天災兎と人喰いトカゲ 〜Armour Zone〜   作:TearDrop

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お待たせしました。
第七話でございまーす。セシリアに続き、一夏との出会いになりますが次回は千冬との出会い。
この作品がどうなるのか、最後までお楽しみください。

お気に入り登録や評価が増えて来て素直に嬉しいです。
もちろん、評価1もありますがそれを真摯に受け止め、これからも精進していきたいと思います。


EP.7 Game in the dark

 あれから二年の月日が流れた。

 ハルカとクロエは成長し、クロエは12歳となった。束も二年の月日が流れたせいか、それとも自堕落な生活の所為なのか定かではないが、服のサイズがきつくなって来たとボヤいていた。

 しかし、仕事はきっちりとこなしていた。各国に点在するアマゾンの実験場や研究所を破壊し、研究資料を回収している。

 これからまで駆除した〝シグマタイプ〟は合計で数体程度しか駆除しきれていない現状だった。

 〝シグマタイプ〟が何体存在するかは定かではないにしても、亡国機業がアマゾンを生み出しているのは確かである。

 それに関わっているのがいい雨宮ジン。

 ハルカは初めてジンと戦闘を繰り広げた際、手も足も出なかった。正に〝野生〟とも言える戦い方で、ハルカを圧倒した。

 ハルカはこの二年でジンに対抗できるよう、特訓やシグマタイプとの戦闘で少しずつだが強くなって来ていると、束はそう思っている。

 そして今まさに、モニター越しではあるがオメガと六体のシグマタイプとの戦闘が行われていた。

 オメガの目の前には蜂、蟹、百舌、蟻、蝶、蜻蛉のシグマタイプアマゾンがオメガを睨みつけていた。

 

「ウォオオッ!!」

 

 オメガはアマゾン達に向かって走り出し、拳や回し蹴りでアマゾン達を圧倒していく。

 時には反撃を喰らうが、地面に倒れかけた際には片膝で回転し、回し蹴りをアマゾン達に叩き込む。

 

「〝オメガタイプ〟との戦闘、苦戦。直ちにこの場から撤退する」

「逃すかっ……!」

 

 オメガは、その場から撤退しようとするアマゾン達に向かって、アマゾンズドライバーから引き抜いた右グリップをスピアモードに生成するとアマゾン達に向かって投擲する

 アマゾンスピアに貫かれた蜂、蟻、蝶のアマゾン達は泥となり腕輪だけ残して絶命した。オメガはアマゾンスピアを引き抜くと、アマゾンスピアらサイズモードへと生成される。

 

「アァアアアッ!!」

 

 オメガは跳躍し、蟹のアマゾンに向かってアマゾンサイズを突き刺す。蟹アマゾンから赤黒い体液が噴き出すが、オメガは躊躇なくそのまま切り裂いた。

 絶命する蟹アマゾンは泥となり、残り二体となったアマゾン達は赤黒い体液に塗れるオメガに恐怖したのか、その場から逃げ出そうとする。

 

 《Violent Break……!》

 

 だが、オメガはサイズモードからウィップモードへと生成させ、百舌、蜻蛉のアマゾン達を自身の元へ引き寄せるとグリップを捻ると、音声が流れる。

 オメガは右腕の刃で二体のアマゾンを横に一閃ーーー二体のアマゾンを切り裂く。泥となり、絶命するアマゾン達だった者を見つめるオメガは肩で息をしており、自分の手を見つめる。赤黒い体液で汚れており、自分の身体も赤黒い体液に塗れていた。

 

「フゥ……フゥ……!」

 

 獣のような唸り声を上げながら、二年前に雨宮ジンに言われた言葉を思い出す。

 

『……貴方は間違ってる。自分自身の力で強くなる方法なら幾らでもあったはずなのに……!』

『ガキに何が分かる。お前はただのクローン。オリジナルである〝織斑千冬〟の遺伝子を宿してるだけのただのガキだろうが。それはお前の力じゃない。オリジナルの力だろ?』

 

 その言葉が、オメガーーーハルカを苦しめていた。

 この二年間、ハルカは〝シグマタイプ〟を駆除して来た。しかし苦戦しながらも戦い続け、アマゾンの体液で汚れようがハルカは戦い続けて来た。

 だが、二年経とうがジンの言葉がハルカの心に刻まれていた。

 

