天災兎と人喰いトカゲ 〜Armour Zone〜 作:TearDrop
今回はバトルシーンはありませんが、ようやくあのアマゾンを出すことが出来ました。そしてあとがきの方で少しばかり補足をしておりますので是非ご覧ください。
サブタイ考えるの中々難しいなぁ……!
ISを纏ったシグマとの戦闘から数時間後。
移動用ラボでは、ハルカがクロエと共に束からの説教を受けていた。今後無茶はしない事。
作戦に支障をきたさないようにと注意を受けた。
それから、束がハルカのバイザーからスキャンしていたシグマのデータを解析していた。
どうやら、ISとアマゾンズドライバーが同期しているらしく、ISには出来ない動作をアマゾンズドライバーが補い、逆にアマゾンズドライバーに出来ない動作をISが補う仕組みになっているらしい。
ハルカはどちらかを破壊しない限り、シグマは倒せないと束から告げられた。
「でも、なんで〝シグマタイプ〟がISを装着しているんだろう?本来ならISは〝人間〟しか扱えないはずでしょう?」
「多分亡国機業だろうね。アイツら、ハルカと出会う前から束さんに接触して来た事が何度かあったからね。幾らでも情報を盗む時があったんだろうね」
「亡国機業……何処かで聞き覚えがあるんだけど……まさかその亡国機業が〝シグマタイプ〟を?」
「可能性はあるけど、どうして〝シグマタイプ〟にISを装着させたかだよ。コアは束さんにしか製造出来ないし、もし可能ならば束さんが居なくてもどの国もISを作れるよ。もしかすると、コアを改造して〝アマゾン〟専用に作り直したとか?」
「あの〝シグマタイプ〟は、初めて戦ったアマゾンとは明らかに違っていたんだ。なんていうか、無理矢理ISを装着させられているっていうか……どこか苦しそうだった」
「ハルカさんの言う通りです。あの〝シグマタイプ〟はどこか苦しそうでした。まるで、助けを求めているかのように……」
「二人の言う通り、データを解析した結果、あの〝シグマタイプ〟のバイタルは異常だったよ。死んでいるにしても、その他のバイタルが普通の人間と比べ物にならないぐらい……ううん、人間がISを纏った以上のバイタルを出してる。これ以上バイタルが上がれば、あの〝シグマタイプ〟は死ぬね」
束の言う通り、ハルカが戦ったシグマのバイタルは異常な程の数値を叩き出していた。アマゾンやISをも超える力が、あのシグマから出ていたのだ。
これ以上の戦闘を行えば、恐らく、いや確実にあのシグマは死んでしまう。
それだけは止めないといけなかった。シグマの駆除とサンプルの回収も先決だが、無理矢理ISを装着させているならば話は別だった。
「ーーとにかく、今日はお疲れ様。二人ともゆっくり休んでね。明日は少し忙しくなるから」
そう言って、束はハルカとクロエを休ませた。
束は一人残って、モニターに直結しているコンソールを操作し始めた。モニターには、ある研究資料のデータが映し出されていた。それはハルカとクロエが回収した研究資料だった。
研究資料には、〝オメガタイプ〟と〝シグマタイプ〟の実験を行っていた研究員の情報や今後の実験予定が記載されていた。
研究員の名前はーー雨宮ジン。
オメガとシグマの実験を行っていた第一人者であり、計画の発案者。束はコンソールを操作し、画面をスクロールしていく。
「雨宮ジン……検索してもどれもこれも惨い研究成果を出してるね。動物実験で恐ろしい結果って……一体どんな結果を出したのさ……雨宮ジンは現在生死共に行方不明である、か。きっとそこら辺でくたばってるか亡国機業と一緒だったりして……」
束はコンソールを操作しながら、そんな事を呟いていた。これからどうするかを束は考え始める。現在ラボは次の研究所へと向かっていた。
しかし、あのISを纏ったシグマにもう一度出会う可能性がある。それだけは避けたい。ハルカとクロエを危険に晒す訳にはいかないと同時に、あのシグマを死なせる訳にはいかなかった。
考え抜いた結果、束は決心した。これ以上考えても仕方ない。今はとにかく寝ようと。
その翌日、ラボはイギリスへと向かっていた。
どうやら研究資料によると、計画の立案者である雨宮ジンがイギリスにある自分の研究所で様々な研究を行っていたらしい。
もしかすると、其処に有力な情報があると考えた束は移動用ラボの進路を変更したのだった。
「イギリスかぁ……動画や画像でしか見た事ないけどどんな所なんだろう」
「そうですね。私も楽しみです」
「こらこら二人共〜。観光に行くんじゃないんだからね?仕事で行くんだから、其処のところしっかり〜」
「そう言って束だって、僕達にお土産リストを渡してたじゃないか。束も実は行きたいんじゃないの?」
