天災兎と人喰いトカゲ 〜Armour Zone〜   作:TearDrop

13 / 18
お待たせしました。
第1章最終回です。今回は少し駆け足気味かもしれませんが、その反省を第2章で活かして生きたいと思います。

それでは、第1章最終回をどうぞお楽しみください。


EP.13 Miracle as life

 二体の獣がぶつかり合う。

 養殖の獣は拳と蹴りを叩き込み、野生の獣は腕の刃で切り裂いていく。血を血で洗う物語は最終局面へと進んでいく。

 

「ウォオオオオオッ!!」

「ラァアアアアアッ!!」

 

 養殖の獣は愛する人と共に生きていく為、野生の獣を殺す事。

 野生の獣は愛する人とそのお腹の子供を守る為に養殖の獣を殺す。互いに守りたい者の為に殺しあう。

 どちらが死んでもおかしくない戦いは、激しさを増していく。一方、束達はIS部隊と戦闘を繰り広げていた。

 細胞レベルでオーバースペックの束は生身でIS部隊を圧倒していく。

 クロエは自身の体に同期されているISを使い、翻弄していく。そしてイユは亡国機業の構成員達に拳と蹴りを叩き込み、時には腕や足をへし折っていく。

 

「エム、篠ノ之束を捕らえろ!篠ノ之束を捕らえればコッチのーーーー」

「分かっている。お前も、少しはまともな援護をしろ」

 

 エムはオータムに悪態を吐くとISーーーサイレント・ゼフィルスのブースターで一気に束に近づく。

 束はエムに気づき、近くにいたIS部隊の一人を蹴り飛ばすとエムの攻撃を軽々と避けていく。

 

「くっ!すばしっこい……!」

「あはは。束さんは細胞レベルでオーバースペックだからね〜。それにしてもーーーー君、何処と無くちーちゃんに似てるねぇ?」

「………っ!?」

 

 急に、サイレント・ゼフィルスの攻撃が止む。

 束の言葉に動揺したのか、エムの動きが鈍ってしまった。それを好機と見た束はエムの装甲を蹴り、高く跳躍するとくるりと一回転し、着地する。

 

「ちーちゃんに似てるって事はもしかしてーーー」

「黙れっ!!私は織斑千冬の……姉さんの……」

「おいエムッ!そいつの言葉に惑わされてんじゃねえ!!」

 

 動揺するエムの後ろから蜘蛛のようなISを纏ったオータムが束に向かって襲いかかる。

 束はそれをヒラリと避けた瞬間、イユが蹴り飛ばした構成員がオータムに激突した。倒れるオータムと構成員を見て、束は笑みを浮かべる。

 余裕がある束と、動揺するエム。そして、束に怒りを覚えるオータム。殺意の感情が、オータムの中で沸き起こっていた。

 

「もう我慢の限界だ!篠ノ之束を捕らえて俺たちに協力してもらおうと思ったがそれはもうヤメだ!ここでお前を殺して〝オメガタイプ〟をーーー」

「オータム、落ち着きなさい」

 

 束を殺そうと奮起するオータムを抑えるスコール。

 スコールもまた、金色のISを纏っていた。ふと、束がスコールに視線を移した時だった。何処と無く、違和感を覚えた。

 その違和感に気付いたのか、笑みを浮かべていた顔が解かれ、真剣な表情へと変わった。

 

「………もしかしてーーー」

「そうよ。私のお腹には、ジンの子供が宿ってる。戦いは辞めておけと言われたけど……愛する人が戦ってるんだもの。私だけ逃げるのも悪いでしょ?」

「そっかぁ……束さんと同じだ。束さんもハルカと一緒に生きるって約束したからね。何が何でも生きないといけないんだよ、束さんは……」

「私もよ。この戦いが終わったら、ジンと二人で旅に出ようと思ってるのよ。どう、一緒に来ない?」

「あはは、遠慮するよ。束さん、今のままで十分幸せだしねぇ。それにーーーハルカと一緒に生きるって決めたから」

「そう。残念ね……旅は多い方がいいと思ったのだけれど。でもーーー私もジンと何処までも付いて行くと決めたもの。私達、似てるかもしれないわね」

「そうだねぇ〜」

 

 束とスコールは笑い合う。

 側から見れば、女同士の会話で生まれた笑み。しかし二人の目はーーー笑っていなかった。この時、周りにいた構成員達は心が一つとなった。

 〝女は怖い生き物である〟と。目的の為なら、手段を選ばない女達の戦いは暫く中断した。

 一方、クロエとイユはIS部隊と構成員達を次々に倒して行く。

 イユはクロエを守るかのように、構成員達を殴り飛ばし、クロエは束とハルカの元へIS部隊を行かせないように立ち塞がる。

 

