鉄血の薩摩兵子 <参番組に英才教育>   作:MS-Type-GUNDAM_Frame

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なんと続きが浮かぶ浮かぶ。
という訳で続きます。

と思ったら時間がかかっております
でもその分多めでお送りしております。


塩の柱、英雄の影

「殿!」

「何だ」

 

ホログラムで表示された戦況をじっと見つめながら、男は所在なさげに報告を聞いていた。

 

「アグニカ・カイエル氏が…戦死されました」

 

蒼白な部下の顔を見て、男は目を細める。確かに、アグニカ・カイエルは人間を超越した強さを持っていただろう。しかし、戦人である以上いつかは死んでいたはずだ。それが、死んだという事にこうまで取り乱すとは。

兵士としての自覚が足りない事を嘆かわしく思いながら、部下に報告を続けさせる。

 

「そうか…」

「しかも、その死因が、その、ガンダムフレームに、討たれた、と…」

 

これには、男も血の気が引いた。否、同時に頭に血が上るかのような怒りも感じた。

 

「この状況で…暗殺だと?」

「ガンダムフレームのパイロットの中でも、特に利権者と近しい者の仕業だと思われます。候補は七人まで絞れているのですが…」

 

息を、一つ吸った。そして、再度戦況に目を落とした。

 

「良いか?それ以上は調べるな」

「ですが…」

 

部下の気持ちは、理解できる。誰もが、あの快活な青年に期待しただろう。彼こそがこの閉塞しかけた人類を救ってくれるだろうと。それが、彼が守っていたはずの人間から、殺される。

しかし、泣けども悔やめども死人は帰ってこないのだ。男は、一瞬で非情な決断を固めた。

 

「一時、我々は戦場から退く」

「そんな!それではこの国の部隊は…」

「死ぬであろうな」

 

男は、どこまでも客観的に、全軍に所属する指揮者の実力を把握していた。その上で、自分以上は彼のアグニカ・カイエルくらいだっただろうという思いを強くする。

 

「我々が死ねば、本当に人類は終わる。故に、上の馬鹿共に我々が居なければどうなるのか思い知らさねばならん」

 

部隊を見殺しにした男、と、後ろ指を指される覚悟はある。自分の命は安い。高々人間一人分だ。この度の作戦で死ぬ人間は、1万を下らないだろう。

 

「俺は人類を救うために、人類の敵になろう。覚悟ば決めい。これは奸ぞ。しくじる様では、今までんいくさ人らに申し訳の立たんではなかか」

 

部下は、コクリと頷いた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

鈍い音がして、槍のように切っ先を変化させた金属塊が地面へ深々と突き刺さった。

力を逃がされ地面から引き抜かれようとする尻尾だが、頭部へのダメージのためか上手く変形できず、中々抜けない。目の前に立ったバルバトスに、モビルアーマーは三度砲門を向けた。チャージ音が発せられたかどうかという瞬間に、バルバトスの刀が砲門をボディから切り離していた。エネルギーの溜まっていた砲門は、それなりの音を立てて爆発する。

モビルアーマーが、吠えた。やはり、金属板のこすれるような不快な音だったが、それでも三日月の顔色は変わらなかった。

ただ、首を落として突きで内部を破壊する。

 

遂に崩れ落ちたモビルアーマーは、完全に沈黙した。

 

「大丈夫?チョコの人」

『…ああ、問題ない。腕が一本破損した程度だ』

『ミカ!無事か!』

 

同時に、戦闘音が止んだことでオルガが三日月に連絡を送る。

 

「うん。こいつも首にしたからオルガにあげるよ」

『なあ、こいつは金になるよな…いやそうじゃねぇ!それも大事だがよ、町の方が大変らしいんだ!』

『どういう事だ』

 

オルガが話すQCSで飛んできた街の様子を、二人は黙って聞いていた。ぽつりと、マクギリスが一言溢した。

 

『私も、その寸前までは行っていた、か……いや、済まない。続きを聞かせてくれ』

 

首をかしげる二人に、マクギリスは続きを促した。

 

『兎に角、今はヤバい状況だ。モビルアーマーとトヨさんを、鉄華団とアンタんところの二人が必死こいて止めてる』

「じゃあ、早く行かなきゃね」

 

