鉄血の薩摩兵子 <参番組に英才教育>   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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最近の気づき
新兵器を思いつくと小説が書きたくなる


荒野にて

先のモビルアーマーがアーブラウ近郊で暴れるという大事件から約一年。世界では、大きな争いこそ無い物の、経済圏の境界で小さな紛争が頻発するという状況が続いていた。

 

ウィーンゴールヴ、セブンスターズ会議室には、正に世界の頂点とも言える6人の男たちが集っていた。現在の紛争状況の、誰が原因で始まったか、などという分かり切った事は誰も発言などしない。ただ、彼らが話し合っているのは利益の循環と武力の分配についてのみである。

否、その二つは本質的に分離していてしかるべきなのに、この場ではそれが恰も同じものであるかのように扱われている。それは、この会議の腐敗の進み方を如実に表しているのだろうか。

話題は移り、アーブラウのアラスカで発生している紛争にスポットが当たる。

 

「あの紛争の趨勢は、なかなか予想がつきませんな」

「確かに。アーブラウはファリド公からの支援を受けていましたし、独立を狙うアラスカも、最近は精強な傭兵部隊を雇ったとか」

「それを言えば、アーブラウも負けておりますまい。鉄華団とか言う…」

 

表情を微笑に固定して、マクギリスは思考の海に沈む。

 

此処で勝てば、ラスタルの陣営に打撃を与えることが可能だろう。確定ではないが、確度の高い情報筋から、あれはラスタルの闇の直轄部隊だという情報が入っている。

それを失えば、ラスタル・エリオンにとっては腕を一つ失うに等しい打撃だろう。

セブンスターズという重しのせいで動くことができない自分の代わりに、石動も派遣している。新兵器も、一つ送った。

 

勝て。そう、思う事しかできないのだ。いや、信じたい。自分の同志、そしてその志を、信じたい。

 

そういった心の浮き沈みをまったく表に出すことなく、会議は恙ない進行を見せていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

アラスカには、短い夏が訪れていた。コンクリートで作られた平面の上で、滑るようにモビルスーツ三機が動き回っている。

それに対するのは、豊久が指揮するモビルワーカー五機。

 

「迷彩解除!一つ落とせばよか!狙え!」

 

光学迷彩を解除したモビルワーカーが文字通り「足を止めた」。動きを制限され立ち尽くす一機のモビルスーツに、三機のモビルワーカーのペイント弾の砲火が集中する。

散開して離れていた他二機が近付いてくると同時に、豊久から散開の命令が出る。

素早く五機のモビルワーカーは、前を向いたまま後退する。二機が連射するペイント弾を躱し、距離が少し開く。足を止めて撃っていてはいては追い付かないと、一機のモビルスーツが前に出たところで、モビルワーカーが反転して前に出る。

 

「当たれ!!」

 

急加速で前に出た一機のモビルワーカーが、モビルスーツの足に体当たりした。ローラーでしか接地していないために不安定なモビルスーツは、その一発で倒れてしまう。

残る四機のモビルワーカーの砲撃で、倒れていないモビルスーツも行動不能判定。

演習の終了サインが鳴り響いた。

 

「良いんじゃねぇか?あのマクギリスの新兵器が有ればこんな豆鉄砲でもどうにかなるだろうしな」

「当たって止まるまでには、少し時が要る。そう言うておったの」

「アンタなら問題ないだろ?そのくらい」

 

会議室へ向かうオルガが、さっきの演習を見たと豊久に話しかける。

 

会議室には、石動、ガエリオ、アインが居る。円卓のような席について、オルガが話を始めた。

 

「今回の作戦は、敵の親玉の最高で鹵獲、最低でも始末が目的になる」

「そうだな。個人データは抹消されているみたいだが…実在する人間のようだ」

 

画面に映った顔を見て、ガエリオがそう補足した。

 

「仮称…現在の偽名、ガラン・モッサとするが、作戦指揮官としてはそれなり、モビルスーツの操縦はまあまあってところで、三日月あたりが補足すればまず負けないだろう」

 

続いて画面に映ったのは、傭兵部隊が主力としているゲイレールというモビルスーツの詳細データだった。

 

「ゲイレールはグレイズの前にギャラルホルンで正式採用されていたモビルスーツで、今回の作戦に投入される新兵器、PPHP弾の効果はグレイズよりも見込めると思われます」

 

アインが、ゲイレールのフレームの機関部を指して言った。

 

「豊久が訓練を初めてから、うちのモビルワーカー部隊の練度は更に上がったと思うんだが、そこんところ、ギャラルホルンと比べてどうなんだ?」

「口惜しいですが、雲泥の差でしょう。火星支部と比べれば歴然ですし、一度だけ見たアリアンロッドの部隊ですら及ばないと思います。

それに、あのようなモビルワーカーの運用は、厄災戦以来、ギャラルホルンでは見る事も聞くこともなかったですから」

 

豊久が、単発式のマッチロック銃の訓練をモビルワーカーのパイロットに積ませていたのは記憶に新しい。体で、命中率を重視した射撃を覚えさせるというのだ。

今回の作戦は、命中率が命だという事だから。そういう理由で、豊久の地獄の新兵訓練は実施され、時折嘔吐の音や悲鳴を響かせながらも、モビルワーカー部隊のパイロットは世界最高クラスの、せいぜい二倍の戦力が有ればモビルスーツにすら対抗できる部隊に仕上がった。

 

「作戦開始は明後日から、まずはシノ、石動の部隊で敵を釣る」

「了解」

「態と負けるってのはなんだか性に合わねぇんだけどなぁ」

 