 〝お前はただのクローン〟

 

 その言葉が、ハルカーーーオメガを苦しめる原因である言葉だった。オメガは拳を握り、怒りに震える。

 

「僕は……僕は人間だ……!!」

 

 怒りに震えながら呟いた言葉は、研究所の中に静かに消えていく。

 

 ◇◇◇◇

 

「……束、それ何?」

「あぁ、これ?これはね、ハルカの専用アイテムって言った所かな」

「専用アイテム……新しいアマゾンズドライバーって事?でも、アマゾンズドライバーの設計図は……」

「そうだね。ハルカが以前見つけてくれた設計図では束さんでも開発できない危険な代物だ。でもコレはただのアマゾンズドライバーじゃないんだなぁ。まぁ、完成したら報告するよ」

 

 束はそれだけ言うと、再び専用アイテムの開発に取り掛かった。束の目の前のモニターには、3Dスキャンされたアマゾンズドライバーと鳥の顔を模したアイテムが画面に映し出されていた。

 ハルカは気になったが、今はクロエが作った朝食のクロワッサンと目玉焼きを食べることにした。

 当のクロエはというと、束の指示で亡国機業が狙いそうな研究所をコンソールで捜索していた。

 幾つもの計算で叩き出された結果で、ハルカ達は研究所を見つけていた。こういった地道な作業で、ハルカ達は二年間戦い続けて来た。

 しかし、それだけではなかった。

 

「……二年経った今でも、腕輪は青いまま。幾ら調べても結果は出てこない……僕は一体、何者なんだ」

 

 ハルカに付けられた腕輪は青いままだった。

 研究資料によれば、食人衝動を抑える為の投薬が腕輪によって行われている。

 それによって食人衝動を一時的な抑えられるのだが、タイムリミットは二年しか無く、二年を過ぎれば人を喰う怪物になってしまう。

 しかし、二年が経った今でもハルカは食人衝動すら起こさなかった。一度も人を食べたいなどと思ったこともそういう発言をした事がないハルカ。

 何故自分の腕輪は青いままなのか、それがわからなかった。それと同時に、自分は他のアマゾンとは違うことを自覚するようになった。

 

「僕は人間だ……オリジナルでもクローンでもない、ただの人間なんだ……」

 

 その時だった。

 何やらモニターに赤い点と〝emergency〟と言う文字が映し出されていた。赤い点が指している場所は某国にある廃倉庫。

 何が起きたのか、もしかすると亡国機業が現れたのかとハルカは束に問いかけようとした時だった。

 

「嘘!?なんで亡国機業がいっくんを!?」

「た、束?」

「亡国機業が、ハルカさんのオリジナル元である織斑千冬の実弟ーーー織斑一夏を誘拐したみたいです」

「織斑、一夏?」

「はい。現在モニターにも表示されている通り、織斑一夏は廃倉庫に囚われているようです。他に、シグマタイプのアマゾンの反応とIS反応があります」

「シグマタイプ……」

「恐らく、亡国機業かもしくはーーーアマゾンシグマかもしれません」

 

 ハルカはクロエの言葉に、二年前の雨宮ジンを思い出した。少し手が震えていたが、ぐっと拳を握ると束に視線を移す。

 束は何故こんな事になってしまったのか理解できないのだろうか、少しばかり混乱していた。

 今までこんな束を見た事がないハルカは、そっと束の手を握る。

 

「ハルカ……」

「大丈夫。僕が行くよ」

「でも……!」

「僕のオリジナルーー織斑千冬の弟が危ないんでしょ?おまけに亡国機業だけじゃなく、アマゾンだっているんだ……だったら僕が行くよ」

「ハルカ……うん、お願い。いっくんを助けて」

 

 ハルカは頷くと、すぐさま出撃の準備を始める。

 束とクロエはラボの進路を某国へと変更し、フルスピードで某国へと向かう。

 

 ◇◇◇◇

 

「オータム、その子をしっかり見ておきなさい。その子は織斑千冬を釣る餌でもあって、篠ノ之束を釣る餌でもあるのだから」

「あぁ、分かってるぜスコール。今日はあのジンが居ないんだ……今日は良い仕事日和になりそうだ」

 