「何故〝シグマタイプ〟のお前が篠ノ之束に着いたんだ!?お前は誇りある亡国機業の構成員の筈……」

「ーーー彼女はもう、あなた達亡国機業の構成員ではありません。イユという名を授かった、一人の〝人間〟です」

「人間だと……化け物は人間になれる筈など無い。そいつも、〝オメガタイプ〟も一匹の獣だ。化け物と人間を一緒にするな!!」

「いいえーーーアマゾンも元は人間です。その人間をアマゾンにしたのはあなた達でしょう。そんな理不尽な理由……通る筈がありません」

「クロエ、指示を。私はクロエに従う」

「……えぇ。イユ、あの人達をーーー倒しなさい」

「了解」

 

 クロエの指示を聞き、イユは走り出す。

 そして、IS部隊はクロエに視線を向ける。クロエは手に持っていた杖を地面に落とすと、目を開く。

 黒い眼球に金色の瞳が光り輝く。その瞬間、IS部隊の動きが止まった。

 

「なんだ!なんなんだこれは!!」

「ワールドパージ……対象者に幻覚を見せる事で対象者を外界と遮断し、精神に影響を与える……これが私が持つ生体同期型IS、〝黒鍵〟の能力。この瞳がその証拠ですーーーと言っても、今のあなた達には分からないでしょうが」

 

 IS部隊は幻覚によって混乱していた。見えない敵に翻弄され、もがき苦しむ様をクロエはただじっと見つめていた。

 その時だった。アルファとの戦闘でクロエの元までオメガが吹き飛ばされてきた。

 

「ハルカさん!」

「クロエ、下がっーーーークロエ、その目は……」

「……これが、私の秘密です。以前、お話ししたことを覚えてますか?お見せできる物ではないので余り眼を開きたくないと。ハルカさん、こんな私でもーーー受け入れてくれますか?」

「……もちろんだよ。束が僕を受け入れてくれたように、僕もクロエを受け入れる。だって、こんな綺麗な瞳をしてるんだ……クロエだって、人間だよ」

「ありがとうございます……ハルカさん、此処は私達に任せて、ハルカさんは雨宮ジンとの決着を付けてください」

「うん、頼んだよ!」

 

 オメガはクロエとイユにその場を任せると、再びアルファの元へと走り出した。クロエはオメガを見届けると笑みを浮かべ、IS部隊へと視線を移した。

 

 ◇◇◇◇

 

 オメガとアルファは戦いを繰り広げていた。

 両者は獣の様に戦う。オメガがアルファに拳を叩き込んでいくが、アルファは回し蹴りでオメガを蹴り飛ばし、追撃を叩き込む。

 オメガとアルファの刃が両者を切り裂き、黒い血が傷口から噴き出る。

 しかし、それでも二匹の獣は戦いを辞められない。互いの愛する者を守る為、目の前の獣を殺す為に。

 弱き動物を強き者が食らう。正に弱肉強食の世界で生きている二匹の獣。

 どちらが死んでも、世界は変わらないだろう。どちらかが生き残っても、世界は変わらないだろう。しかしどちらも生き残ったらーーー果たして世界は変わるのだろうか。

 それは誰にも、ハルカやジンにも分からない。ただ愛する者と生き残る為、目の前の敵を殺す為に二人は戦っているのだから。

 

「お前、俺達を殺すんだろ?その程度か?」

「殺しますよ!あなた達を殺して……束と一緒に生きていくっ!!」

「奇遇だな。俺もお前を殺して、旅にでる。どうだ、一緒に来るかーーーと言いたい所だが……俺とお前の理想は合わねぇ。養殖の考えなんざ、野生には通用しねぇからな」

「元から、通用するなんて思ってませんよ!僕と貴方は相容れない……例えどんな事があってもそれは変わらない!!」

「ほぉ……ならどうする?例えば、今此処に亡国機業の構成員の子供が現れたら、お前はその子供を殺せるのか?」

「それは……!」

「そこなんだよ、お前が甘いのは。お前は目の前の敵を殺したいんじゃない。ただ気に入らない奴等を殺したいだけだ。選り好みしてるんだよ、お前は……」

 

 動揺するオメガの頭を掴むアルファはそう告げ、腹部に膝蹴りを叩き込む。そして、倒れこむオメガに対して追撃を叩き込んでいく。

 地面に倒れるオメガに視線を向けるアルファは、胸の装甲を掻くと視線を束へと向ける。

 

「こんなもんか?……そういやぁお前、篠ノ之束と一緒に生きていくって言ってたな。篠ノ之束を殺せばお前は本気になるのか?」

「や、やめろぉ……!」

 

