天災兎と人喰いトカゲ 〜Armour Zone〜   作:TearDrop

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EP.2 Beast claw

 ハルカは束と共に、束が言う〝面白い物〟があるという研究所へとやって来ていた。

 其処は既に廃棄された研究所で、研究員の姿は誰一人と確認出来なかった。ハルカはショルダーバッグを提げながら、束の後ろを歩いていく。

 ハルカのバッグには、束が研究所から持ち出して来た黒いベルトが入っており、もしもの時はそれを使えと言われた。

 そして、ハルカの左腕に付けられた銀色の腕輪。

 起きたハルカに、束が痛いけど我慢してねぇと言われながら付けられたものだったが、痛くて涙が出たが束に抱きしめられ、泣き止んだハルカ。

 カルガモのように、束の後ろを歩くハルカ。途中、束が歩みを速くしたり遅くしたりなどすると、ハルカは一生懸命に束に付いてくる。

 そこが可愛いんだよねぇと、束は思う。

 

「やれやれ、ようやく到着したね〜。此処、無駄に広いんだもん」

「うぅ……!」

「ハルカもそう思う?だよねぇ〜。束さんだったらもっと狭く出来たと思うんだけどぉ」

「あぅ……!」

「よしっ!じゃあ入っちゃおうか〜。お邪魔しま〜す!」

 

 束が目の前の扉を開けると其処には、一つのポッドが置かれていた。ポッドの中には、ハルカと同じように液体に浸かる〝一人の少女〟が居た。

 流れるような銀髪の少女は目を開くと、二人が見えているのか、じっと二人を見つめる。束はニカッと笑うと近くにあったコンソールを操作し始めた。

 

「キミってアレでしょ?試験管ベビーってやつ。〝人造人間〟として開発されたけど、使われなくなったから廃棄処分されちゃった可哀想な女の子。ハルカと同じだね。この子もね、キミと同じでそうやってポッドに容れられてたんだよ」

「ーーーーーー」

 

 何を伝えたいのか分からない。口にマスクが装着されている為、会話が出来ない。ハルカが少女に視線を向けていると、束の操作が終わったのかポッドの扉は開き、中から液体と共に少女が流れ落ちてくる。

 

「ゲホッゲホッ……あなたは……篠ノ之束……?」

「そうだよぉ〜!で、この子がハルカ。私の可愛い家族。本当に可愛いんだよ?さっきだって私の後ろをカルガモのように付いて来たんだから!」

「そう……ですか。……それで、私に何の用が……」

「キミ、私に殺されるのと私に付いてくるの、どっちがいい?」

「えっ……」

 

 少女は束の問いに疑問を浮かべる。前者は兎も角、後者は何なのだろう。自分は廃棄処分された身。なのに目の前にいる束は、自分を救おうとしている。

 喜びと戸惑い、二つの感情が少女の中で湧き起こっていると束が急かすように口を開く。

 

「ねぇどっち〜?束さん、早く帰りたいんだけど早くしてくれないかなぁ?」

「えっ、えっと……」

「うぅ……あぅ……」

 

 ハルカは裸のままでいる少女が可哀想だと思ったのか、自分が来ていた上着を少女に着せる。少女は突然の事に驚いたが、ハルカに感謝の言葉を告げる。

 

「あ、ありがとう……ございます……」

「ねぇねぇ早くして〜。あと5秒の間に答えないと死んじゃうよぉ。いーち、にー、さーん……」

「い、行きます……私を、連れて行って……ください」

「よし!なら決まりだね。それじゃあキミはこれから〝クロエ・クロニクル〟って言う名前ね!どう、可愛いでしょう?」

「は、はい……可愛い、です……!」

 

 初めて、〝人間〟として扱ってもらったのが嬉しかったのか、少女ーークロエは笑みを浮かべる。

 ハルカはクロエを立ち上がらせるが、筋力が衰えているのかガクッと膝をつきそうになるが、ハルカがクロエを支えた。

 

「ありがとう、ございます……ハルカさん」

「あぅ……!」

「うんうん!仲睦ましい兄妹愛だねぇ!」

「兄妹、ですか……そうかもしれませんね」

「それじゃあ、早く此処から出よっか!束さん、歩き疲れちゃっーーーー」

 

