だから作りました。
それは融合次元で起きた激闘。 覇王龍ズァークとのデュエル。
「私は……レイ!」
「レイ!?」
融合、シンクロ、エクシーズ、そしてスタンダードの世界のデュエリスト達が命懸けで繋いだペンデュラムのバトン。 素良から黒咲、権現坂、沢渡、零児、そして零羅にレイ。
「私は《エン・フラワーズ》を発動!」
かつてレイが覇王龍ズァークを退けた四枚の『エン』カード。 それは墓地に一定数の融合、シンクロ、エクシーズが存在することで発動が可能となる。
すなわち……
「覇王龍から融合・シンクロ・エクシーズの要素が取り除かれた!」
覇王龍全ての無力化、そして逆転のための軌跡はすでに描かれていた。
「貴様!!」
「これであなたは終わりよ! 私は《エン・フラワーズ》の効果でフィールドの全てのモンスターを破壊し、墓地に送った数だけ600ポイントのダメージを与える!」
「おのれぇ〜ッ!!」
大きく削られたズァークのライフ。 これでズァークのライフは残り1000。 なおペンデュラムは墓地に送られず全てエクストラデッキに行くのでその分のライフは減らない。
大きく削られたライフはズァークのメッキを剥がすようにボロボロに崩れ始める。 そして零児、レイとなった柚子がズァークの中に眠る遊矢を呼び覚ます。
「俺のターン!」
ズァーク……いやユーリ、ユーゴ、ユート、遊矢のラストターンが幕を開けようとしていた。
「俺は《スマイル・ユニバース》を発動! エクストラデッキから効果を無効にしてモンスターを可能な限り特殊召喚する! そしてこのモンスター達は通常モンスターとなる!」
再びフィールドに舞い戻るズァークと眷属のオッドアイズ。
「おいおい、まだズァークのままなんじゃねえか!?」
声を上げた沢渡だけでなく、デュエルを見ていたい全次元の人間はそう思ってしまう。 だがズァークの中にいる遊矢は死んではいなかった。
「ペンデュラムは不滅だ! 何度でもーー」
「させない! 俺がしてしまった事には俺自身が終止符をうつ!」
ズァークの顔が歪む。 何かが蠢いているように不安定な歪みを作り出している。 だが遊矢の心がそれを振り切りズァークに行動をさせまいとする。
「《スマイル・ユニバース》の効果で特殊召喚されたモンスターは通常モンスターとなり、攻撃力の合計の数値分相手のライフを回復させる!」
ズァークの攻撃力は4000、オッドアイズの攻撃力は2500。 乱入ペナルティーで半分となった零羅のライフは8500まで回復する。
「俺はこれでターンを終了する!」
「貴様! 何を!?」
「俺はもう悪魔になんてならない! 零羅、やれ!」
バトルフェイズにも入らずに一気にターンを終わらせる。 もう誰も傷つけさせないと強く思っている遊矢の心がズァークの肉体を硬ばらせる。
「ありがとう遊矢、私のターン!」
零羅はドローしたカードを確認することなく《エン・フラワーズ》を発動させる。 《スマイル・ユニバース》の効果で通常モンスターとなっていることでペンデュラム特有のエクストラデッキ行きは出来なくなっている。
「《エン・フラワーズ》の効果発動! フィールドの全てのモンスターの効果を無効にし破壊! その数だけ600ポイントのダメージを与える!」
もはやズァークに勝ち目はない。 このダメージを受けてズァークは再びレイに敗れる。
「ぐっ……!!」
その刹那、ズァークの中にある怒りが、憎しみが、恨みが、想像しうる負の感情が爆発する。
「俺が……我が負けてしまうなら……」
「ズァーク……?」
ズァークの身体からどす黒い瘴気が溢れ出る。 それはズァークを包むようにまとわりつく。
「我が負けてしまうなら……
『ッ!?』
その叫びはレイ、いや零羅……いやこの次元全ての人間に対する憎悪をぶつけた。 誰もが一瞬、ゾッとする凄まじい殺気は皆の視線をズァークに釘付けする。
「お、オ、オオオオオオオ!!」
「な、何だ……!?」
冷静沈着な零児はこのズァークとの激闘で幾度となく嫌な汗をかかされた。 だが今目の前のズァークの奇行には今まで感じたことのない、しつこくじっとりとした吐き気がするくらい恐怖を感じてしまった。 それも仕方ない。 なぜなら……
「オオオオオオオォォォォォ……!!」
「ズァークの口から……」
「何かが吐き出されようとしている……!?」
ズァークは顎が外れるくらい大きく口を開けて何かを吐き出そうとしている。 それはズァークの身体のようにどす黒い瘴気に包まれており、まるで子を産む悪魔のように見える。
「オオオオオオオォォォォォ……カハッ!!」
「何が出やがるんだ……!」
「っ……!」
誰もが固唾を飲み込む。 そんな中吐き出されたソレは瘴気が晴れ姿を現した。
「ぅ……ぅうん……」
『遊矢!?』
「榊遊矢が吐き出された……だと?」
ズァークの口から出てきたのは遊矢。 そう、遊矢だけなのだ。 ユート、ユーゴ、ユーリの姿はどこにもない。 その状況から赤馬零王は、(四人の現し身は遊矢に統合されたのでは?)と憶測を立てて……目の前のズァークの変貌に思考が止まる。
「ふぅぅぅぅ……!」
「なっ!? あれは……!?」
「父さん……? ……!?」
零王の言葉に零児だけでなく皆がズァークを見る。 そこには
「なっ!?」
「なんだあれは……!?」
「のっぺらぼうみたいじゃねぇか!!」
「……ッ!」
予想外の展開に零羅だけでなくレイですらもどうなっているか分からない。 だが遊矢は吐き出された、すなわちあの肉体はもはや抜け殻のような存在。 零羅はこのまま《エン・フラワーズ》の効果で勝ち。
「……よく分からないけどもう《エン・フラワーズ》は発動されている! 僕たちの勝ちだ!」
ーーーーそれはどうかな?
