天災兎と人喰いトカゲ 〜Armour Zone〜   作:TearDrop

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EP.16 Painful memory

「ーーーアマゾン」

 

 《Omega…!Evolu…E…Evolution…!》

 

 ハルカーーーオメガは自身を睨みつけるカマキリアマゾンに向かって、ゆっくりと歩み始める。

 カマキリアマゾンが立ち上がり、オメガに両手の鎌で斬りかかるがそれをいなすオメガ。

 カマキリアマゾンは両手の鎌で、次々と斬りかかって行くが、それを避けるオメガには余裕があるようにネオ達には見えた。まるで長い間戦い続けてきた歴戦の戦士のように……。

 オメガはカマキリアマゾンの鎌をいなし、拳と蹴りを叩き込んでいく。

 怯むカマキリアマゾンに攻撃のチャンスを与えないつもりか、オメガは更に追撃を叩き込んでいく。

 その光景を見た一夏は思い出す。

 三年前、自分を助けてくれた時のことを。あの時よりも、確かにオメガは強くなっていると。しかし、それ以上に気がかりなのが一つだけあった。

 

 ーー何故千冬姉に似てるんだ……!?

 

 初めて会った時は、オメガの姿のままだった。顔も姿も分からなかった。しかし、こうやってオメガーーーハルカと出会った事により更に混乱する。

 圧倒的な力の差を見せつけられたカマキリアマゾンはその場から逃亡を図ろうとしていた。しかし、それをオメガが許すわけもなくーーー。

 

 《Violent Punish……!》

 

 オメガはその場から跳躍し、カマキリアマゾンの胴体を縦に一閃ーーー真っ二つに斬り裂いた。オメガは形を残したまま絶命したカマキリアマゾンを一瞥し、ネオの方へ視線を向ける。

 

「あんた……何処かで……?」

「…………ウォオオオッ!!」

 

 オメガは咆え、ネオに向かって走り出すと拳を叩き込むーーーが、それをギリギリで防ぐネオ。

 

「あんた……味方じゃないのか……!?」

「………………」

 

 オメガは何も答えない。オメガの突然の行動にネオだけでなくマドカと一夏、箒は驚愕する。

 何故、オメガがネオを攻撃したか理解出来ない。箒を助けたかと思えば、今度はネオを攻撃した。

 理解出来ない三人だったが、オメガはそんな事関係なくネオを振り払う。

 ネオはオメガに回し蹴りや拳を放つが、オメガはそれを避け、ネオの拳を払うと蹴りと拳をネオに叩き込んでいく。

 叩き込まれた場所から血を流すネオは地面に膝をつくが、何とか立ち上がると腕の刃で斬りかかると同時にオメガもネオの刃をアームカッターで防ぐ。

 火花が散り、鍔迫り合いに持ち込もうとするネオだったが、オメガが腕を振り払い、地面に叩きつけ、蹴り飛ばす。オメガがネオに近づこうとした時、オメガの前に白式を纏った一夏が立ち塞がる。

 

「待ってくれ!どうしてアンタが……三年前に、アマゾンにされかけた俺をアンタは助けてくれたのに……どうして……どうしてチヒロを襲うんだ!」

「織斑一夏くん………元気そうで何よりだよ。お姉さんはーーー織斑千冬は元気にしてる?」

「質問に答えろよっ!どうしてチヒロを……!」

「………悪いけど、答えるつもりはないよ。これは僕と……〝彼女〟の問題だ」

 

 オメガが一夏に近づこうとした時だった。

 オメガの足元に一発の蒼い銃弾が撃ち込まれる。銃弾が放たれた方向へ視線を向けると、ブルーティアーズを纏ったセシリアがライフルの銃口をオメガに向けていた。

 

「ハルカさん……それ以上動くと、今度は容赦しませんわよ?」

「セシリア……」

「もうすぐ更識家の調査班の方々が到着します。死にたくなければ、今日は大人しく帰った方がよろしいかと思いますわ」

「…………」

 

 オメガはドライバーを取り外し、元の姿へと戻る。ハルカはジャングレイダーに跨り、ヘルメットを被るとセシリアを一瞥する。

 セシリアの目は、真っ直ぐハルカを見つめていた。

 ハルカは少しばかり〝笑み〟を浮かべ、ジャングレイダーを駆り、その場から走り去った。

 その後、調査班が現場に到着し、セシリア達と共に生き残った職員達を無事に発見された。

 負傷者もいた為、調査班の数人はすぐさま負傷者を病院へ運んだ。そしてチヒロとマドカ、イユは車の中で治療を受けていた。

 箒がマドカとイユの治療を済ませ、最後の一人であるチヒロの治療を済ませる。

 

