幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました―!
地味に展開とかかえてまーっす


第97話 「一騎打ち」

「なんだよ、これ……」

 

当麻は困惑の表情を浮かべながら、頭部が半分砕けた風斬氷華へ右手を伸ばそうとした。

 

「ダメだ当麻! 触るな!」

「っ!?」

 

俺が叫ぶとハッと気付いた当麻が右手をひっこめた。

当麻の右手の幻想殺し。AIM拡散力場の集合体である風斬氷華に触れれば、恐らく彼女は消滅するだろう。

 

「おい、ユウキ。一体これはどういう……」

「説明してる余裕ねぇよ」

 

当麻達を背にシェリーと対峙する。

シェリーは特に追撃する事もなく、訝しげな表情で氷華を見ているだけだ。

まぁ、あんな構造してる人間見れば魔術師とか関係なくそうなるな。しかし、この状況はどうするか。

 

「あ、あれ? わた……し、メガネ……」

 

意識が戻った風斬氷華が自分の顔に手を当て……そのまま固まった。

 

「な、にこれ……えっ?」

 

彼女が横を向くと喫茶店のウィンドウに目を向けた。

土器が割れたのような顔、そこから見える不可思議な物体。

それが自分の姿だと気付くのにそう時間はかからなかった。

 

「いや……いやぁ~!!」

 

風斬氷華は叫び声をあげながら走りだした。

事もあろうか、シェリーとエリスという自分を狙う敵のいる方へと。

 

「ばっ、待て!」

 

俺が止めるよりも早く、シェリーは無言で手に持ったチョークを振った。

すると風斬氷華を薙ぎ払うようにエリスの剛腕が降られた。

 

「ちっ!」

 

咄嗟に風斬氷華を突き飛ばし、そのまま地面を転がる。

俺の頭上数センチの所をエリスの腕が通り抜けた。

風斬氷華にも怪我はないようだ。彼女はゆっくりと立ち上がりフラフラとまた駆け出して行った。

 

「ぁ……あ、あぁぁ~~!!」

「風斬!」

 

当麻が叫んでも彼女は止まらず、そのまま地下街の奥へと走り去ってしまった。

 

「行くぞ、エリス。無様で滑稽な狐を狩りだしましょう」

「待て!」

 

彼女を追いかけようとするシェリーとエリスを止めようとしたが、シェリーはこちらに見向きもしなかった。

代わりにエリスが支柱と天井を抉り、健在を陥没させ通路を塞いだ。

 

「くそっ!」

 

思わず地面を殴りつけたが、それで何も解決しないのは分かっていた。

それでもさっきからイライラが止まらない。

シェリーを逃がした事もだが、風斬氷華の事も俺はイライラしていた。

なぜかと言われても、イライラしたからとしか答えられない。

当麻はどうしているかと思い、ふり返ると誰かと電話で話しているようだった。

どうやら話している相手は小萌先生で、内容は風斬氷華についてだった。

どうして小萌先生がその事を知っているかは分からないけど、当麻に説明する手間は省けたな。

 

「大丈夫ですか、愛穂先生?」

 

とりあえず、警備員達がどれだけの損害か確認した。

それによってやれる事が変わってくるからだ。

 

「あぁ、私は大丈夫、他のみんなも」

 

辺りを見渡すと無傷の警備員は1人もいなかった。

みな頭や手に包帯を巻いて応急処置をしている。

 

「また借りを作ってしまったじゃん。それでこれからどうする?」

「決まってる。俺はアイツを追う。風斬氷華も放っておけないしな。絶対アイツもそう言うぜ」

「アイツ?」

 

怪訝な表情を浮かべ、俺が向いている先を見た愛穂先生の眼が僅かに見開いた。

そこには電話を終えて風斬氷華の事を小萌先生から聞いた当麻が、さっきまでの困惑しきった表情を一変させていた。

そして、愛穂先生や警備員達の視線が集中する中、静かに頭を下げてこう言い放った。

 

「俺の友達を、助けて下さい!」

 

それを拒否する者は1人としていなかった。

 

 

 

「覚悟はいいな、当麻?」

「あぁ、勿論だ」

 

