幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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文&咲夜のお話~


第91話 「悪寒」

「うーん、やっぱり、おかしい」

 

2回目の花見の記事を書いてる途中、私は妙な寒気に襲われた。

 

「んん? どしたの文? 顔色悪いよ?」

 

同じく新聞を書いていたはたてが神妙な顔をしてくる。

 

「はたて、昨日の花見何か妙な胸騒ぎしなかった?」

「あんたも感じたんだ。ものすごーく嫌な感じだったわ。変な妖気も感じたし」

「最初はあれだけ人妖が集まっていれば、と思ってたけど、今考えるとあそこにいた誰の妖気でもなかったわ」

 

一度目の花見の時も妙な感じしたけど、昨日はそれが更に増した感じがする。

それもこう、触れたくない部分に触れてくる嫌な感じ。

 

「そう言えば気付いてた? にとり、割と早めに帰ってたよ」

「えっ? そうなの!? 気付かなかった」

 

言われてみれば、早飲み大会の時はいたのにそれからしばらくして見かけなかった気がする。

にとりに限らずここの連中は宴会の途中で帰るなんて、よほどの事がないとありえない。

嫌な予感、的中しないと良いけれど。

 

「よしっ、ちょっと行ってくるわ」

「行くって、にとりの所? あ、言わなくてもいいわ、彼のところもでしょ?」

「……どうして分かったのよ」

「あんたの顔見ればすぐに分かるわよ。ユウキ君によろしくねー、ついでに霊夢にも」

 

そんなに私分かりやすい顔してたのかしら。

はたてが言うように、私はにとりの住処と博麗神社に行くつもりなのは間違いないか。

でも、なんか納得いかない。

 

 

そうして、私はにとりの家へとやってきた。

ここに来ると油臭くて、変な音が外まで響いてくるのは相変わらずね。

今回は何を作ってるのかしら?

 

「にとり~? 入るわよ~?」

「あー今ちょっと立てこんでるけどどうぞー」

 

家に入ると、変な機械に囲まれたにとりが何かを作っている最中だった。

 

「やぁ、文。今日は一体どしたの? カメラの調子でも悪くなった?」

「そんなわけないでしょ。ちょっと昨日の事で聞きたい事があったのよ。なんで宴会の途中でいなくなったの?」

 

私がそう聞くとにとりはバツが悪い顔をした。

これはやっぱり、何かあるわね。

 

「一応気付かれないように、こっそりといなくなったつもりだったんだけどなぁ」

「はたてが思いっきり気付いてたわよ。でも一体どうしたのよ。具合が悪くなったわけでもなさそうだし」

「うーん、うまく説明出来ないんだけど、あの場にいるのがちょっと、怖くなった?」

 

いや、聞いてるの私なのに、頭に?マークを浮かべられてもね。

 

「とにかく、なんとなーく嫌な予感したから早めに戻って来たんだよ。ちょっと制作意欲が湧いたのもあるけど」

「嫌な予感、ね。そんな博麗の巫女じゃあるまいし。で、制作意欲が湧いたって言うのが今作ってる奴なの?」

 

にとりがさっきまで弄っていた物を見てみる。

見た感じ作り始めたばかりで、何が出来るのかさっぱり分からない。

 

「ユウキ君に元いた世界の機械の事色々聞いた時に、ちょっと閃いたものなんだよ」

 

そう言えば、にとりは熱心にユウキさんに元いた場所の話聞いてたわね。

 

「でもユウキさんの元いた学園都市って、幻想郷の外の世界よりもものすごく発展した場所なんでしょ。いくらにとりでも作れるの?」

「ちっちっちっ、この私を舐めてもらっちゃー困るよ。河童の頭脳は幻想郷一!」

 

にとりは河童たちの中でも頭はいいわね。

成功より失敗の方が多いけど。

 

「で、その幻想郷一の頭脳をもってして、作ってみたのがあのガラクタ達?」

 

私が指さしたのは、部屋の隅に置かれている作りは新しいけど明らかに失敗作と思わしきガラクタの山。

 

