《覇王龍ズァーク》の進化形態はよ   作:ほったいもいづんな

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《覇王越龍 The A.R.C》 効果モンスター 闇属性 ドラゴン族 ☆12 ATK/5000 DEF/5000
このカードはフィールドの「覇王龍ズァーク」を含む5体の「覇王」モンスターをリリースした場合にのみ通常召喚でき、①の効果以外で特殊召喚できない。
①自分フィールドの「覇王龍ズァーク」が破壊され、自分のライフが0になる効果が発動した場合にデッキからこのカードの効果を発動できる。 自分の手札・フィールド・墓地・デッキ・エクストラデッキからこのカード以外の「覇王」モンスターをすべて除外してデッキから特殊召喚する。
②このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。 相手のフィールド・墓地の元々の種類が融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムのモンスターをすべて除外し、除外した枚数まで相手フィールドのカードを除外し、除外されたプレイヤーに10000ポイントのダメージを与える。
③このカードは自身以外の効果を受けない。
④このカードがフィールドに存在する場合、自分はカードを手札に加えられず、相手プレイヤーはドローフェイズの通常ドロー以外の方法でカードを手札に加えられない。
⑤相手モンスターの攻撃宣言時に、攻撃モンスターの種類と同じ種類の、②の効果で除外したモンスターを選択して発動できる。 選択したモンスターと同じ種類の相手モンスターをすべて破壊し、相手プレイヤーのライフを半分にする。 この効果で選択できるモンスターは一体につき一度のみ。
⑥このカードが戦闘またはこのカードの⑤の効果で破壊した相手モンスターがフィールドに召喚・特殊召喚された場合、そのモンスターの攻撃力は0となり攻撃表示に変更され表示形式の変更が行えなくなり、効果を発動する事が出来ない。


「榊 遊矢のエンタメデュエル」

 ズァークに歩み寄る遊矢は道中に倒れている仲間達に声をかけていく。

 

「権現坂、沢渡、クロウ、大丈夫か?」

「遊矢……お前、本当に遊矢なのか!?」

「あぁ」

「う、う、うおおおお!! 遊矢ぁぁぁ!!」

「痛いいたい!? はは、元気そうでよかったよ……」

 

 親友との再会に権現坂は涙を滝のように流しながら抱き締める。 漢の熱い抱擁である。

 

「まったく、このスーパーハイパーアルティメットネオニュー沢渡シンゴのおかげで助かったんだからな。 感謝しろよ、俺様に」

「あぁ、ありがとうな沢渡。 お前のエンタメ、ズァークの中から見てたぜ」

「お、おおぅ。 ……ふふふ、当然だろ? 何せ榊遊矢の最大のライバルなんだからな!」

 

 沢渡のいつもの軽口に突っ込まずに遊矢は素直に感謝を述べていた。 お調子者で自信家な彼が素直に感謝を言われるのは中々珍しいので本人ですら一瞬面を食らったが、最後には素直な笑顔を見せていた。

 

「クロウ、元に戻れたんだな」

「あぁ、よく分かんねぇけどな」

「BBにも後で教えてあげないと。 あいつ、きっとクロウに謝りたがってると思うから」

「……こんな時でも他人の心配か。 お前らしいぜ」

 

 目覚めたばかりの遊矢の姿に安心するクロウ。 かつてフレンドシップカップで見せた覇王の片鱗を感じさせることのない穏やかな雰囲気に力が抜ける。

 

 遊矢はここで遠くで倒れているジャックに声をかける。

 

「ジャック! 大丈夫か!?」

「心配するな! このジャック・アトラス、この程度の転倒など珍しくない! 心配無用だ!」

「ふ、倒れてもジャックはジャックだな」

 

 ジャックの声を聞いて無事だと安心する遊矢。 倒れながらも不敵な笑みを見せているジャックに、『別の声』がかけられる。

 

『キング! あんたの仇は俺がとってやるぜ!』

「あ、あれは……!?」

『……ん? あれ? キングはもうキングじゃないんだっけ? ……とにかく、あんたはそこで安心して見ててくれよ!』

「やつはズァークの分身の一人、ユーゴ……!?」

 

 ジャックの目には遊矢の姿がユーゴのように見えた。 目を見開いて確認しようとするが、すでに遊矢の姿に戻っていて確かめることは出来なかった。 ジャックが困惑する中、遊矢は悠々と黒咲とカイトの元に歩く。

 

「黒咲、カイト、二人も大丈夫みたいだな」

「当然だ、俺たちレジスタンスはこの程度ではくたばらん」

「俺はそんなにヤワな鍛え方をしていない」

「二人とも流石だな」

 

 カイトはまだしも遊矢は目の前で黒咲がスタンガンをくらった姿を見ていたのでかなり心配していたのだが、思いの外大丈夫な黒咲の姿に安堵しつつ流石だと心の内で賞賛する。 そして『もう一人』、二人に声をかけるものがいた。

 

『カイト、要らぬ心配をかけてすまなかった』

「……なに?」

『隼、お前の言葉。 しっかりと俺に届いていたぞ』

「ゆ、ユー……ト……!?」

『レジスタンスの魂、俺が受け取った! 後は任せてくれ!』

 

 エクシーズ次元の時も二人は遊矢の中にいるユートの存在をしっかりと感じていた。 だが一つとなりズァークになってしまった時、もはや会うことすら叶わぬと思っていた。 そんな仲間の姿が自分の目の前にしっかりと映って、そこにいた。 もはや二人とも脱力しており、完全に戦闘体勢を解いていた。 決して諦めぬレジスタンスの魂を確かに託したからだ。

 

「素良、エド、二人は大丈夫か?」

 

 遊矢は最初にズァークと対峙した素良とエドの元に辿り着いた。 アカデミアの人間が恐怖で混乱していた時、真っ先にズァークに立ち向かったのは素良とエドの融合組。 遊矢はズァークの中でしっかりとその姿を見ていた。

 

「もちろんさ」

「これでも元指揮官、それなりに鍛えてはいたのさ」

「エド、あの時のお前の姿。 まさに『HERO』だったよ」

「ふっ、当然だろう? ヒーローは常に誰かのために戦う『運命』にあるのさ」

 

 エドの見せる笑みは少しだけ子どもっぽい。 ほんの少しだけ生意気な少年のような顔で遊矢を見ている。 それは本来のエドであり、遊矢がエドとのデュエルで呼び覚した本当の顔だ。

 

「素良、ありがとうな。 俺のペンデュラムをみんなに繋げてくれて。 お前のおかげでペンデュラムは俺の元に戻ってきた、俺の心もこうして戻ってこれた」

「遊矢……当然だろ? だって僕たちは『友達』じゃないか」

「……ああ!」

 

 ボロボロの二人、だが融合次元で鍛えられたおかげか余裕の表情を崩さない。 そんな二人に労いの言葉をかけるのは遊矢ではなかった。

 

『流石は天才少年にエクシーズ次元総司令官、一番最初に負けたけどまだまだ元気いっぱいだねぇ』

「お、お前……!」

『まぁ安心してよ。 今は手を出したりはしないさ』

「ユーリ……!」

『プロフェッサーのデュエルが……僕たちアカデミアの融合モンスターがあんな奴に負けるはずがない。 それを証明してくるからさ』

 

