鉄血の薩摩兵子 <参番組に英才教育>   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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気が付いたら投稿予定時間が近い・・・(16:00)
頑張らなきゃ!


渡りに船

「ここまでギャラルホルンとこじれた以上ただの案内役じゃダメだ」

 

かろうじてギャラルホルンとオルクスの船を振り切った鉄華団だったが、早くも航路が判らない、使えないという袋小路にきていた。

 

「・・・テイワズだな。それしかねぇ」

「テイワズ・・・。木星圏を拠点とする複合企業ですね。実態はマフィアだという噂も聞きますが」

「お目当てはその実態の方さ」

「あのテイワズが俺らみたいなガキの後ろ盾にすんなりなってくれるか?」

 

オルガの提案に、ビスケットやユージンは乗り気ではなさそうだ。

だが、このままでは二進も三進もいかないことはみんな分かっている。

 

「このままじゃ地球には行けねぇし火星にも戻れねぇ。どっちみち俺たちは木星へ向かう以外ねぇんだ。いざとなりゃあ一か八かぶつかるまでよ」

 

結局、テイワズに渡りを付けることが方針としては決まった。

その後、フミタンがオペレーターに就任したが些末な事である。

 

帰り道に、クーデリアは二つの大きなカバンを持ったアトラを見つけた。

 

「何をしているんですか?」

「作業中の人たちに届けてるんです」

「私も!私もお手伝いしてもいいでしょうか?」

 

アトラは、一瞬虚を突かれた顔をしていたが、すぐにはいっ、と返事をして荷物を半分渡した。

 

船内の一室で、年少の子供たちに弁当を配り始める二人。

 

みんな二人にお礼を言って、弁当を持って各々が好きな場所で食べ始めたのを見て、クーデリアはやっと終わったと心の中で一息ついていた。

すると、クーデリアをアトラが手招きで呼んだ。

 

「次は、三日月と昭弘さんと豊久さんね」

「あの三人はどこに?」

「あっちの・・・トレーニングルームで試合してるよ」

 

トレーニングルームでは、半裸の昭弘と三日月を、豊久が一人で捌いていた。

 

「おお、(まま)じゃ(まま)じゃ。三日月、昭弘、休みじゃ。昼飯ば食うど」

「おっす・・・」

「うん、わかった」

 

明らかに、昭弘と三日月がここ数分での疲れ方ではない。

疑問に思ったクーデリアが、三人に質問を投げかける。

 

「今後の方針について団長さんたちと話し合ってきましたけど、あなたたちはどうして参加しなかったのですか?」

 

「いや別に。俺難しいこと苦手だし聞いてもよく分かんないから」

「俺もだ」

(おい)もじゃ。(おい)は難しか事は分からん。じゃっどん、おるがやくうでりあ、お(まん)らは違う。(おい)はお(まん)らば信じておるだけよ」

 

「はぁ・・・」

 

豊久の言葉にうんうんと頷いている二人を見て、褒められて喜ぶべきか否か少々迷って、あいまいな笑みを返す。

 

「えっと、一応決まったことを話しておきますけど・・・」

「うーん・・・」

「興味ないのですか?大事なことですよ」

「別に。オルガがちゃんとしてくれるだろ。だいたい俺あんたがなんで地球へ行くのかもよく分かってないし」

「そもそも地球って何ぞ」

「そこからですか・・・」

 

クーデリアは、思っていたより何も考えてないんだなとがっくりと肩を落とす。

むしろここで、アトラが騒ぎ出した。

 

「えっ!私たち地球へ行くの!?」

「言ってなかったっけ?」

「でもどうしよう?おしゃれな服とか持ってないのに・・・」

「そのまんまでいいんじゃない?」

「ようし昭弘、もう一番試合ばするど」

「おし来たぁ!」

 

クーデリアの話にイマイチ混ざれない二人は練習試合を再開した。

 

「俺も・・・」

「私が地球へ行くのは」

 

だが、更に混ざろうとする三日月を、クーデリアが言葉で止めた。

 

「私が地球へ行くのは火星の人々の自由な暮らしを勝ち取るためです。厄祭戦によって地球の国家群が4つの経済圏に統合されたのは知っていますよね?」

「知らない」

「あっ、そうですか・・・

火星・木星などの圏外圏でもそれぞれの経済圏による分割統治が積極的に進められてきました。クリュセ自治区は経済圏の一つ、アーブラウの支配下に入ったのですが、開拓時代に結ばれた不利な惑星間経済協定の名目の下長年の不当な搾取にさらされてきたのです。

この状況を改善するために私は地球のアーブラウ政府と交渉を続けてきました。

そして先日アーブラウ代表である蒔苗東護ノ介氏が対話のテーブルに着くことを初めて了承してくださったのです。

私の目的は火星の経済的独立を勝ち取ること。それが全ての火星の人々の幸せにつながるものと信じています」

「クーデリアさんすごい!」

 