「うっ……た、束さんは全世界から狙われてるから行きたくても行けないんだよ!まさかこんな所でミスを犯してしまうとは……」
「まぁでも、ちゃんとお土産は買ってくるからさ。それで観光の話は置いといて、今回はどんな任務?」
「えっとね〜……さっきも言ったように、ハルカとくーちゃんには雨宮ジンの研究所を見つけ出して、研究資料を持ってきて欲しいんだ。多分、あのシグマがやって来る事はないだろうけど、何が起こるか分からないから準備はしっかりね……おっ、イギリスに着いたみたいだね」
移動用ラボがイギリスにたどり着き、ハルカとクロエは準備を整え、ラボを出た。移動用ラボは光学迷彩で周りから見えていない為、今回はイギリスの街から少し離れた場所に置かれていた。
ハルカとクロエがその場から歩き出そうとした時だった。束が二人を呼び止めた。
「あっ、二人共!これに乗って行った方が楽かもよ?」
「えっ……それって、バイクだよね?」
ハルカの視線の先に会ったのは、束の隣に佇む赤いバイクだった。姿形がアマゾンに似ており、少し変わった形をしていた。
「束様、これは?」
「束さんがハルカに内緒で作っていたバイク!その名もーーージャングレイダー!」
「ジャングレイダー?」
「研究資料に、アマゾン専用マシンの設計図が残されていたから束さんが急ピッチで作ったのさ!これなら移動も楽だし、アマゾンを追いかけるのにも役立つと思ってね」
「でも、僕免許なんて持ってないし、バイクなんて乗った事も運転した事もないよ?」
「大丈夫。ハルカの中のアマゾン細胞とシンクロする仕組みになってるからほぼ自動運転だよ。まあ、念のためにハルカの免許証を作って置いたから安心してよ」
そう言うと、束は胸の谷間からハルカの写真が貼られた免許証を取り出した。
それを受け取ったハルカは苦笑いを浮かべながら、ジャングレイダーに乗った。束からヘルメットを受け取り、それを被るとエンジンを掛ける。
ジャングレイダーのエンジン音は獣のような雄叫びを上げ、ハルカの中のアマゾン細胞とシンクロし始める。言い表せない何かを感じたハルカだったが、今はそんなことよりも、目の前のジャングレイダーに目を輝かせていた。
その姿は、車やバイクに格好良さを感じる子供そのものだった。
「凄い……ほら、クロエも乗ってご覧よ」
「は、はい」
クロエも束からヘルメットを受け取り、それを被ってからハルカの後ろに乗る。
「これは、凄いですね……」
「でしょでしょ?束さんに掛かればこんなの朝ごはん前なのさ!さぁ、二人とも行ってらっしゃい!お土産楽しみにしてるからね!」
「うん。それじゃあ、行って来るよ」
ハルカはエンジンを蒸し、ジャングレイダーを発進させる。行き先はイギリスの街。これからどんな事が起こるか分からないが、一抹の不安と期待に胸を膨らませながらイギリスへと向かった。
◇◇◇◇
イギリスの街にたどり着いてから、ハルカとクロエは驚いてばかりだった。おしゃれな街並みに、多くの人々が賑わっている。
赤い二階建てバスが道路を走り、橋の下に流れる川には船が行き来し、多くの光景が其処にあった。ハルカとクロエは束に言い渡された任務を忘れる程、イギリスの街を堪能していた。
ある程度満喫したハルカ達は、近くの公園で休憩していた。
「初めてだよ、こんなに凄い光景があったなんて……今までは研究所の中しか知らなかったから、こういった場所に来られて嬉しいなぁ」
「私もです。私も、造られてからは研究所の中しか知りませんでした。ですが、ハルカさんと一緒に来られて嬉しいです。束様も一緒だったらなお良かったのですが……」
「束にはお土産を沢山買って帰ろう。何がいいかな、やっぱりお菓子とかーーーん?」
「どうしました?」
「いや、あの子……」
ハルカの視線の先には、一人の女の子が俯きながらトボトボと歩いていた。
何処か悲しげな表情を浮かべ、目には涙を溜めた少女が公園の前を通り過ぎていく。しかし、横を歩いていた通行人とぶつかってしまい、転倒する。
ハルカ達はすぐさま少女に駆け寄り、声を掛ける。
「キミ、大丈夫?」
「は、はい……このくらい、平気ですわ……っ」
少女は立ち上がり、歩き出そうとするが膝から血が流れており、その場にしゃがみ込む。
「怪我してるじゃないか。ほら、彼処にベンチがあるから彼処で手当てしよう」
ハルカ達は少女を連れ、公園内にあるベンチに座らせると持ってきていたバッグから絆創膏を取り出し、傷口に貼り付けた。
「あ、ありがとうございます……」
「どういたしまして。キミ、名前は?」
「セシリア・オルコットと申します。手当てしてくれてありがとうございます」
「お気になさらず。所でセシリアさん、どうして悲しげな表情を浮かべていたのですか?」
「それは………」
