天災兎と人喰いトカゲ 〜Armour Zone〜 作:TearDrop
EP12です。そして次回は第1章最終回。ハルカとジンは一体どうなるのか、乞うご期待。
アマゾンズseason2の最終回、一体どうなるのか。結末次第では、この作品の第2章ラストがどうなるのかが決まります。
亡国機業のアジトが日本にあると分かり、移動用ラボはすぐさま日本へと進路を変えた。
ハルカは傷ついた身体を癒し、クロエは自分にできることをしようとイユと共に、料理やドライバーのチェックなどを。
そして束は、移動用ラボ内にある自分のラボで二年前に届いた謎のメールに目を通していた。
『君が面白いと言える物がある』とだけ書かれた文章を懐かしむように見る束。
このメールのおかげで、ハルカと出会えたとも言えるのだが二年前から気になっていた事があった。
ーーー果たしてメールの差出人は誰なのか?
これだけが、気になってしょうがなかった。
この二年でハルカは束、クロエやイユ、セシリアと出会い、戦い、傷ついてきた。時にはハルカの死を覚悟した束。
そして今日ーーー亡国機業に殴り込みを行う。
果たして勝てるだろうかと言う不安があるが、心の何処かで不思議と勝てるのではないかという気持ちがある。ふと、視線を自分のデスクに向ける。
其処にはハルカとクロエ、イユと束が写った写真が置かれていた。
写真を撮ろうとハルカが言い出した時は驚いた。写真なんて、数年程撮っていなかったからだ。
撮ったと言えば、当時中学生だった千冬と小学生だった一夏の写真を撮ったぐらいだ。
「ーーー箒ちゃん、元気にしてるかなぁ」
自分の妹であり、最愛の妹の篠ノ之箒。
箒にはだいぶ迷惑を掛けてしまった。もしかすると自分を恨んでいるだろう。そうに違いないと、束は苦笑いを浮かべながら自傷する。
その時だった。自室の扉が開き、ハルカが入ってきた。
「束……今、大丈夫?」
「うん。どうかしたの?」
「…………」
一向に話さないハルカを不思議がる束は、いつものように笑みを浮かべる。
「何々……どうしたの〜?もしかして、束さんに愛の告白でもしてくれるのかな?」
「告白か……うん、多分そうだと思う」
「えっ……そ、そうなんだぁ〜」
急な事に一瞬驚くが頰が熱く、赤くなるのを抑えられない束。
いつも通り自分の冗談にツッコんで来るかと思っていた束は、急にハルカに視線を合わせられずにいる。
すると、そんな束を見かねたハルカが話を始める。
「……初めて会った時からもう二年経つんだなぁ」
「……そうだね。色んな事があったね。ハルカとくーちゃんに出会って、イユとも出会って……嬉しい事もあったけど、それ以上に悲しい事もあった」
「……僕は、ずっとオリジナルーーー織斑千冬から言われていた言葉を考えてた。その言葉の意味が理解できなかった……でも、ようやく理解できた気がするんだ。ーーー僕は僕だ。僕の中の僕に従う……」
ハルカは笑みを浮かべる。ハルカの瞳には、迷いはなかった。
二年前の幼かった時の面影は既になく、一人の男として束の目に映っていた。束はそれが嬉しくもあり、同時に寂しくもあった。
「……大きくなったね、ハルカ」
「そうかな?でも、まだ束には追いつかないなぁ。もう少し大きかったら、並んで歩けるのになぁ」
「無理に大きくならなくてもいいんじゃない?ハルカはそのままでも十分だからね」
「そうだね。無理に大きくならなくてもいいか」
互いに笑いあう二人。
ふと、ハルカが束の手を握ると束が頭を傾げる。
「……あの時、僕は亡国機業を殺したくて堪らなかった。何の罪もない人を殺して……まだ小さい子供も死んでいった……」
結局、イギリスのあの事件は列車事故として扱われてしまった。
真実を話したところで、国民に不安を与えてしまうだろう。それと同時に、自分の不甲斐なさに怒りを覚えていた。助けられた筈の命が、自分の目の前で消えていった。
「でも……あの時、束が来てくれなかったら僕は後戻り出来なかったかもしれない……ありがとう、束」
「う、うん……」
