幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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ちょっと短めです。


第89話 「花見Ⅲ」

――花が咲いているうちに花見だ~!

 

と誰が言ったか、前に花見をしてから3日も経たず、また花見と言う名の宴会をする事になった。

まぁ異変のせいで桜が咲くのが異様に遅かったから、花見をまたしたいと思うのは仕方ないか。

 

「こいつら桜を口実にただ飲みたいだけよ」

 

霊夢はそんな事を言っているが、宴会自体には反対ではないようだ。

 

「それとこれとは話が別。酒の肴があるうちに楽しまなきゃ」

「それには同意。それにしても3日前にやったばかりなのにまだこんなに集まるなんて、みんな暇なんだな」

 

今回は前回見なかった霖之助やはたての姿も見える。

 

「僕は店で窓から見える桜をゆっくり見るつもりだったのだけど、魔理沙に強引に誘われてね。もう慣れたよ」

 

霖之助は1人花見をしていたら、連れだされたらしい。

それはもう拉致と言わないか?

 

「私はこの前出られなかったからね。今日はネタ探しもかねてやってきたわ」

「ほほう、だったらネタになりそうな事、今からするわよ!」

「文? ちょっ、いきなりどこに連れだすの!?」

 

突然やってきた文に首根っこを掴まされ、はたてが連れ出されてやってきたのは宴会の中心。

そこには妖夢と美鈴、こぁ、にとり、魔理沙がいた。

 

「さーって、これで役者は揃いましたね。ユウキさんと霊夢もどうぞどうぞ」

「何をするつもりなのか分からないのにどうぞも何もないでしょ」

「霊夢に同じく。何をするつもりなんだ?」

 

面子としてはなかなか面白いのが揃ってる。

 

「ふっふっふっ、宴会と言えば……早飲み大会!」

「「「イエェーーイ!」」」

 

魔理沙の一声で一斉に叫び声が上がった。

ポカーンとしていたら、いつの間にか霊夢と一緒に参加者席にいた。

 

「あっ、おい! 俺はやるなんて言ってないぞ!」

「私もパス。お酒は味わって飲むのが好きなの!」

「御師匠様も霊夢さんも諦めてください。私は諦めました……」

「レミリアお嬢様に言われて、フランお嬢様から応援されたら、断れなかったんですよ。なのでお二人も付き合って下さい……」

「あはは……何だか懐かしいノリだなぁ」

「燃えてきたぁ!」

 

妖夢は諦めたように死んだ目をして、美鈴とにとりは苦笑い、魔理沙だけは乗り気だ。

 

「だからなんで私まで参加させられるのよ!」

「いやぁ~紅魔館と白玉楼、それに博麗の巫女、魔法使いと人間と河童の代表まで出されたら天狗の代表も出さないわけにはいかないじゃない?」

 

魔理沙は魔法使い、霊夢が巫女として人間代表って俺か?

自分で言うのも何だが人間代表として出されてもいいのだろうか。

咲夜や妹紅もいるのに。

 

「「……こっち見ないで」」

 

視線を送ってみると、何か言う前に2人揃って真顔で拒否された。

 

「はぁ~諦めましょう、ユウキさん。今のこいつらに何言っても無駄よ。魔理沙はともかく文も妙にハイテンションだし」

 

確かに、魔理沙と文はハイテンションだな。

でも魔理沙はこの前もそうだったから気にしないけど、文も文で今日は一段とハイだな。

 

「はたて、文は何かあったのか?」

「私に聞かないでよ。でも、文が酒の席でハメを外すなんて珍しいわね。ストレスでも……それはないわね」

「文はストレスでどうこうなるタイプじゃないわよ」

 

霊夢に同意。ま、たまには文もこうなるか。

 

「それではただいまより、幻想郷早飲み大会を行います! ルールは簡単! 白玉楼が主、西行寺幽々子さんお手製の日本酒一升瓶5本、一番早く飲み終えた方が勝利! 優勝賞品は、香霖堂より提供された金の食器です!」

「「「おぉ~!」」」

 

霖之助、あんなものいつのまに?

 

「昨日拾ったのを文に見付かってね。どうせなら今日の余興にしようと言われたんだよ。僕は食器には興味ないから承諾したのさ」

「……霖之助さん」

 

余計な事を、と言わんばかりの霊夢のジト目攻撃に咳払いして明後日の方を向いた。

金の食器か……そういうコレクターでもないから、もらってもうれしくないな。

それは霊夢も同じのようで、深く溜息をついている。

でも、あって困る物ではない。

 

「美鈴! なんとしても手に入れなさいよ!」

 

アレが一番欲しいのはレミリアか。

それなら自分が出れば良かったのに、でもあの小さい身体じゃ無理か。

 

「それでは……用意、始め!」

 

文の号令と共に皆一気に飲み始めた。

日本酒5本は多いのか少ないのか分からないけど、出された幽々子の日本酒を飲んで思った事。

 

「な、なんだこりゃ!? ホントに日本酒かこれ!?」

「……全く同意見だわ」

 

吐き出さなかった自分を褒めたい。

それくらいに強いお酒だった。

霊夢も同じく、吐きそうになるのを必死に堪え、どうにか1本飲み干した。

 

 

「おやおや~? ユウキさんと霊夢さんはここでギブアップでしょうか!? 優勝候補筆頭の2人が早くも脱落かぁ~!?」

 

勝手に優勝候補に入れないでほしいんだが……

それにしてもこのお酒強すぎる。

味は美味しいけど、これは味わいながら料理を食べつつ飲む酒だ。

どうにか3本空けたけど、流石にキツイ。

他の皆も苦戦しているかと見渡すと、意外な光景が広がっていた。

 

