鉄血の薩摩兵子 <参番組に英才教育> 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
白兵戦があるということは・・・
「アドモスさん、発信源は分かるか?」
「方位180度距離6200。相対速度ほぼ一致しています」
通信から逆算した位置はイサリビの真後ろだ。
実は鉄華団の面々が作戦会議をしている間もマルバは騒ぎ立てていたのだが、そのマルバを押しのけて長髪の男が画面に映る。
『さっきからさっぱり話が進んでねぇ。
あくびが出るぜ?俺は名瀬・タービンだ。
タービンズって組織の代表を務めさせてもらっている』
名乗りを受けて、オルガはきちんと礼で返す。
「鉄華団代表、オルガ・イツカだ」
『何が鉄華団だこの野郎・・・あ、すみませn』
『このマルバ・アーケイとは前に仕事上のつきあいがあってな。
たまたま立ち寄った火星で久々に再会したんだがえっらいボロボロでよぉ・・・
話を聞けばギャラルホルンともめて困ってるっていうじゃねぇか。
ヤツらが手出しできねぇようにもしてやれるんで力を貸そうかって話になってたんだが・・・』
「タービンズってのはテイワズ直参の組織だ。
組織の規模はまだ小さいけどあの名瀬って男はテイワズのトップ、マクマード・バリストンと親子の盃を交わしてる。
最悪の展開だよこれは。テイワズまで敵に回したらおしまいだ!」
ビスケットが小さな声でオルガに警告するが、オルガは三日月に眼を遣って、通信画面に振り向いた。
「いやこれはチャンスだろう。俺たちだってテイワズの後ろ盾は欲しかったんだ。その足掛かりをマルバが連れてきてくれたんだぜ?」
『おいおい俺と話してるときにコソコソやんな。男同士で仲いいなお前ら』
少し話を中断していた名瀬が、話を再開する。
『手助けの駄賃はCGSの所有物を全部うちで預かるって条件でまとまったんだがよぉ調べてみたらどうだ?
書類の上ではCGSは廃業。全ての資産は鉄華団だかいうのに移譲されてるじゃねぇか』
「つまり、マルバから取り損ねたもんを俺らから取り立てに来たってわけか」
オルガは警戒の目で名瀬を見るが、名瀬の方は飄々と笑っている。
『そう構えなさんな・・・
ギャラルホルンとの戦闘はこの目で見させてもらった。
ガキにしちゃあ大したもんだ。資産の返還に応じてくれりゃあお前たちのことも悪いようにはしねぇよ。
うちの傘下でもっとまっとうな仕事を紹介してやる。
・・・命を張る必要がねぇまっとうな仕事をな』
と、ここで納得がいかないのかマルバが顔を出した。
『何をバカな!俺に逆らう汚いガキなど皆殺しだ!』
しかし、すぐに画面外へ連れ出される。
名瀬は何事もなかったかのように話を続ける。
『まっお前らも結構な大所帯だからなこの先も全員一緒ってわけにはいかねぇがな』
だが、その言葉に二人反応した。
「みんなバラバラになるのは嫌だな」
「三日月・・・」
「ないごてそがん事ば言うか。
そやつはこやつらば見捨てて逃げた臆病もんではなかか。
こやつらの大将が逃げて腹ば召さんという。
おかしか話ぞ。筋の通らんではなかか」
「トヨさん・・・
そうだな。そうだよな。筋が通らねぇ。
悪ぃなタービンさん。あんたの要求は呑めない。
俺たちには鉄華団として引き受けた仕事がある」
同調して、クーデリアも名瀬に訴える。
「私、は地球までの護衛を彼らにお願いしています。
それを違えることはできません」
だが、クーデリアが話し始めた瞬間に名瀬が一気にめんどくさそうな顔で頭を搔く。
『あんたがクーデリア・藍那・バーンスタインか。
お嬢さんの件は複雑でな、マルバの資産って扱いだし・・・』
それを好機と見たのか、ビスケットが名瀬へ話しかける。
「あの、一ついいですか?」
『あん?なんだ丸いの』
「ビスケット・グリフォンと言います」
名瀬が、目の色を少し変えてビスケットを注視する。
一方の鉄華団の面々も、ブレインのビスケットに注目する。
『で、そのビスケット君が何の用だ?』
「・・・今この場で、鉄華団としてタービンズと取引をさせてもらうことはできませんか?
