幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!
メインヒロイン格にしたいあるヒロインにどうやってフラグ噛ませるか悩み中です(笑)


第8話 「腹ペコ妖怪」

人里を文字通り飛びだし、紅魔館へと向かう。

 

「……どれだけ作ったんだよ、このおにぎり」

 

背中に背負ったおにぎりの風呂敷の重みを感じ、少し溜息をつく。

霊夢に続けて慧音にも……恩を返す相手が増えてしまった。

慧音には世話になったが、これ以上あそこで恩を返そうとしても溜まるだけだ。

 

「ん? 来たな」

 

前を見ると、妖精達がぞろぞろと現れてきた。

異変の最中は、妖精達は興奮して弾幕をばらまいてくるとは聞いていたけど、実際に見るとすごいな。

 

「アハハ~アハハ~♪」

 

あっちの妖精はなんだかハイになってるな。なんだこの霧は妖精にとって覚●剤とかそういう薬物なのか?

 

「いえいえ、ただ単に楽しんでるだけだと思いますよ?」

「まるっきり無邪気な子供だな……オリャ!」

 

声のした後ろに向けて思いっきり回し蹴り。相手が誰か分かっているので手加減なしの全力だ。

 

「うわっ!? な、何するんですか!? 私じゃなかったら思いっきり急所に入っていましたよ!」

「あぁ、お前と分かって思いっきりやったんだが……残念、仕留め損ねた」

 

何か見られている気配は人里出た時からあったし、感じた事のある気配だから恐らく文だと思っていたが当たるとは。

 

「なぜにそこまで私に恨みでもあるのですか!? 前は一応恩人として敬ってくれてませんでしたか!?」

「やかましい! なんだあの新聞は! せっかく、慣れもしない取材受けたと言うのに変な事ばっかり書きやがって」

「変な事とはなんですか! ありもしない嘘八百を書くよりはよっぽどマシじゃないですか! 謎と言う事で読者の好奇心を煽る新聞記者のマル秘テクニックです! ……ところで、さっきから随分と器用な事してますねぇ」

「お前もなー」

 

ちなみに文が現れても妖精たちの攻撃はやまず、俺も文も弾幕を避けながら会話をしている。

 

「こんな殺意も悪意もなく、ただばら撒くだけの弾に当たるわけないだろ? 一応これよりもっと趣味の悪い攻撃たくさんされてきたからな」

「つくづく面白い人ですねぇ。そもそも弾幕は相手を倒す為だけではなく、いかに相手に魅せ付けるかも重要なんで」

 

だからこんなに殺意も悪意もないのか、純粋に遊んでいるだけなんだろうな。

見るからに楽しそうに撃ってきてるし、俺達がよけるのを悔しくも思っていない。

 

「で、さっきからごく当たり前のように飛んでいますが、あなたって飛べましたっけ?」

「気付くの遅いな!? これは慧音の力使ってるんだよ、幻想支配でな」

「あぁ、だから眼の色が違うんですか。便利ですよね、その能力。だったら弾幕使ってみたらどうですか?」

「このまま避けながら先進むのも面倒だし、そうするかな」

 

本当は無邪気な妖精に攻撃するのは、何か躊躇いあるけど。でも弾幕なら傷付ける為じゃない攻撃なら、と両手を突き出す。

別に突き出さなくても出るようだけど、何かこういう動作がないと落ち着かない。

赤い楕円形の光の弾が撃ちだされ、妖精へと当たった。初めての弾幕、にしてはあまり感動も何もないな。

弾の当たった妖精はそのままピチューンという音と共に消えてしまった。

慧音やチルノ達からは妖精は人間や妖怪と違って死なず、攻撃されてもただ消えてしばらくすればまた元に戻るだけ、とは聞いていたけど、本当にあとかたもなく消えるんだな。

 

「死体が残らないだけ、マシ……か。で、俺に何の用だ?」

 

あらかた妖精もいなくなり、俺は近くの木に止まり文に聞いた。

 

「サラリと物騒な事言いますね。まぁいいでしょう、ここ2,3日はドタバタしていまして、少し落ち着いたのでユウキさんの取材の続きをしようと思いまして」

「続きも何もこの前話したのが全部だろ。全くわけのわからん記事にしかならなかったけど」

「そうです、そこです! 私幻想支配とか学園都市とかの話は聞きましたけど、肝心のユウキさん自身の事は全く聞いていません!」

 

ビシッと指を刺される。人を指さしたらダメなのは妖怪には通じないのか?