突然の礼に、少し戸惑う束。戸惑う束を何度も見て来たハルカは笑みを浮かべ、更に言葉を紡ぐ。
「……それと、分かった事が一つあるんだ」
「なに?」
「………僕は、貴女の事を愛してます」
「ーーーーーーー」
「初めて会った時から、今日まで……そしてこれからもずっと好きです。だからーーー僕と最後まで一緒に………生きてくれますか?」
自覚したのは、数日前。
何の罪もない人々が死に、亡国機業全員を喰い殺そうと殺意が芽生え始めた時、その場に現れた束の悲しそうな顔を見た時だった。
自分は束に笑っていてほしいから戦う。
束にはいつも通りの可愛いらしい束でいてほしいから戦う。束を悲しませたくないから戦う。そんな想いで今まで戦ってきた。
多分、自覚する前からハルカは束に好意を抱いていたのだろう。自分を助けてくれた恩人としてという感謝の気持ちもあるだろうが、一人の女性として愛していたのだろう。
イユとシグマタイプの件で悩んでいた時に、束と抱きしめあった時に感じた感情はーーー〝恋〟。
それは紛れもなく、ハルカが人間であるという証拠でもあった。
「僕は〝人間〟として、束とこれからの人生を生きていきたいと思ってる。もう一度言うよーーー僕は、貴女を……束を愛してます」
ハルカの告白に束は頰を赤くする。どうしていいのか分からず、混乱している。どう答えていいものか悩んでいると、ハルカと視線が合う。
ハルカは笑みを浮かべ、束の答えを待っている。
「えっと……束さんは……」
束自身も、答えを出さなければならない。ハルカがセシリアの話をした時、嫌な気持ちになった。
ハルカがクロエやイユの一緒の時には出なかった感情が、会った事もないセシリアに対して〝嫉妬〟の感情が束の中で渦巻いていた。
何時からと聞かれれば、それは分からない。
この二年間で共に笑い、共に泣き、そしてーーー何時も一緒に居るうちに自分はハルカに〝恋〟をしていたのだろう。
自分で天才と豪語している束でさえ、それは分からなかった。
「束さんも……ハルカの事がーーー好きです」
精一杯の告白。心臓が押しつぶされそうな感覚に陥りながらも、ハルカに自分の想いを伝える。ハルカは笑みを浮かべ、照れくさそうに頰を掻く。
「ありがとう……それじゃあ、また後で」
ハルカはそう言い、束のラボから出て行った。束はそれを見送った後、その場で立ち尽くしていた。
遂に言ってしまったと、恥ずかしさと同時に顔がにやけているのが分かる。
「こ、恋人になったって事だよね……恋人かぁ……束さんにはそんなラブコメは来ないものだと思ってたけど……まさか来るなんてねぇ……えへへ」
嬉しさからか、機械的なウサミミをぴょこぴょこと動かす。笑みを浮かべる束は、ふと扉に視線を向けた時だった。イユが束をジッと覗いていた。
「イ、イユ!?いつから其処にいたのかな!?」
「〝恋人になったって事だよね〟の所から」
「思いっきりバレちゃってる!?イ、イユ?この事はくーちゃんにはーーー」
「安心しろーーー既にバレている」
「えっ……えぇええええっ!!?」
その日、ラボ内に束の叫び声が響き渡った。
◇◇◇◇
「全く……アイツらも馬鹿な事を考えるもんだな」
場所は代わり、ホテルの屋上。
ジンは夜景を一望していた。手にはスマホを持ち、先ほど構成員から届いたメールに溜息を吐いていた。
メールには明日の早朝、篠ノ之束達が乗り込んでくるとの内容だった。構成員達が篠ノ之束達を調査したわけではない。篠ノ之束本人から〝殴り込み〟のメールが届いたのだ。
「だがまぁ……面白くなりそうだな」
「ーーーージン、隣いいかしら?」
「……スコール」
ふと、スコールがジンの目の前に立っていた。スコールはジンの隣に立つと、夜景を一望する。
「いよいよね。勝てるかしら?」
「おいおい、亡国機業のエースが何言ってんだか……だが、勝てるか負けるかって聞かれたら分かんねぇな。篠ノ之束も厄介だが、〝オメガタイプ〟とあの人造人間も厄介だ。あのシグマタイプは……どうだろうな。篠ノ之束側に着いたとはいえ、もうドライバーもない以上、戦力として考えるのは無駄だな」