当麻を2人、僅かな明かりが灯る地下街をかける。

風斬氷華の行き先は分からないが、シェリーとエリスが進んだ先は分かる。

なぜなら、遠くから物音が聞こえてくるからだ。

あんな巨大で、アスファルトや建材で構成された巨人が静かに動けるわけがない。

 

「見つけた!」

 

走る先では、十字路の真ん中にへたりこみ涙を浮かべる風斬氷華に向けて、シェリーがチョークを向けていた。

 

「泣くなよ、化け物」

 

シェリーが冷たく言葉が俺と当麻の心に火をつけた。

 

「アナタガナイテモキモチワルイダケナンダシ」

 

更に続けて言い放った言葉が、俺達の足に更に力をこめさせた。

 

「当麻!」

「おぉ!」

 

当麻が風斬氷華に振り下ろされたエリスの拳を右手で受け止め、俺がシェリーにそのまま走り抜け思いっきりぶん殴った。

同時にエリスの体がぼろぼろと崩れ落ち、ただのアスファルトの塊になった。

 

「ガフッ!? な、何……」

「ちっ、浅かったか」

 

殴った時の手ごたえがぬるかった。

恐らく、殴った瞬間後ろに飛んで衝撃を逃がしたんだろう。

コイツ、見た目よりも場数慣れしてる。

 

「エリス!」

 

すぐにシェリーはチョークを使い、空中に魔法陣のような図形を描いた。

するとエリスの体が再構成された。

やはりあのチョークで描くのが鍵って事か。

 

「ったくみっともねぇな。こんなつまんねぇ事でいちいち泣いてんじゃねぇよ」

「な、なんで来たんですか!? それもたった2人で!」

「いんや、2人じゃねぇよ」

 

急ぎシェリーの元から離れ、当麻と氷華を守るように立った。

と、同時にシェリーがいる通路とは別の三方向からライトがシェリーに向けて照らし出された。

すぐにシェリーはエリスの影へと隠れた。

 

「思ってたより展開がずっと速いな。流石警備員」

「これ以上生徒ばかりに危ない事させられないじゃん?」

 

愛穂先生が俺や当麻達を守るようにシールドを構えた。

 

「どうして、なんでわた……」

 

続けざまに言おうとした氷華の口に指をあてる。

 

―なんで私なんかの為に?

 

それ以上の言葉はいらない。

 

「別に特別な事じゃない。俺はただ頼んだだけだよ……俺の友達を助けて欲しい、ってな」

「俺はともかく、当麻にとってはこれがいつもの事だ。だから、どうしてって質問は無意味だぞ?」

 

氷華は目をぱちくりさせ、困惑しきっている。

きっと俺達が来るまでシェリーに色々言われたせいで、当麻の言葉に実感が湧かないのだろう。

 

「絶望するのは勝手だけど、ちょっとそれは早合点しすぎだぜ?」

「あぁ、今からお前に見せてやる。お前の住んでるこの世界には、まだまだ救いがあるって事を!」

 

氷華は俺や当麻だけではなく、愛穂先生や他の警備員達に目を向けた。

皆氷華を守ると言う意思が籠っている。

誰も化け物と言う目で氷華を見てはいなかった。

 

「そして、教えてやる! お前の居場所(げんそう)は、これくらいじゃ簡単に壊れはしないって事を!」

「ちぃ、なんだ? なんなんだよこの茶番はぁ……エリス! 1人残らずブチ殺せ!」

「させるか! 配置B! 民間人の保護を最優先!」

 

