幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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最後の花見回です


第94話 「花見Ⅳ」

幻想郷に鬼が戻ってきた翌日。

私達は今年最後の花見をしていた。

萃香はもう宴会をしない代わりに、今日最後の花見がしたいと言ったからだ。

まぁ私も花見は好きだし、宴会をしたがる萃香の気持ちは分からなくもなかったしな。

散りかけた桜は萃香が幻想郷中の花弁を集め、擬似的に満開にした。

今回は萃香が能力で集めたわけでもないのに、大勢集まった。

宴会なんて理由つけていつもやってるのに、物好きだよな私も含めて。

で、始まったわけだが、1人だけ納得がいかない顔をしているのがいる。

 

「なんか釈然としないわ」

「まだそんな事言ってるのかよ、霊夢。いい加減切り替えろよ」

 

霊夢は昨日からずっとこの調子だ。

ユウキの為に早く異変を解決しようと意気揚々と出かけたら、犯人の方からユウキに近付いてきた。

そして、霊夢が思っていたユウキの異常性を真っ向から言い放ったのに当の本人にはまるで応えず、逆に萃香の方が疲弊してしまった。

その後霊夢が萃香を退治して、異変は終わった。

それがどうにも納得出来ないのだろう。

私もなんかしっくり来ないぜ。

 

「あははは、そうそう細かい事気にしないで、ほら飲んで飲んで」

「原因の一端はあんたにあるんでしょうが!」

 

異変の犯人である萃香は、もうかなり出来あがっていて霊夢の隣で豪快に酒を飲んでいる。

で、萃香の隣で死んだ魚のような目をしている文とにとり、はたてはさっきから黙ったまんまだ。

 

「およ? そこの3人も全然飲んでないじゃーん。私が飲ませてあげようか?」

「「「いえいえ結構です! 自分で飲みますから!!」」」

「遠慮するなーせっかくの花見なんだぞー!」

 

昔、鬼は妖怪の山を仕切っていて、天狗や河童はその下に付いていたらしいけど、当時の力関係が良く分かるな。

ちなみに彼女達は最初から妖気の正体も、異変の犯人も萃香だと気付いてたそうだ。

それにしても、鬼がどうこうではなく酔っ払いって怖い。

 

「で、あんたはなんでそんなにスッキリとしてるのよ。ユウキさんの事はもういいの?」

「あんなにユウキに敵意むき出しだったのに、コロっと態度変わったもんな」

 

私がそう言うと、萃香はバツが悪い顔をして頬をかいた。

霊夢に退治された後、萃香とユウキはなぜか普通に会話をしていた。

というか、いつの間にか杯を交わし合う仲にまでなってるのには私も霊夢達もビックリした。

あんなに色々言われて敵意を向けてきた相手と普通に話すユウキもだけど、罵倒していた相手に笑顔を浮かべて会話出来る萃香も萃香だな。

 

「あーまぁね。ユウキが仲間や友達、家族から忘れられたのに何とも思ってないし、こっちで友達や自分を慕う者が大勢出来てもそれを喜んだりしてない。ってのは今も思ってるよ」

 

萃香が見つめる先には、大ちゃんとアリスに挟まれ咲夜や美鈴達を巻き込んでいつも通りの騒ぎをしているユウキの姿がある。

最近思ったけど、アリスもユウキに惚れてないか?

 

「でもさ、それは我慢しているわけでも自分に嘘をついてるわけでもなかった。ただ、壊れてるだけだったと気付いたのさ」

「それは……そうね」

 

そう言う萃香はどこか寂しそうな顔をして、霊夢や文も悲しそうな顔をした。

 

「それにしてもさ。鬼は嘘が嫌いだとしてもユウキをあそこまで嫌ってたのは、なんでだ?」

 

私は気になっている事を萃香に聞いてみた。

いくらなんでも昨日のアレは異常に見えたからだ。

 

「うーん、そうだね。なんでだろうね、私にもよくわからないや、あはは」

「あははって、昨日はユウキさんを殺しそうな程睨んでたじゃないですか」

 

