部のモンスターの攻撃力に加える!」

「大正解! フィールドにいるモンスターの数は6体! よって全ドラゴンの攻撃力は600ポイントアップします!」

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》 ATK/2500→3100

 《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》 ATK/2500→3100

 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》 ATK/2800→3400

 《オッドアイズ・ドラゴン》 ATK/2500→3100

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》 ATK/2500→3100

 

 攻撃力を上げる遊矢のドラゴンに対し、『The A.R.C』の攻撃力は変化しない。 それもそのはず。

 

「そうか、『The A.R.C』は数として換算されるがその効果は受けない! だから遊矢のドラゴンにだけその恩恵が得られるわけか!」

 

 ジャックの解説通り、『The A.R.C』は笑顔にならない。 そしてこれは遊矢からズァークに向けられたメッセージ。

 

 ーーーーみんなで笑顔になろう……だって

 

「ふん、上等だ……ならばこの『The A.R.C』を超えてみろ!」

 

 ズァークは好戦的な表情で遊矢を挑発する。

 

「もっとも貴様のフィールドで一番攻撃力が高くても『スターヴ・ヴェノム』の3400! 確かに通常モンスターになった事で『覇王腕』が発動する事はなくなったが、この『The A.R.C』には届かないぞ?」

「心配ご無用!」

「ほう……となれば……」

 

 ズァークはペンデュラムスケールにセッティングされたもう一枚のカード、『笑顔の魔術師』に視線を移す。 未だ発動していない効果にズァークは胸を躍らせていた。 そして遊矢は……最期の演出に入っていく。

 

「レデイースアーンドジェントルメーン!! 皆さまいよいよクライマックスです! これより、最後のバトルフェイズに入ります!」

 

 バトルフェイズに突入する遊矢。 そしてすぐに『笑顔の魔術師』の効果が発揮される。

 

「ペンデュラムスケールにセッティングされた『笑顔の魔術師』のペンデュラム効果! 私のフィールドの《スマイル・ワールド》の効果を受けたモンスターは戦闘で破壊されず、発生する私へのダメージを0にします!」

「《スマイル・ワールド》が……笑顔が遊矢のドラゴンを守っているのか!」

 

『笑顔の魔術師』がその手に持つ杖を回転させると、遊矢のドラゴン達に笑顔が描かれているバリアが展開される。 だがそれでも攻撃力が足りないのは自明の理。 それでも遊矢達は行く。

 

「さぁ柚子、一緒に行こう!」

「えぇ! みんなも順番に行くわよ!」

 

 柚子は遊矢の隣に立ち、共に宣言する。

 

「「バトル! 行け、《オッドアイズ・ドラゴン》!!」」

 

 いや、遊矢と柚子だけでない。

 

「「続け! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」」

 

 ユートに瑠璃。

 

「「飛べ! 《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!!」」

 

 ユーゴにリン。

 

「「攻撃しろ、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!!」」

 

 ユーリにセレナ。

 

「四天の竜による同時攻撃!?」

 

 ーーーー……いいえ、これは……?

 

 放たれた4体の攻撃は途中で混じり合い、そして『The A.R.C』から逸れ天高く舞い上がる。 まるで花火のように。

 

「ここで『笑顔の魔術師』のさらなる効果! 《スマイル・ワールド》の効果を受けたモンスターが戦闘を行なった場合、ダメージステップ終了時に《スマイル・ワールド》の効果で上昇した攻撃力を元に戻し、フィールドのペンデュラムモンスターにその数値を加える!」

「何だと!?」

「さぁ弾けろ、スマイルの花火!」

 

 遊矢が指を鳴らすと上空まで達した4体の攻撃は一気に弾け、赤、黒、白、紫、色とりどりの笑顔が全次元に降り注ぐ。 そしてそれに《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》が触れるとその攻撃力を上昇させる。

 

「遊矢のドラゴン達が上昇していた数値は600!」

「つまり600×4の2400が遊矢のドラゴンに加わり……」

 

 素良とエドの推測はすぐさま数値として現れる。

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》 ATK/3100→5500

 

『うおおおお! 『The A.R.C』を超えたぁぁぁぁ!!』

 

 今興奮は最高潮となる。

 

「それでは最後の攻撃はみんなで行きましょう!」

『おおおおおお!!』

 

 シンクロ次元でのジャックとのデュエルの最後、いやそれ以上の熱気があった。 誰もが笑顔になり、共にデュエルを楽しむこの一瞬に、エンタメデュエルの全てが詰め込まれていた。 もちろんズァークもこの輪の中に……

 

「さぁ行きましょう!」

『行け、バトルだ!』

『《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で!』

『《覇王越龍 The A.R.C》を攻撃!!』

『螺旋のストライクバースト!!!』

 

 融合次元から始まり、エクシーズ次元、シンクロ次元、そして攻撃名はスタンダード及びランサーズが。 笑顔に彩られた赤色の螺旋咆哮が『The A.R.C』に迫る。 その光に照らされながらズァークは目を閉じ、笑いながら最後の宣言をする。

 

「……《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》は戦闘で与えるダメージを倍にできる……」

「ズァーク……」

「見事なエンタメだった……さぁこい遊矢!!」

 

 ズァークは最高の笑顔で遊矢を迎え撃つ。 それを見た遊矢もまた最高の笑顔でズァークとぶつかる。

 

「行っけぇ! 『オッドアイズ』! リアクションフォース!!」

 

 今、全次元を巻き込んだデュエル……

 

