第95話 「9月1日」
人生初の夏休みが終わった。
夏休みといっても、普段とやってる事は何一つ、なにひっとーーーつ、変わらなかった。
幻想御手や禁書目録に関わったのはまだいい。それから錬金術師やテレスの馬鹿を潰したり、レベル6実験を……当麻が止めるのを見ていた。
その数日後、原因不明の体調不良で2、3日寝込んで、その後アイテムや美琴達と協力してスタディだかなんだか馬鹿の集まりを潰したりもした。
これだけ言っても結構な密度だな、うん。
でも思えば、昨日31日が一番めちゃくちゃだったかもしれない。
桔梗に預けていた打ち止めが逃亡して捜索しようとしたら、外部からの侵入した魔術師を当麻と倒し、なぜか一方通行と共に打ち止めに撃ち込まれたウイルスを除去した。
まぁ、一方通行がその際脳にダメージを負ってしまったけど、打ち止めは助けられたからいいとしよう。
これで終わりかと思えば、なんでか知らないがまたまた外部から来た魔術師となぜか学園都市の外へ行ってしまった当麻を追いかけて連れ戻して朝が来た。
流石の俺でも疲労が半端ない。
で、ようやく終わり学校サボって寝ようかと思っていた所へまた別の仕事が入った。
何でも正式な手続きを経て外部から入ってきた人間が、こっそり能力者を拉致って外部へ出ようとしてるので止めろとの事。
内容がくだらないし、出る時のセキュリティーですぐに捕まるだろうし、尼視からの仕事だったのでキャンセルしようとして思い直した。
ちょうどいい、溜まったストレスを発散させよう。
と意気込んだのだが……
「何だよ、何なんだよ……てめぇら雑魚すぎるだろ」
拳銃を撃ってくるスーツ姿の雑魚Aの両腕を軽く切って、ナイフで刺そうとしてきた雑魚Bの腕をへし折りながら思わず叫んでしまった。
こいつら雑魚にも程がある。幻想支配を使わずとも楽にやれた。
「ぅっ……がぁぁあああ~~!」
「うるさい。野郎の叫び聞く趣味はねぇんだよ」
雑魚C、D、Eが拳銃を構えたので、雑魚Fの肩を外しながら三人の手を銃で撃ち抜く。
ついでに逃げようとしたGの脚を撃って転倒させ、脳天に一撃加えて意識を奪う。
こんな流れ作業を繰り返し、あっという間に雑魚達を倒した。
「さーって、掃除も済んだ。おい、大丈夫か?」
こいつらが乗ってきたライトバンの隠しドアを開け、つめこまれていた学生を見つけた。
さっきまでとは違い、殺意を消し笑顔で学生に手を伸ばす。
「あ、あぁ、ありがとうございま……「なんて言うと思ったか、裏切り者くん?」……えっ?」
俺が伸ばした手に握られている銃を見て何を言っているんだと言う顔をしているが、その表情には少しだけ、企みがバレて驚いている色が見えた。
「バレてないとでも思った? のびてるこいつらの手引きをしたのはお前だろ?」
「な、何を言っているんだ!?」
「ま、今回は俺が分かったわけじゃないけど、学園都市にはバレバレだったって事さ。お前が狂言誘拐で外の研究機関に映ろうとしていたって事がな」
地面に転がってる奴ら、外部組織は学園都市の能力者、コイツみたいな低レベルな学生にまずは接触した。
内部の学生が協力すれば、スパイを仕込むなり強行突破するよりは簡単だと考えたようだ。
そして、コイツは外部組織の誘いに乗り色々な手続きの助言などをした。
コイツは風紀委員の末端の1人であり、普通の学生よりもセキュリティに詳しかったのもターゲットに選ばれた一因だろう。
「大方、コイツらに学園都市よりももっと能力開発に特化した自分達の所でなら、お前の能力を有効活用出来るとか言われて、協力を誘われたんだろ? お前は幻想御手にも手を出そうとしてたみたいだしな」
「ぅ……ぐっ」
図星を付かれたコイツは俯いたまま……ん? 能力使おうとしてるか?
「おっと、そんな事はさせないぞ?」
「なっ!? の、能力が使えない? えっ、なんであんた眼が青いんだ?」
「色々説明するの面倒だから、最後に一言だけ言っておく。ようこそ 【こっち側】 へ♪」
――パンッ!