 その言葉を伝えてから遊矢はズァークに近づき始める。 遊矢……いやユーリの言葉にエドと素良は豆鉄砲を食らったような顔をしていた。 傍若無人で唯我独尊のユーリがあのような言葉をするなんて二人には理解出来なかった。

 

「遊矢……」

「零児、待たせた」

「……本当に遊矢なんだな」

 

 零児はメガネを少し上げて遊矢を見る。 さしもの零児でも目の前の遊矢が本当に『遊矢』なのか少し怪しいのだ。 そんな零児の姿に遊矢は右手の人差し指で頬をかきながらしっかりと答える。

 

「相変わらず零児は用心深いなぁ……大丈夫! 俺は榊遊勝の息子でランサーズの榊遊矢だ」

「……知ってるさ。 君は最初から遊矢なのだとな」

「えぇ……なら何で疑ったのさ……」

「違う」

 

 零児は遊矢に優しい眼差しを向けて今の自分の心からの言葉を遊矢に送る。

 

「……嬉しいのだ。 君が無事ズァークから……悪魔から元に戻れて」

「零児……」

「これほどまでに誰かの心配はしたことは零羅を除いてない。 遊矢、本当に帰ってきてからてありがとう」

 

 それはいつも目を吊り上げている零児から発せられる言葉ではなかった。 今の言葉はランサーズの赤馬零児ではなく、遊矢の友としての赤馬零児の言葉だった。 それを受けた遊矢は力強く答える。

 

「……俺の方こそありがとう零児。 後は俺に任せてくれ!」

「あぁ頼んだぞ。 ランサーズ最後の希望、榊遊矢!!」

 

 零児に背中を押され遊矢はズァークの前に躍り出る。 そして手に握られている千切れたペンデュラムの紐を首の後ろだ結ぶ。

 

(みんな……父さん……見ててくれ。 俺の……『()()()』のエンタメデュエルを!)

 

 今ここに榊遊矢の、次元戦争最後のデュエルが始まる。

 

「くるがいい、オレの成れの果てよ!」

「行くぞズァーク!」

『デュエル!!』

 

 遊矢:LP2000 手札5枚

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 勢いよくドローした遊矢は手札、そしてズァークのフィールドにそびえ立つ『The A.R.C』を見る。 現在判明してるのは自身以外の効果を受けつけない完全耐性と召喚時の除外バーンのみ。 ズァークの発言をそのまま受け取るとするならばさらなる凶悪な効果を持っているに違いないと確信している。 ここで遊矢が取るのは……

 

「……!」

 

 遊矢は手札から二枚のカードを発動させる。

 

「俺はスケール1の《星読みの魔術師》とスケール8の《時読みの魔術師》をペンデュラムスケールにセッティング!」

 

『星読み』と『時読み』、それは《アストログラフ・マジシャン》が二つに分かれた姿だ。 ズァークが遊矢達を捨てた今、『アストログラフ』もまたズァークから分離し二枚のカードとなっていた。

 

「これで2から7までのモンスターが同時に召喚可能!」

「よし、あれは遊矢兄ちゃんのペンデュラム!」

「遊矢お兄ちゃんが戻ってきたんだ!」

「痺れるぅ〜!」

 

 スタンダードの次元で遊矢と同じ遊勝塾に通う後輩達が遊矢に声援を送る。

 

「ふん、このオレにペンデュラムで挑むか!」

「揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚! 出でよ、俺のモンスター達!」

 

 《EMブランコブラ》 (OCG)☆4 ATK/300

 《EMオオヤヤドカリ》 (OCG) ☆5 DEF/2500

 《EMオッドアイズ・シンクロン》(OCG) ☆2 DEF/600

 

 同時に3体のモンスターの召喚。 目覚めた直後でも遊矢のペンデュラムに曇りなし。 ……のはずなのだが。

 

『おい! 何で『ブランコブラ』は攻撃表示なんだよ! やられちまうぞ!?』

 

 この召喚に意を申し立てるのは遊矢の中にいるユーゴである。

 

『大した攻撃力じゃない上にこっちはライフ半分からのスタートなんだぞ!?』

『あのさぁ……やっぱりキミバカ?』

『だれがバカだ!』

『攻撃力5000のモンスターを前にただ棒立ちしてるわけないじゃん。 キミ本当にあのドラゴンの持ち主なの?』

『なんだとぉ〜!?』

 

 声を荒げるユーゴに冷ややかな言葉を向けるユーリ。 やれやれと言った様子でユーゴを見ている。 まさに犬と猿、犬猿の仲。 いがみ合っている二人にユートが静止に入る。

 

『やめろ二人とも! 今は世界の存亡をかけたデュエルの最中だぞ!』

『ぐっ……』

『だってよ、ゆ・う・ご・う君』

『だれが融合だ! ユーゴだって言ってんだろ!』

『だからいい加減にしろ! 分かってるのか二人とも!?』

 

 痺れを切らしたユートが叱りつけるように声を荒げる。

 

『俺たちは今遊矢の身体に入っているんだ! この喧嘩も遊矢には丸聞こえなんだぞ! 分かってるのか!?』

『あ……』

『ふん……』

「あー……ユート? 俺は大丈夫だから……」

『よくない! 確かに俺たちは共に敵として戦いあってきたが、それでもだ! 今は…………』

 

 ユートのありがたいお説教が遊矢の中で始まってしまった。 困った顔でいる遊矢を見て零児の元に戻ってきた零羅がそれを見て首をかしげる。

 

「……喧嘩してる?」

「喧嘩……? 零羅、どういうことだ?」

「うん。 遊矢の中には遊矢以外の、ズァークから分離した三人の魂が入っているんだ。 ちょうど僕の中にレイがいるみたいに」

「遊矢の中に……か」

 

 零児の目には遊矢だけしか映っていない。 だがその遊矢の心の中には四人の人間の魂が確実に存在している。 だからこそ零児は気になって仕方ない。

 

(……ならば遊矢達を捨てたズァークには一体誰の心が住んでいる……?)

 

 四人で一人のズァークが、今や不気味な存在となっていた。

 

『……分かったか二人とも。 喧嘩は後、今はズァークに勝つために協力するんだぞ』

『へいへーい……』

『はいはい……』

『さぁ行くぞ遊矢!』

「あ、あぁ……」

 

 ようやく遊矢内会議が終了したので遊矢はデュエルを再開する。 笑顔で。

 

「さぁ行くぞ! 俺は『オオヤヤドカリ』の効果を発動!」

「あのモンスターは俺とデュエルした時の……」

 

 そう声を上げるのはシンクロ次元にいる『エンジョイ長次郎』こと徳松長次郎だ。 徳松がまだペンデュラム効果しか知らない、初めて発動されるモンスター効果だからだ。

 

「仲間の『EM』の数だけペンデュラムモンスター1体の攻撃力を300ポイントアップさせる! 俺は『ブランコブラ』の攻撃力をアップさせる!」

「遊矢のフィールドには3体の『EM』が存在している。 これで900ポイントの上昇だが……」

 

 《EMブランコブラ》 ATK/300→1200

 