しかし、俺自身の話か……

 

「年齢は16歳、高校1年生身長体重はここしばらく身体測定してないから不明、以上」

「なるほどなるほど……ってそういうのじゃなくてですね!?」

 

適当にごまかそうとしたが、ダメなようだ。さて、どうするか……ん? 森の向こうから何か黒い球のようなものが飛んでいるのが見えた。

街灯もないいつもの夜だったら気付かなかったかもしれないけど、今は赤い霧に月の光が反射して世界が紅いから黒い塊がよく目立つ。

 

「聞いていますか、ユウキさん! ルーミアなんて見てないでこっちを見てください!」

「ルーミアって、あの球の事か?」

 

ルーミア、確かチルノや大ちゃんの友達で闇を操る人食い妖怪だったな。ま、妖怪は大抵人を食うみたいだけど。

 

「ルーミアは闇を操って自分の周りをまっ暗闇にするんです。でも、ルーミア自身も闇で何も見えなくなると言うお粗末ぶりですが……フラフラですね」

 

つまり、能力の無駄遣いと言うわけだな。そんなルーミアはあっちへフラフラ、こっちへフラフラしつつ向かってきた。

 

「……お腹すいた」

「は?」

「お腹すいたんだよー!!」

 

インデックス2号かコイツは!?

 

「そこにいるのは人間? 食べても良い人間? 美味しそうな匂いがするから食べてもいいよね?」

「なんだかすごく物騒な事言われてますね。まーがんばってください」

「って文! なんでそんな離れた場所から手を振ってやがるんだ!?」

 

離れた木陰から顔だけ出してこっちに手を振っている。好き勝手やってくれ、私は知らない、とでもいいだけだ。

 

「取材対象に過度な干渉は記者としてはダメダメですから、私はここからばっちりかっちりあなたの喰われる様を観察してきっちり記事にさせて頂きますから~」

 

などと合掌付きのエール(?)を送られてもやる気が起きるわけでもない。

 

「……アイツ後でシめて 「いただきまーっす!」 ……おわっ!?」

 

黒い塊、ルーミアがこっちに向かって飛んできた。咄嗟に空に飛び上がりかわしたが、ルーミアはどうやら直接食らいつくつもりだったようで、さっきまでとまっていた枝がバリボリと食われていた。

 

「……まずい」

 

黒い球から枝がポロポロと吐きだされる。ちょっとしたホラーだな。

 

「おいしい匂い、そこぉ!」

「ちっ、弾幕ごっこはどうしたんだよ!」

 

あくまで肉弾戦(?)をしかけてくるルーミアに、俺も慧音の弾幕を使って対抗しようとするが、うまく当たらない。

ルーミアがいるのは黒い球の中心部だと思われるが、フラフラと不規則に飛ぶ中の見えない球の中心部を弾幕を使って間がない俺がうまく狙うのは難しい。

 

「うぅ~、逃げるなぁ!【夜符・ナイトバード】」

 

突如黒い球から青と緑色の弾幕が左右にばら撒かれるように放たれた。

 

「これがスペルカードか」

 

確かに妖精達のよりも数が多いけど、左右に規則的にばら撒かれる弾幕を避けるのは簡単だ。

隙間を縫うように飛び、ルーミアとの距離を保つ。あまり近付き過ぎても突っ込んで来られたら厄介だしな。

 

「よし、俺もスペルカードを試してみるか」

 

幻想支配で能力をコピーすると、出来る事と出来ない事が瞬時に頭に入ってくる。

スペルカードも同じようで、慧音が持っているスペルカードと効果が頭に浮かんできてはいた。

とっておきと言う事で、妖精達には使うつもりはなかったが、ルーミアには別だ。

 

「【産霊・ファーストピラ……】 ん?」

 

スペルカードを唱えようとした時、ルーミアに異変が起きた。突如弾幕が止み、ルーミアを包んでいた闇が薄くなってきた。

 

「お、お腹すいてこれ以上はだめぇ~……」

 

そして、闇の中から赤いリボンをした金髪の少女が見えてきたと思えば、力尽きたかのように地面に真っ逆さまに落ちて行った。

 

「お、おい、危ない!」

 

