今回はパチュリー視点で主人公少しお休み。
2回目の花見翌日。
「ようこそ、アリス、魔理沙」
「こんにちは、パチュリー」
「お邪魔するぜ、パチュリー」
私の図書館にアリスと魔理沙がやってきた。
呼んだのは私だけどね。
「わざわざここまでごめんなさいね。ちょっと外で話すのは危ない気がしたのよ」
「おいおい。用件を言わずに招待したかと思えば、随分物騒な物言いだな」
魔理沙が茶化すように言ったけど、私の顔つきを見て表情を改めた。
「あなたが呼んだのは、花見で感じた妖気の事ね?」
「なんだ。誰もかれも気にしてなさそうだったから、あれを感じたのは私だけかと思ったぜ」
アリスは最初からずっと真剣な表情をしている。
どうやら2人共、私と同じものを感じていたみたいね。
4日前と昨日の花見、その時に感じた妖気。
人妖入り乱れての宴会なら妖気を感じるのは当たり前。
でも、あの時に感じたのは明らかに異質な物だった。
それが気になった私は、独自に調査する為にアリスと魔理沙を呼んだ。
「普通なら私も気に留めなかったかもね。でも魔理沙、あれに気付いていたの私だけじゃなかったわよ? レミィも美鈴も妹様ですら気付いていたみたいだし」
「えっ? そうなのか!?」
恐らくは、文や慧音辺りは確実ね。後、西行寺幽々子も気付いているはず。
「気付いているのと実際に動くのは別よ。ま、うちは咲夜が動いているけど」
「そう言えばいなかったわね。ここまで案内してくれたのは美鈴だったわ」
「レミィと美鈴は静観、まぁ咲夜が動くからって2人は動かないみたいだけど。妹様は気付いていてもよくわかってなさそうだったし」
何も分からないまま、下手に動いて事態が悪化するよりはその方がいいわ。
「で、博麗神社の方はどうだったのかしら? 霊夢とユウキはもう動いてる?」
魔理沙は博麗神社で2人の様子を見てから来てもらっている。
実のところ一番の気がかりはそれだったりする。
「あの2人は……二日酔いでダウンしてたぜ」
――ズルッ
思わず私とアリスは椅子から落ちかけた。
「な、何よそれ。何やってるのよあの2人は……」
「そう言えば、昨日2人共珍しく飲み過ぎてダウンしてたのもね。あれほどのお酒を大量に飲めばそりゃあ二日酔いにもなるか。でもそっちの方がいいかもね」
「そうね。霊夢まで倒れてるのはちょっとあれだけど」
アリスは苦笑いを浮かべ、私もそれに同意した。
これでユウキは少なくとも今日一日は安静にしているはず。
「私が行った時には咲夜が世話してたから大丈夫だろ」
「……なるほど」
調査よりも看病優先させたわけね、咲夜。
となると、今日は咲夜もダメね。
「そう言えば魔理沙。あなたもユウキや霊夢と一緒にしこたま飲んだはずだけど、どうしてケロっとしてるのかしら?」
アリスが疑問に思うのも最もね。
昨日の早飲み大会で出たお酒、私もアリスもあの後飲んだけどとても強いお酒だった。
なのに魔理沙は平然と5本飲み干していた。
まぁ、河童や美鈴の方が飲むの早かったけれどね。
「魔法でも使ったのかしら? お酒が強くなる魔法なんて初耳だけど」
そもそもそんな魔法、ばかばかしくて作ろうとも思わない。
アリスも同じようで首を振っている。
「ん? いやぁ~……実は新しい魔法薬を試してたくてさ」
「「魔法薬?」」
魔法薬と聞いて私もアリスも首を傾げた。
「この前みたいな事はならないように、私自身でちゃんと実験したんだ。お酒に強くなる魔法薬だぜ」
「……呆れた。そんなしょうもない研究してたなんて」
全く、アリスが呆れるのも無理はないわね。
この前の妖怪や妖精に効く酒とか、魔理沙っておかしなものばかり作るわね。
「そ、それより話を本題に戻そうぜ!」
話を逸らすのが下手だけど、確かに本題からそれすぎたししょうがないわね。