 攻撃力の上昇は悪い効果ではない。 ただズァークの前では微々たる変化でしかない。 低火力が少しマシになっただけ。

 

「行くぞズァーク、バトルだ!」

「ほう……!」

 

『ブランコブラ』は自身に取り付けられているロープをペンデュラムゾーンの二体の魔術師まで伸ばす。 それを手にした『星読み』と『時読み』は息を合わせてブランコのように大きく振る。

 

「《EMブランコブラ》は相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る!」

「よし、俺の『ブレイズ・ファルコン』のような直接攻撃が可能なモンスター!」

「やつのライフは残り1000ポイント、一気に行け!」

 

 思わず拳を握る黒咲とカイト。 その期待に応えるように大きく振り子のように揺れていたブランコブラは二体の魔術師の手から離れ、勢いよく『The A.R.C』の心臓部から生え出てるズァーク目がけて飛んでいく。

 

「……舐めるなよ! 有象無象がぁ!!」

「!?」

 

 大きく目を見開いたズァークはブランコブラを睨みつける。 そして『The A.R.C』のさらなる凶悪効果を発動させる。

 

「相手モンスターと戦闘を行う時、『The A.R.C(オレ)』の効果を発動する!」

『くっ……やはり何らかの対策があったか……!』

 

 ユートは嫌な予感が当たってしまい、じっとりとした気持ち悪い汗が出る。 そしてズァークの口から告げられる効果に絶句する。

 

「相手モンスターと同じ種類のモンスターを『The A.R.C(オレ)』が除外している時に、戦闘を行う相手モンスターと同じ種類のモンスターを全て破壊する!」

「何だって!?」

「オレが除外した赤馬零王の《大精霊機功軍(マスター・スピリット・テック・フォース)ペンデュラム・ルーラー》は融合でありペンデュラム! よって発動条件は満たしている!」

「くっ……!」

 

 遊矢は周囲に視線を配る。 『The A.R.C』の効果が周りに行かないかの確認もそうだが、防御カードである『アクションカード』を探しているのだ。

 

「どこだ……あった!」

 

 遊矢は誰もいない倉庫の屋根の上にカードが1枚あるのを確認するやいなやアレンから譲り受けたローラーシューズを起動させて一気に接近する。

 

「よし、《ミラー・バリア》だ!」

 

 近づいてきた遊矢はそのアクションカードが効果破壊を防ぐことが出来るアクションマジックであることに素直に喜ぶ。 この破壊さえ防げれば攻撃力が上昇したままの『ブランコブラ』の攻撃で終わるからだ。

 

 だがそれをズァークは許さない。

 

「ーーッ!?」

『何!? 消えただと!?』

『まさか……!』

 

 遊矢がアクションカードを拾う瞬間にアクションカードは煙のように霧散してしまった。 そしてユーリは一番早くにその原因が『The A.R.C』にあることに気付く。

 

「無駄だぁ! 『The A.R.C(オレ)』がいる限り相手プレイヤーは通常ドロー以外の方法でカードを手札に加えることは出来ぬぅ!!」

「何だって!?」

「くそっ……俺の《魔界台本「魔界の宴咜女」》は『覇王龍ズァーク』の手札に加えたカードを破壊する効果を逆手に取ることで初めて取れた戦法……。 ……やろう、この俺のスーパーウルトラハイレベルコンボの対策までしてきやがった!!」

 

 沢渡の言う通り、『覇王龍ズァーク』の頃の効果では墓地送りに活用される危険性があり、実際それを利用されて沢渡に少し翻弄されていた上に零羅には墓地の『エン』カードを回収されている。 ズァークの中で墓地からの回収による戦法が十二分に警戒するに値するものだった。 だから進化したことで『サーチ行為』そのものを封じてきた。

 

「無残に消し飛べ!」

「うわっ!」

 

 ゲームから除外されていた『ペンデュラム・ルーラー』を『The A.R.C』が異次元から引きずりだし、そのまま遊矢のモンスター目がけて投げ飛ばす。 そして『EM』達は巨大な『ペンデュラム・ルーラー』に押し潰されてしまう。

 

「遊矢お兄ちゃんの『EM』達が!!」

 

 余りにも無残な光景に唖然とする全次元の人間、だが『The A.R.C』の効果はまだ終わらない。

 

「そしてぇ! 貴様のライフを半分削るぅ!!」

「何だって!?」

『ライフを半分にするなんて汚ねぇぞ!!』

「これが『The A.R.C(オレ)』第二の破滅効果! 『覇王腕(はおうかいな)』!!」

「うわあああああ!!」

 

『The A.R.C』の右拳が藍色に輝く。 そして『ペンデュラム・ルーラー』に潰されている『EM』達を『ペンデュラム・ルーラー』ごと拳で叩き潰す。 その圧倒的破壊によって生じる衝撃の波が遊矢を襲う。

 

 遊矢:LP2000→1000

 

「遊矢! 大丈夫か!」

 

 権現坂が声を荒げて遊矢に声をかける。 それもそのはず、遊矢の背後には倉庫があり、そこにまで衝撃が及んでいるのだ。 いくら遊矢が頑丈だからといって実物の建造物に衝突しては大怪我は免れない。 しかしズァークの視線は倒壊した倉庫ではなく遥か上空に見据えていた。

 

「……やはり逃げていたか、空に!」

「ペンデュラムスケールにセッティングされた魔術師達が遊矢を逃していたのか!」

 

『星読み』と『時読み』に手を引かれ遊矢は空に退避していた。 そして少し優雅に地面に着地する。

 

「こんな時でもエンタメを忘れんとは……流石は榊遊矢!」

 

 これには倒れているジャックも手放しで遊矢を褒める。

 

「奇跡の大脱出……ってね」

「ふん、だがこの効果は『The A.R.C(オレ)』の効果で除外した、それぞれに対応するモンスターの数だけ発動できる」

「……ってことはもうあいつはペンデュラムに対して効果を発動できない……? 俺の魔界劇団はペンデュラム、墓地に溜まることはないから……」

 

 沢渡の言う通り、ペンデュラムは破壊されても墓地にはいかない。 必ずエクストラデッキに表側で加わる。 だが例外もある。

 

「ーーいや違う! 私の《DDD 怒涛大王エグゼクティブ・シーザー》のエクシーズ素材になった《DD 魔導賢者ニコラ》はペンデュラムだがエクシーズ素材になった場合は墓地に送られる!」

「つまりやつはあと二回ペンデュラムに対して『覇王腕』を使えるというわけか……!!」

 

 融合、シンクロ、エクシーズも複数枚除外されているが、ペンデュラムだけは残り二回となっている。 ここが突破口のように見えるが……

 

「ふん、だが貴様のモンスターは全滅している。 次のターンの攻撃で終わりになる!」

「それはダイレクトアタックが決まったらの話、俺はモンスターを裏側守備表示で召喚してターンエンド」

 

 遊矢:LP1000 手札0枚 伏せ0枚 モンスター/伏せ1 ペンデュラムスケール/『星読み』1ー『時読み』8

 

 遊矢に残された最後の1枚はモンスターであった。 遊矢はそれを伏せることで次のターンの攻撃を防ぐことになる。

 