いくら頑丈な妖怪でもこの高さからじゃ怪我ですまないかもしれない。慌てて落ちるルーミアを抱きかかえ、地面へと降りた。

 

「いやぁ、危ない所でしたねぇ。どうやらルーミアは本当に空腹だったんですね」

「文……お前何事もなかったかのように出て来るんじゃねぇ! 【産霊・ファーストピラミット】」

「えぇ~!? ちょっと、まっ、わわわっ!?」

 

背後から悲鳴とピチューンという音がしたみたいだが、無視。

ルーミアを木にもたれかかせると、文が涼しい顔で近付いてきたので発動しかけたスペルカードを、半ば八つ当たり的にぶつけた。少しはすっきりしたな。

 

「う、う~ん……」

「おい、ルーミア。大丈夫か?」

「お腹、空いたよぉ」

 

よほどお腹がすいているらしく、豪快にルーミアのお腹が鳴った。

と、ここで背中にしょっていた荷物の事を思い出した。ルーミアがさっき美味しい匂いがすると言っていたのはきっとコレの事だな。

 

「ほら、おにぎりだ。食べれるか?」

「おに……ぎり? 食べ物、たべるーー!」

 

風呂敷からおにぎりを出し、ぐったりしているルーミアの口元に持っていくと物凄い勢いで噛みついてきて、危うく手ごと食べられる所だった。

拳ほどの大きさのおにぎりをペロリと食べたルーミアに、更におにぎりを渡すと美味しそうに食べる。

 

「んぐっ! んんんっ!?」

 

あまりにもハイスピードで食べたものだから、喉に詰まったようだ。

 

「そんなに急いで食べるからだ。ほら、水、沢山あるからゆっくり食べろよ」

「ん~、んぐんぐっ……ぷはぁ、ありがとー!」

 

竹で作られた水筒を渡すと笑顔でお礼を言ってきたルーミアに俺は、いつかのインデックスを思い出した……

インデックスに負けない程の食欲で、持っていたおにぎりはあっという間になくなってしまった。

 

「ふぅ~、食べた食べたーありがとう……えっと?」

「俺の名はユウキだ」

「ユウキ? ひょっとして外から来たチルノや大ちゃんの友達?」

 

どうやらあの2人から俺の事を聞いているようだ。それなら話は早いけど友達……か、自分の事を言われているのにどこか他人の感じがするな、まぁそれはいいか。

 

「俺もチルノや大ちゃんから聞いてるぞ、ルーミアだろ?」

「うん、私の名前はルーミアだよ、よろしくねユウキ!」

「で、ルーミアはどうしてあそこまでお腹を空かせていたんだ?」

 

まるで何日も食べていないかのような空腹っぷりだった。それとも、インデックスみたくお腹が空きやすいだけか?

 

「えっとね、ずっと人間食べてなくて、おまけにこの霧でますます人間が出歩かなくなって、さっき巫女とほうきに乗った白黒を見つけて食べようとしたら、コテンパンにやられてお腹が空いて限界だったの。でもおにぎりのおかげで助かったよ!」

「なるほど、確かにこの霧じゃ人間は出歩かないですからね。巫女と白黒と言うのは異変解決に向かった霊夢さんと魔理沙さんですね。あの2人を食べるのは不可能ですよ」

 

いつの間にか復活した文がそこにいた。人を食べる食べれないだの、文も随分と物騒な話をするな。

 

「霊夢が異変解決に向かったのは慧音から聞いているが、魔理沙って誰だ?」

「霧雨魔理沙さん、一応魔法使いです。魔法の森に住んでてよく霊夢さんの所に遊びに行ったりしてますよ。そう言えばなんであなたはこの霧が平気なんですか? 霊力や魔力がない人間には有害のはずですけど」

 

今更気付くのか、お前は本当に新聞記者か?

 

「慧音から御札をもらったんだよ。霊夢がくれたもので、これを持っていれば霧の中でも自由に動けるんだとさ」

「あの巫女もなんでもありですね。それにしても……ユウキさんには変わった御趣味がおありのようですね」

「? 何の事だ?」

「いやぁ、妖怪とは言え見た目幼女なルーミアを餌付けして、すっかり懐かれてるじゃないですか♪」

 

文はニヤニヤと擬音が見えそうな程、俺の隣にちょこんと座り水筒の水を飲んでいるルーミアと俺を交互に見る。

 

「……ルーミア、鶏肉って好きか? 目の前に大きいバカラスがいるから好きなだけ食べろ」

「にく~♪」

「ちょっ!? 私そんなに食べる所ないですよ?」

 

突っ込むのはそこか?