 アルファはオメガの下から、束の下へ歩み始める。

 オメガがそれを止めようと腕を必死に伸ばすが、ダメージの反動で動けずにいた。アルファは束へと近づいていく。

 このままでは束が殺される。早く立ち上がらないといけないのに、身体が動かない。着々と束へと近づいていくアルファを睨むオメガ。

 

「やめろぉ………やめろぉおおおおおっ!!」

 

 オメガが叫んだ、その時だった。オメガの身体から無数の〝棘〟が飛び出し、周りの物を次々と刺していく。

 建物や車、更にはIS部隊の武器までも次々と刺していく。束やクロエ、イユはオメガの姿に驚愕しているがそれはスコール達もだった。

 オメガの無数の〝棘〟は体内に収縮し、元の姿へと戻っていく。突然の事に、その場にいた者は何が起きたかさえ分からない。しかしアルファは笑い声を上げていた。

 

「お前はやっぱりスゲェなぁ……そうこなくっちゃな!!」

「ぐっ……!」

 

 アルファはオメガに拳と蹴りを叩き込む。

 だが、オメガもやられてばかりではなかった。腕の刃でアルファの胴体や首元を切り裂いていくオメガは、更に追撃を叩き込んでいく。

 そして膝蹴りを腹部に叩き込み、膝立ちで回転し足払いでアルファを地面に倒すと上に跨り、アルファの顔面に拳を叩き込む。

 だがアルファはオメガを蹴り上げ、地面に倒す。

 そして両者は獣の様に戦いを繰り広げる。オメガは拳を放つがアルファはそれを膝蹴りで防ぎ、オメガに蹴りを叩き込む。

 しかし、アルファは腕の刃で切り裂こうとしたがオメガはそれを刃で防ぎ、鍔迫り合いに持ち込み、お互いの首に刃を突き立てる。

 そして、同時にお互いの首元から胴体を切り裂く。

 両者は膝をつき、睨み合う。

 

「ぐっ……!」

「ふふふ……あはははははっ!やっぱりお前は凄いなぁ。お前は他のアマゾンよりも優秀だ。このまま殺すのは惜しいほどになぁ……」

「貴方がそう思うのは自由ですよ……でも僕は一人の〝人間〟だ。貴方がなんと言おうが……僕は〝人間〟として束と生きる……!」

「いいねぇ……でもお前は選り好みして生きていくことになるだろうぜ。その行為が、篠ノ之束を苦しめる事になると思わないのか?」

「束にそんな思いはさせない……苦しむのは僕だけでいい。それに……僕は僕の声に従う。貴方が言う〝選り好み〟で生きていく事になるのなら……僕は狩らなきゃいけない物は狩る。守りたい物は守る……僕が狩るのはーーーアマゾンだけとは限らない事だ!」

「ならやってみろ!俺は何度でも来るからなぁ!お前を殺しに……!!」

 

 両者は立ち上がり、アマゾンズドライバーのグリップを捻る。

 

 《Violent Punish……!》

 《Violent Slash……!》

 

 オメガとアルファは同時に走り出し、腕の刃をぶつけ合う。

 そして、両者の首元に刃を突き立てるとそのまま振り下ろす。その瞬間、首元から黒い血が噴き出し二人はそのまま地面に倒れ、変身が解除された。

 

「ハルカッ!」

「ジンッ!」

 

 束とスコールは走りだし、お互いの愛する者の下へ駆け寄る。

 クロエとイユもハルカの下へ駆け寄ると、クロエは血を流すハルカの首元をハンカチで抑える。

 スコールはジンを抱え、起き上がらせる。血を流すジンは笑みを浮かべていた。

 

「スコール……悪いな。アイツ、中々手強くてな……まさかあそこ迄強くなってるとはなぁ……」

「もういいわ。貴方は良くやったわ……それに、貴方に死なれては困るもの」

「……そうだったな。俺、お前と旅に出るって約束してたんだったなぁ……!」

 

 スコールはジンを抱きしめる。そして束もハルカを起き上がらせていた。

 

「ハルカ……よく頑張ったね……!」

「束……僕は……!」

「無理しないで。すぐに手当てするから……」

 

 その時だった。ハルカの周りを亡国機業の構成員とIS部隊、オータムが武器を構えて囲んでいた。

 

「逃がすかよ……お前達はここで死んでもらうぜ?ったく手こずらせやがって……!」

「オータム、辞めなさい」

「スコール……なんでだ!此処で此奴らを殺しておかないと、またやって来るんだぞ!」

「周りを見てみなさい。被害は甚大よ……このまま戦えばどうなるか分かるでしょう?」

「くっ……!」

「篠ノ之博士、此処はお互い引き分けという事でよろしいかしら?そっちも、その子を失いたくないでしょう?」

「そうだね。亡国機業と意見が合うのは癪だけど、此処は引き分けって事で」

 