それだけ言って俺は引き金を引いた。
辺りを見渡し、全員気絶しているのを確認してから携帯を取り出し尼視に電話をした。
『おや、予想よりも早かったな』
「……はー、終わったぞ。ターゲットは眠らせたし、外部組織の雑魚は適当に転がってるから回収しろ」
『分かった。ん? 誰も殺してないのか?』
「別に殺せって命令受けてないし。殺した方がいいなら今からするけど?」
『くっくっくっ、いやいい。こっちで回収して後始末をしておこう。色々聞く事もあるしな。しかし、誰も殺していないとはね。やはりこの前の……』
尼視が何か言いそうだったのにで、電話を切った。
俺の仕事は終わりだし、すぐに下っ端共が来るだろう。
俺が麻酔弾で眠らせた学生は、取り調べというか尋問を受けてから暗部直行になる。
ま、自業自得だな。
「さーって、飯食って……帰って寝よう」
今日は学校休み決定だ。仕事をしたせいだからサボりじゃない。
学校とは正反対の場所にいるし、今から行っても下手すりゃ始業式も何もかも終わってる。
当麻が学校で記憶喪失をうまく誤魔化せるか心配と言えば心配だ。
まぁ、インデックスの一件の後、学校まで一緒に行き校内を案内して間取りや自分の座席、それにクラスメートや関係する教職員の顔と名前は教えてある。
夏休み中に何度か補習で行ってるし、今更俺がフォローする事もないだろう。
今日一日くらいゆっくり休みたい。
「けど、こう言う時に限って次の仕事が……やっぱりきた」
バイクの所まで戻ってる途中、携帯に仕事のメールが入った。
嫌な予感というのはすぐに的中しちゃうよな。
「えっと、侵入してきた魔術師を捕獲せよ。今回も今まで通り殺害は認めず、ってまたかよ!」
これで何度目だよ! ってかこの短期間で魔術師侵入させすぎだ!
火織やバーコードは一応取り決めがあったようだからいいけど、錬金術師やアステカの変装ストーカーに弦を使う変な奴。
科学に特化させすぎて魔術的な侵入者には無防備なのかここは!?
と、愚痴っても仕方ない。入った者は早急に確保しないとな。
メールには侵入した魔術師の画像も添付されていた。
推定年齢は20代後半、ゴスロリファッションに手入れをしていないボサボサライオンヘアーか、物凄く目立つな。
今までの魔術師は全部当麻かインデックス絡みだったから、今回もそれ関係か。
ひとまず、画像が取られた現場に向かおうとバイクを飛ばしていると、尼視から電話が入った。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません。100回死んでからおかけ直しください」
『……メールは見たな。それについて補足だ』
俺の軽口をスル―しようとしたみたいだけど、最初歯軋りがはっきりと聞こえてきたぞ?
「このゴスロリライオンがどうかしたか? あぁ、殺すなってのは理解してるぞ」
仮にも科学サイドの俺が魔術師を殺す事になれば、色々とトんでもない事になる。
ってのは錬金術師の時に説明は受けた。
ならば元春が適任じゃないかと言ったが、あいつはあいつで色々と問題があり簡単には動かせないらしい。
で、科学サイドで当麻やインデックスの事に詳しく、魔術を無効化出来る幻想支配を持つ俺が適任とも言われた。
ま、インデックスの時にこういう事になるんじゃないか、とは元春から警告受けてたからいいけどな。
『それは当たり前だが、今回は今までよりも事態が複雑だ。侵入してきた彼女はイギリス清教の手の者だ。今まで以上に丁重に扱ってくれよ?』
「……なるほど。そりゃ面倒だ」
今までの魔術師は外部組織の者ばかりだったが、今回は同盟を結んでいるイギリス清教の正規の魔術師だ。
最も、イギリス清教の意思ではなく、コイツの独断専行なのは既に向こうから伝えられている。
こっちに被害が出る前に速やかに拘束しなければならない。
「で、そいつの目的と居場所は?」
『目的は分からん。禁書目録の回収、幻想殺しの捕獲、色々理由は思い浮かぶがな。ともかく、ソイツは……あ、風紀委員にまで情報入ってるな』
「はぁ!? なんであっちにまで情報いってんだよ!? 除外するもんだろ、普通!?」
侵入者の情報で魔術師絡みの時は、風紀委員には情報がいかないようになっているはず。
程度にも寄るけど魔術師は黒子達には荷が重い相手の場合が多いし、俺や最低限当麻が相手をした方がいい。
『今回の侵入者、シェリー=クロムウェルは今までの奴ら違って、門から堂々と入ってきたらしいぞ。豪快にチャイムを鳴らしてな』
「……アホなのかそいつ」
学園都市と外部をつなぐ門を正面突破、それも力づくで来るなんて、アホとしか思えない。
けど、それで通ってしまったと言う事はそれなりの実力者と言う事。
現に警備員が数名重傷らしい。
この時点で、学園都市にはコードレッドが発令されて警備員も風紀委員も総動員された。
『と言うわけで、今回の一件を早めに処理する理由が増えたと言うわけだ』
「了解……通りであの雑魚共焦っていたわけか」
さっき潰した外部組織の雑魚共、俺が踏み言った時やけに焦った様子でどこかと連絡を取ろうとしていた。
コードレッドが発令されたせいで学園都市は外部との通行を全面的に禁止する。
だから脱出の準備を進めていたアイツらは、自分達の事がバレて封鎖されたと勘違いしたようだ。
どっちにしろバレバレなのは事実だけど。
コードレッド発令されたのは知ってたけど、それ当麻が絡んでいたからだと思ってたんだよな。
アレとは別件だったか。
「防犯カメラが写した現場は、近いな。ん? あの信号は……」
駅前近くまで来た時、空に信号弾が登ったのが見えた。
アレは付近で治安部隊による避難命令だ。
と言う事は、魔術師を見つけたのか!