各々あの妖気についての心当たり、もしくは宴会での違和感について話をする事、それが今日の本題。
「はぁ、なら私が気付いた事を話すわね。初めての花見の時のお酒、最初に違和感があったのはあれね」
やっぱりアリスも気になったのはそこね。
「えっ? 何かおかしなことあったか? 別にいつも通りお酒がたくさんでて皆で飲んだだけだろ?」
魔理沙は気付いていないようだけど、問題はそこじゃないのよ。
「宴会でお酒が出るのは当たり前。でも、みんながみんな自前のお酒を持ってきた。変だと思わない? 少なくとも私は変だと思ったわ。あなた達はどう思ったのかを知りたかったのも理由の1つ」
幻想郷で比較的日が浅い私達よりも、魔理沙やアリスの方が詳しい。
だから私が違和感に思っても、ここでは当たり前のことがあるかもしれない。
「でも、アリスがそう感じたのなら、当たりって事ね」
「あなたに言ってない事あったけれど、私だって幻想郷はそう長くはないわよ? 少なくとも、魔理沙の方が長いわね」
「えっ? そうなの?」
これには驚いたわ。流石にアリスはここの生まれじゃないとは思っていた。
でも、霊夢や魔理沙達にも馴染んでたし、昔からの知り合いのように接していたからてっきり長いもののばかり思っていた。
「あーアリスは魔界出身だからな、私や霊夢はその頃からの付き合いだぜ」
「魔界とは、そりゃまたとんでもない所出身ね」
私も行った事はないし、興味もない場所だけどね。
「わ、私の事はどうでもいいでしょ! ともかく、そう言うわけだから幻想郷の昔馴染みって括りには私を入れない方がいいわよ」
これはちょっと予想外だったかしら。
魔法使いであるアリスは見た目以上に、結構長い間ここにいると思ってたのに。
「じゃあ……あまりアテにならないかもしれないけど、魔理沙。あんたはどうなの? これまでの宴会とこの前の花見で違和感とかはなかった?」
「あ、あまりアテにならないってのはあんまりじゃないか?」
本命アリスで、保険的な意味で魔理沙を呼んだのよね。
それを察したのか、アリスがくすくす笑っている。
「まぁいいか。確かにお酒の件か。大抵霊夢や他のみんなが酒を用意するけど、確かに自前のお酒を用意してくるなんて事はなかったな。幽香に酒を作る趣味があったなんて知らなかったぜ」
私達が起こした異変の宴会の時も、紅魔館にあったお酒を用意した。
けれども、花見の時にはわざわざ咲夜や美鈴が趣味で作ったお酒を持っていった。
別にレミィが言い出したわけでもないし、誰かに言われたわけでもない。
そして、もしも、もしも私がお酒を作る趣味があれば、持っていったかもしれないわね。
「じゃあ、酒以外で私が気になった事を言うわね。昨日の宴会ではっきり気付いたんだけど、みんなのテンションがおかしかったわ」
「テンションが? どういう事?」
「久々の宴会でみんな陽気に盛り上がってたけど、それだけじゃないのか?」
「違うわね。あの天狗もだけど、数人なんだか様子がおかしかったのがいたわ」
昨日、私は花見を楽しみつつ、他の皆の様子を窺っていた。
そうすると酒の進み方に反して、皆のテンションが上がり過ぎている事に気付いた。
「あの早飲み大会だって、花見が始まってまだ間もない頃に行ったでしょ。それにうちのこぁや美鈴、あの時までお酒あまり飲んでなかったのよ?」
「それなのに異様にテンション高かったわけか。でも、それいつもの事じゃないのか?」
「そう言われれば返す言葉もないわね。こぁは特にユウキが絡むとそうなるけど、昨日は絡んでなかったしね」
絡む前に早飲み大会で早々にダウンしてしまったのだけど。
「うーん、どうもイマイチ確信に欠けるな。確かに妖気は気になるけど、ちょっとおおげさな気もするぜ」
