天災兎と人喰いトカゲ 〜Armour Zone〜   作:TearDrop

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お待たせしました。
残す所あと二話。
残り2話で、ハルカと束の物語はどう変わっていくのか。果たして、亡国機業を倒せるのか、第1章最終回までぶっちぎるぜぇ。


EP.11 Keep a world

 爆発によって燃え上がる列車からオメガがフラフラと歩いてくる。膝をつき、地面に倒れるオメガの変身が解除されると元の姿に戻るハルカ。

 ハルカの身体は傷つき、赤黒い血が流れていた。

 その場を這いずるように、ハルカは前へ進む。意識が薄れゆく中、前へ前へと這いずる。先ほどから束に通信を試みているが、応答がない。

 恐らく、先ほどの爆発によって機器がダメになってしまったらしい。

 そんな中、ハルカが倒れている乗客を見つける。痛みに震える身体を何とか立ち上がらせ、ハルカは乗客の下へ駆け寄った。

 

「大丈夫でーーーー」

 

 駆け寄った乗客の身体を見て、呆然とする。

 何故なら其処にあったのは、胸から下が無くなった乗客の姿はだった。更に周りを見渡すと、黒焦げになった乗客や、肉片と化した乗客、列車に押しつぶされた乗客の姿が転がっていた。

 余りの惨状に、ハルカは胃の中の物を全て吐き出したのではないかと言うぐらい、その場に吐いた。治らない吐き気に涙を流すハルカ。

 再び、周りの惨状に目を向けたハルカだったが、自分の腕を掴む者が居た。目を向けると其処に居たのは、血だらけの子供だった。

 

「お、お兄ちゃ……ん……痛いよぉ……助けて……」

「あぁ……あぁ……!!」

「お……お兄ちゃん……助けて……」

「ごめん……僕は君を……助ける事が出来ない……」

 

 何故ならーーー子供の下半身は列車に押しつぶされていたからだ。子供はハルカの言葉を聞いたのか、もしくは聞こえる前に逝ってしまったのか、既に息をしていなかった。

 ハルカは拳を握り、地面に叩きつける。何度も何度も地面に拳を叩きつける。自分は何の為に戦っていたのか。みんなを助けたかった。例え正義の味方じゃなくても、みんなを救いたかった。

 それがこの結果だ。

 結局、自分は誰も救えなかった。怒りが収まらないハルカは叫んだ。血を吐き出そうが、涙を流そうが、痛みで身体が苦しもうが、ハルカは叫んだ。

 

「亡国機業……何処だぁ!何処にいる!出てこい!何でこんな事を……何で……何で……!!」

 

 ハルカはその場にいない亡国機業の名を叫ぶ。

 叫んだ所で亡国機業が現れる筈もなく、ハルカは泣きながら蹲る。血だらけの拳を握り、顔を上げる。ハルカの目はーーー殺意に満ちていた。

 

「殺してやる……絶対に殺してやる……!!」

 

 殺す。殺す。殺す。

 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス。

 

 殺意の感情がハルカの中で渦巻いていた。

 自分の中の本能に従ってしまえば、どうなるのか分からない。しかし、本能に従えば自分はもう後戻り出来なくなるだろう。

 精神が壊れてもおかしくない惨状が広がる中で、ハルカは殺意を含んだ目で空を見上げる。

 

「何が正義だ……正義なんてこの世にないんだったら……僕はもう人じゃなくてもいい……亡国機業全員を喰ってーーーー」

 

 その時だった。ハルカの言葉は、それ以上続くことはなかった。何故ならーーー

 

「……ハルカ」

「束……なんで……!?」

 

 ーーー束の姿が、目の前にあったからだ。

 ハルカとの通信が途切れた時、イユがハルカの薬指に嵌められたクロエ特製の発信機付きの指輪の信号をキャッチし、束は此処までやって来た。

 ハルカの血だらけの手を握る束は、目の前の惨状に目を伏せる。流石の束でも耐えきれないのだろう。

 束はハルカに視線を移し、殺意に満ちたハルカの目を見て悲しげな表情を浮かぶ。ハルカは心に誓っている事がある。束の為に戦うと。

 束の為なら、自分は何だってする。例えこの身が朽ちようと、束の笑顔を守る為なら自分は戦い続けようと。それなのに……。

 

 ーーーなんで僕は……〝愛する人〟を悲しませてしまったんだろう……!

