天災兎と人喰いトカゲ 〜Armour Zone〜 作:TearDrop
今回の話は少し分かりにくい部分が出てくると思われます。書いてる自分も少しばかりややこしくなって、何度も溶原性細胞やオリジナルについて調べて書きました。wikipedia先生、ありがとう。それでは、お楽しみください。
ーーー先生、ギャグ回が書きたいです←
クワガタアマゾンの駆除を完了したチヒロ達は、クワガタアマゾンの死体の回収を調査班に任せ、一足早くIS学園へと戻ってきた。
チヒロとマドカはすぐさまメディカルチェックを受けに行き、セシリアと一夏は報告書の制作の為、自室へと戻って行った。そしてイユはというと、千冬と共にモニタールームに来ていた。
「……なるほど。束の命令で此処に来たのは分かった。全く、そういう事は早目に言ってもらわないと困るんだがな……。まぁいい、イユと言ったな。今日からオルコットが率いるチームに所属してもらう」
「分かった」
「……束から話は聞いていたが、まさか本当に死んでいるとはな……。一応、メディカルチェックをさせてもらったが、心臓は動いていなかった。しかし身体は正常に動作している……これが束が言っていた〝シグマタイプ〟か」
「織斑千冬、私は何をすればいい。私の主であるクロエ・クロニクルからは織斑千冬の言うことをちゃんと聞きなさいと言われたが」
「そうだな……ある程度の事は好きにしていい。しかし、学園の生徒や教師、スタッフには迷惑を掛けるなよ。ここはお前がいたラボじゃないんだからな」
「分かった」
イユはそう言い、モニタールームから退出する。
千冬はスーツのポケットからスマホを取り出し、電話帳を開く。電話する相手は勿論ーーー
『もしも〜し、ちーちゃん!どうしたの?ちーちゃんから電話してくるなんて珍しいね』
「そうだな……少し聞きたい事があってな。お前の所のイユがこっちに合流したが、本当に死んでいるとは思いもしなかったぞ」
『そうだねぇ。束さんも最初は驚いたけど、今は慣れたよ。それで、話はそれだけじゃないでしょ?』
「あぁ……そっちに送ったデータの解析はどうだ?何か新しい事は分かったか?」
『解析は順調……とは言い難いね。何せ、〝アマゾン細胞〟が変異して生まれたのが、今回の新種のアマゾンだからね。束さんはこれを〝溶原性細胞〟と名付けたよ』
「溶原性細胞……」
『そう。それと、今回の新種のアマゾンを調べて、分かった事が一つあるよ』
「なんだ?」
『アマゾン細胞が溶原性細胞に変わるのは条件があるんだよ。それはーーー〝人間の遺伝子〟を持っているかどうか……チヒロは〝人間の遺伝子〟を持ってるでしょ?』
「……あぁ」
千冬は束の言葉を否定しなかった。否定した所で、束はすぐに気づくと思ったからだ。
しかし、〝人間の遺伝子〟を持っているならば、千冬のクローンであるハルカも溶原性細胞を持っている可能性がある。千冬が言葉を紡ごうとした時だった。
『ハルカの事を考えてる?』
「ーーーやれやれ、お前は何でもお見通しだな」
『まぁね。ちーちゃんが考えるように、ハルカも人間の遺伝子を持ってる。でも、それが溶原性細胞に変わるかは分からないし、今後の経過次第かな……ねぇ、ちーちゃん』
「なんだ?」
『……もし、ハルカが溶原性細胞のせいで人を食べるようになったら……束さんはどうすればいいかな?ハルカを……殺さないといけないのかな?』
初めてだった。
いつも陽気で人を巻き込み、とんでもない奴かと思えば、一人でISの基礎理論を考案、実証し、全てのISのコアを造った自他共に認める天才科学者。そんな束が初めて、千冬の前で弱気な発言をした。
こんな時、どうすれば良いのか分からない千冬だったが何とか考え、言葉を紡ぐ。
「……さぁな。だが、あいつはアマゾンだ。いつ人を喰うか分からない。でもーーあいつは立派な〝人間〟だ。自分の声に従って、守りたいものを守る……お前が私にそう言ったんじゃないか」