「これで大丈夫だ……チヒロ、彼を知ってるのか?」

「分からないけど……でも、何処かで会った気がするんだ。子供の頃に、何回か……」

 

 それは、チヒロの幼い頃の記憶。ハルカと戦っていた時、少しばかり昔の記憶を思い出した。

 あれは、自分がまだ幼い頃。顔も覚えていない母親が自分を抱きかかえている。

 チヒロの視線は母親から、チヒロを見つめるハルカの笑顔へと。手には、子供が喜びそうなおもちゃの数々が握られており、ハルカはおもちゃをチヒロに渡すと優しい笑みを浮かべる。

 

「ハルカ……兄ちゃん……?」

「……チヒロ?どうかしたのか?」

「う、ううん。なんでもない……」

 

 箒の言葉に、首を振る。

 しかし何故だろうか。何故ハルカはチヒロに襲いかかったのか。目的が分からない以上、深入りは禁物だった。ふと、箒の腕に視線を向ける。

 〝柔らかそう〟という印象もあるが、剣道を嗜んでいるためか、〝肉付き〟もいい。

 チヒロがジッと箒の腕を見つめていると、少しばかり涎が口から垂れていた。

 

「……チヒロ、涎が出ているぞ」

「……えっ?」

 

 マドカの言葉に、チヒロは口元を拭う。何故涎が出たのだろうか。もしかすると、箒の腕を〝美味しいそう〟に見つめていたからだろうか。

 ーーーそんな事を思っていた事に気づくチヒロは、自分の中の本能に恐怖を覚えた。

 自分はアマゾンじゃない。一人の〝人間〟なんだと心の中で叫びながら、唇を噛んだ。

 

 場所は代わり食堂。

 任務終わりに、チヒロ達は昼食を取っていた。定食や洋食が並ぶ中、チヒロはいつもと変わらぬゼリーを食べていた。

 甘い物が好きというわけではない。これしか食べれないのだ。どうしても〝味が濃いもの〟は苦手であるチヒロは、此処に来てからゼリーしか食べていない。

 

「……あのさ、一夏。一夏はハルカって人と知り合いなの?」

「あぁ……三年前、見知らぬ奴らに誘拐された時に助けてもらったんだ。その時は素顔とか分からなかったからさ……でもまさか、千冬姉に似てるとは思わなかったし、チヒロを襲うなんて……」

「そっか……セシリアさんは、あの人の名前を知ってたけど……?」

「えぇ。昔、イギリスでお会いした事がありまして。その時に少々……」

 

 そこから、セシリアは口を閉ざした。

 言いたくないのだろうかと、チヒロはそう思う事にした。ふと、食堂に置かれているウォーターサーバーに視線を向ける。

 先程、水が切れており、丁度いいタイミングでやって来た職員が空のタンクを入れ替えていた。

 しかしどうしても、溶原性細胞の事を思い出してしまう。身近にある水が、恐ろしい怪物へ変貌させる細胞が入ってとは思いもしないだろう。

 もしかすると、食堂に置かれているウォーターサーバーにも溶原性細胞が……。そう考えてしまう。

 

 ◇◇◇◇

 

 場所は代わり、モニタールーム。そこには、千冬と眼鏡を掛けた女性ーー山田真耶がモニタールームに完備された端末を操作していた。

 

「失礼します。織斑先生、何かご用でしょうか?」

「来たか、更識」

 

 モニタールームに入って来たのは、水色の髪に扇子を持った少女ーー更識楯無。その隣に立つ、楯無と同じ水色の髪を持った眼鏡を掛けた少女ーー更識簪の二人だった。

 

「先ずは更識妹、ISの調整はどうだ?」

「ブルーティアーズと白式は問題ありませんでした。ですが、改良型の打鉄二式の調整がまだ終わってません……」

「そうか。更識姉、調査班の方はどうなっている?」

「暗部の方から数人程、調査班に回しました。今、工場内を調査しています。あの工場には、篠ノ之博士が言う溶原性細胞は検出されませんでした」

「そうか、ご苦労だった。山田先生、何か見つかったか?」

「今の所、アマゾンの反応は確認されません。ですがいつ覚醒するか分からないので、調査班の方々の連絡を待つしかありませんね」

「私の方からも今の所、調査班の方から連絡はありません。やはり篠ノ之博士が以前調べた様に、感染して発症する人としない人がいる様ですね」

「やはり溶原性細胞は、特定の条件が揃わない限り感染しないらしい。溶原性細胞は水分が無いと死滅する為、空気感染や接触感染などの二次感染がない事が唯一の幸いだな……だがーーー」