「ぷはー、結構イケますね。これ」

「幽々子様お手製のなのですから当然です」

 

美鈴と妖夢は顔をほんのり赤くしながらも平然と飲んでいる。

 

「いいねぇいいねぇ。やっぱりお酒はこうでなくっちゃ!」

 

「うーん。私はもっと強いお酒が好きなんだけど、でもうまい!」

 

にとりとなんと魔理沙も何なく飲んでいる。

魔理沙は魔法でも使っているのかと思い、幻想支配で視てみたがそんな事はなく、ただ本当にお酒に強いだけだった。

 

「……霊夢、ギブアップしていいか?」

「奇遇ね。私も同じ事言おうとしてたわ」

 

金の食器を霊夢にあげようかと思ったけど、これは無理。

霊夢も少しきつそうだ。

無理に飲んで倒れてもイヤだし、ここらが引き際かな。

 

「おーっと、ユウキさんも霊夢さんも、もう4本空けていた! 流石は優勝候補筆頭!」

「「えっ?」」

 

いつの間にか俺と霊夢の周りには一升瓶がたくさん転がっていた。

アレ? 俺たちこれだけ飲んだっけ?

もう記憶があやふやだけど、ここまで飲めたのなら……

 

「最後までやりましょうか」

「そうだな。せっかくだ。優勝しちゃおう!」

 

あと1本飲み干すだけと言われれば、やる気が出てきてしまうものだ。

美鈴達も3本目を飲み終えて4本目にいっているし、ぐずぐずはしてられない。

 

「一気に……」

「ラストスパートよ!」

 

と、霊夢と2人意気込んだ所で、記憶が無くなった。

 

 

 

「……やっぱり無理だったようですね」

 

ユウキさんと霊夢さん、2人仲良く一升瓶を抱えながら眠ってる。

やっぱり人間にこの日本酒はきつすぎたかな。

私も飲ませてもらったけど、これは完全に妖怪向けのお酒。

魔理沙さんが飲めたのは、魔法使いだから? ま、どうでもいいわね。

早飲み大会は、意外な事ににとりが優勝、続けて美鈴が準優勝だった。

 

「いやぁ~金って実験や研究材料として貴重なんだよねぇ。もうけたもうけた」

 

にとりらしいといえばにとりらしいけど、せっかくの食器を溶かして発明に利用しようなんて勿体ないわね。

そして、準優勝の美鈴には銀の食器一式が贈られた。

これも霖之助さんが見つけた外の世界の物。

どうしてこんな高価そうなのが幻想郷に来たのか分からないけど、いい宴会のネタになったわね。

 

「お嬢様、やりました準優勝の銀の食器です!」

「優勝じゃないのが悔しいけど、でもまぁこれはこれで……って、銀の食器なんて私とフランが使えるわけないでしょ!」

 

あやや、どうやらレミリアさんとフランちゃんには使えないようで、って吸血鬼だもの当たり前か。

 

「だったらこの食器は私や美鈴が使うわ。食器としてもだけど、これだけの天然ものの純金は滅多に手に入らないもの」

 

パチュリーさんもにとりと同じような発想してるわね。

私としては十分ネタが出来たし、満足いく早飲み大会だった。

でもこの子にはそうではなかったみたいだけど。

 

「はたて……だらしなさすぎでしょ」

「ぅ~、今は、何も言わないで……きもちわるぃ」

 

はたては、何と2本目でダウンしてしまった。

元々お酒弱い子だけど、同じ天狗として情けないわね。

まぁ、あんなにお酒を一気に飲む事なんて、ここ数百年なかったから仕方ないのかな?

 

「なんだ、はたて、だらしないね。これくらいの酒でダウン?」

 

ちょっとだけ顔を赤くしてるけど、にとりは平然とした顔をしている。

私もにとりも、この手の事には一応慣れっこなのよね。

 

「そう言えばはたては、昔からこうだったよね。よくそれでからかわれてたっけ」

「えぇそうね。あのお方たちの良い鴨だったわね。鴉だけど」

 

私もにとりも、今はもういないかつての妖怪の山を仕切っていた鬼を思い浮かべた。

彼らならこのお酒でも一石を丸ごと飲み干しても平然としてそう。

 

「あーこっちは2人共良い寝顔してるね。もう写真は撮ったの?」

「ふふっ、それはもうバッチリ!」

 

にとりは桜の木に寄りかかって眠る、ユウキさんと霊夢さんの寝顔を眺めた。

ユウキさんの寝顔は散々みてきたけど、あれは布団で眠っていた時ばかり、しかも傷を直す為の眠り。

こんな平和な状況での寝顔はあまり見た事がない。だからすごく貴重。

 

「それにしても意外だったね。彼も霊夢もこのお酒をほぼ飲み干せると思わなかったんだけど」

「私もそれは同感。1本が限界だと思ったのに、4本半も空けるとは意外ね」

 

2人共それなりにお酒に強いけど、ここまで飲むとは思わなかった。

当初の予定では、早々に酔い潰れたユウキさんを……げふんげふん。

あのメイドもいたし、そんな隙が出来ると思わなかったけどね。

 

「意外と言えば、今日の文はやけにテンション高かったね。何かあったの?」

「私? ん~、別に何もなかったわよ?」

 

でも、思い返してみると、にとりが言うように今日の私はハイテンションだった気がする。

 

「あー確かにはしゃぎすたかも。そうねぇ……宴会の雰囲気にあてられたのかも」

 

私は呑気に言ったけれど、宴会の雰囲気にあてられたと言う表現は、実は間違いじゃなかったと気付くのはもう少し後の話だった。

 

 

 

続く

 

 




雪景色を尻目に花見の話を書いてます(笑)
萃夢想は短めにしたいけど、そうはいかないかなぁ。

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