バルバトスは、スラスターガスを少々使っているがその程度。アガレスは、左腕の動作不良を起こしている。

 

『アガレスは、腕部の換装が必要だ。一時間は見て欲しい』

「バルバトスは何時でも行ける」

 

参謀として、オルガに任せるとマクギリスは笑った。

 

『わかった。町との中間地点で整備班と合流、アガレスはその場で修理開始。バルバトスはガスを補給次第直ぐに出撃だ』

 

実際に交戦したシノが、相手の様子を克明に伝えていた。曰く、ヤバすぎる。

それを聞いた三日月は、手柄だ首だ、と笑った。しかし、アガレスが復活するまでは時間を稼げというオルガの指示には従った。オルガの舵取りが無ければ、敵に全てを置いて斬りかかっていたことだろう。

 

「じゃあ、俺は、捨て奸(時間稼ぎ)すれば良いんだね。分かった」

『おいおい、死ぬんじゃねぇぞ?』

 

兎にも角にも、トレーラーは町へ向かって走り始めた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

オルガたちが町へ向かい始めたその頃、丁度町にも転機が訪れていた。

 

「くっ、早すぎる!」

 

三倍近い体躯をまるで感じさせない雷光のような反射に、ガエリオは愚痴を溢していた。吹き飛ばされたシノが距離を取って必死に逃げ回り、グシオンが四つの腕で援護射撃を行い続ける事で時間を稼ぎ、なんとか流星号が破壊される前にアインのグレイズ・カスタムとガエリオのキマリス・トルーパーが現地へ到着した。問題はそこで発生した。

巨体のモビルスーツ――仮称グレイズ・シュバルツの動きが明らかに良くなったのだ。それまでは明らかに煩わしい物を避け潰す、といったレベルの行動だったのが、いきなりキマリス・トルーパーに狙いをつけ、三つのモノアイから赤い光を迸らせながら襲い掛かったのだ。辛うじてアインが間に割って入ったものの、一撃で腕を落とされ、次の一瞬で足まで落とされて達磨にされてしまった。地面に転がされてしまったアインにはまるで目をくれず、手甲にマウントされた漆黒のデュアルブレードで執拗にキマリスを狙う。

明らか過ぎる動きと、まるで重力を操作しているかのような重圧から、ガエリオは自分が狙われていることを知った。ホバーを起動させ、巡航モードで何とか逃げ回っているものの、この怪物から何時までも逃げ回れるとは思えなかった。

やむを得ず離脱しよう、という時、エイハブウェーブ反応が一気に数十発生した。

 

『アリアンロッド所属、ジュリエッタ・ジュリス。我が主の命により参戦いたします』

 

空から、何本もの杭が降る。普通のモビルスーツに比べれば大きすぎるその的は、その全てを無傷で凌いでいた。

 

『決定打にはなりませんか…イオク様!今度はロックオン前に撃っていないでしょうね!』

『私がそのようなミスを犯すと思ったか!この猿女!』

 

残念ながら、今回の射撃では珍しくイオクは仕事をしていた。最も、戦果は無かったが。

 

「その声は、あの時エリオン公の傍にいた…」

 

立場上顔や声を覚えるのが大得意なガエリオは、以前マクギリスの婚約パーティーで出会った一人の少女を思い出した。

 

『その節はどうも。良くあの程度で覚えておられましたね?ボードウィン公』

 

上空から盾をボードにして降下してきたジュリエッタの乗るグレイズ・カスタムは、深い河のような暗めの緑に塗装されている。パイルを二本装備したグレイズ・カスタムは盾から飛び降り、スラスターでグレイズ・シュバルツにほど近いビルの屋上へと着地した。

 

『それで、あれは如何なる機体ですか?まさかダインスレイヴを凌ぐなんて』

「わからん。恐らくは、ピアス以上のインターフェースで接続された阿頼耶識の施術を受けているんだろうが、あの反応速度は異常だ」

 

バルカンの弾をシールドで防ぎながら、ガエリオは更に距離を取った。

 

「済まないが、俺は撤退する。どうにもこのキマリスが気に入らないらしくてな」

 