打撃音の後、二人が同意したのを見てオルガが説明を続ける。

 

「これは3日くらいかけて相手を馬鹿にしてしまってほしい。算を乱して一目散に逃げる俺らを追う相手、ってのが理想だ。ターゲットの取り巻きが減るだけでもありがたいからな」

 

此処までに、異議はあるか?その問いには、誰も否は無かった。

 

「次に、三日月の部隊が出る。これは徹底的にやってもらうが、なるべく接戦でだ。底力を出してると相手に思わせるのが良い」

「アイツよく言わないと大将首だって一瞬で落としそうだぞ」

「それは俺が言っとく。で、仕上げが豊久のモビルワーカー部隊だ」

 

丁度、豊久もこちらを見ていた。にっと笑って、続きを促す豊久に、オルガも笑った。

 

「これは、三日月たちの部隊が撤退する前に出てもらう。相手からすれば、人質を取って撤退できるかも…と思ってほしいところだな」

「はン、そう簡単に首はくれてやれんのう」

 

これには全員が笑った。

 

「あんたどう見ても首取る側じゃねぇか」

「まあその調子で頼むぜ。モビルワーカー部隊の砲火で行動不能になったガラン・モッサを捕まえて作戦は終了、ってわけだ」

 

あまり細かいところは詰めない。それが良いのだと、オルガは思っていた。大きな目的を示して、後は現場でドンパチやっている指揮官に任せてしまえばいい。

その方が、自分たちの柔軟さを生かせるだろうと思えるからだ。

作戦に反対意見は出ず、会議は終わった。

 

屋上に上る。

 

地球の夕暮れは、赤い。火星と同じ色をしているな、と思ったものだったが、クーデリアによれば、それは昔の人間が長い時間をかけて火星を地球と同じような環境にしたからだという。

詳しい説明は、オルガには分らなかった。もしかしすると、太陽が沈むとき空が不思議な色に変わる事にも昔の人間がかかわっているのかもしれない。

それよりも、どういう気持ちで昔の人間は、火星を地球に近づけたのだろうか。

確かに、似ている。

それでも火星では見たことのない物が様々にあるし、何より暮らしが違う。スラムを拳銃片手に駆けずりまわていたあの頃が、あんな場所が地球には本当にあるのかと思う。

 

何時の間にか、海に吸い込まれるように太陽は沈んでいた。

 

兎に角、勝つことだ。手を握ってオルガは呟いた。

 

「勝たなきゃ、俺たちに価値は無ぇんだ」

 

周りを見渡せば、何もない荒野だ。遠く海には、赤い光の帯が移っている。荒野にぽつりと建っているこの基地は、鉄華団の基地によく似ている。けれど、違う。

 

「これが、故郷って感覚なのか?」

 

考えても仕方がない。分からない事を考える意味は無い。カンカンと靴で鉄の階段を叩き、オルガは室内に戻った。




新兵器、一応略していない名前で書くと

Plasma Piercing Hollow Point Bullet
プラズマピアッシング式ホロウポイント弾

効果のほど、仕組みは次回以降で。


以下、思い付きで書いたおまけ。今話の3日ほど前の話です。


「負けたのは私だ。言う事には従うが、此処は一体…」
「すぐわかるって!お、来たな」

クラシックな木製の扉を開けて現れたのは、胸元の大きく開いた煽情的なドレスを着こなす、金髪の女性だった。

「わっ、ホントにイケメンじゃーん!!好きにしていいの!?」
「俺が勝ったからな!何時間でもいいけどよ、明日には返してくれよ?」

扉が開いた直後。女性の姿を認めた瞬間にアインはそっぽを向いていたのだが、そんなことはお構いなしに女性はアインにしな垂れかかる。

「かわいいー、絶対初めてよね」
「じ、自分は」
「はいはい、あっちでゆっくり聞くわねー」

深淵よりも尚、昏い。そう見える(アイン視点)扉の先に、ゆっくりと引きずり込まれていくアイン。
一瞬、目が合った。少し泣きの入ったアインに、シノは親指を立てた。

「男になってこいよ!」
「助けてくださいクランク二尉、ボードウィンきy」

一縷の希望を残した目から一転。青く見えるほどに(実際青いが)暗く目の色を変えたアインは、しかし助けを求める声を途中で寸断され容赦なく扉が閉まった。
ひととき、豊久に習って手を合わせる。

「シノじゃない、待ってたわよ」
「俺もさアンジー」

その差0.1秒未満。さっさとアインの事も扉向こうから聞こえる嬌声や泣き声、全てを無視して巨乳のお姉さんの肩に手を回すシノ。

「そうだ、俺の整備士でヤマギってのがいるんだけどよ。今度相手してやってくれねぇか?」
「その子どんな子なの?」
「14くらいなんだけどな、多分可愛いんじゃねぇか?」
「OKなら何も言う事は無いわ。今日は楽しみましょ!」

◇◇◇◇◇◇

翌日、鉄華団暫定基地の一室にて

「アイン、寝坊なんて珍し…どうした!?」
「クランクニィ…ワタシノセイギハ…クランクニィ…」

「いやいや、何があったんだ…おい!シノ!?」
「いや、昨日娼館に連れてったんだけどよ、シャーリーのやつが手加減しないから…」

「10、11、ふふ、この程度では私の罪は洗われないというのですね、クランクニィ…」

「完全に壊れてるじゃないか!?」
「俺もここまでになるとは思わなかったんだよ!」

結局、アインはコーヒーを飲むと回復した。(ギャラルホルン火星支部ブレンド)
後日、ヤマギも似たような状態になりました☆

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