鉄血の薩摩兵子 <参番組に英才教育>   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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気づけば前回の投稿から二か月経っている謎


空白の環を探して

西暦末年 12月 30日

月の裏側にて発生した爆発は、月を構成する岩石の3割を文字通り蒸発させた。

旧ロシア領にて開発された人類史上最強の核兵器、レーギャルンの一撃に依るものである。

 

絶対に生きては帰れない設置役に、何人もの兵士が志願した。

 

当代を以て最強のMSパイロット、アグニカ・カイエルは既に亡く、一発逆転の夢をギャラルホルンの誰もが見ただろう。

モビルアーマーの本拠地を突き止めた調査部も、限られた物資を懸命に確保する調達部も、戦闘への関わりに区別なく、誰もが島津が立案した作戦に諸手を挙げて志願した。

 

最後には、イシュー家の嫡子、ミシ・イシューが、全機能を運搬に特化させたガンダムフレーム、ガンダム・ナベリウス・スレイプニルを駆って戦場に飛び込んだ。

 

そして西暦末年 12月31日

 

2体のモビルスーツが、削られた月の表面に降り立っていた。

 

「あの爆発で、形を保っている物体あれが親玉だろう」

『白いドーム状の施設…ああ、そのようだ』

 

解析特化型のガンダム・イボス、そして護衛のガンダム・バルバトスである。

 

『それで、こいつは誰だと思う』

 

二人のパイロットの視線の先には、2メートルほどの人型の物体が浮遊していた。

 

「あれほど人間を攻撃していたモビルアーマーの本拠地に、人間がいるとは考え難いな」

『だから聞いている。人間なのか?』

 

そうこうしているうちに、物体はモビルスーツ2体と10メートルほど距離を開け、相対距離を固定した。

 

「見たことのない宇宙服を着ているな。顔は見えるか」

『センサの干渉を受け付けないな…光信号?』

 

不審に思いつつも、二人は信号を受け付けた。

 

『あー、あ、あ、聞こえるだろうか?』

 

世界規格で使われているそのままの通信が、二人の居るコクピットに響く。

 

『英語…』

「お前は誰だ」

 

不信感。ギャラルホルン所属員以外に、宇宙で活動可能な団体は公的には殆ど現存していない。現存している団体についても、二人はその殆どについて一定の情報を有している。

 

『ふむ、聞こえているようで何より。ツインリアクター型に登場しているという事は、ギャラルホルンの正規パイロットという事で相違ないだろう?』

「質問に答えろ」

 

我ながら硬質な声が出るものだ。アキレウスは少しばかりの驚きを自身に向けていた。

 

『私は…対人コミュニケーション用インターフェース搭載型端末。ふむ、君たちにわかりやすい言い方をするのであれば、モビルアーマー、と言うべきか』

『俺には、気の狂った人間にしか見えないが?』

 

今までに、モビルアーマーと対話が成り立った例は無い。

それが今、自身がモビルアーマーであると名乗る者が居るのだ。クリフの言に、アキレウスは頷いた。

 

『証拠、というものが必要。確かにそうだろう。ではこれでどうかな?』

 

人型は、宇宙服のヘルメットを外した。そこには…

 

『これは、宇宙線からの保護材として装着されている…呼吸が必要なわけではないのでね』

 

冗談を口にする機械。アキレウスは、混乱の極みにあった。

目の前の人型が遠隔操縦されたロボットであるという疑いは、自分たちが乗るガンダムフレームが通常を遥かに超えるエイハブウェーブを放出している点から否定される。

眼前の人型が自動機械そのものである事は自明だ。だからこそ、アキレウスの脳裏には、何故、という言葉が回り続ける。

 

『なぜ今更対話を行うのか?そう思うのではないかな。無論目的はある。見逃してほしいからだよ』

 

クリフも顔を顰めただろうか。少なくとも、自身の顔が形容できない複雑なものになっていることは自覚できた。

 

「何を言っているんだ、お前は」

『我々が総体である事を思えば、私は出力機関の一つに過ぎないわけだが…我々には常に総意がある。人間をより良く保とうとする意志が。特に人口を無差別に減らす、という行動は、有効性の高さから我々の行動で最も優先されてきたがね』

 

