幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

89 / 159
萃夢想編始まります!


萃夢想編
第88話 「幻想郷縁起」


花見が終わった次の日。

いつも通り午前に寺子屋で授業を手伝い、みんなで昼食を食べて神社へ帰ろうとした時、慧音に呼びとめられた。

 

「ユウキ君。今日はこれから何か予定はあるのかい?」

「予定? 特にはないな。散歩して帰ろうかと思ってるくらい」

 

霊夢は用事があって夕食まで外出中だし。

晩御飯は花見の料理が残ってるからそれ食べるから買い物もいらない。

 

「そうか。なら、ちょっと君に会いたいと言う人がいるんだが、いいかい? 本当は昨日言うつもりだったのだけど、言いそびれてしまってね」

「あぁ、それなら構わないぞ」

 

そう言えば、霊夢もだけど慧音も結構酒強いな。

昨日みんなが作ってきたお酒かなり飲んでたはずなのに、二日酔いもなくケロッとしてる。

ま、それは俺もか。

 

「さて、ここだ」

 

慧音に連れられてやってきたのは、梨奈の所よりも大きな屋敷だった。

大きな門が目立っていてここの前は何度か通っててるし、人里で一番大きな屋敷だから知っているけど、誰が住んでるかは知らなかったな。

 

「慧音、ここの主が俺に会いたいって人か?」

「そうだ。名前は稗田阿求と言う人間だ」

 

その名前には聞き覚えがあった。

何度か霊夢や魔理沙が口にしていたけど、特に気に留めなかったな。

 

「彼女の事は本人に聞くと良いだろう」

 

慧音に促され屋敷の方を向くと、和服に身を包み大きな花飾りをした紫髪の少女が俺達を出迎えてくれた。

見た目こそ幼いが、凛とした佇まいは幽々子のように上品で大人の雰囲気を漂わせている。

そのギャップに違和感と言うか、何かを感じた。

人間なのは間違いないけど、何か訳ありのようだ。

 

「いらっしゃいませ、慧音先生。そして、はじめまして、ユウキさん。稗田家9代目当主稗田阿求と申します。以後お見知りおきを」

「ご丁寧な挨拶、痛み入ります。俺の名はユウキ、博麗神社の居候です」

 

丁寧にお辞儀をしながら挨拶する姿に、思わずこっちもあまりした事がない挨拶をした。

その姿がおかしかったのか、それとも居候と言ったのがツボにハマったのか、阿求は一瞬キョトンとしたかと思えば、年相応な少女の顔になって大声で笑った。

隣にいる慧音はそんな阿求にポカーンとしている。

 

「ぷっ、ふふっ……あははははっ! は、初めてですよ。私を見て狼狽もせずにそんな挨拶をしてきた人間は。普段道理に砕けて話してくれて構いませんよ。堅苦しいのは苦手です」

「そうか。じゃあ普段通りに話すよ、あっきゅん」

「「ぶっ!?」」

 

お言葉に甘えて砕けて話してみたんだけど、砕き過ぎたか。

あっきゅん、阿求だけでなく慧音まで噴き出してしまった。

 

「き、君は砕けるにも程があるだろ!」

「いえ、構いませんよ。話に聞いていた通り変わった人なのですね」

「幻想郷のみんなに比べたら俺なんてまだまだ」

「いや、君も十二分に変わっているぞ?」

 

なんて事を話しながら屋敷の中へと案内された。

屋敷内は外で見る以上に広く、中庭まであって和風豪邸と言った感じだ。

これだけ広いと色々大変だろうと聞いてみたら、お手伝いさんや庭師の人が結構いるらしい。

そうして、俺達が案内されたのは意外にも普通の広さの和室で、本や巻物などがびっしりと棚に仕舞われている。

 

「ここは私の個室になります。客間のほうが広いのですが、こう言った部屋の方が落ち着くでしょう?」

「……普通、初対面の男子を自分の部屋に招くかな」

 

警戒心なさすぎだろ。別に何もするつもりないし、慧音がいるからって事だろうけど。

でもだからと言って広い客間だと確かに落ちつかないかもしれない。

 