「何言ってるのよ。普通ならアンタか霊夢が動きそうなモノでしょ」
アリスの言葉に耳がピクっとなった気がした。
「異変、そう呼ぶにはまだ弱いとは私もレミィも咲夜も思ってるわ。でもだからって静観はしないわ」
誰かが明確に動いた異変ならともかく、今回のはちょっと気味が悪い。
手遅れになる前に早急に動く。
「わ、私だって今日辺り動こうとしたんだぜ!」
「どうだか。パチュリーもはっきりと言った方が早いんじゃない?」
「あら、何の事かしら?」
しらばっくれてみるけど、アリスにはもうとっくにお見通しよね。
と言うより、咲夜が動いている以上、バレバレなのは分かってたし。
「最低限ただの異変かどうか確かめて、あわよくば咲夜に解決させよう。そうすれば、ユウキが無茶してしまう事はない……でしょ?」
やっぱり、バレバレね。
「なーんだ。惚れた男の為に要らぬ苦労を背負うとしてるってわけか、紅魔館も相変わらずユウキには甘いぜ」
くっくっくっと笑う魔理沙の頭に魔導書をぶちかましたくなったけど、ムキになっても仕方ない。
「そうよ、悪い? 私もレミィも咲夜も妹様も美鈴も、ここにいる皆もうあんな思いはしたくないのよ」
次にユウキが無茶をすれば、今度こそ死んでしまう。
現にこの前の異変だって、妹紅が持ってきてくれた薬が無ければ死んでいた。
私もアリスも彼に何も出来ずにいた、あの無力感。
あれだけは二度と味わいたくない。
アリスもあの時の事を思い出したようで、暗く沈んでしまった。
何となくわかってたけど、この子も少なからずユウキの事を……
「……悪い。ちょっと調子に乗り過ぎた」
魔理沙もバツが悪い顔をして謝ってきた。
考えてみれば、異変の時もその後の治療も何も出来ず、無力感に苛まれていたのは魔理沙も同じだったわね。
「ともかく、そう言うわけよ。ユウキが二日酔いでダウンしてるのは返って好都合ね」
「でも、霊夢もダウンしちゃって、咲夜が看病してるようじゃ、意味なくないかしら?」
「うぐっ……」
アリスの言う通り、いくらユウキがダウンしたからって異変解決に動きそうなのが2名も動けなくなったら意味がないじゃない。
ここは私やアリスが動くよりも一応人間である魔理沙に動いてもらうのがいいわね。
アリスと頷き合ってじっと魔理沙を見つめた。
「な、なんだよ2人してその目は? 分かってるって! 私だってあの妖気が気にならないわけじゃないんだし。それに霊夢もユウキも動けない今、私がやらなきゃ誰がやる、だぜ」
魔理沙はそう言うと、箒に跨り図書館を後にした。
どこをどう探すのかは聞いていないし、指示も出していないのだけど、アテがあるのかしら?
「行っちゃったわね。で、あなたはこれからどうするの?」
「本当は咲夜に様子を見させてから考えようと思ったのだけど、予定変更ね。まぁ魔理沙の様子を見させてもらうわ。あなたはどうするの、アリス?」
「そうね。なぜかしら、今回の異変あの時よりも緊張感、と言うか切迫した事態にはならない気がするのよね」
それは私も思っていた。怪しい妖気は感じても特に害意と言うか敵意を感じないし、幻想郷の危機という感覚がしない。
勘だよりなんて霊夢じゃないのだけどね。
「それでも万が一って事があるから、あなたや魔理沙を呼んだのだけど」
「心配性ね、パチュリーは。でも、動いているのは咲夜や魔理沙以外にもいそうだし。私はしばらく様子見しようかな」
何か会ったの時の為にね。と言い残してアリスも去って行った。
「さてと、私はまずは……こぁに二日酔いの薬でも作りましょうか」
魔法薬は専門じゃないのに、なんで悪魔が二日酔いなんてしちゃうのかしら。
続く
次回もユウキはお休みの予定。
さて、誰視点でいこうかなー。