文の言う通り、殺気はなかったけどそれでもユウキを殺しそうな勢いが昨日の萃香にはあった。

 

「だってさ、なんか腹立ったんだよ。私はずっと見てたけど、ここに来てから弱音も吐かないし悲しむそぶりも見せなかったんだよ。仲間に忘れられたってのにさ。それを気にしないって事は、逆に彼が誰も友達だと思ってなかったって事でしょ」

 

確かにそれはそうかもしれない。

例えば私が霊夢に忘れられて、悲しむ事も怒る事もなかったとしたら、私は霊夢を何とも思ってなかった事になる。

 

「でも、本当は違った。彼は 『友達も家族も元からいなかった』 って、淡々と言っていた。嘘とは違う、本当にそう思ってる。それを聞いてさ気付いたよ。彼は心のどこか大切な物が壊れちゃってるんだ」

「ユウキさんは大きな傷を負っていて、自分に嘘をついてるとも感じたわ」

「いずれ癒される傷だと思ってました。でも、傷とは少し違っていたんですね」

 

傷、ねぇ。今度は妹紅とルーミアに絡まれてるあいつを見たら、とてもそうは見えないんだけどな。

 

「ふーん、彼の事やっぱり良く見てるよね霊夢も文も、私はさっぱり気付かなかったよ。流石恋する乙女は違うよね」

「ち、ちがっ! 一緒に住んでるからいやでもそういうの目に止まるだけよ!」

「わ、私だって彼が幻想郷に来た時からの知り合いだから、気付いただけよ!」

 

はたてに言われ2人揃って誤魔化してるけど、ユウキの事が大好きなのはバレバレなんだよな。

私はユウキの事最初に見たときからどこか変わった奴とは思ってたけど、そこまで深くは考えなかった。

まぁ……他の事で深く考えて嫉妬心にかられた事はあったけど。

 

「ちょっと、それどういう事よ!」

 

突然、レミリアの声が辺りに響いた。

一瞬シンと静まりかえったが、すぐにまた皆飲み始めた。

 

「どうしたんだよ、いきなり大声だして。ユウキ、またお前何か言ったのか?」

 

レミリアがこんな顔をするのは大抵ユウキのせいなんだよな。面白いけど。

 

「そう言われてもな。幻想郷の鬼って初めて見たなって言っただけだぞ? 阿求の所で見せてもらった本に、鬼は昔はいたけど今はいなくなって書いてあったし」

「あー確かに昔はいたらしいからな。そう言えば私も鬼は初めて見たか」

 

昨日は色々と驚く事あったから忘れたぜ。

 

「魔理沙、あなたまでそんな事を鬼なら何度も見たでしょ!?」

 

あぁ、そういう事か。確かに吸血鬼も鬼か。

 

「鬼? レミリアとフランが?」

 

ユウキはまだ分かってないようだ。こういう所は鈍い。

 

「吸血【鬼】! これでどう!?」

「あー……そう言えばそうだな。レミリア、吸血鬼だったな」

「そこから!?」

 

ガーンという効果音が聞こえそうな程、レミリアはショックを受けていた。

ユウキ、わざと……じゃないな、天然すぎだぜ。

パチュリーやフランが大笑いしてるけど、それでいいのかフラン?

 

「ユウキ、いい機会だから私と勝負しなさい。吸血鬼の恐ろしさ思い知らせて……」

「お兄ちゃん、お姉様なんか放っておいて、一緒に飲もう?」

「フラン!?」

 

カリスマモードで勝負を仕掛けようとしたら、よりにもよって妹に邪魔されるとは哀れだぜ、レミリア。

 

「ユウキさんって弱い人には優しいけど、強い人には結構強気よね?」

「そうだね。そう言った所、私は気に入ってるよ」

「うーん、そうか?」

 

咲夜と萃香に言われユウキは少し考え込むように空を見上げた。

確かにユウキは大妖精やチルノやルーミア、梨奈達のように弱い妖精や人に優しい。

けど、あれでも大妖怪な文やレミリア、紫にまで結構ズバズバとした物言いしてる。

ああいう所も霊夢達が惚れこむ要因の1つかもな。

 