すさまじい速度で投擲された瓦礫で姿勢を崩しながらも、ガエリオは補給基地に向かって撤退した。

グレイズ・シュバルツは、執拗にキマリスへ攻撃を加えようとし、上空から降りてきた白い影に遮られた。

 

『待てよ』

 

遮る物体を感知した瞬間に振るわれたブレードを、太刀が火花を上げて食い止める。

 

『お前の相手は俺だ』

 

青く眼を光らせるバルバトスが、斬り合いを始めた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

一呼吸に、五つの刃影が閃く。

 

強い。それが、三日月の心を占める声だった。オルガに時間を稼げと言われ手を抜いているわけではなく、ただ、今までのどんなモビルスーツよりも強い。押されている。

少し力の入ってしまった一太刀を、二刀が受け止めた。

 

あ、これは、不味い。

 

一度豊久との訓練で、鍔迫り合いになった時の事を思い出す。あの時は、一瞬で力の釣り合いを崩された。

そう考えると同時に、バルバトスの踵は地面を蹴って斜めに崩れたビルに着地した。

一瞬遅れて、二刀流が十字に真空を作り出す。

 

「あぶねぇなぁ…」

 

ぽつりと呟いた。それは誰に拾われることもなく、ただ、バルバトスのコックピットに響いて消えた。

 

そうだね。

 

「今の、誰?」

 

泳いだ左手の肘を狙う二連刃を、体を捩って避けながら、唐突に聞こえた声に尋ねた。

鉄華団の誰とも違う、不思議な声だった。

 

ああ、遂に、聞こえるのかい

 

「ああ。聞こえるよ。それよりあんた、誰?」

 

答えを聞かなくても、知っている気がした。そう、初めてバルバトスと繋がったあの日から…

 

ご明察。そう、響いた。

 

『聞こえるかな、三百年後のパイロット君』

 

機体内部のスピーカーから、明確に声がしている。

 

『俺は、三百年前のバルバトスのパイロット。名前は…そうだな、アキレウスと呼んでくれ』

「三百年前?幽霊ってやつ?」

 

上空から投下された焼夷弾が、地上のグレイズ・シュバルツに全て迎撃されている。そんな光景をカメラで捉えながら、アキレウスは大笑していた。

 

『うん、確かに俺は幽霊みたいなものかな』

「あんた、ずっといただろ?幽霊の人は何で今さら話しかけてきたの?」

 

突然、三日月の頭に一人の青年のイメージが浮かんでくる。短く刈られた金髪に、赫灼とした紅い瞳、意思の強さを思わせる口元。知らないはずの青年の顔に、どこか既見感を覚えて三日月は首をかしげた。

 

『それが、あの機体の中に組み込まれているパイロットの生きていた頃の姿さ』

 

アグニカ・カイエル。そういえば、チョコレートの人が何か言っていた。

 

「あんたの仲間だったの?」

『いや、あれは最早そんなものではなかったな。俺たちは、家族だったよ』

 

悲しい。まるで頭を直接繋がれているかのように、三日月もそうだった。

 

『その家族が、彼のような獄に囚われていては眠ってもいられない。だからだよ、三日月・オーガス』

 

天に向かって吠える目の前のグレイズに、三日月はただ眼を向けた。

 

「俺にできるのはいくさだけだよ」

『十分だ。我々の魂の友を、解放して欲しい』

 

それは殺すことと同義だ。繋がっているから、分かる。

 

『その為に、力を貸そう。さあ、阿頼耶識の本当の力をお見せしようか』

 

阿頼耶識とは、仏教によれば死後を認識する感覚である。転ずれば、超感覚とも言えるだろうか。では、阿頼耶識の影、本来の機能とは。

それは、死者にモビルスーツを操縦させることに他ならない。体を捨て、完全にモビルスーツ内部の演算装置に意識を置き換えた状態。体をなくした一人の人間というシステムが、ゴーストとして機体の操作に干渉するのだ。

 

