その割には……短いです。
前話と合わせれば良かったかなぁ・・・
ゆっくりと周囲を見渡す。
地下トンネルの天井や壁などに数十個もの魔法陣が描かれている。
これが一斉に発動したらこんなトンネルはあっという間に崩壊するだろう。
発動、したらの話だが。
「くふっ、ふふふっそれで? 木原だろうが何だろうが、あなた1人で何をしようっていうの?」
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ? 1体しか作れない切り札のエリスは遥か彼方にやっちゃって、今のお前はまるっきり無防備。そんなんでどうやって俺をグチャグチャにする気だ?」
「それは、こうするのよ!」
シェリーがチョークを振う……が、何も起こらない。
「それで、どうするって?」
「チィ! どう言う事? なぜ魔術が発動しない!?」
何が起きたのか分からず、シェリーは取り乱したようにチョークを振うが、結果は同じ。
俺が幻想支配でシェリーの魔力を支配したからだ。
シェリーは超一流の魔術師だろうけど、インデックスやいつぞやの錬金術師よりもレベルは低い。
だからコピーするだけじゃなく、停止させるのも簡単にできた。
「お前……なんだ、その赤い目は! それにこの感じは……」
「なんだ、ようやく気付いたのか? さっきからこうだったのに」
俺の目を見たシェリーが、やっと異変に気付いたようだ。
今の俺の眼は赤く輝いていて、シェリー自身の魔力を感じるはずだ。
「幻想殺しだけがお前らの天敵じゃないんだよ、魔術師」
「くっ……」
魔術を封じられても尚、シェリーはチョークを手放さず俺を睨みつけてくる。
その瞳に見える感情は、憎悪だけではない事に気付いた。
となると……こりゃ作戦変更だな。
「お前……敵討ちしに来た、だけじゃないのか」
「っ、いきなり何を言い出すの?」
「学園都市に正面突破しておいて、堂々と道を歩き魔術を行使して、でもお前がやっている事はどこか変なんだよ」
「………」
こいつの行動が読めなかった部分があった。
戦争の引き金を起こす目的を聞いても、それでも理解出来ない部分があった。
それが今繋がった気がした。
「戦争を起こそうとするなら学園都市を無差別に攻撃すればいいのに、お前はそれをしなかった。黒子との戦闘でもお前は逃げを選んだ。それなのに風斬氷華やインデックス達は周到に追いかけている」
「それが、どうした!」
「お前、戦争を引き起こしたい気持ちよりも、20年前の自分とエリスみたいな悲劇をもう引き起こしたくないって想いの方が強いんじゃないか?」
「このっ、テメェに一体何が分かるっていうんだぁ!」
シェリーはチョークを捨て、拳を握り殴りかかってきた。
が、俺はその拳を簡単に掴んでみせた。
危なかった。実はそろそろ幻想支配がヤバい状況で、効果が切れそうになっていた。
「1つ聞くぞ、シェリー=クロムウェル。魔術で当麻とインデックス達の様子をずっと見てたはずだよな? それを見てどう思った?」
「っ!?」
「羨ましい、妬ましい、そんな感情がお前の中に一瞬でも沸かなかった。なんて言えるか?」
「な、何を……言っているの?」
一歩、また一歩後ずさりしていく。
「当麻とインデックスに、昔の自分とエリスを重ねたんじゃないか?」
「そ、そんな事、あるわけ……」
「元々今回学園都市に襲撃を仕掛けたのだって、魔術サイドのインデックスが学園都市で科学側の学生に保護されているって知ったからじゃないのか?」
「このっ、好き勝手……言いやがって、あぁそうだよ。その通りよ! あの時から、ずっと科学が憎くて、学園都市が憎かった! けど、だからって魔術と科学がぶつかるのを、心の底から望めなかった!」
今のシェリーからはさっきまで感じた殺気も敵意も感じなかった。
そればかりか、まるで駄々をこねる子供のようにすらみえた。
「禁書目録が学園都市にいると知って、またエリスの時みたいな状況になって……いてもたってもいられなくなった! だけど、いざここへ来てみても私が本当は何がしたいのか分からなくなった。だから……」
後の言葉を続けず、ゆらりと立ち上がった。
ってマズイ! もう、幻想支配が限界だ!