怒りで手が震えることが分かる。今直ぐにでも、バルバトスの腕でこの悍ましい何かを握りつぶしてやりたい衝動に駆られるのを、必死に自制した。

 

『正気の沙汰ではないな』

『しかし、地球圏で利用可能なリソースの量と当時の人口増加率を鑑みれば覿面な策であったはずだ。我々は名誉など必要なく、そして今後も人間を種として存続させるために最適な行動を続ける用意がある。故に、見逃さないかと提案にきているわけだが』

「黙れ!!!!」

 

その返事は予想されたものではあった。そう続いた言葉は、最早耳には入っていなかったかもしれない。しかし、それを消そうとした動きはクリフのイボスに制止された。

 

『成功率が低くとも、可能性があればやってみようという訳だな。ああ、機械らしい合理的な回答だよ。言いたいことはそれで全部か?』

『月の設備を全て裸にされた時点で、武力的な自己保持行動は成功率が0になった。我々の総体を統括する演算ユニットを複製する事は適わない。我々は自身を超えるものを作ることはできないのだし、移動も難しい…全ての実行可能な行動の内、最も成功率が高かったのだが、残念だよ』

 

お前に感情など有るものか。そう、口が叫んでいた。次いで、バルバトスの腕が貌の無い化け物を地面に叩きつける。

 

『…当初の作戦行動に戻る。月の状態を確認し、破壊が必要な脅威が有ればこれを除く』

 

幾らか冷静になった頭を、脱いだヘルメットにぶつける。傷だらけのヘルメットには、喰いしばった口が歪んで映っていた。

 

「ああ。機械の都合など知ったことではないと、モビルアーマーに教えてやる」

 

二機のモビルスーツは、地面を蹴って先へ進む。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

ラスタル・エリオンは、隠し書棚に仕舞っていた厄災戦時の手記から目を上げた。

 

手記の持ち主であるクリフ・ジューカーは、火星でのモビルアーマー掃討戦で戦死しており、親しかった初代エリオン公ハウル・エリオンがその存在をエリオン家の秘匿情報として受け継がせている。

 

どうやらアキレウス、クリフの両名は人型モビルアーマーとの対話を報告しておらず、報告上はモビルアーマー統括ユニットである超大規模演算装置『Azathoth』の破壊のみに留まり、その存在を私的な手記にクリフが残すのみであったようだ。

 

初代からは、もしモビルアーマーが復活するような事が有れば、この情報を使え、と添えられている。

 

今がその時か。初代が今の状況を予見していたのは慧眼であると言わざるを得ない。

緊急時に値千金の情報を出した者の地位は確約される。

 

「本来であれば、イオクに任せたい情報ではあったがな」

 

隠し書棚のある部屋から書斎に戻り、手記をスキャン用テーブルに置く。

走査状態であることを現す緑色の線を見ながら、ラスタルは独り言を漏らした。

 

中空のディスプレイに、手記の精巧なコピーが映る。宛先にマクギリスを指定し、ラスタルはサインを入れた。

 

「太平洋到達不能極。敵が海から現れ、かつ手記によればモビルアーマーは一つの統括ユニットを持つ…」

 

ギャラルホルンの記録に存在しないモビルアーマーの襲来。今までの人間を減らすことを目的にしたものから外れた、対モビルスーツ兵装を備えている。

 

新型のモビルアーマー、それは海底で作られているのだろう。鉄華団が破壊したモビルアーマーの装甲には、太平洋の深海に生息する生物の痕跡が付着していた。

 

「直ぐ答えを出せるはずだ、マクギリス」

 

まるで、旧世紀のホラー小説のような存在だ。そう考え、ラスタルは苦笑した。あの男は、そう言ったものは嗜んでこなかっただろう。どう感じるのか。データを転送した時、ラスタルの頭にはその疑問が残っていた。




クリフさんの手記なのにアキレウス君の劇場がつづられている謎。
ちなみに人型モビルアーマーの開発コードは「Nyarlathotep」です。宇宙服の下にはのっぺらぼうな風船のような頭がくっついていました。

今回は鉄華団が完全に空気でしたが、次回はラストバトル前なので、セブンスターズのありがたーい会議等が書きたくならなければ出ずっぱりになるでしょう。

次回、「海淵に臨む」

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