 その時だった。

 突如、研究室のアラームが鳴り響く。ハルカとクロエが驚く中、束は険しい表情を見せる。

 恐らく何かしらの事故、もしくは緊急事態に備えていたのだろう。何故ポッドやコンソールが稼働していたのか、納得ができる。

 廃棄処分するなら、ポッドやコンソールや研究所の電源は全てオフにして行く筈だ。

 

「大丈夫だよ。束さんに掛かれば、これくらいちょちょいのちょいだからね!」

 

 二人を安心させる為か、束はそう言うと何処から出したのか分からない小さなメモリーを取り出し、そのままコンソールへと接続し、研究所のシステムにアクセスし始める。

 

「ちょっと待っててねぇ。直ぐに出してあげーーーーは?」

「どうかしましたか……?」

「ハルカ、バッグの中にあるベルトを出して!早くっ!!」

「うぅ……!」

 

 ハルカは束が怒った顔に怯えつつも、束に言われた通りにバッグから黒いベルトを取り出す。

 次の瞬間、ポッドの近くの床が起動音を上げながら開いて行く。まるで何かが射出されるかのように出てくるそれは、一人の男性だった。

 しかし、それだけならまだいい。

 研究所に誰かが残っていたならば束一人でも蹴散らすことが出来た。しかし、男性の左腕にはハルカと同じ〝銀色の腕輪〟が装着されていた。束は直ぐに理解した。

 目の前にいる男も、ハルカと同じ〝アマゾン〟だと言うことを。

 男はカッと目を見開き、クロエへ向かって走り出しだが、それを防ぐようにハルカがクロエを庇い、束が男を蹴り飛ばした。

 

「あぁもう!早く帰りたいのに何で邪魔するかなぁ!」

 

 束は怒りながら、再びコンソールを操作し始める。すると、蹴り飛ばされた男の方向から爆発音と熱風が吹き荒れた。

 そして、其処に居たのは既に男の姿をしたものではなく、異形の姿をしていた。そう、男が姿を変えたのはアリの姿をした〝アマゾン〟だった。

 

「篠ノ之束、試験体第一号、確認。排除します」

 

 まるでロボットのように、淡々と喋るアマゾン。

 感情が無いのか、もしくはただのロボットになってしまった男なのか。しかし、束は思い出した。

 ハルカが居た研究所から拝借した研究資料に書かれていた内容ーーー〝シグマタイプ〟の事を。

 

「あれがシグマタイプっ!?なんで所にシグマタイプがいるのさっ!」

 

 アリアマゾンは束に向かって走り出した。アリアマゾンの腕が束の胸に伸びるーーーー

 

「あぁああああっ!!」

 

 ーーーー事は無く、ハルカがアリアマゾンに突進し、突き飛ばす。

 しかし、アリアマゾンはすぐさま立ち上がり、ハルカも排除しようと目標の更新を設定した。

 

「目標、更新。〝オメガタイプ〟、排除します」

「っ!ハルカッ!ベルトを付けーーー」

 

 束がハルカに叫んだが、時既に遅し。

 アリアマゾンの突進を喰らい、血を吐き出しながら壁に激突した。

 

「ハルカッ!?」

「ハルカさん!」

「オメガタイプ、排除完了。篠ノ之束、試験体第一号を確認。排除します」

 

 アリアマゾンは束とクロエにゆっくりと近づいて行く。着実に、確実に、二人の元へ歩みを進める。束は念の為にと用意していたISを持ってきているが、展開るのが先か、自分が殺されるのが先か。

 束がクロエを背中に隠しながら、そう考えていた時だった。研究室に爆発音と熱風が響き渡る。

 何事かと、アリアマゾンはハルカの元に視線を送ると同時に、束とクロエも視線を向ける。

 其処に居たのはーーー

 

 《Omega…!Evolu…Evo…Evolution…!》

 

 ーーー緑色の体表面、オレンジ色の胸部装甲、赤い釣り目状の複眼。全身が鎧のように無機質な形状を持ち、四肢の末端を包むブーツ及びグローブ状の部位にも形状の差異が見られるが、腰のベルトを見て一瞬で理解した。