 

「手足は細長いですし天狗の間でも細い方ですが、胸はありますがそこを食べられるのは……あ、でもユウキさんになら……」

「ルーミア、ゴー」

「らじゃー!」

 

――ガブッ

 

「いったあぁ~~い!? ルーミアさん、ギブですギブ! ユウキさんも冷たい目で見てないで助けてください! ごめんなさい! さっきのは冗談です、冗談!」

 

やれやれと、頭を噛みつかれ涙目の文からルーミアを離す。とんでもない事を口走るからだ。

 

「いたたた、私が人間だったら噛み砕かれてますよ」

「自業自得だ。さて、俺はもう行くよ。じゃあなルーミア、今度俺を見かけても食べようとはするなよ?」

「うん、ユウキは友達だから食べないよ、おにぎりありがとう、ばいばーい」

 

ルーミアはまた黒い球になりどこかへと飛んで行ってしまった。やはりあの状態では外が見えないらしく、木に何度かぶつかっていた。普通に飛べばいいのに。

 

「友達……か」

「いやはや、随分可愛らしい御友達が出来て良かったですね~♪ ユウキさんも随分と幻想郷を満喫してるようで」

「満喫って、そう見えるか?」

「勿論、愛妻弁当を作ってくれる人まで出来たじゃないですか」

「愛妻弁当じゃない! あ、慧音、こういう事予想して持たせたんだな」

 

ルーミアも寺子屋の生徒の1人で、慧音もよく知っている子だ。

途中でルーミアに遭遇した場合に備えて、こんなにたくさんのおにぎりを用意してくれたのかもしれない。

もしくは、この霧で何も食べれないルーミアの事を知っていたか……どっちでもいいけど。

 

「それでユウキさんは、こんな夜に一体どこに向かってたんですか?」

「紅魔館。そこのフランドールって吸血鬼に招待された」

「紅魔館ですか!? いや、確かにあそこの門番やメイド長は危害加えたり主の命令なしじゃ人を襲いませんけど、でもよくあんな所からの招待受けましたね」

 

なんだかオーバーに驚いている気はするけど、確かに慧音にも紅魔館にいたと言った時は驚かれたな。吸血鬼は人里の人間は襲わないが、外来人の血を吸ったり料理したりはするそうだ。

でも、美鈴も咲夜もそこまで危ない人には見えなかったな、警戒はされたのは当たり前だし。

 

「文は紅魔館の人とは知り合いなのか?」

「新聞を配る時に門番とメイド長にたまに会うくらいですね、フランドールと言うのも名前しか聞いた事ありませんし……そうだ! せっかくなので私もご一緒します」

 

これは名案とばかりに頷く文だが、俺は心底嫌な顔をした。

 

「あややや、そこまで嫌がられるとは予想外ですよ。紅魔館まで私が護衛代わりもしますし、道案内もしますよ?」

「護衛が必要なほど危険とは思わないし、一度行ってるから場所も分かるんだけどな?」

「そ、それに私みたいな美少女と2人っきりになれるんですよ? これはお得じゃないですか……それとも、ルーミアみたいな幼女が御好みですか? あ、それともすでに寺子屋の先生とそう言う仲に!? これはスクープです!」

 

1人で妄想全開の文にスペルカードを数発御見舞して、紅魔館へ向けて出発した。

すぐに文も復活し、後を追ってきたが、弾幕より物理的に沈めれば良かったかな?

 

「じょ、冗談ですって。それに私もいずれ紅魔館を取材したいと思ってたんです。で、今回の異変の原因は紅魔館らしいので、異変の取材も兼ねて、尚且つユウキさんの取材も出来る、これは一石三鳥、乗らない手はないです!」

「鳥はお前だろ……ったく、好きにしろ。道案内はともかく、護衛は任せたぞ」

「はい~♪ おまかせくださぁ~い! 一名様ごあんなーい!」

 

なんでそこまでハイテンションになるんだか、このバカラスは。

でも、護衛してくれるみたいだからそれはいいか。

どうも慣れない力を使い過ぎたのか少しヤバい感じだしな……

 

 

つづく

 




ユウキのフラグが段々と暴走気味。

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