天災兎と人喰いトカゲ 〜Armour Zone〜 作:TearDrop
EP.8です。ようやく第1章が終わりに近づいてきました。
第2章からは更に時間が飛び、原作開始となると思われます。
それでは楽しんでご覧ください。
※EP.6についてこの場でご報告を。本来なら、最後にジンとスコール、オータムのやり取りの場面を入れていたのですが、投稿する際にこちらのミスで入れてなかった為、加筆修正しました。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
アマゾンズseason2の結末次第でこの物語の結末も変えるんだなぁ。
オメガは一夏を連れ、千冬の居るモンド・グロッソ世界大会が行われるスタジアムまでジャングレイダーを走らせていた。
一夏はオメガにガシッと掴まっており、時折オメガの顔を覗くが誰かと喋っているのか、一夏の方を一度も見なかった。
自分を亡国機業から救ってくれた恩人だが、こうやって何も喋らないと不安になってしまう。一夏は意を決して声を掛けた。
「あ、あの……!」
「何かな?織斑一夏くん」
「な、なんで俺の名前を……じゃなくて、どうして俺を助けてくれたんですか?」
「君を知ってる人から君が誘拐されたと聞いてね。此処までやって来たんだけど……まさか奴等が君をアマゾンにしようとしてたなんて驚きだけど……」
「俺を知ってる人って……まさか、千冬姉が?」
「そこは想像に任せるよ。所で、君はなんで彼奴らに攫われたか心当たりは?」
「それが、心当たりがないんです。千冬姉の試合を見に来たのは覚えてるんですけど、そこからの記憶が無くって……」
「なるほど……ということは、織斑千冬の試合を妨害する為にか……それともーーー」
そこから、オメガは独り言をブツブツと呟き始めてしまった。気まずい空気が嫌だったから話しかけたのだが、まさかまた気まずくなるとは……と、一夏は心の中で囁く。
すると、一夏の視線の先に大きなスタジアムが見えて来た。そのスタジアムこそ、モンド・グロッソ世界大会の決勝戦が行われる場所だった。
「あれが世界大会が行われるスタジアムか……意外と大きいんだね」
「俺も初めて見た時は驚きましたけど、2回目で慣れました……」
オメガはスタジアム前にジャングレイダーを停め、一夏からヘルメットを受け取る。
「あの、ありがとうございました……!」
「気にしなくていいよ。早くお姉さんの所に行ってあげなよ。お姉さん、心配してるだろうし……」
「はい……!」
一夏はオメガに礼を告げ、その場から走り去る。
オメガはそれを見届けると変身を解除し、インカムから束へと連絡する。
「こっちは無事に終わったよ。そっちは?」
『ごめん。亡国機業、意外と早いみたいでこっちじゃ追いきれなかった。でも、いっくんが無事でよかったよぉ。もしもの事があったら、ちーちゃんに会わせる顔がなかったからね』
「でも、無事に助けられたんだから良しとしよう。それじゃあ、急いでそっちにーーー」
その時だった。ハルカは何者かの視線を感じ、すぐさま振り向いた。其処に居たのはーー
「ーーーーーー」
ーーハルカを凝視するオリジナルである〝織斑千冬〟の姿だった。
千冬はISスーツを着たまま、ハルカの元へ来たのだろう。千冬の目は、何か恐ろしい物を見たかの様な目をしており、ハルカをじっと見つめていた。
『ハルカ?どうかしたの?』
「……ごめん、また後で連絡する」
ハルカは束との通信を切り、ジャングレイダーから降りると千冬をじっと見つめる。じっと見つめあったまま数秒、千冬が口を開いた。
「……何故、私と同じ顔をしている」
「それは僕が聞きたいよ……でも、僕は貴女のーー織斑千冬の遺伝子から生まれた〝人間〟だ」
「私の遺伝子から……まさか、私のクローンとでも言いたいのか?何故私の遺伝子からお前が生まれたかは知らないが……どうしてお前が此処にいる?」
「それは……」
ハルカは言うべきか悩んだ。
織斑千冬に事実を伝えていいものかと。自分は束の指示で織斑一夏を助けに来たと。一夏を千冬の元へ送り届けたのだと言って、信じてくれるだろうか。
ハルカが言い淀んでいるのを見つめていた千冬は、ハルカに近づく。するとハルカのインカムを取り、自分の耳へ装着する。
「……束、お前の仕業か?」
『やぁやぁちーちゃん、お久だね〜……すいません怒らないで聞いてくださいお願いします』