「でも、篠ノ之博士はISの開発者。もしかすると彼女のISを開発してるかもしれないわ」
「そうだな。でもまぁ……殴り込んでくる以上、こっちも本気で殺しに行くがな」
ジンはスマホをポケットに入れ、夜景を見つめる。
すると、スコールに対して少しばかりの違和感を覚えた。
「………スコール、お前少しおかしくないか?」
「やっと気づいた?私ーーー貴方の子供を身籠ったのよ。今日メディカルチェックを受けたら、お腹に赤ん坊がいるって聞かされたわ。戦闘はなるべく避けろとの事よ」
「………そうか」
「何か感想は無いのかしら?」
「……俺が父親ねぇ……そんな凄いもんになる資格なんて俺にはねぇよ。だがーーー生きて帰らなきゃな」
ジンはスコールを抱き寄せると、優しく抱きしめる。
お互い抱きしめ合う二人。ジンは生き残らなければならなくなった。本来、〝オメガタイプ〟ーーーハルカを殺す為に動いていたジン。
明日の戦いでハルカを殺す。もしくは相打ち覚悟で戦おうと覚悟していた。しかし、こうやって愛する人が自分の子供を身籠った。
死ぬわけにはいかない。自分の〝家族〟を守らないといけないからだ。
「ジン……死なないでちょうだい」
「あぁ……死なないさ。もし、この戦いが終わったらーーー二人だけで旅に出るか」
「……そうね。それもいいかもしれないわね」
二人は熱い抱擁と共に、夜景をバックにキスを交わす。ジンは決意する。明日の戦いでハルカをーーーオメガを殺すと。
◇◇◇◇
そして、翌日。
ハルカと束、クロエとイユは亡国機業のアジトの前までやって来た。そして、アジト前には数人もの亡国機業のIS操縦者が立っており、中央にはジン、スコール、オータム、そして白と紫を基調としたISを纏った少女が立っていた。
「わざわざアジトの前までやってくるとはなぁ……まぁ、そういうのは嫌いじゃないぜ」
「御託はいいですから。僕達は貴方達を倒す為にここまでやって来たんです」
「ほぉ、言うようになったな。そんじゃあ、始めるとしーーーー」
「その前にーーー質問に答えてもらっていいですか?」
「……なんだ?」
「………数日前の列車での爆発。あれは貴方達亡国機業がやった事ですね?」
「だったらなんだ!御託はいいから早くーーー」
「オータム、少し黙ってなさい。あの子ーーー今凄くキレてるわよ?」
「………なんで、何の罪もない人達を巻き込んだんですか?狙うなら僕達を狙えば……」
「悪いが、狙ってたのはお前じゃない。あの列車には俺たち亡国機業が極秘裏に入手したISコアを盗んだ夫婦が居たんだ。それを阻止する為に、あんな大規模な事をしたのさ」
「その夫婦ってまさかーーーオルコット夫妻の事ですか?」
「なんだ、知ってたのか。なら話は早いな……殺したいんだろ、俺たちを。殺したい程憎いんだろ?だったら戦え……戦ってーーー俺たちを殺してみろ」
ジンの言葉に、静かな怒りを滾らせるハルカ。
アマゾンズドライバーを装着すると、それを合図にジンもアマゾンズドライバーを装着する。そして同時にグリップを捻る。
「うぉおおおおおっ!アマゾンッ!!!」
「アマゾンッ!」
《Omega…!Evolu…E…Evolution…!》
《Alpha……!Blood&Wild!W…W…W…Wild!》
二人の叫びに呼応するかのように、アマゾンズドライバーから音声が鳴り響く。
それと同時にハルカは緑色の炎に包まれ、ジンは赤色の炎に包まれていく。爆風と共に炎が消え、其処には二体の獣が立っていた。
オメガとアルファはそれぞれ構え、睨み合う。曇り空から太陽が差し込んだ瞬間、両者は走りだし、腕の刃をぶつけ合った。
今ここに、亡国機業とハルカ達の戦いが幕を開けた。
如何でしたでしょうか。
ハルカとジンはお互い愛する人の為に戦い、そして喰らいあう。
血を血で洗う物語はこれからどうなるのか、次回をお楽しみに。
そして、次回は少し遅れます。ですが、六月中には第1章を終わらせたいと思いますので、ご了承ください。
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