鉄血の薩摩兵子 <参番組に英才教育> 作:MS-Type-GUNDAM_Frame
「そいでは話しばせい」
茫然としたままイサリビのブリッジへ引っ張ってこられたフミタンは、いきなり豊久にこう切り出された。周りの人間は首をかしげているが、フミタンはひどく狼狽している。
「あいでは機の良すぎるではなかか。外と話ばでくるのはお前しかおらんど」
豊久からすれば、フミタンの顔に何故、と書いてあるようなものだった。そして、この質問で一番頭の切れるオルガが事態に気づく。
「アンタ、俺らを売ったのか?」
「な!どういうことだよオルガ!」
「詳しくは分からねぇが・・・荷物がアレだったってことは親父も一枚噛んでるんだろうな・・・そこんとこどうなんだ?」
裏切りへの気づきから周囲の圧力が高まるが、フミタンはクーデリアだけを真っ直ぐに見ていた。
「私は・・・ノブリス・ゴルドンに雇われて情報を流していました」
「ノブリスさんが!?」
ノブリス・ゴルドンは、クーデリアへの出資者である世界有数の資産家だ。当然、クーデリアは疑問に思う。何故?それはフミタンとノブリス、二人へ向けられたものであった。
「ノブリスは、お嬢様にある程度出資して戦争の火種を作ろうとしていたのです。その儲け話にテイワズが一枚噛み、あの状況が作り上げられました。そう、あそこでお嬢様は殺されてしまうはずだったんです」
「おい!」
「待て。まだ話が終わってねえだろ?・・・ああ。続けてくれ」
ユージンが怒鳴りかかるが、オルガがそれを制した。ただし、平常心とはいかないようだが。
「ですが、この人がお嬢様より先に演説を始め・・・お嬢様が死ぬより先に戦争が始まってしまった・・・この人を撃ったのは、お嬢様を殺すために配置されたスナイパーでした。予定外の行動に焦ったのでしょうね」
そう言って、フミタンは俯いてしまった。だが、周りがそれだけでは許さない。
「話はそれだけか?それだけなら、俺らを裏切ったケジメをつけてもらわなきゃならねぇ」
特に、家族を一番に考えるオルガ・イツカは、剣呑な顔をしており、その意思を汲んでか三日月が拳銃に手をかけている。だが、周りを止めたのはやはりと言うべきかクーデリアだった。
「待ってください・・・私も聞かねばならない事があります。フミタン、何故私を売ったのでしょう。私はあなたにとって大切な人間ではなかったのですか?」
「私は・・・お嬢様のそういうところが苦手でした。何時も前向きで、どんな目に会っても挫けず進み続ける・・・スラム出身の私には、眩しすぎたのです。ええ。私は心の底からお嬢様を大切には」
「嘘よ!それなら何故、私をホテルから出さないようにしたの?」
「それは、計画にズレが無いように・・・」
「仮面の男は、『予定の時間を過ぎているのに』と言っていたわ?今ならわかる。フミタン、アナタは・・・」
「止めてください!私はそのような人間ではないのです。お嬢様のようなきれいな人間では・・・」
さしもの鉄華団の面々も、女性二人の修羅場には手を出せないでいたが、そこへ百戦錬磨の男がやってきた。
「おいおい、女二人囲んでなんだ?この状況は」
「名瀬のアニキ・・・」
「俺にも話、聞かせてもらおうじゃねえか」
◇◇◇◇◇◇
「なるほどねぇ・・・そりゃアンタ、自分を汚して見すぎだ」
「そんなことは・・・」
「ウチにもよくいるんだがな。ヤクやらなんやら運ばされたのが、自分に絶望しきっちまうのがな。でも、そういう人間に限って立派な考えを持ってるもんさ。なんつっても、本当にダメなのは自分のやったことを悔いたりなんかしねぇからなぁ」
流石に経験値の差か、先ほどよりフミタンの抵抗というか、自虐は弱くなってきた。流石に、鉄華団の人間もこの空気で罰を言い渡せるほどの胆力は無かった(三日月、豊久を除く)。
「それでも・・・私は・・・」
「ああー、吹っ切れねぇな。じゃあ選びな。
「ええ。でも、お嬢さん、これはあんたに決めて欲しい。直接裏切られたのはアンタだ。あんたが許せるなら、俺らも一緒に仕事をしても良い」
「私ですか?私は・・・」
オルガとしては、もともと女相手に乱暴するわけにもいかないので、タービンズの預かりにしようかと思っていた。それだけに、フミタンがイサリビに残るという選択肢は、決断が出来なかった。だが、それは酷な選択だと心のどこかでは思っていた。だから、一瞬下を向いたクーデリアがすぐにフミタンへ向き直ったのをみて顔には出ない程度に驚いた。
「フミタン、アナタはこのイサリビで働いて、この負債を返すのです。これは命令です。良いですね?」
「お嬢様がそうおっしゃるのなら・・・私はここで働かせて頂きます」
「待てい」
だが、豊久が何故かストップをかけた。
「やらされば無しじゃ。もう一度聞くど。お前はくうでりあと居たいとか否か。答えい」
「私は・・・お嬢様と一緒にいる資格なんて・・・」