「……フッ」

 

 ここに終結する。

 

 ズァーク:LP1000→0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『The A.R.C』が破壊された事でズァークの姿は元の、かつて一人の人間だった頃の姿に戻る。 大の字で寝転がるズァークは穏やかな笑みを浮かべている。

 

「敵も味方も、観客もモンスターも、全てを笑顔にする……最高のエンタメか……」

 

 周りがまだデュエルの余熱が冷めない中、寝転がるズァークに歩み寄る遊矢と柚子。

 

「かつて俺が追い求めた……至高にして究極のエンタメデュエル……それをお前が手にしたんだ……遊矢」

 

 ズァークは目を開けて空を仰ぎ見る。 どんよりとした空に未だ浮かんでいる笑顔がこの戦いを祝福するように輝いている。 そしてズァークの顔を覗き込む一人の女性。

 

 ーーーーズァーク

 

「レイ……お前にも迷惑をかけた……大切なファンにここまで手を煩わせるとはな……」

 

 ーーーーいいの、私がやりたいようにやっただけだから

 

「……お前も大概お人好しだな」

 

 ーーーー当然! だって私は柚子達のオリジナルなんだから

 

 元気な笑顔を見せるレイだが、その姿は薄く透けているアストラル体。 それも零羅やズァークくらいしか見る事は出来ない存在になってしまった。 それでもレイが笑顔でいるのはズァークが再び笑顔を取り戻してくれたからであろう。

 

「ズァーク」

「遊矢……」

「楽しいデュエルだった……ありがとう」

「……久しぶりだな、礼を言われるのは」

 

 遊矢はズァークに右手を差し出す。 その手を見てズァークは小さく笑い……掴む。

 

「礼を言おう、遊矢。 そしてオレの分身……いや兄弟達よ」

 

 ズァークの手を握り立たせる遊矢に、遊矢達にズァークは礼を言う。 その手の温もりは遊矢だけでなく人間の心を、ズァークという一人の人間の心を取り戻したズァークの温かさが遊矢に伝わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、そろそろ次元がヤバイな」

「……え、ヤバイって何……?」

「次元が一つになりかけている時に無理に『The A.R.C』という存在になったせいで強制的に次元統合が始まっている」

『えええええええええ!?』

 

 意外と状況はヤバかった。(上代脚本並みの感想)

 

「だがまぁ心配はいらん。 四つの次元はいわば分裂した島々、それが一つの大陸になるようなものだ。 そこにいる人々が今更一つの存在になるような事はない」

「あ、そうなんだ……驚かさないでよ……」

「……でもそれだと一つに統合されている私や遊矢はどうなるの?」

 

 柚子の疑問はもっともで、元々一人の人間だったとはいえ分裂して出来た魂は間違いなく個々の存在となっている。 そして何より本体から分裂して存在している遊矢や柚子がズァークやレイと統合してもおかしくはない。 だがズァークがその問題もすぐに解決する。

 

「どうなるかは起こってからの話だが、少なくとも遊矢や柊 柚子達がオレ達に統合されることはない。 そしてもしかすると四人に再び分裂する可能性も大いにある」

「そうなの? よかったー……危うく四人と永久に同居生活するのかと……」

「……まぁ、オレやレイがどうなるかは分からんがな」

 

 ズァークは隣に居てくれているレイを見る。 アストラル体となり、肉体を捨てたレイに再び器となる肉体が与えられるかはかなり怪しい。 だがレイはそれでも不安げな表情をしておらず、ズァークを見て笑っている。

 

 ーーーー大丈夫、きっと何とかなるわ

 

「……はぁ、お前がその調子だと心配したオレがバカみたいではないか」

 

 ーーーーそんな事ないわよ? 心配してくれて嬉しいわ!

 

「……まぁ、信じてみるか。 『奇跡の笑顔の軌跡』と言うものを」

 

 次元の統合がどんどん進み辺りが光に包まれる中、ズァークは遊矢達に向き直る。 そして右手を軽くあげ、遊矢に別れの挨拶をする。

 

「榊 遊矢、柊 柚子、そしてレイと我が分身達よ……さらばだ」

 

 

 

 

 ーーーー()()()()()

 

 

 

 

 

 その瞬間、確かに遊矢と柚子達は見た。 笑顔で再開の約束を告げるズァークの隣で、レイが寄り添うように笑っていたのを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーここは一つの次元。

 

「レディースアーンドジェントルメーン!!」

 

 その世界で名を轟かすエンタメデュエリストの『榊 遊矢』と呼ばれるデュエリストがいた。 ペンデュラム召喚を自在に使いこなす彼は世界を代表するエンタメデュエリストとして名を馳せていた。

 

 そんな遊矢のエンタメデュエルに挑む一人の挑戦者が、赤茶色でツインテールの女性と共に現れた。

 

「オレのかつての名はズァーク……だが生まれ変わったオレの名前は『アーク』!」

 

 例えどんな挑戦者が現れても遊矢のデュエルは変わらない。

 

「さぁアーク! 『()()』俺のエンタメで笑顔になってもらうよ!」

「新たな『覇王』と共にお前を越えるエンタメを見せてやろう!」

『デュエル!!』

 

 五つの次元を繋いだ物語。 未だ終わらない。

 

 そう、ペンデュラムのように何度も何度でも続く……

 




今回のオリカは後でまとめて出します。

今回も誤字脱字等のミスがありましたら、コメントにてお教えください。

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