 織斑一夏の目の前には、亡国機業のスコールとオータムが立っていた。そして、二人の周りには銀色の腕輪を付けた男女六人が囲むように立っていた。

 一夏は何とかその場から逃げようとするが、手首に巻かれた縄がキツく、その場から逃げ出す事が出来なかった。すると、額に何か冷たいものが当たり、それを確認した一夏は驚愕する。

 

「ーーーッ!」

「変な事考えるなよ?変な事してみろ?この拳銃がお前の頭を撃ち抜くぞ?」

「やめなさい。その子が死んだら計画が狂うわ」

「分かってるよ、スコール。ただ脅してるだけだ」

 

 拳銃が額に当たっており、引き金を引こうとするオータムをスコールが止める。

 言い表せない恐怖に怯える一夏だったが、嫌な予感を感じていた。今日は姉である織斑千冬の試合が行われる予定だ。

 千冬はモンド・グロッソ世界大会に出場するIS操縦者である。恐らく、千冬の大会出場を阻止しようとしているのだろう。

 だから自分が攫われた……一夏はそう考えていた。千冬は自分を必ず助けに来るだろう。優勝を捨ててでも必ず来る。

 それだけは何とかしなければ、いつまでも千冬に助けてもらってちゃダメだと、一夏はこの場を切り抜ける方法を考える。

 

「スコール、このガキどうするんだ?」

「そうねぇ……その子は織斑千冬と篠ノ之束を釣る為に利用する価値があるわ。その子をただ生かしておくだけじゃつまらないわね。……いっその事、アマゾンにでもしようかしら」

「なんでアマゾンに?」

「たった一人の弟が人喰いの怪物になったと知れば織斑千冬は絶望するでしょうね。それに篠ノ之束も、その子がアマゾンになったと知れば、私達に是が非でも協力する筈よ」

「ア、アマゾン……?それに、人喰いって……」

「あぁ、お前はこれから人喰いになるんだ。お前はアマゾンとして、織斑千冬と篠ノ之束を釣る餌として働いてもらうぜ」

 

 人喰いになる。

 アマゾンになる。

 そうする事で、織斑千冬と篠ノ之束を誘き出そうとしている。一夏は許せなかった。大切な姉を、その友人を利用しようとするスコールとオータムを。

 そして、自分の弱さを許せなかった。自分は強くなりたかった。姉を守れる程、強くなりたかった。大切な誰かを守れる程の力が欲しかった。

 だが一夏のそんな思いを、目の前のスコール達は踏みつぶそうとしている。一夏はそれが許せない。するとスコールが注射器に酷似した物を取り出すと、一夏の元へ歩みを進める。

 

「少々痛いだろうけど、我慢してちょうだい。大丈夫、悪いようにはしないわ」

「く、来るな……!」

「うるせぇ、お前は黙って私達に従えばそれでいいんだよ……!」

「ーーーッ!」

 

 スコールが一夏の元へ歩みを進め、オータムがそれを笑みを浮かべながらそれを見つめる。こんな所で怪物になんかなりたくない。誰か助けてくれとさえ、心の中でそう叫んだ程だ。

 そしてスコールが一夏の腕に注射器をーーー

 

 

 

「ーーーーアマゾンッ」

 

 

 

 ーーー刺そうとした時だった。突然外から起こった爆風によって廃倉庫の扉が壊され、近くにいたシグマタイプが吹き飛ぶ。そのうちの一人がスコールとぶつかるとスコールが持っていた注射器が地面に落ち、粉々に砕けた。

 

「まさか……オメガタイプかっ!」

「意外と早い到着ね……」

 

 スコールとオータムの視線の先には、アマゾンオメガへと変身を遂げたハルカが立っていた。ゆっくりと歩みを進めるオメガに対し、オータムはキレながらもシグマタイプに指示する。

 

「テメェら!オメガタイプを殺せっ!!」

「了解。オメガタイプ、排除します」

 