 

 千冬はモニターに映されたオメガーーーハルカに視線を向ける。以前会った時よりも、雰囲気や目つきも変わっていた。

 まるで、この三年間〝嫌なもの〟を見て来たかの様な雰囲気だった。

 束に聞いても答えるつもりは無いだろう。束の事だから何か考えがあっての事だろうと、何となく察しがついた千冬。

 

「でも、本当に織斑先生に似ていますね。篠ノ之博士が送って来た研究資料を見させていただきましたが、織斑先生の遺伝子とアマゾン細胞から生まれたクローンなんですよね」

「あぁ……何故私の遺伝子を使ったのか分からないのもあるが、どうやって私の遺伝子を採取したかだ。考えられる要因は幾つもある……あり過ぎて頭が痛くなるがな……」

 

 血液検査や遺伝子検査などが考えられる。しかし、どのタイミングで採取されたかが分からない以上、手の打ち様もない。

 その時だった。モニターから警告音が響き渡る。アマゾンのお出ましであった。

 

 ◇◇◇◇

 

 調査班が運転する車の中で、箒がチヒロ達に今回の作戦のブリーフィングを行なっていた。

 

「今回、アマゾンの被害が確認されたのは街中にある耳鼻科病院。そこの医師と看護師がアマゾンへと覚醒したらしい。先に着いている調査班からの話によると被害者は……ッ」

「箒、どうした?」

「……耳からチューブ状のようなもので脳髄を吸われた痕跡が残されていた。床には被害者の脳漿が落ちていたとの事だ……」

 

 想像するだけで恐ろしい。

 被害者は恐らく、生きたままアマゾンに脳髄を吸われたのだろう。どれだけ怖かったのか分からない。しかし、話はそれだけでは終わらない。

 

「二体のアマゾンは市街地へ逃げ、今でも逃走しているとの事だ。追いかけた調査班から先程連絡があり、街中の廃病院へ逃げ込んだらしい」

「なら、手分けして捜索した方が良さそうだな。セシリア、どうする?」

「そうですわね……なら、チヒロさんと私は正面から。イユさんとマドカさん、一夏さんは裏口から捜索してください。箒さんは調査班の方と共に待機という事で。何か分かりましたら連絡を」

 

 廃病院に着き、セシリアの指示通り、チヒロはセシリアと共に正面から。イユとマドカ、一夏は裏口へと向かった。チヒロは正面玄関の扉を開け、セシリアと共に廃病院へと入っていった。

 

「チヒロさん、アマゾンの気配はしますか?」

「うん。でも、血の臭いが混じってて、何処にいるかまでは……」

「そうですか……一夏さん、そちらはどうですか?」

『イユが気配を探ってるけど、血の臭いが混じってて分からないらしい』

『アマゾンにはそれぞれ個体差がある。感覚に鋭い奴と鈍い奴がな……』

「マドカさん、随分とお詳しいんですのね。やっぱり貴女ーーー」

『私を詮索する位なら、黙って仕事をしたらどうだ?それとも何か?私が使ってるサイレント・ゼフィルスが気になるのか?』

 

 マドカが使用しているサイレント・ゼフィルス。

 元々はイギリスで開発されたブルー・ティアーズの試作二号機であるサイレント・ゼフィルス。

 亡国機業から奪われて以来、行方不明だった物が突然セシリアの前に現れたのだ。

 もしかするとマドカは奪った者達と繋がっていると、セシリアは考えていたが、〝とある人物〟からの情報でチヒロとマドカの事を聞かされた時は、争っている場合ではないと、そう思う事にした。

 

『ふん……チヒロ、アマゾンの気配はどうだ?』

「だいぶ近づいてると思う……ッ!」

 

 その時だった。

 何処からか、微かだが女性の声が聞こえ、チヒロとセシリアは女性の声がした方へ走り出した。

 手術室の前に立ち、扉を開けると其処にはーーー女性の耳から脳髄を吸い出そうとしているゾウアマゾンとゾウムシアマゾンがいた。

 あまりの光景に、セシリアは目を逸らした。

 チヒロはそんな光景を見つめながら、ドライバーを装着し、インジェクターを差し込む。

 

「……アマゾンッ!」

 