『……そうだね。ありがとう、ちーちゃん』
千冬は照れながらも、笑みを浮かべる。じゃあなと告げ、通話を切ろうとした時だった。
『そうだ、ちーちゃん。一つだけ伝えておく事があったんだけど』
「………?なんだ?」
『チヒロとまどっちが初めてIS学園に来た時、チヒロは〝腕〟を持ってたよね?』
初めて千冬がチヒロと出会った時、チヒロはアマゾンと思われる腕を持っていた。
念の為、束に連絡して束のラボへチヒロが持っていたアマゾンの腕を送ったのだった。
「あぁ。お前の方に送ったあの〝腕〟か。それがどうかしたのか?」
『あの腕を調べたんだけど……チヒロの細胞と腕の細胞が一致したよ』
「なんだと……?それはおかしい。先日倒した新種からもチヒロの細胞が見つかった。何故あの〝腕〟からチヒロの細胞が見つかるんだ?」
『一応、ちーちゃんから送られたデータを調べて見たんだけど……改竄された痕跡が見つかったよ。多分、チヒロを今回の溶原性細胞のオリジナルとして断定させて駆除させようとしてる奴がいるのかも……』
「なら、チヒロは溶原性細胞のオリジナルじゃないと……」
『ううん、チヒロはオリジナルかもしれないってだけ。でも、チヒロの体内から溶原性細胞は検出されなかった。もしかすると……』
「オリジナルは二体いるということか……」
『束さんの方でも調べてみるけど、ちーちゃんも気をつけてね。誰が怪しいか分からないんだから』
「分かった……」
◇◇◇◇
翌日。モニタールームでは千冬がチヒロ達を招集していた。先ほど、街の工場で新種のアマゾンが現れたと報告があった。
その為、ブリーフィングが行われていた。チヒロとマドカ、セシリア、一夏、イユの五人がブリーフィングを行なっていたが、モニタールームに一人の生徒が入って来た。
それは、一夏とセシリアが知っている生徒だった。
「箒、なんで此処に……?」
「失礼します。織斑先生、お呼びでしょうか」
「来たか、篠ノ之。今回から篠ノ之にはお前達のサポートに回ってもらう事にした」
「なんでだよ、千冬姉!箒はアマゾンの事なんて何も知らないーーー」
「織斑先生だ。篠ノ之には今回の件や、アマゾンの存在について説明はしてある。だが、篠ノ之は専用機を持っていない為、調査班と共に後方でお前達のバックアップをしてもらう」
「よろしく頼む、一夏」
「あ、あぁ……でも、いいのか?かなり危険な任務だぞ?それに……見たくない物だって見る事に……」
「それは覚悟している。嫌でも見る事になる事ぐらい……だが、私だけ安全な場所で生きるのは嫌だ。私にも、できる事があるはずだ」
箒の決意に、千冬は笑みを浮かべる。
「よし。今から作戦を開始する。お前ら、死ぬなよ」
『了解!』
チヒロ達はその場にあった荷物を持ち、モニタールームから退出していく。しかし、千冬がチヒロを呼び止めた。一瞬、マドカがチヒロに視線を向けるがセシリアに呼ばれ、その場を後にした。
「チヒロ、身体は何ともないのか?」
「うん……大丈夫だけど?」
「そうか……すまない、それだけだ。気をつけて行ってこい」
「うん、分かった……」
チヒロは首を傾げつつ、その場を後にした。千冬はそれを見届け、昨日の束の言葉を思い出す。
『チヒロはオリジナルかもしれないってだけ。でも、チヒロの体内から溶原性細胞は検出されなかった。もしかすると……』
『オリジナルは二体いるということか……』
『束さんの方でも調べてみるけど、ちーちゃんも気をつけてね。誰が怪しいか分からないんだから』
誰が怪しいのか、今は分からない。
もしかするとIS学園にデータを改竄した者がいるのかもしれない。それが誰かは分からない。
そしてオリジナルの件。チヒロがオリジナルかもしれないという事は束の話で聞かされた。しかし、もう一体は何処にいるのか。謎が深まるばかりで、千冬は頭を抱えるしかなかった。