さて、ここで、モビルスーツの操縦について考えよう。

モビルスーツとの通信用量が増えれば、操縦パフォーマンスは向上するだろうか?答えはイエスでもノーでもある。端的には、パイロットの脳の許容量まではイエスだ。

如何に情報を多く受け取り、ナノマシンを投与されて性能を向上しても、人間の脳には限界がある。

完全な人機一体の更に上。人と機械の仲介を、ゴーストが行うというわけだ。情報の取捨選択。それによって、モビルスーツは人機一体を超える。

厄災戦前ですら、非人道的と叫ばれたこのシステムに志願したアキレウスは、幾度かの戦場を超えた後に、バルバトスに完全に取り込まれた。

 

『此処からは俺がサポートする。一度限りだが、あのアガレスが戻ってくればどうにかなるだろう』

「ふーん…邪魔にはならないでね」

 

瞬間、三日月は操縦感覚の違いに眼を見開いた。今までパーツやユニットに指示を出していた。それが、無い。

替わりに、ただ五体の延長のような感覚だけがあった。同時に、モビルアーマーの沈黙から青く戻っていたバルバトスの眼が、再び赤く染まる。

 

どうだ?そんな得意気な声が聞こえるようでもあった。

 

三日月は口に出して答えることなく、地を蹴ってグレイズ・シュバルツに斬り込んだ。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「チェックOKだ」

 

マクギリスは、アガレスから転送されたチェックリストを照合してそう答えた。

 

『悪いが、戦場には近づかないようトヨさんから釘刺されちまってよ』

 

大将はでんと腰ば据えればよか。そう睨まれて、オルガは思わず「はい」と言ってしまったのだった。

 

「まあ、それが普通だよ」

『まあそうなんだろうが、家族が命張ってんのに居心地悪いったらありゃしねぇ』

「オルガ・イツカ…君はかつての私と同じだな」

 

どういう事だと言わんばかりに、オルガが目を細めた。

 

「それは、君の家族を信じていない事と同義ではないのか?」

『…そうか、そうだよな』

 

惚けたような顔で、オルガは瞼を瞬かせた。そしてすぐに、大声で笑う。

 

『なあマクギリス。俺の家族の活躍を見て来てくれや』

「ああ、任された」

 

コンテナのドアが開き、アガレスの姿が照らされる。

 

「マクギリス、アガレス、出撃する!」

 

スラスターの残光を曳いて、アガレスが地面に着地すると同時に爆発的に加速する。僅かに数分で、アガレスは市街地の最外縁へ到達した。同時に、廃墟と化した市街地から凄まじい速度で迫る反応が一つ。

 

「あれが…」

 

空気を割らんばかりの出力で、叫び声が鳴り響く。

 

『サミュエル・ファリドォォォォォ!』

 

中空に設置された棍が、振り下ろされた両刀の威力で僅かに撓む。次の瞬間、爆発反応によってグレイズ・シュバルツは後ろに弾かれるように後退した。

 

『何故だ、何故お前が生きている

私ばかりかモンタークまでも殺そうとしたお前が!

ああ分かっているとも人間は腐っているそれでも何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

モビルアーマーを微塵に変えたのに!!

それでも人は私を裏切るのか!』

 

横に振りぬかれたブレードが、まるで熱したナイフでバターを切るようにビルを二つに分けた。

 

「狂気に陥っても技は衰えず…余程の…無窮の武錬の成果だなこれは」

 

正確にいえば、狂奔と怒りで腕は落ち、厄災戦から劣化した技術は彼の腕に追いつく業物を鍛造出来てはいない。それでもなお、英雄は英雄だった。

 

『お帰り。早かったじゃん』

「君の家族のおかげだとも」

 

二機のガンダムの背後に、何機もの機体が並ぶ。

 

「では、怪物狩りと行こうか」

 

棍と太刀が、英雄の影(カイブツ)に向けられる。同時に、幾つもの銃口が持ち上がった。

 

『ラスタル様のために!』

『家族のために!』

『ヤマギ、かなぁ、俺は』

『オルガのために、お前の首印をもらうよ』

『見ていてください、ボードウィン公!』

 

戦いの三幕目が、火勢を上げて燃え落ちる。




いやぁ、最終回きそうな感じ…
次回は、島津家凋落ともう一つの過去回想が入ります。

二週間後には投稿!
したい・・・
多分・・・
Maybe・・・

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