 その言葉に、六人のシグマタイプがアマゾンへと姿を変える。

 女王蟻、兵隊蟻、蜂、蜘蛛、蝙蝠、百舌の姿に酷似したアマゾン達がオメガに向かって走り出した。

 オメガは迎え撃つべく構えると、飛びかかってきた蜂と蝙蝠を回し蹴りで地面に叩き落とす。

 更には女王蟻と兵隊蟻がオメガに向かって襲いかかるが、振り向きざまにオメガが兵隊蟻の身体を拳で貫き、そのまま上へと拳を振り上げ、絶命させる。

 そして、襲いかかる女王蟻の腕を掴み、地面に倒すとそのまま覆いかぶさるように女王蟻の上に立つと、勢いよく女王蟻の腕を引きちぎる。

 それを見ていた一夏は吐き気を抑えるのに必死でありながらも、オメガの戦いをずっと見ていた。正に自分を救いに来てくれたヒーローそのものだった。

 そんな一夏の目には、オメガは〝怪物〟として映っておらず、〝ヒーロー〟として映っていたのだった。

 

「ガァアアアアッ!!」

 

 雄叫びを上げながらオメガは蝙蝠アマゾンの羽をもぎ取り、地面に投げ捨てる。そして右腕の刃で蝙蝠アマゾンを切り裂き、絶命させる。

 続けざま、蜂アマゾンを捕らえ、空中へ投げると落下と同時に右腕を蜂アマゾンの腹部に叩き込む。

 

 《Violent Punish……!》

 

 そのまま振りかぶるように、右腕の刃で蜂アマゾンを切り裂いた。上半身と下半身が分かれた蜂アマゾンはそのまま絶命。

 蜘蛛アマゾンは空中からオメガに襲いかかり、そのまま蜘蛛の糸で天井へと吊るし上げる。しかしオメガは蜘蛛の糸を切り裂き、右グリップを引き抜くとサイズモードへと生成させ、蜘蛛アマゾンに突き刺す。

 

 《Violent Break……!》

 

 アマゾンサイズによって、蜘蛛アマゾンは刺された場所から赤黒い体液を噴き出しながらオメガに蹴り飛ばされるとそのまま絶命し、泥となる。

 最後の一匹となった百舌アマゾンはその場から撤退しようとしたが、サイズモードからスピアモードへ生成されたアマゾンスピアを百舌アマゾンに向かって投擲したオメガ。

 アマゾンスピアは百舌アマゾンを貫くと泥となり、そのまま腕輪を残して絶命した。

 

「す、スゲェ……!」

「コイツッ……前より強くなってねぇか?」

「……その子を返してもらうよ。邪魔をするなら、誰であろうと容赦しない」

 

 オメガは脅しで、右腕の刃をチラつかせる。

 しかし、それで脅される亡国機業ではなかった。スコールは一夏の腕に巻かれた縄を解くとオメガの元へ歩ませる。

 

「スコールッ!?」

「……どういうつもりだ?」

「今の私達じゃ貴方には勝てないわ。ISで対抗しようと思ったけど、それはヤメね。下手したら私達が殺されるわ」

「……随分と潔い良いけど、何か企んでーーー」

「いいえ。織斑千冬と篠ノ之束が来なかった時点で私達の作戦は失敗よ。今日の所は此処でお別れよ、オメガタイプ。行くわよ、オータム」

「で、でもよ……チッ!」

 

 二人は光を放ち、見たことないISを纏うと、その場から飛び去る。オメガは追いかけようとしたが、一夏がいることに気づく。

 

「あ、あの……」

「大丈夫?怪我はないかい?」

「は、はい……ありがとうございます……」

「それより、早く此処から出よう。君のお姉さんの元へ行かなきゃ」

 

 オメガは廃倉庫の前に停めてあったジャングレイダーに乗り、一夏にヘルメットを投げ渡す。一夏はヘルメットを被り、オメガに掴まるとそのままジャングレイダーで走り出した。

 向かう先は、オリジナルーーー織斑千冬の下だった。




如何でしたでしょうか。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。ご意見・感想・評価・お気に入り登録をよろしくお願いします。

→織斑一夏
原作《インフィニット・ストラトス》の主人公。今作ではオメガに助けられ、オメガの強さに憧れる人物として登場する。第二章ではもっと活躍する予定。あくまで予定である。

→織斑千冬
織斑一夏の実姉であり、ハルカのオリジナル元である。今後、ハルカとの出会いでどうなるかはまだ不明。

→雨宮ジン
アマゾンアルファに変身する男性であり、アマゾン化計画の発案者でもある。前回の話でもあったように、〝誰かに蹴落とされた連中〟をアマゾンにした男だが、その真意は不明。

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