現場に到着したチヒロ達は、工場の前にバイクと車を止めると中の状況を確認する為、事前に到着していた調査班に話を聞くことにした。
「セシリア・オルコット、他4名到着しました。中の状況はどうなっていますか?」
「我々が到着した時には、工場の職員数名が捕食されていました。中にはアマゾンが三体。どうやら、生き残った工場の職員達を探している模様です」
「生き残った職員達は今何処に?」
「工場の中には幾つか倉庫があり、其処に隠れているようです。ですが倉庫から連絡があった為、電波が悪くどの倉庫にいるかまでは……」
「分かりました。では、チヒロさんとイユさん、マドカさんは工場の中を。私と一夏さんは生き残った職員がいる倉庫を。箒さんは此処で私達のバックアップをお願いしますわ」
「分かった。一夏……気をつけてな」
「おう。箒もな。危ないと思ったら逃げろよ?」
「あぁ、分かっているさ」
箒はそう言い、車の中に戻るとタブレットを操作し始め、中の状況を確認する。チヒロとイユ、マドカは工場の中へ潜入、セシリアと一夏は工場の中にある倉庫へと歩みを進めた。
チヒロ達が工場の中に入ると、中は血の臭いで充満していた。チヒロ達は中へ進んでいき、アマゾンを探しに歩みを進める。
インカムから届く箒の声に耳を傾けながら、工場の中を探索していく。
『その工場は業務用のウォーターサーバーを開発、提供している会社らしい。だが、数ヶ月前にウォーターサーバーの水に人体に影響がある〝菌〟が発見されてからは営業成績が悪化し、今じゃ赤字続きの様だ』
そう、この工場は数ヶ月前までは黒字続きの会社だった。しかし、箒が言ったように数ヶ月前にウォーターサーバーの水に人体に影響がある〝菌〟ーーー溶原性細胞が見つかった。
それを知った政府はすぐにウォーターサーバーを回収したが、既にウォーターサーバーの水を飲んでしまった人々が万単位いる事が発覚した。
政府は大規模な血液検査や身体検査を水を飲んだ人々に対して行ったが、感染した者と感染しなかった者の二つのタイプが分かった。
どうやら溶原性細胞は特定の条件が揃わない限り感染しない事、そして、溶原性細胞は水分が無いと死滅する為、空気感染や接触感染などの二次感染はない事が分かった。
『一夏、セシリア。そっちの状況はどうだ?』
『こちら織斑。中を探索しているが、倉庫が多すぎて生存者が何処にいるか分からない。チヒロ、そっちはどうだ?』
「こっちも見つからない。ただ……血の臭いがだんだん強くなってるから、アマゾンがすぐ近くにいると思う……」
チヒロ達がウォーターサーバーの製作所にやって来た時だった。血の臭いが一掃に強くなった。チヒロ達が扉を開けると、其処にはーーー〝人間だった者〟が其処ら中に転がっていた。
三体のアマゾンがチヒロ達の匂いに気づいた。カマキリ、サイ、ヘビに酷似したアマゾンがチヒロ達に襲いかかる。
「アマゾンを発見!交戦にーーーうわっ!」
チヒロはアマゾンの攻撃を何とか避け、腰に装着していたネオアマゾンドライバーにインジェクターを装填し、スロットを上げ押し込む。
イユは左腕に装着しているネオアマゾンズレジスターのスイッチを押すと、二人は同時に叫ぶ。
「アマゾンッ!」
「アマゾン」
チヒロはアマゾンネオに、イユはカラスアマゾンへと姿を変え、三体のアマゾンに攻撃を仕掛ける。
二対三という数の方は相手が多いが、此処で駆除しなければ生存者の方へ向かってしまう。早く駆除して生存者を見つけなければならない。
ネオはカマキリアマゾンの両手の鎌をいなし、拳と蹴りを叩き込む。
カラスアマゾンはサイアマゾンとヘビアマゾンの攻撃を避け、壁を土台としてサイアマゾンとヘビアマゾンに回し蹴りを叩き込む。
マドカはこの場でISを使うと被害が大きくなると察したのか、懐に隠していた拳銃でカマキリアマゾンを牽制する。