「あ、あれはガラクタじゃないよ。ちゃんと使い道があるから失敗作じゃないよ!」

「使い道って例えばどんな?」

「……一部資源の再利用? ほら、文も聞いた事あるでしょ、外の世界風に言ってリサイクルでエコなの!」

「はぁ、ユウキさんがそれ聞いたらなんて言うかしら」

 

ここがゴミ屋敷になる前に、彼にリサイクルとエコについてにとりにしっかり説明して貰った方がいいかも。

 

「話を戻すけど、昨日とこの前の花見で感じた変な妖気、あれに覚えある?」

「覚えがない……と言えばウソになるんだろうけど、あんまり思い出したくないなぁ」

 

にとりが唸るのも無理はない。

私だって心当たりがないわけじゃない。

でも、認めたくないのよねー

 

「そう。それだけ聞ければ十分よ。あとは霊夢に忠告すればいいんだし」

「おりょ。珍しいね。文が霊夢に忠告だなんて」

「……私とにとりの予感が正しかったら、結構面倒な事になるかもしれないでしょ」

「それは、言えてる」

 

出来れば正しくない事を祈ってるけどね。

 

 

 

妖怪の山を後にして、博麗神社へとやってきた。

途中、人形遣いのアリスが神社から飛んでいくのが見えた。

彼女も今回の事で、色々動いているのかもしれない。

そして、神社に降り立った時、私は珍しい光景を目にした。

 

「あれ? なんであなたが境内の掃除してるんですか?」

 

いつもなら誰もいないか、霊夢かユウキさんがいる境内に紅魔館のメイド長がいた。

それも箒を手に持って掃除をしていた。

 

「あら、アリスが来たと思ったら次はあなたなの。今日は客が多いわね。霊夢に用事? それともユウキさん?」

「強いて言えば霊夢さんですね。ユウキさんにも会いに来ましたけど。お二人とも中ですか?」

 

そう聞くとメイド長は呆れたように溜息をついた。

 

「あれ? どうしたんですか?」

「……2人共、昨日の花見で飲み過ぎたみたいで、二日酔いで寝込んでるわよ」

 

――ズコッ

 

思わずずっこけてしまった。

確かに昨日は早飲み大会で思いっきり飲みまくっていたけれど、でも二日酔いって……

 

「こけてるけど、原因の一端はあなたにあるのよ。早飲み大会に半強制的に参加させたから」

「あ、あははは……」

 

メイド長に睨まれ、思わず視線をそらす。

魔理沙が主導で開いた早飲み大会。2人を強引に誘ったのは確かに私だったわね。

 

「霊夢もユウキさんも一応人間なのだから、あなた達妖怪と同じ酒の量の飲めるわけないでしょ」

 

魔理沙はどうやら人外認定のようで。

それにしても、一応ってつけるのね。

人間離れはしてる2人だけど、一応人間だものね。

 

「それで、あなたがここで掃除してるのとどういう関係が?」

 

もうおおよそ分かりきった事だけど、聞いてみる。

 

「最初は、宴会で感じた妖気の事で話を聞きにきたのよ。でも、2人共ヒドイ顔で寝込んでたから、仕方なく看病してるのよ」

 

あ、やっぱり。

 

「……本当に仕方なくですか?」

「訂正するわ。進んで看病したのよ。彼は断っていたけれど、ほっとけるわけないでしょ? 霊夢はついでよ」

「そ、そこまではっきり言いますか」

 

うわぁ、藪蛇だったなぁ。

こうもユウキさんの看病したいからここにいると言いきっちゃうとは、しかも霊夢はついでとまで言っちゃった。

 

「それで、あなたは一体何の用で来たの? ただ遊びにきた風には見えなかったけど? 用件は私が窺いますわ」

「いえいえ、大事な用件ですから直接ユウキさんに言いに行きますよ。掃除の邪魔はしませんから、どうぞごゆっくり~」

 

彼の元へ行こうとした瞬間、私は鳥居の下にいた。

どうやらメイド長が時間を止めて、私をここへ移動したようね。

 