魔術師を警備員や風紀委員の手に渡すわけにはいかない。
すぐに信号弾の登った現場に付いた。
そこにいたのは風紀委員で俺の知り合いで、さっき魔術師相手じゃ荷が重いかもしれないと思った相手。
白井黒子だった。
「動くなと申し上げております」
黒子はあっと言う間にゴスロリライオン、シェリーに詰め寄り、能力を使って地面に叩きつけ金属の杭で拘束した。
動作と言動に能力者としての自信と慢心が入り乱れているのは、あいつの長所でもあり短所でもあるな。
と、地面に磔にされたシェリーが不敵な笑みを浮かべているのに気づいた。
よく見るとシェリーの右手にはチョークが握られており、地面に何か描いている
マズい! 魔術を使う気だ!
「黒子、そこから離れろ!!」
「ユ、ユウキさん!? どうしてこんな所に!?」
魔術師相手には幻想支配がすぐには効かない。
魔術のコピーも能力停止にも時間がかかる。
インデックスの時はとっさに出来たけど、錬金術師やストーカー野郎にはすぐには出来なかった。
「遅いね」
「なっ……!?」
突然黒子の後ろの地面が爆発した。
黒子はテレポートをせず、すぐに後ろを振り向いた。
ここで振りむかずその場を離れていればよかったのだが、所詮は結果論だ。
「ん、です……!?」
爆発したアスファルトの地面や、周囲に合ったガードレール、自転車などが次々に宙に浮き、あっという間に巨大な腕になった。
腕はすぐに黒子を拘束した。いや、現れたのは腕だけはなかった。
まるで周囲にある物をなんでも吸収して作られた巨人のようなものが現れた。
「あっ、ぎっ……!」
「黒子!」
あんな状態じゃ演算に集中出来ず、黒子はテレポートで脱出できない。
まずは黒子を助ける為すぐに懐から銃を出し、巨人の腕を撃った。
1,2発では効果がないのは分かりきっていたので、全弾を一点に集中させて撃った。
だけどヒビ1つ入らない。演算銃器か爆弾でもなきゃ効果がない。
だったら!
「あぁ、ぐぐっ……」
「黒子、能力借りるぞ!」
幻想支配で黒子を視て能力をコピーし、まずは黒子の側までテレポートした。
そして、すぐに黒子に触れて一緒に離れた場所まで再度テレポート。
「大丈夫か、黒子」
「え、えぇ……大丈夫ですわ」
流石風紀委員のベテラン。未知の攻撃に少し動揺はしているが、混乱まではしていない。
「離れてろ。ここは俺が……」
「何の騒ぎか知らないけど。私の知り合いに手ぇ出してるんじゃないわよ!」
巨人を破壊しようと向き直った時、突然キンとコインを弾く音が聞こえ、直後にオレンジの光線が巨人を貫き、爆発した。
いや、あれは爆発したと言うよりも……
ともかく、その光線は何度も目にしていたし、俺自身も何度か使った事がある。
レベル5第3位、御坂美琴の代名詞、超電磁砲だ。
後ろを振り向くと、すぐ側に美琴が立っていた。
「美琴」
「お姉様!」
「もう大丈夫よ。あのでかい手は囮だったみたいだから」
美琴が言うようにあの腕の崩壊は囮だ。
崩壊した巨人が煙幕となったようでシェリーの姿がどこにもなかった。
「で、今の何だったの? あんたまで関わってるって事はヤバいって事?」
「まぁな。外部から強行突破してきたどっかの馬鹿がいるって事しか俺は聞かされていない」
「おねーさまー!」
せっかくシリアスに話してるのに、黒子が泣きながら美琴に飛び付いた。
よっぽど怖かったのだろう……と言う演技をしているはバレバレだ。
美琴も分かりきっているので、特に相手をせすぐに引きはがした。
「黒子、あの場合すぐに他の風紀委員に連絡するのが先だろ。いくら人通りが多かったからって、門を正面突破してくる危険人物に1人で挑むなよ」
「うぐっ、お、おっしゃるとおりですの」
「ユウキの言う通りよ。あんたは1人で何でも解決しようとしすぎ、少しは私とか周りを頼りなさいよね」
俺に注意され凹んでしまった黒子だったが、続けて美琴が慰めるように優しく頭を撫でると、一瞬で目付きが変わった。
「うっ、うふふっ。私を心配してくれるのですね、おねえさまぁ~!」
「「少しは自重しろ!」」
またもや美琴の胸に飛びこもうとした黒子の脳天に、俺と美琴のチョップがさく裂した。
それにしても、アイツの目的が分からない。
こっそり侵入するわけでもなく、堂々と力づくで入ってきて、尚且つ街中では堂々と目立つ格好で歩いていた。
お前の目的が何にせよ次は逃がさないぞ、シェリー=クロムウェル。
続く
自分で書いといてなんだけど、8月31日から一睡もしてないユウキは超多忙(笑)