「怒らないから話せ。まぁ、話の内容次第ではお前の元へ行き、アイアンクローをお見舞いするがな」
『酷いッ!!』
其処から、半端強引に束の事情聴取が行われた。
ハルカやクロエとの出会い、束達が〝アマゾン細胞〟と呼ばれる細胞を研究している研究所を調べていることや、亡国機業の事。
そして、今回の一夏の誘拐事件の事を全て千冬に偽り無く説明した。束からの説明に千冬は少しばかり溜息を洩らすが、ハルカに視線を移す。
「私の目の前にいるハルカは、私の遺伝子から生まれたと言っていたな。何故そんな事が?」
『束さん達もそれを調査してるんだけど、中々手がかりが見つからなくてねぇ。でも、ハルカの体内を調べた結果、ちーちゃんの遺伝子が見つかったから正しくその子はちーちゃんの子供ーーーー』
「馬鹿者。私はまだ二十一だ。恋人もいなければ子供もいない」
『冗談だよぉ〜。でも、どうしてちーちゃんの遺伝子が使われたのか謎なんだよねぇ。他の人間の遺伝子を使ってもよかった筈なんだけど……』
「私に聞かれても分からん。それはお前達が調べろ……まぁいい。今回はお前達に助けられた。感謝している」
千冬は束に、ハルカに礼を告げる。
突然の事に驚きを隠せないハルカだが、千冬にインカムを投げ渡されるとポンッと頭に手を置かれる。
「お前の好きなように生きろ。お前は私の遺伝子から生まれた存在だが、〝私じゃない〟。〝お前はお前だ〟、ハルカ」
千冬はハルカにそう告げ、その場から去っていく。
それを見つめるハルカは、スタジアムへと入っていった千冬を見届ける。数分もしないうちに、スタジアムからは歓声が聞こえる。
どうやら、千冬の試合が始まったらしい。ハルカはジャングレイダーに乗りながら、千冬の言葉を思い出していた。
〝お前はお前だ〟
ハルカは千冬に言われた言葉の意味を考えながら、ジャングレイダーを駆り、その場から走り去る。
その後、束からアマゾンの奥地でISを纏ったシグマの反応が見つかったと報告があった。
◇◇◇◇
場所はアマゾンの奥地。
其処に、ISを纏ったアマゾンシグマとジンが見つめあっていた。ジンの腹部にはアマゾンズドライバーが装着されており、手には注射器が握られていた。
アマゾンシグマはジッとジンを見つめ、静かに佇んでいた。
「お前には悪いんだが……此処で死んでもらう。お前は俺が求めてた〝完成体〟じゃない。俺が求めてるのは、〝本能のまま命を狩る生命体〟だ。生きてないヤツを生かしておくわけにはいかないんだよ……」
ジンの言葉に、シグマは何の反応も示さない。その反応に流石のジンも苦笑いを浮かべるしかない。ジンはアマゾンズドライバーのグリップを捻り、音声が流れた瞬間、叫ぶ。
「ーーーーアマゾン……!」
《Alpha……!Blood&Wild!W…W…W…Wild!!》
その瞬間、爆音と熱風が周りを吹き飛ばす。
木々は揺れ、小さな池に張られた水は全て蒸発し、ジンの身体は赤いアマゾンーーアマゾンアルファへと姿を変えた。胸の装甲を掻きながら、アルファはシグマに向かって言葉を紡ぐ。
「そういやお前……二年前にオータムと〝エム〟と一緒に何処行ってたんだ?スコールに聞いても何も言わねぇし……俺に内緒で何してたんだ?」
アルファの言葉にシグマは答えを出さない。
いや、もしくは言葉が〝喋れない〟かのどちらかであった。アルファは溜息を吐きながら、シグマを睨みつける。
「困るんだよなぁ、そういうの……勝手に〝お前みたいなヤツら〟を造られると……まぁいいさ。お前を此処で屈服させて喋らせればいいだけだ」
アルファが構えを取り、シグマを緑の瞳で睨む。
走り出したアルファの拳はシグマの装甲に叩き込まれたが、シグマはビクともしなかった。
「フッ……流石はISを纏ってるだけはある。だがなぁ!!」
アルファは立ち上がると同時に走り出し、立ち上がったシグマの装甲に拳や蹴りを叩き込んでいく。ISには、装着者を守るシールドバリアーがある事を知っているジンだが、そんな事お構い無しに激しい猛攻がシグマを襲う。
「ーーーーーーー」
「何か反応してくれてもいいんじゃねえのかっ!」
アルファの拳がシグマの顔面に叩き込まれる。
しかし、ビクともしないシグマにアルファはイラついたのか一旦その場を離れ、牽制の体勢に入る。