タービンズはテイワズの輸送部門を管理してるんですよね?その航路を使わせてもらえませんか?もちろん相応の通行料はお支払いします」
冷や汗一つ掻かずにこれだけのことを言ってのけるビスケットの胆力は大したものだが、名瀬の期待した答えとは違ったようだ。
『ダメだ。話にならん。火事場泥棒で組織を乗っ取ったガキがいっちょ前の口を利くな!
俺はな、さっきから道理の話をしてるんだよ』
「俺らを見殺しにした腰抜け野郎とは取り引きしといてそれを言うか?」
たまらずユージンが反論するが、名瀬はゆるぎない。
『じゃあお前らどうすんだ?ガキじゃねぇってんなら俺を敵に回す意味くらい分かってんだろうな?』
しかし、オルガの腹も眼も据わっている。
「さっき言ったとおりだ。あんたの要求はのめない。あんたの道理がどうだろうと俺たちにも通さなきゃいけねぇ筋がある」
そこで全く動じないのはやはり一組織の長ということか、名瀬は更に強い目でオルガたちを睨む。
『それは、俺たちとやり合う。って意味でいいんだな?』
しかし、ここでオルガが引くわけにもいかない。
「ああ。俺たちがただのガキじゃねぇってことを教えてやるよ。マルバ、てめぇにもな。
死んでいった仲間のケジメ、きっちりつけさせてもらうぞ」
『お前ら、生意気の代償は高くつくぞ』
名瀬は、不敵な笑みで通信を切らせた。
「悪ぃアミダ。こうなっちまった」
「やんちゃする子供を叱ってやるのも大人の役目さ」
「ほんとイイ女だよ、お前は」
タービンズのハンマーヘッドの中では、マルバがかなりの疎外感を味わっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「交渉の余地はあったはずだ!」
「通すと決めた筋は曲げられねえ。曲げちゃいけねえだろ?」
ビスケットはあきらめたようにため息をつくと、自分の席に着いた。
「敵艦にケツを取られちゃいるが、鉄華団の力を見せつけるにはむしろ好都合だよな、お前ら。
テイワズとの渡りをつける千載一遇のこのチャンス、物にするぞ」
「「「おう!」」」
意気を上げるブリッジへ、チャドが接近を告げる。
「敵艦、加速して距離を詰めてきてるぞ」
「よし!ブリッジ収納。速度は維持して180度回頭!砲撃戦に備えろ!」
三日月は、モビルスーツへ乗り込むために退出する。
「邪魔」
「あ、すみません・・・」
「お嬢様は中枢ブロックへ」
「あ・・・いえ、一人で大丈夫。フミタンは皆さんの力になってあげてください」
「お嬢様がそうおっしゃるのであれば・・・」
ブリッジから出ていくクーデリアを確認して、オルガが席を立とうとするユージンを止める。
「ユージンは残ってくれ。船を任せたいんだ。ここを頼めるのはお前しかいない」
「し、しかたねぇな」
続いて、ビスケットに声をかける。
「悪かったなビスケット」
「もう引けないんだろ?」
「ああ。だから力を貸してくれ」
「分かってるよ」
慌ただしく戦闘準備を進めるブリッジに、声が響く。
『んじゃバルバトス、三日月・オーガス出るよ』
レーダーには敵艦からもモビルスーツが出撃したことが伺える。
それと同時に、敵艦からの射撃が始まった。
「じゃあ、後は頼んだぜ、ユージン」
「おうよ!」
イサリビの阿頼耶識コネクタが、ユージンの背中に繋がれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
現在、モビルスーツ三機を、バルバトスとグレイズが迎え撃っている。
ユージンが、そろそろか?とビスケットに眼を遣ると、ビスケットもうなずいた。
「よーし、行くぜ!!しくじるなよ!?オルガ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「敵艦、ミサイル発射!」
「迎撃しまーす」
名瀬は、オペレーター達を信頼しきっているのか、特に口は挟まない。
だが、オペレーターから驚きの声が上がる。
「スモーク!?」
これには、名瀬も眉根を釣り上げた。
「ただの目くらましか?それとも・・・」
「エイハブウェーブの反応増大!ダーリン、これ近づいてきてる!」
すぐにスモークは晴れた。が、目の前には反転したイサリビがいた。
隣のマルバが情けない声を上げているが、名瀬は驚きからかにやけている。
「後に逃げられました!」
「反転して追いかけられる!?」
「追撃!」
オペレーターたちの冷静な対処で、名瀬は冷静さを取り戻した。
「度胸は認めてやるがお前らはやっぱりまだ未熟なガキなん・・・」
その直後に、艦内が大きく揺れる。
「何が起こった!?」
「カーゴブロックで爆発!艦内に侵入者!?」
「さっきのニアミス時に乗り移ったってのか!?