セシリアはハルカ達から目を背ける。恐らく、他人には言えない悩みがあるのだろう。ハルカが声を掛けようとしたが、セシリアが口を開く。
「……実は、私の母は会社を幾つも経営してるんです」
「会社を幾つも……凄いじゃないか。でも、どうしてそんな悲しそうな表情を?」
「母は会社を幾つも経営していますが、何時も忙しくて休みの日でも仕事で家を空けていて……父は母に対して顔色を伺うばかりの人で……」
「そうでしたか……」
「だから私、今日母に言ったんです。何処かに連れて行って欲しいって……ですが、母は仕事だからまた今度と言うばかりで……その言葉は何回聞いたか忘れてしまいましたわ……」
「……だから、一人で街に?」
ハルカの言葉に、セシリアは頷く。
「私はただ、お母様と一緒に居たかっただけなのに……!」
セシリアは堪えていた涙を流す。
セシリアの隣にクロエが座り、そっと寄り添うとセシリアはクロエの胸で泣き始める。嗚咽を漏らし、肩を揺らすセシリアを見て、ハルカは口を開いた。
「……家族がいるって、良い事だと思うよ?」
「……えっ…?」
「僕とクロエは生まれてからずっと、両親すら居なかったんだ。ずっと一人で生きてきて……毎日が残酷な日々で……そんな僕らにでも、家族って呼べる人が出来た」
ハルカは束の姿を思い出す。
初めて会ったあの日のことは忘れる事が出来ない、掛け替えのない思い出。
恐らく、クロエもそう思っている。束と出会わなかったら処分されていただろうあの日、束と出会ったからこそ、ハルカにも出会えた。クロエにとって、それは掛け替えのない日であった。
「キミのお母さんは、キミの事を大切に思ってるはずだよ。お母さんの仕事が忙しいのは、キミを育てていくために必要な事なんだよ。それに、きっとキミのお父さんだって、君の事を愛してるはずだよ……って、キミのお父さんとお母さんの事をよく知らない僕が言ってもしょうがないけど……」
ハルカは頰をポリポリと掻く。柄にも無い事を言ってしまったからか、頰が少しばかり赤い。そんなハルカを見つめるセシリアと、笑みを浮かべるクロエ。
「だからーーーッ!」
ハルカが言葉を紡ごうとした時だった。インカムから束に通信が入る。
『ハルカ!くーちゃん!〝シグマタイプ〟が現れたよ!』
「シグマタイプが!?もしかしてーーー」
『ううん!ISを纏ったシグマじゃないみたい。どうやらマンション内で覚醒したアマゾンだね。被害が出る前に駆除をお願い!』
「分かった。クロエはセシリアちゃんと一緒に!」
「はい。お気をつけて……」
ハルカはジャングレイダーに乗り、ヘルメットを被るとセシリアが駆け寄ってきた。
「あの!お名前をお聞きしても……」
「ーーー僕はハルカ。じゃあまた後でね」
ハルカはそう言って、その場からジャングレイダーで街中を掛けていく。
ジャングレイダーに乗ったハルカは腰に装着したアマゾンズドライバーのグリップを捻り、叫ぶ。
「うぉおおおっ!アマゾンッ!」
《Omega…!Evolu…Evo…Evolution…!》
アマゾンオメガへと変身を遂げたハルカは、〝シグマタイプ〟のアマゾンが覚醒したマンションへとジャングレイダーを走らせる。
マンションにたどり着いたオメガは束から通信で聴いたマンションの四階へと跳躍し、廊下へ着地する。四階のどの部屋か束に通信で聞こうとした時だった。
突如、目の前の扉が吹き飛んだ。
何が起きたのか分からずにいると、部屋から〝シグマタイプ〟のアマゾンがフラフラと現れる。オメガが構えると、そのアマゾンは血を噴き出しながらその場に倒れ、泥へと変わっていった。
「一体何が……?」
「ーーほぉ、まさかこんな所で会えるとはな」
「ッ!?」
突如、部屋から男の声が聞こえてきた。部屋から出てきたのは身体中に緑色の傷があり、腰にはアマゾンズドライバーを装着し、赤いボディに緑色の複眼のアマゾンだった。
赤いアマゾンは胸を鎧を掻きながら、目の前のオメガを見つめる。
「貴方は一体……?」
「俺か?俺はーーージン。お前らが探してる、雨宮ジンだ」
赤いアマゾンーーアマゾンアルファとアマゾンオメガの二人のアマゾンが、今ここに邂逅した。
如何でしたでしょうか?
楽しんで頂けたら幸いです。此処で、少しばかり補足を。
今作の時間軸は原作から五年前の出来事になっております。その為、今回出てきたセシリアはおよそ10歳程度であり、両親がまだ生きている頃になっております。
さて、次回はアルファとのバトルになっておりますが、EP.6以降は時間を二年ほど飛ばし、物語を本格的に動き出させようと思います。構成上仕方ないことなんや……。
次回もよろしくお願いします。
よろしければご意見・質問・ご感想・評価をお待ちしております。