「チヒロ!今の内に武器を出しておけ!」
「わ、分かった!」
《Blade…loading…!》
ネオはアマゾンネオブレードを生成し、カマキリアマゾンを切り裂いていく。カマキリアマゾンも両手の鎌でネオを牽制し、ネオの攻撃を防いでいく。
カラスアマゾンはサイアマゾンとヘビアマゾンの攻撃を防ぎ、二体のアマゾンの頭上を飛び越えると蹴りを叩き込んでいく。
しかし、ヘビアマゾンはカラスアマゾンの隙を突き、右腕が変化した蛇の尻尾でカラスアマゾンの首を掴むとサイアマゾンは突進し、頭部の角をカラスアマゾンの腹部に突き刺した。
黒い血を吐き出すカラスアマゾン。それを見ていたネオはすぐさまカラスアマゾンを助ける為、二体のアマゾンをアマゾンネオブレードで切り裂く。
「イユ!大丈夫!?」
「問題ない」
カラスアマゾンは地面に膝をつき、立ち上がろうとするがサイアマゾンの攻撃が効いているのか、立ち上がれずにいた。
ネオはサイアマゾン、ヘビアマゾンをすぐさま倒す為スロットを一度下げ、再び上げると電子音声が響き渡る。
《Amazon break…!》
ネオは走り出し、サイアマゾンとヘビアマゾンの胴体を真っ二つに切り裂いた。形を残したまま絶命した二体のアマゾン。残すはカマキリアマゾンだけとなったが既にカマキリアマゾンの姿は無かった。
何処に行ったかを周りを見渡すと、インカムから箒の悲鳴が響き渡った。
『箒!どうした!?』
『こっちにアマゾンがーーーうわぁ!!』
「マドカ、ここは任せた!」
ネオはカラスアマゾンから元の姿へ戻ったイユをマドカに任せるとカマキリアマゾン追いかけ、工場の外へ走り出した。
工場の外へ出た時、カマキリアマゾンは調査班達を切り裂き、車の外に出ていた箒に襲いかかろうとしていた。ネオはインジェクターでさらなる武器を生成しようと考えるが時間が掛かる。
ネオはカマキリアマゾンを止めようとその場を走り出した。だが箒は腰が抜けているのか、立ち上がれずにいた。間に合わない……ネオがそう思った時だった。
その場に、獣のようなエンジン音が響き渡る。
ネオとカマキリアマゾン、箒がエンジン音が響き渡った方向へ視線を向けた時だった。突如、カマキリアマゾンを赤いバイクが跳ね飛ばした。
地面を転がるカマキリアマゾンは立ち上がり、跳ね飛ばした相手を睨みつける。赤いバイクに乗った人物は箒とカマキリアマゾンの間にバイクを停め、ヘルメットを脱ぐ。その姿を見た箒は呟いた。
「ーーーー千冬さん……?」
其処に居たのは、箒がよく知っている人物に似ている少年だった。マドカとイユ、セシリアと一夏が工場の外へ出てくると少年の姿を見て、驚愕する。
マドカとイユ、セシリアはその少年をよく知っているが、一夏は箒と同じリアクションを取っていた。
「ーーーー千冬姉……?」
しかし、少年をよく知っている三人は明らかに千冬ではないと知っている。何故ならその少年はイユの仲間であり、セシリアの友人であり、そしてーーーマドカの敵だったからだ。
その少年の名はーーーーハルカ。
ハルカは箒を一瞥し、カマキリアマゾンに視線を向けると赤いバイクーーージャングレイダーから降りると腰に装着していたアマゾンズドライバーのグリップを捻り、呟いた。
「ーーーアマゾン」
《Omega…!Evolu…E…Evolution…!》
ハルカの身体は緑の炎に包まれ、爆風が起きる。炎が消え、其処に居たのは緑の獣ーーーアマゾンオメガ。かつて、亡国機業と戦った織斑千冬の遺伝子とアマゾン細胞を宿した少年だった。
如何でしたでしょうか。少しでも楽しんで頂けら幸いです。
最後に出てきた第1章の主人公、ハルカ。ハルカは第2章でどう活躍するのかは、次回から少しずつ明かしていきたいと思います。
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