 

「ハルカ……帰ろう?くーちゃん達が待ってるから……」

「束……僕は守れなかった……みんなを助けられなかった……僕は一体何の為に戦って来たんだ……!」

「ハルカは十分に戦ったよ。だからもう、一人で抱え込まないでよ……ハルカ一人で戦ってるんじゃないんだから……!」

「でも……助けられなかった!僕の目の前で子供が死んだんだ!何の罪も無い人達が死んだんだ!ねぇ束、教えてよ!僕はどうしたらいいのさ!僕はどうしたら……みんなを守れるのさ……!」

 

 ハルカは蹲り、涙を流す。

 そんなハルカの姿を見て、束はハルカを抱き寄せ、力強く抱きしめる。今の束には、こうする事しか出来なかったからだ。そして、ハルカはただ泣くことしか出来なかった。

 

 後日、ニュースではあの出来事は列車〝事故〟として扱われていた。

 恐らく何故爆発が起きたのか検討が付かないのか、整備不良で済ませたのか、テロなのか、真意が掴めないまま仕方なく〝事故〟で済ませたのだろう。

 ハルカはここ数日、部屋から出てこなかった。

 最初の三日はクロエの食事に手を付けない日があったが、何とか食事だけはと束がハルカを説得し、今は食事を取るようにしていた。

 そんな日が続く中、ハルカが偶々部屋から出て来た時だった。モニターにニュースの映像が映る中、ハルカはその時の惨状がフラッシュバックされたのか、吐き気を催し、その場に吐いてしまった。

 胃の中の物が全て出てしまうほどの吐瀉物。イユがハルカに駆け寄り、背中を摩る。クロエはハルカの震える身体を摩り、優しく抱きしめる。

 ふと、ハルカが視線をモニターに再び移した時、モニターには追悼式の映像が流れていた。映像は追悼式に並ぶ参列者に場面を変え、参列者を映していた。

 その時だった。

 知っている人物を見つけたのはーーー。

 

 ◇◇◇◇

 

 少女ーーーセシリア・オルコットは両親の墓標の前に立っていた。両親の死を聞き、つい先ほどまで追悼式に出ていた。

 母は強い人だったと彼女は言う。

 父は母の顔色を伺う人だったと彼女は言う。

 しかし、それでも二人はセシリアのかけがえのない家族であった。事故から数日、セシリアは遺産目当ての人間達に飽き飽きしていた。

 遺産目当ての人間達は、セシリアを可哀想だと言う割に遺産の話を持ちかけてくる。

 終いには、オルコット社の存続をどうするかを幼いセシリアに話す始末。セシリアはそんな大人達に飽き飽きしていた。

 ふと、誰かが近づいてくる足音が聞こえる。また遺産目当ての大人だろうと呆れながらも振り向いたセシリアだったが、それは違った。

 其処に居たのはーーーハルカだった。

 

「……やぁ、元気だった?セシリアちゃん」

「ハルカ……さん……?」

「久しぶりだね……追悼式をニュースで知ってね。偶々セシリアちゃんが映ってたから……」

「そうでしたか……ハルカさんも、お元気そうでなりよりですわ。初めて会った時よりも、随分と見違えましたね」

「セシリアちゃんも、大人っぽくなったね……英国淑女ってヤツかな……ご両親に、挨拶していいかな?」

「はい……」

 

 ハルカはセシリアの両親の墓標の前に立ち、静かに目を閉じる。

 目を閉じて数秒、セシリアから事情を聞いた。列車事故があったその日は、両親は二人きりであの列車に乗っていたそうだ。理由は分からない。

 どうしてその日に限って一緒にいたのか、未だに分からない。しかし、一度に両親を失ったセシリアは気丈に振る舞っていた。

 

「……そうですわ。この後、一緒にお茶をしませんこと?いい紅茶を振舞いますわ」

「……セシリアちゃん、無理しなくていいんだよ?」

「ーーー無理なんてしてませんわ……」

「嘘。だって、目の下のクマ凄いよ?」

「これは……ただの寝不足ですわ」

「………此処には僕以外誰もいないから。辛かったら泣いていいんだよ?」

「………ハルカさん、少し……胸を貸してもらえませんか?」

「うん……」

 