合図と共に警備員の銃器が一斉に火を吹いた。

狙うはエリスの下半身。

いかに魔術で生み出されようともあの重たい巨体では重心をさえる足を失えば自壊するのは、さっき俺が爆弾でやった事で明白だ。

シェリーも何か反撃しようと身構えているが、銃撃の厚さでエリスの影から出る事が出来ない。

当然、これは隠れているシェリーに何もさせない為の攻撃でもある。

愛穂先生が当麻と氷華を地面に伏せさせシールドを構え、迫るエリスの破片や跳弾から守っている。

俺も近くの警備員のシールドに隠させてもらっている。

銃撃音の中、愛穂先生が当麻に何か話しかけている。

恐らく、さっき話した作戦の確認だろう。

警備員の銃撃でエリスの動きを止め、一瞬の隙を作り当麻が幻想殺しでエリスを無力化させ、俺がシェリーをしとめる。

俺が無力化させる事に関しては、身体能力の高さをいやと言うほど知っているからか、渋々了承した。

しかし、当麻がエリスを無力化させる事には難色を示していた。

当麻の幻想殺しについては俺も説明したし、小萌先生からも聞かされているとはいえ、俺と違いただの一般生徒をあんな巨人に向かわせたくはないのだろう。

けど、自分達だけでアレを止められない事もさっきの戦闘で身にしみている。

いかに早く無力化させるかが肝心だと、俺と当麻で説得した。

その作戦が今第二段階に向かおうとしている。

愛穂先生が視線を俺に向けてきて、頷いて答えた。

 

「準備せよ(プリパレーション)! カウント3!」

 

それを合図に警備員の銃撃が更に激しさを増した。

 

「カウント1――0!」

 

0の合図と共に、銃撃が突然止まった。

それと同時に俺と当麻は一目散に駆け出した。

 

「エリィ~~ス!!」

 

シェリーの叫びと共に、エリスの腕が俺達に振り下ろされる。

 

「させるか!」

 

懐から小型の青い球体をいくつか取り出し、エリスに投げつけた。

球体の正体は、以前火織に使った瞬間接着爆弾。

しかも、更に改良を重ねた強化タイプだ。

球体から飛び出た液体は、エリスの上半身にこびり付き即座に固まった。

これで当麻への障害はなくなった。

 

「後は……っ!?」

 

当麻がエリスに触れそうになった瞬間。シェリーの口元が歪に歪んでいるのが見えた。

いつの間にかエリスの足元には魔法陣が描かれている。

 

「離れろ、当麻!」

 

考えるよりも先に全力で当麻を突き飛ばすと同時に、エリスと足元が同時に崩れた。

確か、ここの更に地下は地下鉄が通っていたな。

と思い返しながら、俺は更に暗い地下へと落ちて行った。

 

「間に合え!」

 

落下しながら懐から小型の銃を取り出し、天井に向けて撃った。

銃弾の代わりに小さいフックがついたワイヤーが飛び出て、天井に突き刺さった。

 

「ふぅ、セーフ」

 

咄嗟にワイヤーガンで宙釣りになったおかげで、地面に激突しないで済んだ。

 

「……油断、してたわけじゃないけどな」

 

シェリーの執念を甘く見ていた。

あの時、アイツはエリスの地面に魔法陣を描いていた。

しかも、それは俺達への攻撃のためではなく脱出のためだ。

恐らくあの魔法陣は地面を破壊する為の物。

あの場では下手に戦闘を続けるよりも、体勢を立て直すべきと判断し、逃走の準備をしていた。

更にエリスをわざと自壊させるというオマケつき。

危うく俺だけじゃなく当麻も穴に落ちる所だった。

 

「シェリーは……もう奥へ行ったか」

 

ワイヤーを伸ばし、地面に降りる。

思った通りそこは地下鉄の線路だった。

辺りに人の気配はない。

どうやらシェリーはもう行ってしまったようだ。

 

「あの場で逃走して次に狙うは……インデックス!」

 

氷華と当麻を仕留め損ねたシェリーが次に狙うターゲットは、禁書目録しかない。

ここから追いかけるよりも、地上に出た方が早い。

ワイヤーガンでさっきの場所に戻ろうとしたが、ここは二手に別れた方がいいと思った。

そこで携帯電話を取り出し、当麻を呼びだした。

俺は今地下深くにいるけどそこは学園都市製、すぐに当麻に繋がった。

 

「当麻、そっちは無事か!?」

『それはこっちのセリフだ! 大丈夫なのか、ユウキ?』

 

声を聞く限り元気そうだ。

 

「時間がない。シェリーが次に狙うのは地上にいるインデックスだ。俺はこのまま地下からシェリーを追うから、お前は先にインデックスの所に行け!」

『何だって!? あ、でも、まだ地下の封鎖が解かれないって』

「そこは大丈夫だ。俺の指示した場所から地上に出ろ。俺も後で追う!」

『わ、分かった!』

 

当麻に場所をメールで送り、すぐに線路を走った。

メールしたのは、俺が地下街に入る時に使った非常口。

あそこは封鎖対象外になっている特別通路だから通れるはずだ。

俺は俺で地下からシェリーを追えばいい。

 