「モンスターを残していたか……」

『当然さ、通常召喚権を使わずにターンを終えるなんて三流もいいとこ。 ましてやキミみたいなとんでもモンスターを相手にするならなおさらだよ?』

『それに召喚に反応して発動される効果も警戒していた、モンスターのセットに対しての効果がわざわざあるとは思ってなかったからな』

『どーよズァーク! 俺たちを舐めんなよ!』

『キミは何も考えてなかったでしょ……』

 

 次々と判明していく『The A.R.C』を前に一切怯まない遊矢。 そして遊矢の中にいる三人。 それを見てズァークは顔を歪ませるほど笑う。

 

「面白い……オレが捨てた『分身(オレ)』が手を組むとはな……ならキッチリとここで消してくれる!」

 

 ズァーク:LP1000 手札0枚 モンスター/《覇王越龍 The A.R.C》

 

「オレのターン!」

「……ドローをしない……?」

「『The A.R.C(オレ)』が存在する限りオレはドロー出来ず、カードを手札に加えることも出来ない」

「なっ……!? 何という制約効果だ!」

 

 高レベルになればなるほど、その効果が強力であればあるほど、カードには何らかの制約がある。 例えば厳しい召喚コスト、例えば大きなライフコスト、だが確実に発揮される強力な効果やそのためのコンボによりデメリットなど無いに等しい場合もある。 だからこそ手札を増やすことが出来ないデメリットに誰もが驚愕する。

 

「ふはは、何を惚けている。 もはやこのオレに、『覇王』を超越したこの『The A.R.C(オレ)』に僕は必要なし! ましてや仲間など邪魔な存在! 唯一無二にして天下無双! この世の頂点に今オレが君臨しているのだ!!」

「ズァーク……」

「さぁバトルだ! その矮小な伏せモンスターを破壊してくれるぅ!!」

 

 ズァークの口から放たれるブレスが伏せモンスターを貫く。

 

「うおっ……! 俺は破壊された《EMアカペラッコ》(オリカ)の効果を発動!」

「何……?」

「『アカペラッコ』は戦闘で破壊された時、デッキからレベル5以上の『EM』ペンデュラムモンスターを特殊召喚できる!」

「ちっ、リクルートか……」

 

『The A.R.C』が封じているのは手札に加える行為。 直接特殊召喚する効果ならばその隙間をつける。

 

「俺はレベル6の《EMレ・ベルマン》を守備表示で特殊召喚!」

 

 《EMレ・ベルマン》 ☆6 DEF/2600

 

「あれは俺とのデュエルでペンデュラムスケールにセッティングしていた……」

 

 それはエクシーズ次元に到着して間もない頃の話。 まだ鬼神となって目につく全てをカードにしようとしていたカイトとデュエルをした際、遊矢はこのカードのペンデュラム効果を使って《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》を呼ぶための布石になった。 シンクロ次元に引き続きエクシーズ次元で使われたモンスターを呼び出していく。

 

「……オレはこれでターンを終える」

 

 手札もなければ発動できるカードも無し。 ズァークは攻撃のみでターンを終了してしまう。

 

『へ、何だよあいつ。 意外と大したことないな』

『うん、貫通効果もなければ自分のターンに発動できる効果もない。 そこは『覇王龍』の頃と変わらないねぇ』

『臆せず行くぞ遊矢!』

「おう! 俺のターン!」

 

 遊矢:LP1000 手札0枚 伏せ0枚 モンスター/《EMレ・ベルマン》 ペンデュラムスケール/『星読み』1ー『時読み』8

 

「ドロー!」

 

 3ターン目、ここまでで『The A.R.C』の効果はかなり判明してきた。 あとは攻めるのみ。 遊矢はドローしたマジックカードを発動する。

 

「俺は《ミラクル・コーリング・マジック》を発動する!」

「マジックカードは無意味だ!」

「違うよ、これは俺に対するマジックカード。 フィールドのペンデュラムモンスターをリリースし、デッキから通常魔法と速攻魔法を1枚ずつフィールドにセットする!」

「何!?」

 

 直接のセット、ズァークは先ほどまで対峙していた沢渡の事を思い出す。

 

「そしてセットされたカードはターン終了時に除外されるけど、速攻魔法はこのターン即座に発動できる!」

「流石遊矢! この俺様の戦術が一番だってしっかり理解してやがるぜ!」

 

 デッキから直接セットされた二枚の魔法カード。 そしてモンスターはリリースされてしまったが、まだペンデュラム召喚が残っている。

 

「お楽しみは……これからだ!!」

「っ!!」

 

 遊矢は笑顔でデュエルを始める。

 

「俺はセッティング済みのペンデュラムスケールでペンデュラム召喚! こい、『EM』達!」

 

 《EMオッドアイズ・シンクロン》 ☆2

 《EMアカペラッコ》☆3

 《EMブランコブラ》☆4

 《EMオオヤヤドカリ》☆5

 《EMレ・ベルマン》☆6

 

 鮮やかに順番通りに降臨する『EM』達。 それを見たシンクロ次元の人間は気付く。

 

「ねぇあれって!」

「あぁ、遊矢がジャックとのデュエルで見せた……」

「『ストレートペンデュラム』!!」

 

 ポーカーのストレートのように順番通りに並べられたモンスター達。 その光景に誰もが目を奪われる。

 

「どうだズァーク?」

「ふん! 再び『ブランコブラ』でダイレクトアタックを狙おうとしているならば大きな間違いだ!」

「あ、いやそうじゃなくて……」

「『The A.R.C(オレ)』が戦闘及び効果で破壊したモンスターが再びフィールドに現れた場合、オレが植え付けた恐怖により効果は無効となり、その攻撃力も失い強制的に攻撃表示となる!!」

「え、マジ!?」

 

 これを受けるのは『レ・ベルマン』以外の『EM』達。 だがそんな事を遊矢は気にしてはいない。

 

「そんな事よりさ、ズァーク」

()()()()()()……だとぉ?」

「俺のストレートペンデュラム、どうだった? ()()()か?」

「何……?」

 

 遊矢はこの状況でズァークに聞いているのだ。 『()()()()()()()()()()()()()()()()()』かどうかを。 そしてその意図に気付いたズァークは苛立ち一蹴する。

 

「黙れ! もはやかつての『覇王龍ズァーク(オレ)』が求めていた『エンタメ』など不要!」

「それはダメだ」

「何だと……!」

 

 遊矢は真っ直ぐな瞳でズァークを見つめる。 その目にはしっかりとした闘志と意思が籠っている。

 

「零児の言葉は俺にも届いていた。 『ズァークという悪魔は社会が生み出してしまった』……だったらここでお前を倒すだけじゃあダメなんだ」

「遊矢……」

 

 それは他の次元にも言える話である。 デュエルが全てになったが故に発生してしまう格差や価値観の歪み。 ここでズァークを倒すだけで終わってしまっては再び同じことが繰り返されると遊矢は理解していた。

 

「だからズァーク、お前には笑顔になってもらう!」

「なんだとぉ……!」

「他の誰でもない……『()()()()()()』で!!」

 

 スタンダードからずっと遊矢の課題であった『自分らしさ』の発見。 父親から『受け継いだ』エンタメを自分のエンタメにどうすれば繋げられるのか。 その答えを今遊矢は言葉にする。