「資格なぞというものはどうでんよか。俺が聞きよるのは気持ちよお前はどう思うておる」
「・・・一緒にいたいですよ。ずっとお嬢様の面倒を見てきました。今更好き好んで離れるなんて言いません」
ここまでが精いっぱいなのか、顔を赤くして俯いてしまったが、クーデリアが勢いよく抱き着いてきた。
「嬉しいわ、フミタン!私も一緒にいられて幸せよ!」
「お、お嬢様、こんなところで」
名瀬が苦笑し、ブリッジの一部男性が前かがみになったところでレーダーを見ていた幼年組の一人が知らせを出した。
「団長!接近するエイハブウェーブの反応があります!」
「ああ?」
「通信も来てますけど・・・・」
「出してくれ・・・あの時の仮面じゃねぇか」
『お久しぶりですね、鉄華団の諸君』
「知り合いか?」
名瀬の顔には、こんな変な奴と?とでかでかと書かれていた。
◇◇◇◇◇◇
仮面の男の言うことは、言ってしまえば一つだった。ハーフメタルの流通に噛ませて欲しい。見返りに、物資と地球へのシャトルを用意する。そういうことだ。
「それで、アンタはハーフメタルの件をどっから聞いた?」
ハンマーヘッドの応接室には、仮面の男、オルガ、名瀬、クーデリアがいる。仮面の男はモンタークと名乗ったが、名瀬は訝し気にその仮面を見ていた。
「私共独自の情報網からですが・・・正確には、テイワズが火星の使節を歳星に招いた。火星の使節は無事に出てきた。それだけでも十分推測は可能ですよ」
「確かに商会はある程度出入りしてるが・・・」
「耳寄りな商人もいます。人の口に戸は立てられぬ、と言いますからね」
名瀬は、気に入らない、という風にため息をついたがそれだけだった。
「それで、私共の商談は受けていただけるのでしょうか」
「・・・ええ。受けましょう」
「ありがとうございます。では、物資ではありませんが、お先に耳寄りな情報を一つ寄せさせていただきましょう。アナタはアーブラウの蒔苗代表と会談される予定ですね?」
「はい、それが」
「いま、蒔苗氏は代表から退かれているのです」
「・・・本当ですか?」
「ええ、ですが、ここからが耳寄りな情報です。現代表を務める対立候補はアンリ・フリュウという女性議員なのですが・・・実は、セブンスターズのファリド公と癒着しているのですよ」
この情報に対する反応は、三者三様だった。多少分からない部分があるため半ば理解できていないオルガ。純粋に驚いているクーデリア、警戒を隠そうともしなくなった名瀬。名瀬は、ゆっくりとした声でモンタークを問いただした。
「それは、一商人が知るようなレベルの話じゃねぇ・・・あんた何者だ?俺たちに何をさせたい?」
「・・・団長さん、バルバトスのパイロットと・・・少しふくよかな子がいますね?彼を呼んでください」
「ミカとビスケットか?・・・分かった。ちょっと待っててくれ」
名瀬に眼を遣り、行ってこいと言われたように感じたオルガは、LCSで二人を呼び出した。
◇◇◇◇◇◇
「呼んできたぜ・・・それで?アンタの目的は?」
「二人が来れば・・・」
話そう、そう言う前に、ドアがノックされた。オルガ?と呼ぶ声からしてビスケットのようだ。
「ビスケットか。ミカは?」
「いるけど・・・どうして僕たちを?」
「先方からの指示でな・・・入ってくれ」
ビスケットから先に、部屋に入った。すると、三日月が部屋に入って仮面を見るなり、
「あれ、チョコの人じゃん」
「・・・・え、まさか」
最近唯一チョコレートを見た場面を思い出したビスケットは、変な汗をかいている。
「ふっ、そのまさかだよ」
そう言って、モンタークは仮面を取った。
「双子のお嬢さんは元気かな?」
この瞬間の反応も、三つに分かれた。
仰天しているのがクーデリア、名瀬、ビスケットの三人。困惑しているのがオルガ。やっぱりと火星ヤシの実を食べているのが三日月である。
「あの時もそう言ったが・・・素晴らしい兵士になったようだね。三日月・オーガス」
「なんでここにいんの?」
「商談だよ。クーデリアさんの革命に一口乗せてもらおうと思ってね」
「・・・セブンスターズの次期当主が何の冗談だ、マクギリス・ファリド」
そろそろ疲れてきたのか、名瀬が目の間を指でつまみながらマクギリスを見ている。流石に、オルガもセブンスターズの一員と聞いて目の色が変わる。
「冗談などではありませんよ、名瀬・タービン。これは、アナタたちにとっては商談だ」
「目的を言ってもらおうか。流石に弟分が食い物にされるのは見てられないんでね」
目的、そう呟いて、マクギリスの緑色の目がきらりと光る。
「目的は、革命ですよ。私は、腐敗したギャラルホルンを改革したい。そう切に願っているのです」
個人的にドリフターズで好きなセリフ
「便所に土間の土
オッパイーヌの硫黄
三役そろうと
ドリフターズ信長がかっこよすぎて精神に来てます。