「そうだ。勝負と言えば、どうだいユウキ? 余興の1つとして私とやらないかい? 昨日はやりそびれたからさ」

「えっ? ちょっと、それは今私が……」

「いいぜ。お腹も結構膨れたし、食後の運動にはちょうどいいな」

「あれ? 私スル―!?」

 

というわけで、萃香がユウキと勝負をするという流れになった。

霊夢は止めるかと思ったけど、昨日よりは危険性ないからと言っていた。

 

「レミィ、今のあなたとってもおいしいわよ」

「それフォローのつもりかしら、パチェ?」

 

スル―されまくってたレミリアは地面にのの字を書いていじけていた。

 

 

 

昨日はなんだかんだとうやむやになった萃香と再戦(?)する事になった。

花見の余興と食後の運動を兼ねてにしては、鬼との弾幕ごっこは少々過激だったかな?

鬼と真っ向からぶつかってタダで済むわけない。

弾幕ごっこなら何とかなりそう。というか少し楽しみだったりする。

萃香を幻想支配で視て、妖力を得てもあの怪力にはあまり意味がない。

ここはやっぱり美鈴や文の力を使う方がいいな。

 

「じゃ、やろうか。ハンデって事で私は3枚しか使わないから、ユウキは何枚スペカ使ってもいいよー」

「そいつはどうもありがとさん」

 

3枚か、昨日霊夢とやった時と変わらないけど、同じスペカを使ってくるとは限らないよな。

 

「じゃ、行くぜ。【幻符・幻想支配モード美鈴】」

 

スペルカードを掲げ、美鈴を視ながら宣言する。

美鈴の気の力が俺に宿り、身体全体が強化された。

美鈴の力はどうやら使うだけで、身体能力が全て自動的に強化されるようだ。

気を練る事さらなる強化も出来るけど、それはまた別のスペカが必要だ。

 

「へぇ、そうなるのか」

「萃香は俺の幻想支配も知ってるんだろ? 驚く事か?」

「実際目の前でみるのとじゃまた違うもんだよ。それよりも、かかっておいでー」

 

酔っ払いの動きをしながらも手をクイクイっとさせ、萃香は俺を誘う。

なんか酔拳と相手しているみたいだ。やり合った事ないけど。

 

「お言葉に甘え、て!」

 

一瞬で萃香の元へと詰め寄り、上段からの回し蹴りと見せかけた下段蹴りを放つ。

 

「おおっ?」

 

萃香は少し驚いたようだけど、ジャンプで軽々とかわされた。

それは予測済みだったので、地面に手をつき上段への回し蹴りをうつ。

 

「おぉ~♪」

 

しかし、それもかわされた。鬼って力だけじゃないな。

すぐに起き上がり様に貫手をしたが、簡単に掴まれ投げ飛ばされた。

空中で体勢を立て直したのでダメージはない。

 

「今度はこっちから行くぞー 【萃符・戸隠山投げ】」

 

これは昨日霊夢にも使ったスペカだ。

萃香の両手に石や岩が集まり、少し大きな岩石となりそれを次々と投げてきた……って次々!?

 

「それそんなにたくさん投げるものだっけ!?」

「質より量の弾幕ごっこ~♪」

 

楽しそうだな、萃香。ってそれどころじゃない。

避けきれない程の大きさじゃないけど、数が多い。

最初はかわせたが、段々ときつくなってきた。

 

「しょうがない。【虹符・烈虹真拳】!」

 

両手で打撃の乱打を放ち、迫りくる岩石を次々と粉砕していく。

どっちのスペカの効力がもつか分からないけど、萃香の方が先に出した分こっちが有利だ。

 

「おりょ? じゃあ、量より質だ~♪」

「げっ!?」

 

効果がないと思った萃香は、次に今までとは段違いの超特大の岩石を作りだした。

これを凌ぎきれば、このスペカは終わりだ。

 

「いっけ~!」

「だったら 【熾撃・大鵬墜撃拳】!」

 