おいおい船の速度を考えろよ体がミンチになるだろうが!」
その言葉に、弱気になったと踏んだのか、マルバが立ち上がって口を挟む。
「ヤツらは宇宙ネズミだ。それくらいは平気でやってくる!」
「ネズミ・・・?『阿頼耶識』か?あんた、まさかアイツらに無理やりあの手術を?」
眼の色が変わった名瀬に気が付かずに、マルバは鬱憤をぶちまける。
「ああそうだ手術を拒否したただのガキがなんの役に立つ!ヒゲありの宇宙ネズミだからこそ使ってやっていたのに。忌々しい!」
怒れるマルバを見る名瀬の目は絶対零度に近い。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
突入時に何があったのか?
答えは、モビルワーカーで飛び移った。
聞けば簡単だが、阿頼耶識を持っていない人間からすれば自殺行為もいいところだ。
攻め込むと聞いて二つ返事で乗り込んだ馬鹿もいるが。
「よっしゃきた!艦内図取れたぜ!」
「さすがダンテ。あとは任せていいか?」
「おう。電子戦なら任せとけ」
まず手始めに、ダンテが艦内の制御を奪った。
「よし、俺たちは一気にブリッジを落とす!トヨさん、準備良いか?」
「おう!奴ばらに薩摩兵子の戦ば見せつけちくりょうぞ!」
次に、先陣、豊久、後詰め、オルガ含むメンバーの援護で、一気にブリッジを目指す。
「よし、じゃあ行くぜ!」
通路では、ダンテが突撃隊をサポートする。
同時に、艦内の機能をハッキングして掌握していく。
「なんじゃあこの船は!
「まあ無力化してくれんのはありがたいけどよ・・・」
今しがた豊久に蹴り飛ばされたクルーを見て、かわいそうに・・・と全員が思う。
思いながらも、一応ガス弾を打って相手に火器の使用を制限させる。
『次!そこの通路を右だ!
ああ!トヨさん、その敵蹴っ飛ばす前にそっちに曲がってくれ!
え?女だからもういい?いや、手加減してやれよ・・・え?してる?』
ダンテが溜息を吐く音がして、すぐにその次の通路へのシャッターが下ろされた。
「なんばすっか!あちらに敵がおるかもしれんではなかか!」
『そっちは女しかいねえよ・・・とっととブリッジ行ってくれ・・・』
「そうか」
豊久はあきらめたのか、走って指示された方向へ進む。
そして、
「本丸はここかの」
「よう、ご到着か・・・って、カタナ?」
「安心せい、こいは使っておらん。
じゃっどんまるば、お
大将首じゃ。なあ大将首だろ?
首おいてけぇ!!!!!」
「ひぃぃぃぃぃ!」
ストレスが振り切れたように豊久がマルバに斬りかかるが、名瀬が止める。
「あーカタナの錆にするのは待ってくれ。
覚悟は見せてもらった。取り引き考えてやろうじゃねぇか」
「トヨさん、俺たちもハチの巣にしてやりてえが、ちょいとまってやってくれ」
遂にはリーダー格二人に止められて、ようやく引き下がった。
マルバは白目を剝いて気絶した。
「ふぅ、アミダにつないでくれ。祭りは終わりだ」
「あ、すごい。ラフタ押されてるじゃん」
「はあ?おいおい、どうなってんだお前らんとこのパイロットは」
「あー、ミカ、もう話はついた。そこまでだ」
『そう。残念だったね。勝負付かなくて』
『あんたヤバすぎよ・・・(死ぬかと思った)』
『別に殺さないよ。あんた女だろ?おトヨが女の首は恥って・・・』
『そう、でも容赦なく殴ってくれたわね』
『別に死ななきゃいいって・・・』
『女の子には優しくしなさーい!!!』
戦闘後のブリッジには何とも言えない空気と、豊久の笑い声が響いていた。
まさかのラフタ⇒三日月!?
一瞬放送を見てそんなこと考えてる自分もいました。
まあ二期で泣いたわけですが・・・
次回は三日月対ラフタ戦を少し振り返って話を進めようかと思います。