 

「俺のエンタメは覇王に恐ることじゃない、父さんの言葉に従うことじゃない。 俺の言葉で、俺の思いで! みんなを笑顔にすること! ズァーク、お前も例外なく笑顔にすることだ!!」

 

 誰もがその言葉に心を打たれた。 全ての次元を超えてきた少年は、目の前の破壊と終焉の権化すらも笑顔にしようと言うのだ。 馬鹿げている話、だが不思議と遊矢ならやってくれる期待が胸の内で膨らんでいく。 そしてそれは遊矢を応援する声援となる。

 

「いいぞ遊矢ー!」

「塾長……!」

「安心しなさい! このメリッサ・クレールがしっかりとシティのみんなに実況で届けるわ!」

「遊矢ー! ワクワクするエンタメを期待してるわよー!」

「メリッサ……グレース……!」

 

 次々と届けられる声援に遊矢は身を震わせる。 身体の内側から込み上げてくる謎のパワーが、遊矢の全身に漲る。

 

「よぉし……レディース・アーンド・ジェントルメーン!!」

 

 遊矢は溢れんばかりの声援に応えるように声を上げる。

 

「皆様には第一幕、『EM』による空中ブランコショーをお届けしました。 これから第二幕、デュエリストが別の人間に入れ替わるイリュージョンショーをご覧下さい!」

『うおおおおおおおおお!!』

「入れ替わるだと……」

 

 鳴り響く歓声の中ズァークは遊矢の言葉に何かが引っかかった。 そしてそれはすぐに目の前で披露される。

 

「それでは計4回によるイリュージョンをご覧あれ!」

 

 遊矢が指を鳴らすと真っ白な煙が渦を巻いて遊矢にまとまりつく。 そしてその煙はすぐに晴れ、中から黒を基調とした服装のデュエリストが現れる。

 

「やれやれ……最初は俺か」

『ユート……!?』

 

 零羅の中にいるレイ、そしてそのレイの中から瑠璃がユートの名を呼ぶ。 その声に気付いたのか、ユートは少しだけ零羅達の方を向き、小さく微笑む。

 

『ユート……!』

「瑠璃、見ててくれ」

『うん!』

 

 久方ぶりに見る瑠璃の本当の笑顔に少しだけ顔を赤らめるも、ユートはすぐにズァークに向き直る。

 

「行くぞ!」

「っ!」

「『レ・ベルマン』の効果発動! このカードのレベルを任意の数だけ下げ、このカード以外の『EM』にそのレベルを受け渡す! 俺はレベルを二つ下げ、『オッドアイズ・シンクロン』のレベルを二つ上げる!」

 

 《EMレ・ベルマン》 ☆6→4

 《EMオッドアイズ・シンクロン》 ☆2→4

 

 これでレベルが揃った。 彼のエースを呼ぶための準備が整う。

 

『これでモンスターのレベルが4に揃った!』

「俺はレベル4となった『レ・ベルマン』と『ブランコブラ』でオーバーレイ、エクシーズ召喚!」

 

 呼び出すモンスターは決まっている。

 

「漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙! 今、降臨せよ! 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》!!」

 

 《ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン》(アニメ) ★4 ATK/2500

 

 全身を黒に染め上げた漆黒の竜が現れる。 それはレジスタンスを主張する姿であり、決して折れぬ決意の証。

 

「よし、次行くぞ」

『ちょっとユート、少しだけでいいからエンタメに協力してよ』

「な!? 俺にもやれと言うのか!?」

『おい早くしろ。 あとがつっかえてんだ』

「くそ……今回だけだぞ」

『あ、指をしっかり鳴らしてくれよ』

「注文が多いな!?」

 

 ユートは一回咳払いをし、恥ずかしそうに次にバトンを渡す。

 

「……あー……次の出番だ!」

 

 少しだけぎこちない指パッチンの後に再び白煙が渦を巻く。 そして次に現れたのは白のライダースーツを身にまとったデュエリストだ。

 

「よっしゃああ! ようやく俺の出番だぜ!」

『ユーゴ!?』

「おうリン! 見ててくれよな!」

 

 ユーゴの登場に次はリンが声を上げる。 ユーゴはそれに力強いガッツポーズで応える。

 

「また遊矢お兄ちゃんにそっくりな人……」

「だけど顔だけなんだよな似てるのって」

「うん、服装とか言葉使いとか全然似てないね」

 

 他の次元の人間が次々と遊矢そっくりの人間が現れて驚いているが、遊勝塾の子ども組は意外と冷静な視点で入れ替わる遊矢シリーズを見ていた。

 

「次は俺たちの番だ! 行くぜズァーク!」

「……!」

「俺はレベル3の『アカペラッコ』にレベル4になった『オッドアイズ・シンクロン』をチューニング!」

『行け、ユーゴ……!!』

 

 リンは小さな応援をユーゴ、そして今から現れる美しき翼を持つドラゴンに送る。

 

「その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て! シンクロ召喚! 現れろ、《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》!!」

 

 《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》(アニメ) ☆7 ATK/2500

 

 エクシーズの次はシンクロ。 『ダーク・リベリオン』とは真逆の白のドラゴン。 その美しさに皆が息を漏らす。

 

「さぁて俺はここまでだ。 おら、出番だぞ!!」

 

 ユーゴが指を鳴らし、三度目の白煙に包まれる。 そして中からは紫色の怪しげなデュエリストが。

 

『ユーリ……!』

「ユーリ!!」

「ご機嫌ようプロフェッサー、セレナ。 そして融合次元のみんな」

 

 ユーリは恭しく頭を下げる。 一見礼儀正しい姿に見えるがその口からは発せられるのはセレナを小馬鹿にする言葉であった。

 

「セレナ、流石の君も他の女の子と一緒になれば、狂犬みたいな性格も大人しくなるみたいだねぇ」

『……なんだと貴様』

「むしろあのじゃじゃ馬姫様が大人しいなんて逆に気持ち悪いなぁ〜ねぇ?」

『ユーリ! 言わせておけば貴様ぁ……!!』

 

 自分を侮辱されてはセレナは黙っていない。 いつもの凶暴さを見せるが、それを見てユーリは言う。

 

「そうそう、君はそれくらいがちょうどいい」

『なに……?』

「いつもの調子で、悔しそーに僕のデュエルを見ててよ」

 

 セレナはセレナらしく自分のデュエルを見ていろ、と。 それでは調子が狂うとユーリは不器用に伝えたのだ。 ユーリの意外な言葉にセレナは驚くも、いつもの元気な笑顔でユーリを応援することにした。

 

「プロフェッサー……いや全次元の人間に見てもらおうか。 アカデミアの、原初にして最強の融合を!」

「ユーリ……」

「……プロフェッサー、僕はあんたに恨みとかはないよ。 純粋に感謝している。 この化け物と戦える力をくれた事に……!」

 

 ユーリは妖しく舌舐めずりをする。 まるで獲物を発見した蛇のように。

 

「さぁて、覚悟しなズァーク!」

「……ッ」

「僕は《ミラクル・コーリング・マジック》の効果で伏せられた通常魔法、《誘闇融合(ダークテンプテーション・フュージョン)》を発動!」

 