「そう遠くへは行っていない……んっ!?」

 

突然嫌な予感がして、その場を後ずさった。

と、同時に支柱の1つが砕けて、降り注いできた。

さっきまでの戦闘でもろくなって崩れたのではない。

明らかに誰かが今崩したんだ。

 

「へぇ、うまく避けたじゃない」

 

そこへ線路の暗闇からうすら笑みを浮かべたシェリーが現れた。

エリスはいない、不味いな。どうやらエリスだけを先行させたようだ。

 

「……シェリー=クロロホルム」

「シェリー=クロムウェルだ! わざとらしく間違えるな!」

 

シェリーはさっきまでの笑みを消し、こちらを睨んできた。

とりあえず先制口撃は功を奏したようだ。

 

「で、あのお人形を1人で向かわせて、お前はここで追撃の足止めか?」

「ふ、うふふふ、そうよ。今頃標的の元へ着いているかしら。心配しなくても後でちゃんとぐちゃぐちゃの肉片を届けてあげるから」

 

お返しだろうか、下手な挑発をしてくるな。

 

「あーいやいや、そんな心配は全くしてない。なぜなら、アイツがもう向かってるからな」

「アイツ? 幻想殺しの事か!」

「そうそう。それに足止めと言ってるけどさ。本当は俺がお前を足止めする為に追いかけてた、って気付いてるか?」

「何っ?」

「お前の魔術の事はもう既に理解した。あの巨人は一体しか作れないって事もな」

 

幻想支配でシェリーの全てはまだ視れないが、それでもさっきの戦闘中アイツが使う魔術の事はうっすらと視えた。

恐らく、あと少しで完全に視えるようになる。

 

「お前は巨人の遠隔操作は出来ても遠隔生成は出来ない。だから術者であるお前がここにいる以上、今インデックスを追いかけてるエリスを潰せば、もう脅威はなくなる」

 

ここに降りた時から、足止めにトラップ程度はしかけてあるなとは思ったけど、シェリー自身が残っていたのは嬉しい誤算だ。

相性で考えれば、俺がシェリーと戦い、当麻がエリスと戦うのが一番理想的だ。

もっと正確に言えば俺が 【敵を倒し】 当麻がインデックスを 【助ける】 というのが理想的だし、正しい構図だよな。

最も、誰の邪魔も受けず、シェリーと1対1になりたいとは思ってたけどな。

 

「……お前は一体、何者だ?」

 

ここに来て初めてシェリーは俺を真っ正面から見据えてきた。

思えば、俺は当麻や氷華と違って、こいつからすれば警備員と同じくただの邪魔者にしか見えてなかった。

幻想支配の事を知らないのかどうかは、この際どうでもいい。

大事なのはここからだ。

 

「俺の名は……木原勇騎だ」

 

俺がそう名乗ると、シェリーの表情が強張りすぐに殺気に満ちた目になった。

 

「木原、だと? てめぇ、まさか……」

「なんで俺が20年前の事を、お前とエリスの事を知ってると思った? たかが学生にしか見えない俺が?」

 

木原と聞き、シェリーの脳裏に浮かんだのは20年前の実験の事だろう。

当然だ。あの実験での科学側の仕掛け人は、木原の人間だったのだから。

 

「てめぇは、あの木原の関係者か!」

「まぁな。だからどうしたって言われると、返答に困るが……とにかく、お前の事情はお見通しだ」

 

本当は木原と名乗る必要はない。

けれども、俺はどうしても1対1でコイツに名乗らなければと思った。

その理由はよく説明できない。

別に木原の業を背負うつもりも、肩代わりする気もない。

だけど、俺が木原の関係者と名乗る事で、コイツの復讐心が自分に向けられると思った。それだけだ。

そして、その試みは成功したようだ。

 

「そぉーかい、そーかい。わざわざ名乗ったってのはそーいうことかい。だったらお望み通り……テメェをグチャグチャのミンチにしてやんよぉ!」

「やれるものなら、やってみろ魔術師!」

 

魔術師との2度目の一騎打ちが始まる。

 

 

 

続く

 




風斬は原作と違って当麻より先に地上から追いかけてます。

次回でシェリー戦決着です。

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