「そうね、掃除の途中だったわ。じゃあ、遠慮なく続けさせてもらうわね」

「あはは~あなたは掃除、私は用事を済ませるだけですよ?」

「えぇ、済ませちゃいましょうか」

 

言うが早いか、メイド長は懐からナイフを、私は葉団扇を取り出した。

ユウキさんとやって以来、久々の弾幕ごっこ。

とっとと勝ってユウキさんの所に行きますか。

 

 

 

 

「はい、私の勝ち。あなたは用件を話してとっとと帰る事ね」

 

今日3人目の来訪者の文を弾幕ごっこで返り討ちにした。

1人目の来訪者魔理沙は事情を話すとお大事にと伝言を残して去って行って、2人目のアリスは魔理沙から話を聞いてただ様子を見に来ただけのに、このブン屋はしつこいわね。

 

「うぅ~……これは予想外の展開です」

「大体、用件があるのは霊夢の方と自分で言ってたでしょうに」

 

文の事だから、寝込みを襲うか寝顔を写真に収める気だったわね。

……いっそ撮らせて後でもらう手もあったわね。

 

「分かりましたよ。今日は引きさがります」

「あら、意外といさぎよいのね。いつもこうだといいのだけどね」

 

文は未練がましくユウキさんが寝ている方へ目を向けていたけど、気持ちを切り替えて私に向き直った。

それはさっきまでのおちゃらけた雰囲気ではなかった。

 

「では霊夢さんに伝言を、昨日とその前の宴会で感じた妖気。私やにとりの勘が正しければ、非常に厄介な事になるかもしれないので、早めに対処を。と伝えてください」

 

不吉な事を言った文の目は真剣だった。

 

「厄介な事って、西行妖みたいな危ない奴が異変を起こそうとでも?」

「あーいえ、語弊がありました。厄介なのは厄介ですけど、そう深刻な厄介さではないですね。どちらかと言えば私達側で厄介ですけど」

「? どういう事よ?」

「つまりですね。あの妖気は恐らく異変の前触れだと思います。もしくはもう始まっている異変かと」

 

文がこうまで言うのだから、やはり私やお嬢様達が感じたのは異変だったのね。

 

「そう。とりあえず異変だって事は霊夢に言っておくわ。気付いているのかもしれないけれどね。でも、あなたがわざわざ忠告に来るなんて珍しいわね」

 

異変となれば格好のネタになるのに。

まぁ、この前のように幻想郷滅亡の危機レベルの異変となれば話は別でしょうけど。

文の話しぶりからして、そこまでの事ではなさそうね。

だからこそ、最低限の忠告だけしにきたのかもしれない。

 

「……あのスキマのせいで、前回の時は私何も出来ませんでしたからね。だから今回はせめて最低限はしようかと」

「解決の糸口までは教えないのね?」

「糸口はあるようでないですよ。それにこの忠告だって、私のただの勘ですから。本当は異変でもなんでもないかもしれませんし」

 

そう言うけれど、多分これは異変。

レミリアお嬢様やパチュリー様も感じたのだもの。

でも、西行妖の時見たく、危険な感じがしないのは確かね。

 

「では、私はこれで、お大事にと伝えてくださいね。あ、ユウキさんだけでもいいですよ?」

「はいはい。ちゃんと霊夢にも伝えておくわ」

 

こうして、文は帰って行った。

文が来た理由は忠告以外にもあるのは分かっている。

霊夢に暗に発破をかけにきたのね。

前回の時見たく、もたもたして取り返しのつかない事になる前に、ユウキさんに危害が及ぶ前にどうにかしろ、と。

それについては私も同意見。

だからこそ真っ先にここにきたのだし。

最も、まさか二日酔いの世話をする事になるとは思わなったわ。

 

「さてと、そろそろ食事の用意をしましょうか。2人共まだ寝込んでいるでしょうけれど」

 

私は2人の様子を見る為に、神社へと戻って行った。

 

しかし、まさか危惧した翌日にユウキさんが異変の元凶と戦う事になるとは思ってもみなかったわ。

 

 

続く

 




今回も主人公出番なし!(笑)
次回かその次辺りで復活します。

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