 ここでセットされた1枚目のカードを発動させる。 その名に『融合』を持つことから間違いなく融合召喚が行われることが確定である。

 

「このカードはフィールドで融合を行うカード……だけどエクストラデッキに闇属性ペンデュラムモンスターが表側で存在する場合、そのモンスターを特殊召喚する。 そして呼び出したモンスターとそのモンスター以外の自分フィールドのペンデュラムモンスターを闇属性として扱い融合できる!!」

「闇属性のペンデュラムだと……」

「シンクロ素材になったペンデュラムはエクストラデッキに加わる……そして『オッドアイズ・シンクロン』は闇属性! よって特殊召喚!」

 

 そしてフィールドにいるペンデュラムは残りの水属性の『オオヤヤドカリ』。 その属性も闇に変わる。

 

「闇属性となった『オオヤヤドカリ』と『オッドアイズ・シンクロン』を融合! 闇に誘われし演者よ、魅惑の花弁に身を包み闇を彩り狂い咲け! 融合召喚! 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》!!」

 

 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》(アニメ)☆8 ATK/2800

 

 三体目のドラゴンは妖艶な見た目の紫竜。 しなる尾に糸を引く牙、凶暴さも見せつけていく。

「それじゃあここで戻ろうか」

 

 ユーリが指を鳴らし、最後の白煙に包まれ、その見た目は遊矢の姿に戻る。 まさにイリュージョン、歓声と拍手が鳴り響く。

 

「いいぞ遊矢ー!」

「三体のドラゴンを揃えつつ、あんなパフォーマンスをするなんて!」

 

 タネも仕掛けもある訳だが、それを鮮やかに見せるのがエンタメデュエリスト。 遊矢は確実に父を超える存在に近づいていた。

 

「さて……それじゃあ行くぞ!」

「愚かな! 今更そいつら如きで『The A.R.C(オレ)』に勝てると思っているのか!!」

「やってみなくちゃあ分からない! 俺は『スターヴ・ヴェノム』の効果を発動! 相手フィールドの特殊召喚されたモンスターの攻撃力の合計分、このモンスターの攻撃力をアップさせる!」

 

 ズァークのフィールドには『The A.R.C』のみ。 よって5000ポイントが丸々『スターヴ・ヴェノム』に加えられる。 これは相手モンスターを参照して自身に付加する効果なので防がれない。

 

 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》 ATK/2800→7800

 

「次は『ダーク・リベリオン』の効果発動! エクシーズ素材を一つ使い、相手モンスターの攻撃力を半分にし、その数値を『ダーク・リベリオン』に加える!」

「無駄だ! 効果は受けない!」

「そう、受けない。 ……でも対象には取れる!」

「何!?」

 

 《毒蛇神ヴェノミナーガ》という完全耐性を持つモンスターがいる。 実はこのモンスターは『The A.R.C』以上の耐性持ちなのだ。 それは対象に取れるかどうかで変わる。 効果を受けなくても対象には取れる。 それだけで突破口が出来てしまう。

 

「レベル5以上のモンスターを対象にしたモンスター効果が発動された時、『クリアウィング』の効果を発動できる!」

「ッ!」

「発動されたモンスター効果を無効にし破壊、そして破壊したモンスターの攻撃力分『クリアウィング』の攻撃力に加える!」

 

 《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》 ATK/2500→5000

 

『クリアウィング』の『ダイクロイックミラー』によるコンボはユーゴが得意とする戦術である。 自身のモンスターを使う事で守りの盾を攻めの矛に変えるトリッキーなコンボだ。

 

「これで攻撃力5000以上のモンスターが二体……だが……」

 

 零児はメガネを上に上げ状況を冷静に判断する。 実際フィールドだけを見れば遊矢の方が有利。 だが『The A.R.C』の『覇王腕』の前には無意味。 ならばペンデュラムで攻撃し、発動回数を削る方がよっぽど有益である。 不安を感じている零児とは違い遊矢は未だ笑顔を絶やさない。

 

「バトルだ!」

「……まさか……!?」

 

 零児は気付く、遊矢のフィールドに残っているもう一枚の伏せに。

 

「俺は『クリアウィング』で《覇王越龍 The A.R.C》に攻撃!」

「無駄だ! 『The A.R.C』の効果発動! オレが除外した《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》はシンクロモンスター! よって攻撃してきたシンクロモンスターを破壊し、ライフを半分にする! 『覇王腕』!!」

「ッ!!」

 

『The A.R.C』が異次元から引きずり出した《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》を『クリアウィング』目掛けて投げつける。 そしてそこにさらに拳を叩きつける。 その衝撃で大地は揺れ、大気もさえも揺れてしまう。

 

 遊矢:LP1000→500

 

「くっ……まだだ! 《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》で《覇王越龍 The A.R.C》を攻撃!」

 

 ライフを半減されても遊矢は攻撃を続ける。 そして再び『The A.R.C』の効果が発動してしまう。

 

「何度やっても無意味だ! 『The A.R.C(オレ)』が除外した《デストーイ・マッド・キマイラ》は融合モンスター! よって攻撃してきた融合モンスターを破壊し、貴様のライフを半分にする! 『覇王腕』!!」

「ぐわっ!!」

 

 遊矢:LP500→250

 

 これで遊矢のモンスターは全て消えてしまった。 次のターンダイレクトアタックをくらい負けるのは目に見えている。 のにも関わらず遊矢の笑顔は消えることはない。

 

「なぜ榊遊矢は無駄だと分かっているのに攻撃を……」

「父さん、遊矢のフィールドを見てください」

「フィールド……そうか!」

 

 そう、遊矢には《ミラクル・コーリング・マジック》の効果で伏せられた『速攻魔法』があり、しかも《ミラクル・コーリング・マジック》の効果で『このターン』発動できる。

 

『さぁ、これで条件は揃った』

『新しい扉が開いたぜ!』

『見せてやろう遊矢!』

「あぁ! 」

 

 遊矢は勢いよくリバースカードを発動させる。

 

「速攻魔法、《オッドアイズ・ペンデュラムゲート》を発動!」

「何だと!?」

「このカードは墓地にドラゴン族の融合・シンクロ・エクシーズモンスターがそれぞれ1体以上存在する時に、その内の1体を除外して発動する。 俺が除外するのは『ダーク・リベリオン』!」

 

 遊矢のペンデュラムスケールの間から二体の『覇王門』を合わせたようなゲートが出現し、そこに墓地の『ダーク・リベリオン』が入っていく。

 

「そしてデッキの《オッドアイズ・ドラゴン》を除外することで手札・デッキ・墓地・エクストラデッキから《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》を特殊召喚する!」

「そうか……そのために四天の竜の内の三体をワザと墓地に……!」

「こい! 本日の主役! 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!!」

 

 《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》 ☆7 ATK/2500

 

 それは全ての次元の人間が、一度は見たことのあるドラゴン。 世にも珍しい二色の眼を持つ竜、遊矢のエースにしてフェイバリット。 どんな時でも遊矢と共に諦めず戦い続ける、まさに『振り子の竜(ペンデュラム・ドラゴン)』。

 

「言っただろ? 『計4回』の入れ替わりだって」

『うおおおおおおおお!!』

「ぐっ……!」

 