アトラは、壮大な話を聞いて、よく分かっていないが感動して拍手している。

一方三日月は、こちらもよく分かっていないが、感じるものはあったようだ。

 

「ふ~ん。じゃああんたが俺たちを幸せにしてくれるんだ?」

「そんだけ分かっとけば・・・ふん!・・・戦う理由には十分だな・・・おらぁ!ぐはっ!」

 

昭弘が倒されたところで、今日の練習はお開きとなった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

クーデリアに三日月、アトラに加えて豊久という珍しい三人組が、作業場にやってきた。

 

作業場では、装甲を外されたバルバトスが修理を受けている。

アトラが弁当を持ってきたと告げると、おやっさんが休憩にすると宣言し、みんなで弁当を受け取りに来る。

 

「俺もこっち手伝おうか?」

「ああ。力仕事になったらな。おめぇ字読めねぇだろ?」

 

三日月としては何気ない日常の会話なのだが、クーデリアには衝撃だったようである。

 

「三日月あなた字が読めないの?

こんな複雑そうな機械を動かしているのに?」

「字読んで動かすわけじゃないからね。モビルワーカーとだいたい一緒だし、あとは勘?」

「あの・・・学校とかには?」

「行ってないよ。行ったことあるヤツの方が少ないんじゃないかな」

 

つくづく、自分は恵まれていたものだとクーデリアは嘆息する。

 

「まあ生きてくだけで精いっぱいだったヤツもここには多いからなぁ。ましな施設にいたヤツはいくらか教わったこともあるようだがな」

 

おやっさんも、事情を知っているが、大人として歯がゆいのか微妙そうな顔をしている。

そこへ、アトラが帰ってくる。

 

「配り終わったよ」

「アトラは字読めるんだっけ?」

「うん。おばさんに習ったから」

 

クーデリアは、三日月の肩をガシッとつかんで力説する。

 

「もしよかったら読み書きの勉強しませんか?私が教えますから。読み書きができればきっとこの先役に立ちます。

本を読んだり手紙や文章を書くことで自分の世界を広げることもできます」

「そっか。いろんな本とか読めるようになるんだよな」

 

いきなり肩をつかまれて少しびっくりしたようだったが、考え込んだ三日月からは好反応だった。

 

そこへ、年少組のメンバーもやってくる。

 

「いいな~!』

「俺も読み書きできるようになりたいっす!一緒にやってもいいですか?」

「俺にも教えてよクーデリア先生」

「・・・ええ。私でよければみんなで勉強しましょう」

 

仕事が出来たクーデリアは、嬉しそうな顔をしている。

 

「あ、でも、おトヨにも習ったことあったっけ。

でも、あれ習っても読めないんだよなぁ・・・」

「見せていただいてもよろしいですか?」

「うん、これ」

 

渡された紙には、こう書いてあった。

 

不人不有不學子

亦不亦朋亦而曰

君知樂自説時

子而乎遠乎習

乎不 方 之

 慍 來

 

「えっと・・・これは・・・」

「論語の学而第一じゃ。あらゆる機会に思索体験を積み、そいを自分の血肉とす。

学ぶことのはしりよ」

「こちらは私では読めませんし、今の火星では使わないといいますか・・・」

「あー!俺知ってるー!漢字ってやつだ!」

「おーう、そうじゃそうじゃ。こいが日の本の言葉よ」

「いっつも見る字よりかっけー!」

「うん、俺もその文字好きだよ」

 

その後ざわざわと騒ぎになり、結局豊久とクーデリアがそれぞれ読み書きを教えることとなった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

ギャラルホルンの火星支部では、アインがマクギリスに呼び出しを受けていた。

 

「君がアイン・ダルトン三尉か。君らの中隊は圧倒的戦力をもって敵を制圧する予定だったがその予定が狂った。それは敵のモビルスーツのせいか?」

「はっ!」

「率直な印象が聞きたい。ヤツの戦いぶりはどうだった?」

 

アインは、少しだけ迷って口から言葉を紡ぎだす。

 

「最初は民間組織がモビルスーツを持っていたことに動揺しました。しかし戦闘が始まるとすぐに別の驚きに変わりました。

それは訓練では体験したことのない機動性・反応速度、それらを駆使した戦法に翻弄され我々は・・・くっ・・・

 

自分がふがいないばかりに上官を続けざまに失いました。願わくば、追撃部隊の一員に加えていただきたく」

 

アインは、頭を下げた。

 

「気持ちは分かった。考慮しよう。今回は苦労を掛けたね。下がって構わない」

「はっ!失礼しました」

 