 あれはーーーハルカだと。

 

「ウゥ……アァアアアアアアッ!!!」

 

 ハルカーーーアマゾンオメガが雄叫びを上げ、目の前の敵に視線を向け、走り出す。

 アリアマゾンもオメガに向かって走り出し、両者は拳を突き出す。しかし、一瞬オメガの方が早かったのか、アリアマゾンはオメガの拳を叩き込まれ、吹き飛ぶ。

 オメガは跳躍し、吹き飛ぶアリアマゾンの腹部を脚で踏み抜くと地面に叩き込まれた瞬間、腹部からは血が噴き出る。

 アオメガはアリアマゾンから脚を引き抜き、無理矢理立たせると拳を握り、アリアマゾンの心臓を貫いた。

 そして最後には、そのまま振り上げた。真っ二つとなったアリアマゾンは血を噴き出しながら、黒い泥となって絶命した。

 

「凄い……」

「ハルカ……凄すぎるよ……!」

 

 クロエと束がそう呟く中オメガは息を整え、ベルトを外す。その瞬間、オメガの姿からハルカへと姿を変えて行くと、そのままハルカは地面に倒れる。

 束とクロエがハルカの名前を叫ぶ中、ハルカは意識を無くしつつあった。ふと、〝何か〟が見えた気がしたがそのまま意識を手放した。

 

 ◇◇◇◇

 

 夜景が一望できる最上階のビルに男女は一糸まとわぬ姿で、一夜を共にしていた。

 女性はタオルケットを胸の部分まで隠し、隣の男性は同じくタオルケットを腰の部分まで隠しながら、酒を飲んでいた。

 

「成る程……〝オメガタイプ〟は篠ノ之束の元にいるのか……」

「えぇ、あなたの研究成果だもの。やっぱり嬉しいのかしら?」

「さぁね。嬉しいのか嬉しくないのかって聞かれたら……嬉しくないって答えるね」

「あら、なぜ?」

「そりゃ、近くにいた方が俺が殺せるからな。元々は人類をアマゾン化しようって言ったのは俺だが、4,000体も必要なかったんだよ。最後に残った1匹を俺の手で殺す……まぁ、俺に内緒でアンタらが〝シグマタイプ〟を開発していたのは驚きだが」

「うふふ、ごめんなさいね。アマゾンがどんな物なのか見てみたくて遂……」

「まぁいいけど。〝シグマタイプ〟は人の肉を喰らわずに生きられる代物だ。運用コストもそんなにいらないし、居るのはアマゾン細胞と人間の死体だけ。そんだけありゃ、人間なんていらないからなぁ」

 

 男性は酒を飲み干し、近くのテーブルにグラスを置くと女性を抱き寄せる。あんっと艶めかしい声を出す女性の髪を撫でる男性は、何処か儚げだった。

 

「しかし、アンタ俺と変わらない見た目してるけど俺より年上だろう。まぁ、良い女なのは変わりないけどな」

「フフッ、あんまり女性の歳を気にしちゃダメよ?いつか後ろから刺されるわよ?」

「オータムの事か?アイツはダメだな。アイツは男なんて嫌いってオーラを出してやがる。アイツ、お前にゾッコンだぞ、スコール」

 

 スコールと呼ばれた女性は、男性の頰に触れ、艶めかしく笑みを浮かべる。

 

「フフッ。気にしないでちょうだい。私はあなたにゾッコンなんだからーーージン」

「言ってくれるねぇ」

 

 ジンと呼ばれた男性は、スコールを押し倒すと再び情事を始めた。スコールの声が部屋に響く。それと同時に部屋に置かれていた一輪の花が、花びらを落としていった。




クロエ・クロニクルとの出会い、そしてハルカがアマゾンオメガへと変身を遂げた中、亡国企業〝ファントム・タスク〟が登場。そしてジンと呼ばれた男性。
シグマタイプとは何なのか、オメガタイプが何なのか分からないかと思われますが、追々明かしていきたいと思います。

次回は少し投稿が遅れると思います。何卒ご了承ください。
それでは、次回もよろしくお願いします。
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