「!?」
その言葉は、余りにも恐ろしく、余りにも狂気的で、聞いたものが発狂してしまうくらいに言葉と認識することが憚れる。 それでも理解してしまう脳に、感情が追いつかない。 そんな零羅を他所に
ーーーーオレは『ズァーク』であることを止める
「え……!?」
ーーーーレイ、貴様に勝つために! 二度とオレが負けぬように!!
不定形のソレは前進を粘土のようにこねくり回され、そして一人の人間の形になる。 そして新たに形成される顔。 それを知っているのはレイと零王のみ。 それは……
「ーーーーオレは『
「あれは人間だったころのズァーク!?」
ズァークは元の人間の姿に戻っていた。 だがレイや零王が知るそれとは少し異なる。 先程まであった大きく広がる禍々しい翼は、骨格だけとなり、空に浮いていて、怪しく光る宝石のような輝きを発している。 そしてズァークの顔には爪で裂かれたような傷が斜めに4つある。
そしてその表情は歪み、嗤っている。
「オレのライフがゼロになる効果が発動された時ィ! オレのフィールド・手札・デッキ・墓地・エクストラデッキから自身以外の『覇王』モンスターを全てゲームから除外する事で、新たなオレをデッキから呼び出す!!」
「デッキから発動する効果だと!?」
「なっ……!?」
「いかん! 零羅!」
ソレは《エン・フラワーズ》にチェーンされる形で発動された。 デッキから直接発動し、デッキから直接特殊召喚される新たな存在。 それはまだ誰も知らない新たな『覇王』。
「降臨せよ! 新たなるオレ! 《
《覇王越龍 The A.R.C》 レベル12 ATK/5000 DEF/5000
その姿は『覇王龍ズァーク』と同等かそれ以上の巨躯。 黒や緑が基調だったズァークとは違い黒と銀色が全身を彩っている。 そしてズァークは『The A.R.C』の胸元から上半身を出し、全ての人間を見下ろしていた。
「クハハハ!! 見ろ世界よ! 『
「……何だあのドラゴンは……!?」
「ズァークの姿よりもさらに禍々しさが強まっている……!」
こんな事は誰にも予想出来なかった。 レイも零王も、すでに神に等しいズァークがさらなる進化を遂げるだなんて微塵にも考えてはいなかった。 一気に溢れる恐怖。 だが零羅はそらを振り切るようにズァークに吠える。
「……たとえ進化したとしてもすでに《エン・フラワーズ》の効果は発動されている! それにチェーンする形で特殊召喚されたなら《エン・フラワーズ》の効果を受ける!」
例え破壊耐性があったとしても四枚の『エン』が無効にしている。 そして相手は普通の効果モンスター。 十分に勝機はある、そう考えていた。
「効果を無効にしてーー」
「言ったはずだ、二度と負けないと!」
その考えもズァークに一蹴される。
「新たなるオレは『
「そんなっ!?」
「完全耐性……!?」
「俺の『アルティメット・ファルコン』と同等の耐性だと!?」
四枚の『エン』カードから発せられる神秘的な光を『The A.R.C』の翼による羽ばたきが掻き消してしまう。 いや、それだけではない。
「な、何が起こってるの……!?」
『The A.R.C』はの全身から黒く輝く閃光が放たれ、『エン』カードを照らしている。
「『
「ま、まさか僕達が負けた時と同じような効果が!?」
「召喚時に発動する絶対破滅効果……!!」
素良とエドは知っている。 『ズァーク』が融合召喚された時、モンスターを全て破壊し、その攻撃力の合計の数値を相手プレイヤー全員にダメージとして与える効果がある。 ゲームエンドまでもっていけるその力はさらに凶悪さを増していた。
「フィールドおよび墓地に存在する元々のカードの種類が融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラムのモンスターを全て除外する!」
「何だって!?」
このデュエルで使用されたランサーズ達のカード全てが除外される。 これで墓地の仲間達の力は消える。 エドと素良との融合モンスター、ジャックとクロウと権現坂のシンクロモンスター、カイトと黒咲のエクシーズモンスター、零児の三体の『DDD』、零王の融合ペンデュラムも全て消えてしまった。
「そしてぇ! 除外された数だけ相手フィールドのカードをゲームから除外し、そのプレイヤーに『
「……は?」