 セシリアはハルカの胸に飛び込み、嗚咽を漏らす。涙で服が濡れるが今はそんな事を気にしている程、セシリアの心の痛みに比べたら何でもなかった。それから数分、セシリアが泣き止むまで待ち続けた。

 

「ーーーーありがとうございます……だいぶ落ち着きましたわ」

「それなら良かったよ……セシリアちゃーー」

「セシリアとお呼びください、ハルカさん。私はもう、あの時の泣いていた私ではありませんわ……」

「そうだね……セシリア。僕はこれからとんでもない事をしようと思ってるんだ」

「とんでもない事……ですか?」

「うん。僕がこれからしようとしてる事は許されない事だと思う。一生背負い続けなきゃいけない罪だと思う……でも僕は、怖いんだ。また助けられなかったらどうしようって……僕は何の為に、生きているのかさえ分からなくなる程に……!」

 

 ハルカは掌を見つめる。その手は、震えていた。

 自分に助けを求めてきた子供を助けられなかった時の恐怖が、ハルカの中に蘇ってきた。あの惨状がハルカのトラウマとして、心中に刻み込まれていた。

 するとセシリアが、ハルカの震える手をそっと、優しく握った。

 

「ハルカさん……覚えてますか?初めて会った時の事を。私はあの時、一人で心細かったんです。でも、そんな時、ハルカさん達と出会いました。見知らぬ私に声を掛けてくれて、親身になってくれて……凄く嬉しかったんですのよ?」

「セシリア………」

「ハルカさんが私を助けてくれたように……今度は私がハルカさんを助けますわ。だから……私はあなたの事を信じます。例え許されない罪だとしても、〝ハルカさんはハルカさん〟ですもの」

 

 ハルカはハルカーーーー。

 その言葉を聞いたハルカは、二年前に初めて会った千冬の言葉を思い出した。

 

『お前の好きなように生きろ。お前は私の遺伝子から生まれた存在だが、〝私じゃない〟。〝お前はお前だ〟、ハルカ』

 

 ようやく、その言葉の意味が分かった気がする。

 セシリアの手を握り返し、笑みを浮かべる。ハルカの瞳にはーーー決意の色が宿されていた。

 

「……ありがとう、セシリア。僕は、僕だ。例え許されないとしても、それでもやり通すよ」

「えぇ、それでこそハルカさんですわ」

「うん。………セシリア、お願いがあるんだけど」

「なんですの?」

 

 ハルカの言葉を聞いたセシリアは、一瞬目を見開くがすぐに笑みを浮かべた。

 

 ◇◇◇◇

 

 ラボへと戻ってきたハルカは、すぐさま束の下へ向かった。急に束の研究室に入ってきたハルカに驚きを隠せず、手に持っていたお菓子を隠した。

 

「束ッ!」

「な、なに!?別に、ハルカが大事に取っておいたおやつなんて束さんは食べてーーー」

「おやつなんかいいから。亡国機業のアジトの場所は割り出せた?」

「う、うん。幾つかの候補を探ってみたけど、イギリスのアジトには既に亡国機業の影も形もなかったから別の国に逃げたのかもね。そして、その居場所はーーー」

 

 束がコンソールを操作すると、地球がホログラムによって投影される。そして、更にコンソールを操作すると赤い点がある国に表示される。

 その国はーーーー日本だった。

 

「日本……其処に亡国機業のアジトが……」

「色々と計算して、次の目的地や行動を逆算していった結果、日本にアジトがある事が分かったよ」

「……束、もし僕が亡国機業全員を殺すって言ったらどうする?」

「……それでも束さんはこれから先、どんな結末になろうが……ハルカを信じるよ」

「………ありがとう」

 

 ハルカは束に礼を告げ、笑みを浮かべる。

 そして、亡国機業との戦いが幕を開ける。束の言うようにこれから先、どんな結末になるのかーーーそれはハルカすら分からない。

 死ぬかもしれない。死なないかもしれない。喰われるかもしれない。喰うかもしれない。それでも束は信じている。

 ハルカがきっとーーー自分の声に従う事を。




如何でしたでしょうか。楽しんで頂けたら幸いです。
残り2話でどう物語が変わるのか、自分もまだ分からない部分がたくさんあり、不安がありますが、みなさんと一緒に楽しんでいけたら嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。そして、ご意見・感想・評価・お気に入り登録、批評などをお待ちしております。

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