何の反応も示さないシグマ。アルファが牽制の体勢に入ってから攻撃の一つもしてこない。アルファの出方を伺っているのか、それともただ単に攻撃する気力がないのかだ。
「……お前、もしかしてーーー」
「ーーーーーーー」
何を話したのか、アマゾンに棲む動物たちの鳴き声で何一つ聞き取れなかった。
しかし、アルファは確かに聞こえた。シグマがアルファを攻撃してこない理由を。アルファは溜息を吐きながらアマゾンズドライバーを外し、元の姿に戻るとその場から歩き出す。
「やめだやめ。やる気無いヤツと戦っても俺がメンドくさいだけだ」
「ーーーーーーー」
「お前が何を考えてるか知らないが……〝オメガタイプ〟を舐めない方がいい。アイツは研究所で〝養殖〟として育てられたが、まだ自分の中の〝本能〟に気づいちゃいない。それが目覚めた時、アイツはお前を殺すかもな……」
そう言って、ジンはその場から去っていった。
◇◇◇◇
「あつぅい……くーちゃんお水〜……!」
「はい、束様」
「なんでこんなに暑いんだろう……」
ハルカ達は、アマゾンの奥地で反応がISを纏ったシグマを捜索していた。本来なら、ハルカ一人でシグマを見つけるつもりだったのだがーーー
『束さんも一緒に行く!もう留守番はごめんだ!』
ーーーなどと叫びながら、アマゾンに行くための準備をしていた。そして案の定、このアマゾン熱帯雨林の気温の熱さである。
アマゾンーーー通称アマゾン熱帯雨林。
南アメリカ・アマゾン川流域に大きく広がる、世界最大面積を誇る熱帯雨林である。面積は550万平方kmに及び、700万平方kmのアマゾン盆地の大部分を占め、地球上の熱帯雨林の半分に相当する。
熱帯雨林では一年中熱帯収束帯ーー赤道低圧帯ーーの影響を受けるため、年間を通して降水量が多い。
また太陽高度が年間を通して高いため気温は年中高く、年較差が少ないらしい。
気温が高いため蒸発量が多く、湿度が高い。また雲による遮蔽や高緯度地域に比べて夏も昼間があまり長くならないことなどから、日照時間はあまり多くない。
昼間を中心に海洋では積乱雲が発達し、スコールと呼ばれる突風と激しい雨に見舞われることが多いが、その後は冷たい空気が降りてくるため、適度な風もあってスコールの後は涼しくなる。
しかし、そんな悠長な事をしている暇は無い為、早くシグマを見つけなければならなかった。
「それにしても、なんでシグマはこんな所に……束が調べたけど、各国に研究所があったのに対して、アマゾンには研究所なんてなかったし……」
「そりゃあこんなに暑いと研究員達もやる気が出ないんじゃない……?そもそも此処、電気通ってるか分からないし……」
「そんな理由で研究所作らなかったのかな……それにしても暑すぎるよ……!」
「あつぅい……もう我慢できない!束さんは脱ぐからね!!」
「落ち着いてください、束様。ハルカさんが見てますよ」
「大丈夫。束の裸は見慣れてるから」
「えっ……?」
「束、しょっちゅう着替えをお風呂場に持って行くのを忘れるからさ。たまに裸の束と鉢合わせしたりしてて……」
事実である。
ハルカが夜食にクロエのクロワッサンを食べようとラボ内にあるキッチンに行くと高確率で風呂上がりの束と鉢合わせする。しかも真っ裸である。
中々のプロポーションを持っている束に対してハルカは特に何の意識もしない。時折、良い肉付きだなと思うことがあるが特に何の意識もない。
「そ、そうですか……ーーー私がおかしいのでしょうか……?」
「ハルカ〜おんぶして〜……束さん歩き疲れちゃったよぉ……」
「暑いからヤダよ。でも、流石に暑すぎるね……スコールでも降れば、止んだ後に涼しい風が吹くらしいけど、今のところ雨雲は見えなーーー」
「ん?どうしたのハルーーー」
「お二人ともどうしまーーー」
ハルカが絶句しているのを見た束とクロエはハルカの視線の先の物に絶句する。視線の先に何があったのか、それはーーーー
如何でしたでしょうか。
楽しんで頂けたら幸いです。
久しぶりに感想が来て嬉しかったです。やはり感想が来るとモチベーションが上がりますが、何より見てくださってる方がいるので頑張らなきゃなと思います。
最後のハルカと束、クロエの絶句のシーン。三人が見たものは何なのか、それは後の番外編か何かで。
批評やご意見ご感想・評価・お気に入り登録をお待ちしております。
〝アマゾン熱帯雨林・熱帯雨林の参照:Wikipedia〟