 どんどん盛り上がっていく遊矢のエンタメデュエル。 ピンチすらもエンタメの材料にしていく。

 

「だが今更『オッドアイズ』如きでは!」

「いいや、ここからさ! 発動した《オッドアイズ・ペンデュラムゲート》はフィールドに残り続ける」

 

 これもまた世にも珍しいフィールドに残り続ける速攻魔法。 そして放たれる強力な効果。

 

「そしてこのカードの効果で特殊召喚された『オッドアイズ』はこのターン戦闘では破壊されず、発生する俺へのダメージは0になる!」

「おお! 戦闘じゃ無敵ってわけか! ……それなら相手のターンに出してもよかったんじゃねぇか?」

「いい質問だ沢渡」

 

 沢渡の至極真っ当な疑問を受けて遊矢はフィールドに残された『ペンデュラムゲート』を指差す。

 

「《オッドアイズ・ペンデュラムゲート》は『オッドアイズ』が相手モンスターに攻撃した場合、ダメージ計算後にお互いの攻撃力の差分の数値をダメージとして相手に与える!」

「やつの攻撃力は5000、遊矢の《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の二倍! つまり2500の効果ダメージで遊矢の勝ちになる!」

「おお!」

「だがそのためには『The A.R.C』の『覇王腕』をどうにかせねば……」

 

 権現坂の言う通り、まだ除外されたペンデュラムは二体いる。 だが遊矢はそれに臆することなく攻撃を開始する。

 

「バトルだ! 行け、『オッドアイズ』!」

「無駄だと言うことが分からぬかぁ! 『The A.R.C(オレ)』の効果を発動! 貴様のモンスターを破壊する!」

 

『The A.R.C』が異次元から《DD魔導賢者ニコラ》を一体引きずり出し、『オッドアイズ』目掛けて投げ飛ばす。 だが遊矢はそんな事には動じずに『ペンデュラムゲート』のさらなる効果を発動させる。

 

「この瞬間、《オッドアイズ・ペンデュラムゲート》のさらなる効果を発動!」

「バトル中に発動するだと!?」

「『オッドアイズ』が攻撃した場合、そのバトルの間だけ『オッドアイズ』の攻撃力を0にし相手が受ける全てのダメージを0にする! そして『オッドアイズ』を効果破壊から守る!」

 

『ペンデュラムゲート』がオッドアイズを包むように展開され、飛ばされてきた『魔導賢者ニコラ』をゲートの中に収集する。

 

「破壊が起こらなければ俺のライフも半分に出来ない! そしてバトル終了と共に攻撃力は元に戻る」

「ちっ……!」

「そして《オッドアイズ・ペンデュラムゲート》は墓地のドラゴン族モンスターを二体除外する事で、再度『オッドアイズ』に攻撃を行わせる事が出来る!」

「追加攻撃まであるだとぉ!?」

 

 遊矢の墓地には『クリアウィング』と『スターヴ・ヴェノム』が残されている。 ちょうど二体、これにより『オッドアイズ』はさらに攻撃が可能となる。

 

「二体のドラゴンを除外し、『オッドアイズ』で攻撃!」

「ちっ……『The A.R.C(オレ)』が除外したもう一体の《DD魔導賢者ニコラ》もペンデュラム、よって効果発動!」

「俺も《オッドアイズ・ペンデュラムゲート》の効果を発動だ!」

 

 これにてペンデュラムは打ち切り、もう『The A.R.C』はペンデュラムの攻撃に対して何も出来なくなる。 だが遊矢もまた攻撃が途切れてしまう。

 

「俺はターン終了だ」

 

 そう、もう『ペンデュラムゲート』の効果は使えず手札も0になっている。 遊矢はフィールドに『オッドアイズ』が残されているものの戦闘耐性はもう消えている。 つまり『絶体絶命』なのだ。

 

 ズァーク:LP1000 手札0枚 モンスター/《覇王越龍 The A.R.C》

 

「オレのターン、これで終わりにしてくれる!」

 

 有無を言わせずバトルフェイズへと移行する。

 

「この『The A.R.C(オレ)』の攻撃で終わりだ!」

「遊矢!」

『遊矢!!』

 

 遊矢の名を叫ぶ零児、そして零羅の中にいるレイの最後の一人、柚子。 確かに遊矢の表情は少し硬い、だがその笑顔は崩れない。

 

「《オッドアイズ・ペンデュラムゲート》の3つ目の効果を発動!」

「ふん! また貴様自身に対する効果か」

「ご明察、オレはフィールドの『オッドアイズ』をゲームから除外し、このターン俺がどれだけのダメージを受けても0にはならず100までしか減らない!」

 

 フィールドにいた『オッドアイズ』は『ペンデュラムゲート』へと飛び込む。 そして遊矢の周りに『ペンデュラムゲート』が展開され光を放ちながら高速で回った後、光を遊矢に残して消滅する。

 

「『オッドアイズ』がフィールドから消えたことで『ペンデュラムゲート』は墓地に送られる……」

「ならばライフが残るという生き地獄を味わえ! 『超越の五次元破壊砲(アーク・エリア・クラッシャー)』!!」

 

 ーーその咆哮は、『ダーク・リベリオン』のように雷が迸り、『クリアウィング』のように風を纏い、『スターヴ・ヴェノム』のように禍々しく蠢いて、『オッドアイズ』のように赤々と輝いていた。

 

「ーーッ!!」

 

 遊矢:LP250→100

 

 遊矢はその咆哮をモロにくらい宙に吹き飛ぶ。 誰もが遊矢の名を叫ぶ。 だがそれは遊矢の耳に届くことなく遊矢は融合次元の海に落ちる。

 

「遊矢ああああああ!!」

 

 誰かの悲痛な叫びが、痛いほどに4つの次元に響き渡る。 その中でズァークは恍惚の表情で一人笑っていた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーあぁ、ダメだ

 

 遊矢は水底に落ちていく。

 

 ーーーー身体に力が入らない。 そりゃそうか、だって5000の攻撃力を持つモンスターの、それもズァークの『覇王』の攻撃をモロにくらったんだ……

 

 遊矢は虚ろな眼差しで、どこでもない場所を見つめていた。

 

 ーーーー逆転までの布石はもう打ってある……あとあのカードを引くだけなのに……

 

 遊矢は自分のデュエルディスクを見つめる。 フィールドにセッティングされた『時読み』と『星読み』、墓地に眠る『EM』達と四体のドラゴン。 そして未だデッキで息を潜めている自分の仲間達。 勝利への条件はすでに揃っているのだ。

 

 ーーーーやっぱり俺は情けないや

 

 ただ遊矢が……立ち上がらなければ意味はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊矢ー!!」

「くふふ……あーっはっはっは!!」

 

 遊矢が海に落下し、その光景をズァークは嬉しそうに狂い笑う。

 

「これでやつはもう終わりだ!」

「遊矢……!!」

 

 誰もが遊矢の安否を確かめたくて堪らない中、零羅は一人違う思いにあった。

 

「……レイ?」

『ーーーーーーーー』

「うん……分かった。 遊矢をお願い!」

『ーーーー』

 

 零羅の身体が金色に光ると、そこからレイのシルエットが形成される。 そして遊矢目掛けて海に消えていく。

 