あっちは超特大でくるならこっちも超特大の一撃で迎え撃つ。

全ての気を右拳に集中させて、巨大岩石を打ち砕いた。

 

「うわっ、ユウキさん流石です!」

「お兄ちゃんすごーい!」

「ユウキ、がんばれー!」

 

美鈴やフラン、チルノ達が歓声をあげた。正直、自分でも驚いた。

これで美鈴の力は使いきったけど、それでもあの岩石をあそこまで粉砕出来るとは思わなかった。

やっぱり、幻想支配の効力が増しているのかな。

 

「いやぁ、あれほどまでに見事に砕くとはねぇ。やるじゃん」

「そっちこそ、昨日とは大違いの振る舞いだったな」

 

霊夢に放ったのはあれよりもう少し小さかった気がする。

 

「あれくらいならどうにか出来ると思ったんだよ。でも、これならどうかな? 【鬼神ミッシングパープルパワー】」

「それは昨日も……えっ?」

 

萃香の体が何倍にも大きくなった。

これは昨日も使ったスペカだ。でも霊夢の御札弾幕を吹き飛ばしたスペカだと思ったが、名前が微妙に違う。

しかも、昨日使ったのは一時的な巨大化だったけど、今回はずっと巨大化している。

 

「こういうスペカもあるんだよーそれそれっ♪」

「うおっ、揺れる揺れる」

 

巨大な身体が動く度に、大地が揺れて思うように動けない。

ここは地上戦よりも空中戦の方がいいな。

 

「だったら 【幻符・幻想支配モード文】!」

「おぉ、天狗の速さに目をつけたね。なかなかいいねぇ」

 

今度は文の力だ。

文の力は風を全身に纏い、飛行速度が大幅に上がる。

力には速さで勝負と思ったが、ただ勝負してもつまらないな。

ここは……良い事思いついた

 

「師匠、笑ってますね」

「あらあら、何だか悪い事思いついた笑みね」

 

悪い事とは失礼だな、幽々子。

でも間違ってはいない。

 

「それっ!」

 

まずは萃香の周りをグルグルと飛びまわる。

下手に弾幕うっても効果なさそうだし、力の消費が激しくなる。

それなら飛行に力を注いだ方がいい。

 

「うわっと、うお? おぉ~ってちょこちょこ何なんだよ~!」

「まるで蚊ね」

 

萃香は俺を捕まえようと手を伸ばすが、簡単に捕まる天狗の速さではない。

それより幽香、蚊とはなんだ蚊とは!

 

「だってぶんぶん飛び回ってるじゃない」

「文の力使ってるだけにってか?」

「魔理沙、座布団没収」

「霊夢!?」

 

スル―スル―。

 

「このぉ~いつまでもチョロチョロとぉ!」

 

俺を捕まえようと萃香は両手をあちこちに伸ばしてきて、段々とバランスが崩れてきてる。

 

「よしっ、ここだ!」

「えっ? わひゃっ!?」

 

突然萃香が奇声をあげ、身をよじった。

俺が何をしたかと言えば、隙をみて近くに落ちていた葉っぱ付きの木の枝で、萃香の膝の裏から太ももにかけて撫で上げただけだ。

 

「ひゃんっ!? ちょっ、それははんそ、ぷふっ、あははははっ……あっ」

 

妖怪だろうが鬼だろうが、ただでさえ酔っ払って千鳥足な上に、巨大化の上バランスを崩しかけた所に敏感な所を葉っぱで撫でられたらくすぐったくて仕方ない、はず。

と推測してたが、これが見事に大当り。

萃香はバランスを完全に崩し、後ろに大きく倒れてしまった。

その際、地震のような振動が博麗神社周辺を襲い、見物していた霊夢達までも転倒してしまったのは予想外だった。

 

「いたたっ、なんて非常識な戦いしてるのよ」

「ちょっとーワイン零れちゃったじゃない、咲夜!」

「はい、お嬢様。ぶどうジュースのおかわりです」

「うぉい!?」

「あ、あはは、まさかあの萃香さんをこんな方法で倒すなんて」

「思わず写真撮っちゃった。スクープにしていいわよね」

「ユウキはやっぱり面白いねぇ」

 