 束とスコールが同意すると、周りの構成員とIS部隊はその場から下がる。オータムは納得いかない様子だったが、スコールの指示通りその場から下がる。

 束はハルカを背負い、クロエとイユを連れて、その場から去って行った。

 

「スコール……」

「えぇ……分かってるわ」

「スコール、やっぱり納得ーーースコール……?」

 

 オータムがスコールに視線を向けた時だった。

 既にジンとスコールの姿は無く、影も形もその場から消え去っていた。すぐさま捜索が行われたが、二人が見つかる事はなかった。

 

 ◇◇◇◇

 

 あれから、世界は少し変わり始めた。

 亡国機業の戦いによって、〝アマゾン〟の存在が世間に知られるようになった。しかし〝アマゾン〟の存在は都市伝説として扱われ、世界を揺るがす程の影響はなかった。

 亡国機業があの戦いの後どうなったのか知る者はいない。しかし、今でも暗躍している事は確かであったが雨宮ジンとスコール・ミューゼルは亡国機業を裏切り者扱いになってしまい、行方を眩ましている。

 結局、世界は少し変わっただけで世界を揺るがす程の影響は無く、ハルカ達の戦いは世界からしてみればちっぽけな出来事である。

 一方ハルカ達は、亡国機業との戦いの後、世界中を転々としている。これまでの戦いの傷を癒すというのもあり、ハルカの傷を癒すという目的があった。

 あの戦いの後、ハルカの精神面は落ち、情緒不安定な日々が続いてしまったが束やクロエ、イユの看病があり、だいぶ落ち着きを取り戻したのだった。

 そして数ヶ月の時が過ぎ、ハルカ達はどこかの国にある海岸へと足を運んでいた。

 

「ーーーハルカ、気分はどう?」

「うん……だいぶ良くなってると思う。あれから色々とあったから」

「そうだねぇ……ねぇ、ハルカ」

「なに?」

「ハルカはこれからどうするの?やっぱり、雨宮ジンに言ったように、狩りたい物を狩るの?」

「……うん。それが、僕の選択だから……狩らなきゃいけない物は狩る。守りたい物は守る……ジンさんが言う選り好みだとしても、僕は僕の声に従う」

「そっか……束さんは反対しないよ。それがハルカの選択なら、束さんはそれに着いていく。ハルカにだけ辛い思いはさせないから」

「……ありがとう、束」

 

 お互いの手を握る二人。

 二人の視線には、沈みかけている夕陽があった。良い雰囲気に包まれる二人だが、それは遠くの方から響き渡った悲鳴とアマゾンの叫びで終わりを告げた。

 あれから、各国にいるシグマタイプの捜査を行なっていたハルカ達。二年前、イギリスでシグマタイプが勝手に覚醒した件があった。

 亡国機業の戦い以来、覚醒し人を襲うシグマタイプが増えていると発覚した。

 それを防ぐ為、ハルカは戦いを続けていた。そして今回も人を襲うシグマタイプの駆除へ向かう。

 

「束、行ってくるよ」

「うん、気をつけてねハルカ」

「大丈夫。すぐに帰ってくるよ……ウォオオオオッ!アマゾンッ!!」

 

 ハルカはドライバーを装着し、グリップを捻ると叫び声を上げ、オメガへと変身を遂げる。

 そして守りたい物を守る為、狩らなきゃいけない物を狩りに行く。

 

 

 〝生きている事は奇跡〟なら〝生きている事が罪〟でもある。しかしそれは誰にも分からない。最後まで生きてみなければ分からない。

 それが、自分自身を変えてしまったとしても。だが、ハルカは自分自身の声に従うと決めた。例えどれだけの罪を重ねようと、ハルカは戦い続けて行くのだった。




如何でしたでしょうか。
少しでも楽しんで頂けましたか?まだまだ謎が残る部分がありますが、それは第2章で追々明かしていきたいと思います。
余談ですが、アマゾンプライムで漸くアマゾンズseason2を見たのですが、どう見ても千翼がラスボスじゃないですかやだぁー。
これは第2章の結末を変えるしかない……。

次回は第2章に移る前に少しばかり番外編をと思います。この番外編はEP.8の最後にハルカ達が何を見たのかを明かしていきたいと思っております。

それでは、番外編でお会いしましょう。
もしよろしければ、ご意見・感想・評価・お気に入り登録・批評をよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。