「ふん、今更肉体を持たぬ女如きに何が出来る! もう『エンタメ』は終わった! くだらん茶番は終了した!」

 

 ズァークの勝ち誇った言葉。 確かに遊矢のフィールドにはセッティングされた二枚の魔術師のみ。 手札もなく、エクストラデッキには『The A.R.C』によって破壊されたモンスターのみ。 例えフィールドに呼び出しても『The A.R.C』の呪縛により無防備に身を晒してしまうだけ。 間違いなく遊矢は絶望的な状況ではある。

 

「……茶番だと……」

 

 だが、ズァークの言葉は、『茶番』という言葉だけは見逃すことが出来ない。

 

「ふざけるなズァーク!!」

 

 漢、権現坂 昇はズァークの言葉を許せなかった。

 

「茶番だと……違う! 遊矢はお前の為にエンタメをしていたのだ!」

「オレの為だと……」

「そうだよ!」

 

 権現坂に続き素良もまた、ズァークの言葉が許さなかった。

 

「さっきのターン、遊矢はドラゴン達を自爆特攻させずに守備表示で出していれば少なくとも3ターンの間手札を貯めることが出来た! でも遊矢はしなかった、何故だか分かるかズァーク!」

「…………何だと」

「ズァーク、それはお前の笑顔を取り戻すためだ!」

 

 黒咲もまた、遊矢のエンタメを否定させないために声を上げる。

 

「榊 遊矢というデュエリストは、自分の勝敗よりも自分以外の全員を笑顔にするためにデュエルをしている。 ズァーク、お前は遊矢のエンタメをまだ倒してはいない! シンクロ、エクシーズ次元の本当の笑顔を取り戻した遊矢のデュエルをまだ味わってはいない!」

 

 三人の言葉に、皆が同意し、頷く。 そう、全ての次元も人間は知っている。 榊 遊矢のエンタメデュエルを、ライフが残ってる限り遊矢のエンタメは終わらないことを。

 

「黙れ! オレに笑顔など不要!」

「本当にそうかな?」

 

 零児の冷静な言葉が激昂するズァークに突き刺さる。

 

「お前は遊矢達を捨てたと言ったな。 ならばその集合体であったお前は誰なのか分かっているのか? ズァークですらなくなったお前は、自分がどんな存在なのか分かっているのか!?」

「ッ!?」

「分かっていないはずだ。 今のお前の中にあるのは人々に対する怒りと恨みの怨嗟、実態のない破壊の虚像!」

「ぐっ……!」

「だから遊矢はエンタメをした! ズァーク、お前に、お前だけの笑顔を持って貰うために!!」

「ぐっ、ぐぅぅぅ!!」

 

 零児はずっと目の前のズァークだった存在のことを考えていた。 そして『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』である事に気付いた。 そして遊矢はその事に誰よりも早く気が付き、そしてズァークの笑顔を取り戻すためにエンタメデュエルをしていたのだ。

 

「私達は信じる! 遊矢のデュエルを! 遊矢のエンタメを!」

 

 全次元の願いが一つにまとまっていた。 遊矢のエンタメを信じること、すなわちズァークに本当の笑顔が戻ってくることを。

 

 誰もが静かに、遊矢の帰還を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い水底に沈んでいく遊矢はフラッシュバックのように今までのデュエルを思い起こしていた。

 

 ーーーー零児ならきっと涼しい顔で乗り切るんだろうな……権現坂なら苦しくても立ち上がって……沢渡ならーー

 

 次々と遊矢の脳裏には仲間達の姿が思い浮かぶ。 共に戦い、時にぶつかり合い、そして最後には分かりあり友となったそれぞれの次元の仲間達。

 

 ーーーー父さんなら……

 

 そして不意に思い浮かぶ父の姿。 そして思い起こされるかつての記憶。

 

『どうした遊矢』

 

 記憶の父は優しそうな表情で……

 

『もう諦めるのか? お前のエンタメはそこまでか?』

 

 記憶にない言葉を口にする。

 

 ーーーー父さん?

 

『お前のエンタメはこれからがクライマックスなんだろう? ならここでのんびりしてはいけないな』

 

 ーーーーでも、俺はもう立ち上がれる程の力が……

 

『お前一人だけならな。 だが遊矢、お前は私が見ない内にたくさんの仲間に出会ったじゃないか』

 

 ーーーー仲間……

 

『仲間と共に立ち上がれ遊矢! もうお前のエンタメは一人じゃ成り立たない、共にある仲間と共にズァークを、全次元を笑顔にしてやれ』

 

 そう言って遊勝はスマイル・ワールドのカードを見せて消える。 そして代わりにたくさんの仲間の姿が映し出される。

 

 ーーーー俺の仲間……!

 

 権現坂、沢渡、黒咲、月影、零羅、セレナ、デニス、零児、素良、徳松、デュエルチェイサー227、ジャック、クロウ、シンジ、カイト、タイラー姉妹、BB……次々とデュエルをし、仲間となったデュエリスト。 そして自分の中にいる同胞達の顔を思い出し、遊矢は水中で目を覚ます。

 

『ったく、ようやく気付いたか』

「ユーゴ……」

『ずっと声をかけていたんだぞ』

「ユート……」

『この程度でくたばっちゃあ勿体無いよ? ほら、もっとしっかりしてよ』

「ユーリ……みんな……!」

 

 遊矢の中にいる3人のデュエリスト。 それは間違いなくデュエルの中で作り上げた絆がそこにあり、ズァークの為に戦う意思は一つとなっていた。

 

「私たちもいるわ!」

『!?』

 

 そこに眩い光を放ちながら遊矢の目の前にレイ……ではなく『柚子』が到着する。 流石にこれには遊矢達も面を食らう。

 

『私達も共に戦うぞ』

『セレナ……』

『しっかりと手綱を握ってあげるからね』

『リン……!』

『だから私たちの願いも込める、みんなの笑顔のために!』

『瑠璃……!』

 

 柚子もまた、遊矢のように自身の身体の内に3人の魂が入っている。 そして遊矢と同じように好きに表に出すことができる。 柚子は遊矢の手を握り、共に戦う意思を見せる。

 

「私も行くよ、遊矢のエンタメをみんなに届けるために!」

「柚子……!」

 

 遊矢は無意識の内に柚子の手を握り返していた。 冷たい海の中でも手の平から伝わる柚子、セレナ、リン、瑠璃の温もりを遊矢達は感じ取る。 と、そこに『星読み』と『時読み』がやってくる。

 

「『星読み』……『時読み』……」

 

 何かを伝えそうな目で遊矢を見る。 柚子には2体の魔術師の姿に見えているのだが……

 

「《アストログラフ・マジシャン》……」

 

 遊矢の目には2体が一つになっていた姿に見えた。 そしてその本心もまた感じ取っていた。

 

「そっか……お前もズァークを笑顔にしたいんだな」

 

 静かに頷く2体の魔術師。 それを見て遊矢は決意を固めるように表情を変える。 ……『笑顔』に。

 

「よし、行こうみんな! クライマックスをみんなに届けるために!」

『おー!!』

 

 榊 遊矢、最後のターンで最高のエンタメを届けるべく、水面を目指す。

 

 




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