霊夢やレミリア達は文句をいい、文やはたて、にとりは茫然としていた。

まさか鬼をこんな事で転倒させる人間がいるとは思わなかったって顔だな。

 

「いっつつ……いやぁ、参った参った。まさかこんな方法で破ってくるなんてねぇ」

 

元の大きさに戻ったが、特にダメージはないようだ。

ただ倒れただけだから身体が頑丈な鬼には効果なかったか。

でも、精神的ダメージは結構あったようだ。

 

「でも、このままじゃ鬼としても私個人としても収まり効かないからねぇ。そっちがそんな手を使うなら、こっちはこんな手を使うよ!【酔夢・施餓鬼縛りの術】」

「やばっ!」

 

今までにない猛烈な嫌な予感がしてすぐに離れようとしたが、それより速く萃香が投げた鎖が俺を捉えた。

と、同時に体中から力抜けていき、幻想支配が解けてしまった。

 

「そーっれ、おまけ♪」

「えっ?」

 

そして、そのままポイっと軽く放り投げられた。

勢いはないけど、身体に力が入らなくて受け身も取れないまま俺はなぜか、アリスの方へと投げ飛ばされた。

 

ーボフッ、ムニュ

 

「キャッ!」

 

……柔らかい。

頭というか全身が柔らかいものに抱きとめられた。

 

「え、えっと、ユウキ? 大丈夫? ひゃん!」

 

アレ? 俺は萃香にアリスの方に放り投げられて、アリスはそのまま俺を受け止めた。

そして、顔と手に伝わる柔らかくて丸い感覚……あ、いい匂い。

 

「ユウキ、ちょっと、どけて、あんっ」

 

オレハイッタイアリスノドコヲモンデイルノデショウカ?

 

「……ごめん、俺今うごけない。どうにかして」

「そ、それならしょうがないわね。このままでも……あっ」

 

怒って俺を突き飛ばすなりすると思ったけど、アリスは戸惑いながらもなぜか俺を抱き締めようとして、手が止まった。

 

「へぇ、動けないんだ? なら、私が手を貸してあげるわ」

「私の風でどこまでーも遠くに運んであげますよ、ユウキさん♪」

「アリスも満更じゃなさそうだな、顔真っ赤だぜ?」

 

首が後ろに回らないが、間違いなく霊夢と文は怒ってるのが良く分かる。

あれ、冷や汗が止まらないぞ?

そして、魔理沙、余計な事を楽しそうに言うなよ!

 

「ふっ、ふふふっ……今は真昼間だけど全力全開が出せそうな気がするわ」

「奇遇だね、お姉様。私モ思ウ存分暴レソウナ気ガスルワ♪」

「……お手伝いしますわ、お嬢様」

 

レミリア、多分今眼が真っ赤だろうなー。

フラン、狂気に落ちたような声色だけど、そんな事ないよな?

咲夜、手伝わなくていいから2人の主を止めてくれ!

アレ? 何このデジャブ。

 

「ユウキ、ちょっと燃やしていいか?」

「大丈夫だよ。あたいがすぐに凍らせるから」

「ユウキさん……覚悟してくださいね?」

「………」

 

妹紅、両手というか全身真っ赤に燃やしてない?

チルノ、俺じゃなくて皆を凍らせて止めてほしいな。

大ちゃん、眼からハイライト消えてる気がするのは気のせいだよな?