退出したアインに変わり、また一人の兵士が扉をたたく。

 

「入れ」

「失礼します。ボードウィン卿の意識が戻りました」

「そうか、笑いすぎで傷が開いたときはどうしたものかと思ったが・・・すぐに面会に行こう」

「はっ!失礼しました」

 

広い自室の中央に置かれた、セブンスターズ用の椅子から立ったマクギリスは、すぐにガエリオの元へと向かった。

 

「アイツの傷が治れば、また奴らを追えるな・・・」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

イサリビの艦内で、豊久とクーデリアの読み書き教室を見ていたオルガは、ビスケットに呼び止められた。

 

「ツテもないのにテイワズと交渉するのは無茶じゃないか?」

「ならどうする?」

「分からないけどもっとじっくり考えていちばんいい方法を・・・」

「考えたさ。さんざん考えたけどそれ以上のやり方が思いつかねぇんだ」

 

少なくとも、ビスケットは納得できていない。

その証拠に、オルガに向ける顔は曇っている。

 

「今回の仕事は正直今の鉄華団には荷が重すぎると思うんだ」

「だったらクーデリアの護衛を諦めてギャラルホルンに引き渡そうってのか?」

 

対するオルガの顔は、ビスケットの方こそ見ていないものの、どこまでも真っ直ぐだ。

 

「それはできないけど、例えば今なら他の会社に委託することだって」

 

そんな顔を見ていると、こちらの方が間違ったことを言っているのではないかという気持ちにもなってくる。

だが、ここで止める人間がいないのは不味いと、ビスケットは続ける。

しかし、オルガも折れはしない。

 

「いいやダメだ。やると決めた以上は前に進むしかねぇ」

「少し焦り過ぎてるんじゃないか?なんだかわざと危険な道ばかり進もうとしてる気がするんだ」

「・・・かもな」

「なんでそんなに前に進むことにこだわるんだ?」

 

ここで、はじめてオルガがビスケットの方を見る。

 

「見られてるからだ

振り返るとそこにいつもあいつの目があるんだ

すげぇよミカは。

強くてクールで度胸もある。初めてのモビルスーツも乗りこなすし今度は読み書きまで・・・

そのミカの目が俺に聞いてくるんだ。「オルガ次はどうする?次は何をやればいい?次はどんなワクワクすることを見せてくれるんだ?」ってな

 

あの目は裏切れねぇ。あの目に映る俺はいつだって最高に粋がってかっこいいオルガ・イツカじゃなきゃいけねぇんだ

・・・テイワズの本拠地へ向かう。変更はなしだ」

 

いきなり独白を聞いたビスケットはぽかんとしていたが、仕方ないなという風にため息をついて、ブリッジへと戻っていった。

 

丁度ビスケットが出ていったタイミングで、三日月が入ってきた。

 

「オルガ・・・食べる?」

「おう、もらうぜ」

 

差し出された火星ヤシの実を、オルガは口に含んだ。

 

「どうしたんだ?急に読み書きの勉強始めるなんてよ」

「クーデリアたちが教えてくれるっていうからさ。タカキたちも一緒に。

・・・いつか色々な本を読んで野菜のこととか勉強したいんだ」

「言ってたもんないつかビスケットのばあちゃんのとこみたいな農場をやってみたいって」

 

そんな二人の居るブロックに、警報が鳴り響く。

 

「ミカ、ブリッジ行くぞ」

「うん」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

急いで戻ってきたオルガが、ブリッジの誰ともなく発した質問は、フミタンが返答した。

 

「何があった?」

「他船からの停止信号です」

 

すると、いきなり画面に男の顔が大写しになる。

 

「ガキどもよぉ俺の船を返せ!

この泥棒ネズミどもが!俺のウィル・オー・ザ・ウィスプを今すぐ返せぇ!」

 

オルクス商会の船を躱し、航行していたイサリビへいきなり通信が入った。

 

「てめえこそ、こっちを囮に逃げやがった癖によく言いやがるぜ」

 

ユージンも負けずに食らいつくが、マルバの怒りは収まらない。

だが、背後にいた長髪の男性が話を遮った。

 

「落ち着いて話が出来ねぇだろ、あんたはちょっと黙っててくれ」

 

マルバは一瞬反論しようとしたが、すぐ脇にどけられた。

 

「俺はテイワズの傘下の・・・名瀬ってもんだ。お初御目にかかるな、鉄華団の諸君」

 

通信が入って初めてのオルガから出た言葉は、ある意味予想できたものだった。

 

「渡りに船とはこのことだな」




なんとか18時に間に合った・・・

今回も豊久があんまり喋ってない気がするしあんまりうまくまとまってない気もするけど・・・
次回の豊久の大暴れで取り返したいと思います。

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