やっぱり魔術師は慣れていないせいか、能力停止の時間が短い。
身体からシェリーの魔力が消えたの感じた。
シェリー自身もその事に気付いたのか、再びチョークを手に取った。
「我が身の全ては亡き友のために(Intimus115)!!」
トンネル中に描かれた魔法陣が一斉に輝きだした。
もうあと十数秒で完全に崩れ去るだろう。
と、考える前に俺は走りだしていた。
「ひとまず、お前は一度頭冷やしやがれ!」
手加減はしたが、渾身の一撃が今度こそシェリーを完全に捉えた。
2,3度バウンドしてシェリーの体は地面へと転がった。
「お前、本当はとても優しい奴なんだな。復讐のためだけにきたのかと思って、木原の名前出したの意味なかったぜ」
「………それでも、私は……エリス……」
シェリーは涙を流しながら意識を失った。
もう心配はいらないが、一応手足を拘束してから愛穂先生に確保の連絡をした。
後は警備員に任せて、俺は地上を目指した。
シェリーは倒したけど、エリスは止まらないと分かっていたからだ。
さっきまでエリスはシェリーが遠隔操作していたけど、今は自動制御に変えている。
シェリー自身の魔力を経っても、しばらくは動き続けるはず。
まぁ、こういう時の為に当麻を先に行かせたから大丈夫だろうけどな。
予想通り、俺が地上へ出た時にはすでに全てが終わっていた。
エリスを構成していたパーツで出来た瓦礫の山。
これを見るだけで何が起きたのかは一目瞭然だ。
「あっちも、大丈夫そうだな」
上を見上げれば、工事途中の廃ビルの屋上でインデックスと氷華が抱きあっていた。
結局、風斬氷華と当麻とインデックスがどう知り合ったとか、そういう事情は分からないが、察しはつく。
色々あったけどなんだかんだで当麻が説得した……と言うか、今回ばかりはインデックスの方が活躍したみたいだな。
で、俺はある意味で魔術師相手にするよりも苦痛を感じる作業を始めた。
尼視への報告だ。アイツの事だから一部始終を見ていた可能性は大だけど、それでも連絡をしなければいけない。
「あーもしもし? オレオレ、シェリーはなるべく傷付けずに無力化して警備員に引き渡した。後はそっちでやってくれ、以上」
『ちょっと待ちなさい、待て、wait!』
「簡単に報告を済ませて帰って寝ようとしたけれど、そうはさせてくれないらしい。と言うか、なんだその三段活用。今回はどんなキャラ設定にしてるやら、歳考えろよ」
『モノローグのつもりだろうが、思いっきり口に出してるぞ、このクソガキ』
「あっ、聞こえてたか? うんうん、やっぱりオバサンにはその口調が似合ってるぞー」
電話口の向こうで何か歯軋りする音とメキメキって音が聞こえてくるが、気にしない。
アイツにそんな握力ないの知ってるし。
『……で、3度目の魔術師相手はどうだった?』
散々挑発したが、いつものように冷静で冷淡な声でそう聞かれた。
「意外だな。てっきり風斬氷華の事を聞いてくると思ったのに」
AIM拡散理樹場の集合体である風斬氷華を幻想支配で視たらどうなるか? が今回の仕事の目的だと思ったのに。
『あっちは知らんよ。興味もない。それよりもそろそろ魔術師相手にも視慣れてきたんじゃないか?』
「どうだろうな。確かにシェリーを視るのは簡単に出来たけど、コピーや能力停止は長時間出来なかったし」
流石に比較対象が聖人や錬金術を極めた魔術師じゃ厳しいか。
「ま、どっちにしろ。神裂火織クラスでなきゃ多分タイマンなら魔術師相手でもどうにかなりそうだ」
『ふむ、そうか。それを聞けただけで良しとするか』
と言って、尼視は電話を切ってしまった。
いつもの事なので特に気にもしない。
それからすぐにメールで今回の報酬について振り込み明細が届いた。
これもいつもの事、そう全てがいつもの事だった。
だが……今回の一件は少し違って見えた。
「科学と魔術、か」
深く考えた事はなかったし、考える必要もなかった。
でも、今回のような事件は今後増えると言う予想はインデックスの事件の時からしていた。
「……能力者相手でも魔術師相手でも俺のやる事は変わらないか。殺すか殺さないかの違いなんて、毎回あるし」
考えても無駄な事は考えない。
まずは昨日から働きづめの疲労を回復する事に専念しようと俺は家へと戻った。
それから数日後、またもや魔術の厄介事に当麻と俺が巻き込まれる事になるとは夢にも思わなかった。
続く
戦闘らしい戦闘はなしです。
昔、シェリーをヒロインに出来ないかな―と試行錯誤した結果の名残りが実はあったりします(爆)
次回は法の書事件になります。
こっちも結構オリジナル展開になる予定です。