で、ルーミアは無言で口を開けてる気がする。

 

「師匠……流石です」

「ユウキ君ってすごいわねぇ、色々な意味で」

「ホント、こんな大勢の前で大胆ね、ふふっ」

「あんなに怒った妹紅は久々だな。ユウキ君、事故とは言え諦めてくれ」

「ユウキさん、がんばってください」

 

どうにか首を動かした先には、尊敬の眼差しで俺を視る妖夢と、楽しそうに笑う幽々子と幽香。

それに苦笑いを浮かべる慧音と、唯一俺を案じてる美鈴。

案じるくらいなら助けてほしい。

にとりやはたて、リグルやミスティア達は離れた場所に避難していた。

 

「ユウキ君」

「あ、ルナサ。頼む、何とかしてくれ」

 

いたのかルナサ。あ、リリカとメルランも避難してる。

 

「これで、あなたも私と一緒になれるね」

「一緒にって、なんだ!?」

 

同じ亡霊になれるのか? いや、そもそもお前ら騒霊だろ!

というかアリスはいい加減俺を離して逃げればいいと思うんだけど?

 

「ふっ……この子達が逃がしてくれないみたいよ?」

 

あ、上海と蓬莱に剣付きつけられてる。

お前ら、完全にアリスのコントロールから離れてないか?

 

「もう覚悟を決めましょう? 最後があなたと一緒なら悪くないわ」

「アリス、お前そんなキャラだっけ!?」

 

何諦めきった顔してるんだ!?

 

「「「「さぁ、覚悟はいいかしら?」」」」

「ぎゃーーー!? ふこうだーー!?」

 

 

 

「あっはっはっはっ、モテモテだねぇ彼は」

 

神社の屋根からユウキの女難を肴に酒を飲む。

まぁ、その女難の原因作ったのは私だけどね。

 

「そう思わないかい、紫?」

 

そう呟くと、背後にスキマが現れ、中から紫と藍、橙が出てきた。

 

「確かにそうだけど、あなたもしばらく会わない間に変わったわね。霊夢達をわざと炊き付けるなんて」

 

紫とこうして話すのは何百年ぶりになるかな。

 

「人聞きの悪い事言うねぇ。鬼の私にあんな辱めを与えた彼に、ちょっとご褒美あげただけだよ」

 

機転を利かせたとはいえ、鬼の私を転ばせるだけじゃなくあんな声出させるなんて、うぅ~やっぱり恥ずかしかったなぁ。

 

「外の世界の人間の一部にはご褒美でも、彼にとっては御褒美じゃなさそうだけどね」

「ふふっ、お久しぶりです、萃香様。こちらは橙、私の式です」

「初めまして、萃香様。橙といいます」

 

藍も立派になって、今じゃ式をもつまでになったか。

橙もいい子そうで結構優秀な素質持ってるね。

 

「うん、久しぶり藍。橙も初めまして。藍、あそこに混じりたがってる顔してないかい?」

「っ!? ご、御冗談を萃香様」

 

ありゃ、カマかけたつもりはなかったんだけど、藍は少し動揺してるね。

これには紫と橙もびっくりしてる。

 

「藍、あなた……」

「藍様?」

「ゆ、紫様、橙、違いますからね!? もう、からかわないで下さい萃香様!」

「あはははっ、ごめんごめん」

 

これは思わぬところで思わぬものを見れたかな。

それにしても意外だね、あの藍が外来人を気にするなんて。

そう言えばユウキとは人里で結構会って話をする仲だったっけ。

 

「でも、紫が彼を気に留め、警戒するのも分かるよ」

「……そう?」

 

幻想郷の人間や妖怪たちがユウキを認めて、慕いつつある中、紫はずっとユウキを警戒している

いや、あの閻魔様も彼を警戒してたっけ。

 

「紫がどんな所まで警戒してるかは分からないけど、あまりこそこそとしない方がいいよ。彼、気付いてるみたいだから」

 

昨日も私との話を盗み聞きしてたの知ってたみたいだったしね。

 

「そうね。彼、そういう気配には敏感ですから。本当に彼って敏感なのか鈍感なのか分からないわね」

「それは言えてる」

 

アリスをお姫様だっこして、霊夢達から逃げ回るユウキを見下ろす。

彼が本当に嘘つきだった方がどれだけマシだったのかな。

 

 

 

続く

 




これにて萃夢想編終了!
次回からは過去編、シェリー襲撃&法の書事件になります。
これからは過去編ダイジェストとまではいかないですが、結構展開が早くなるかも?

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