 《Neo…!》

 

 爆風でゾウアマゾンとゾウムシアマゾンは吹き飛び、アマゾンネオに変身したチヒロは二体のアマゾンに飛びかかる。

 

「イユ!アマゾンだ!」

『了解』

 

 軽い会話で済まし、ネオは二体のアマゾンに拳と蹴りを叩き込んでいく。ゾウムシアマゾンは怯みながらもその場から立ち去る。

 立ち去った所で、その場に向かっているイユ達がいると知らず。

 ネオはゾウアマゾンに攻撃を叩き込んでいくがどうも動きがおかしかった。ゾウアマゾンはその隙を突き、ネオを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたネオはすぐさま立ち上がろうとしたが、自分の後ろにいる女性に視線を向けた。女性は痙攣しながら呻き声を上げていた。ふと、女性の腕に視線を移した時だった。

 

 ーーーー食べたい……!

 

 そんな感情が湧き上がってきた。それを見ていたゾウアマゾンはネオに語りかける。

 

「食いたいなら食っちまえよ。お前もアマゾンなんだろう?自分に正直になれよ……!どうせ俺たちは本能に抗えない怪物だ!」

 

 ゾウアマゾンの言葉に、セシリアのライフルから放たれた一発の銃弾を放つ。銃弾はゾウアマゾンの鼻に向かって放たれるが、ゾウアマゾンはそれを何とか避けると、その場から逃走した。

 

「チヒロさん!追いますわよ……チヒロさん?」

「はぁ………はぁ………!」

 

 ネオは女性の腕から滴る赤い血を見ていた。その腕が苦しそうにしているネオにとってのーーー〝餌〟だと気付いたセシリアはライフルをネオに向ける。

 だが、それは防がれた。セシリアの横から現れたイユーーーカラスアマゾンに。

 

「はぁ……はぁ……イユ……?」

「………………」

 

 ネオの言葉に、カラスアマゾンは答えない。ただ一言だけを、ネオに呟いた。

 

 ーーーーターゲット、確認。

 

 ◇◇◇◇

 

 遡る事数分前。

 逃げたゾウムシアマゾンは、その場に居合わせたカラスアマゾン達と戦闘を繰り広げていた。

 

「一夏、横から挟み撃ちだ!」

「分かった!」

 

 マドカと一夏は、ISの武装でゾウムシアマゾンに攻撃を仕掛ける。

 しかし、機動力の問題か、ゾウムシアマゾンはそれを軽々と避けていく。だが、頭上から現れたカラスアマゾンの蹴りを喰らい、地面に倒れる。

 それを好機と見た一夏は雪片二型でゾウムシアマゾンを突き刺し、それと同時にマドカもスターライト・ブレイカーでゾウムシアマゾンの腹部を撃ち抜く。

 

「イユ!今だ!!」

「了解」

 

 一夏の叫びに応じるカラスアマゾンは走り出し、ゾウムシアマゾンの頭部に飛び蹴りを叩き込む。

 頭部を吹き飛ばされたゾウムシアマゾンは形だけを残し、絶命した。

 二体の内一体を駆逐したイユ達。マドカはチヒロにインカムで通信を試みる。

 

「チヒロ、こっちは終わった。そっちはーーー」

『食いたいなら食っちまえよ。お前もアマゾンなんだろう?自分に正直になれよ……!どうせ俺たちは本能に抗えない怪物だ!』

 

 その言葉を聞き、マドカは嫌な予感がした。前々からこうなる予感はしていた。

 チヒロは人間を守る為にアマゾンと戦っているが、チヒロも〝アマゾン〟であると。

 

「おい、マズイんじゃないか……チヒロ、もしかしてーーーー」

「違う!チヒロは絶対に人は喰わない……だって〝あの時〟、チヒロは言ったんだ……だからーーー」

「マドカ………おい、イユはどうした?」

「なに……まさかっ!」

 

 マドカは嫌な予感がし、その場から居なくなったカラスアマゾンを探しに向かう。一夏もマドカを追い、カラスアマゾンを探しに向かった。

 そして、廃病院に辿り着いた時には既に遅かった。

 何故ならーーーカラスアマゾンがネオの胸部を切り裂いていたからだ。

 




如何でしたでしょうか。少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

ハルカとチヒロの関係に関してはまだまだ明かせない秘密があります。どうしてチヒロが幼い頃にハルカと会っているのか、それは今後のお楽しみという事で。
そして、イユがチヒロを攻撃した理由。これは何故でしょうかね。

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