思わず素っ頓狂な言葉を零してしまう沢渡だが、それも無理はない。 ゲームからの除外とバーンダメージなど重量級のモンスターには珍しくはない力だ。 だが4つの次元を旅してきたランサーズでさえ、『一万』のダメージというのには出会った事はなかった。 信じる事すら憚れる馬鹿げた数値。 だがこれは現実であり、確実に零羅に襲いかかろうとしている。
「これで4枚の『エン』を除外し……レイよ! 貴様に1万ポイントのダメージを与える!!」
「そん……な……っ!?」
「いかん! 月影!」
「承知!」
黒く輝く閃光は四枚の『エン』カードを飲み込むように地面から柱のように天に向かう。 飲み込まれたカード達は音もなく崩れ去り消える。 そしてその閃光は天から零羅目掛けて落ちてくる。
「零羅殿!」
「月影!? 来ちゃだめ!」
忍者である月影が零羅を抱えて光が落ちてくる前にその場から離れる。 だが悪しき閃光はそれを逃がす事なく追尾する。
「くっ……これでは……!!」
「月影……」
月影のスピードはDホイールの速度にも匹敵する。 だがそんなものは関係ないと言わんばかりのスピードで零羅を追尾する。 このままでは追いつかれるのは明白である。
「……月影だけでも!」
「零羅殿!?」
零羅は月影の手から飛び立つ。 不意をつかれた月影は目で追うことは出来ても身体は以前前にスピードを出したまま。 零羅に向かうことすら一瞬では出来ない。
「デュエルに敗北したのは僕、だから月影まで傷付くことはないよ」
「零羅殿! 零羅殿ー!」
零羅は自らの身を閃光の前に曝け出す。 月影は手を伸ばすも、それよりも早く破滅の光が零羅を飲み込む。
「零羅!」
「ごめん……みんな……」
光に飲み込まれながら零羅は仲間達に詫びていた。
ーーーーごめんね、レイ。 兄さま。
そして光が爆発する。
「零羅ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
爆発音に零児の悲痛な叫びが混ざり合う。 光が着弾した場所は大きな土煙が覆っていた。
「拙者のせいだ……くっ……!」
月影は爆発の衝撃で吹き飛ばされた。 零児達の所まで飛ばされた月影だが、自らの怪我の心配よりも守れなかった零羅のことを思い悔しがっている。
そんな様子を見て唯一1人、ズァークだけが高らかに嗤っていた。
「フハハハハ!! 見たか、これがオレの力だ! オレはいよいよ憎っくき『エン』を越えた!!」
「ズァーク……貴様ぁ……!!」
零児は怒りで震えていた。 目の前でその巨躯を晒している悪しきドラゴンが、愛する自分の家族を、兄弟をデュエルで消したのだ。 怒りを覚えずになんていられない。
「だがこれでもうオレにデュエルを挑む者は消えた!!」
そう、もう零児は負けている。 つまりこのデュエルにはもう参加することは出来ない。 悔しさと不甲斐なさに零児は拳を握り締める。 血が出るほどに。
「さぁ、オレの勝利を祝福するファンファーレを鳴らすがいい!!」
ズァークの言う通り、デュエルディスクから機械の音声がこの破滅と静寂の空間に鳴り響く。
ーーーー乱入ペナルティー2000ポイント。
「何だと!?」
ただし告げるのは勝利のファンファーレではなく、新たな挑戦者の存在だ。
「一体誰だ!?」
ズァークはその巨躯を利用し、デュエルディスクを構えている者を探す。 いやズァークだけでなく全次元の者がそのデュエリストを探し始める。 そして皆が周囲を確認し、ある一点に視線を集中させる。
「……まさか!?」
そこは零羅が光に飲み込まれた場所。 未だ土煙が舞っていたが、ようやく晴れて来た。 その途中から薄れてゆく煙にそのデュエリストの影を映し出す。
「あれは……!」
最初に気付いたのは権現坂だった。 そしてスタンダード次元の人間、ランサーズと次々とその正体に気付き始める。 そして今煙のヴェールが剥がれその姿を現わす。
『遊矢!!』
零羅の前に立ち、デュエルディスクを構えてズァークを見据えている遊矢の姿がそこにはあった。
「榊……遊矢ァ!!」
吠えるズァークを無視し遊矢は零羅に声をかける。
「零羅、大丈夫か?」
「う、うん……」
「そっか。 月影、零羅を頼むぞ」
「しょ、承知した!」
それだけ言うと遊矢はゆっくりとズァークの側まで歩き始める。
「ズァーク……俺が最後のデュエリストだ!」
全次元の命運をかけた最後のデュエルが始まろうとしていた。
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