「貴方の事は慧音先生や寺子屋の子供達からよく聞いています。いずれ会ってみたいと思い、慧音先生に時期を見計らってもらっていたんです」

 

俺は砕けた口調になってるけど、阿求は言い方こそ柔らかいが、言葉自体まだ堅いな。

元からこういう性格なのか。

ちょっといじわるしてみるか。

 

「で、今日こうしてきたのだけど、実際俺を見てどうだった?」

「そうですね。やはり聞くより実際見て話す方がいいですね。貴方はとても素敵な殿方ですよ」

 

……いじわるな質問をしたつもりだったけど、ものの見事に跳ね返された。

 

「人はみかけに寄らない物だぞ?」

「人を見る目はありますし。妹紅や梨奈ちゃんや大ちゃん達の言葉は説得力ありますから」

 

なぜにその人選なのかは、聞かない方がいいだろうな。

 

「そうかい。ところで、阿求は歴史作家か歴史研究家か? それらしい資料がかなりあるんだけど」

 

よく見ると書物の中には外の世界の物らしい本もある。

 

「そのどちらでもありますね。歴史研究家と言うのであれば、慧音先生の方が近いかもしれませんが」

「確かに。しかし、それは私の能力ゆえの話だ」

 

慧音の能力は歴史を隠すんだったよな。で、満月の時には歴史を作る能力になる。

前に慧音の力を幻想支配で視た時にどういったものかと思ったけど、イマイチよく分からなかった。

 

「私は 【幻想郷縁起】 と言う幻想郷における妖怪や地理などを纏めた書物を書いているんです」

 

そう言って阿求が見せてくれた本には、幻想郷に住む妖怪の生態や危険地域など様々な情報が書きしるされていた。

外来人の俺でも分かるように色々と詳しく書かれていて、これなら子供でも読めるかもしれない。

 

「阿求には私が授業で使う資料も作ってもらっているんだ。君も何度か整理した事あっただろう?」

「あーどうりで見覚えある字だと思ったんだ。なるほど、あの分かりやすい資料は阿求が作ったのか」

「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいですけど、これも仕事なので。実は今日貴方に来てもらったのはコレを読んでもらって、どんな反応をするか見たかったのもあるんです」

「外来人の俺でも分かりやすく書かれているか、か?」

「はい。流石、鋭いですね。今回の幻想郷縁起は書く事が多くて、纏まりきれてるか不安だったので」

 

なるほど。確かに厚みがあるけど、俺からすればまだ普通だな。

もっと百科事典並に分厚い資料を何度も見てるし。

ん? 今回は?

 

「これって何冊も書いてるって事か?」

 

そう聞くと、阿求はチラリと慧音を見ると、慧音は笑顔で頷いて応えた。

 

「実は、私はただの人間ではありません。それは気付いていますね?」

「っ!? やっぱりそうだったか」

 

俺が阿求に違和感を覚えたのを、阿求が知っているのには驚いた。

 

「先程私を見た時に少し、考え込むような仕草を見せたので、それに洞察力や勘の鋭さは人間離れしているとも聞いていましたし」

「に、人間離れって……否定はしないけど」

 

誰から聞いたのかは分かりきった事。

隣に視線を向けると犯人はニコニコと笑っているだけだ。

 

「私は一度死ぬと百年ほどでまた稗田家の当主としてまた生まれて、その度に幻想郷縁起を書いているのです」

「転生、と言う奴か」

 

阿求は30年ほどしか寿命を持たず、死ぬと閻魔の元で100年ほど働き、稗田家の人間として転生すると言う。

今の阿求はもう9回も転生したそうだ。

傍から聞くととても不幸な話に聞こえるけど、本人は長い目で見れば不死とも言えるし特に不満もないし不幸とも思ってなさそうだ。

なら俺がとやかく言う事じゃない。

 

「今は昔と違い、人間と妖怪がうまく共存していて、外の世界から沢山の妖怪たちが幻想郷に入ってきています」

 

レミリア達も外の世界から来た妖怪だしな。

 

「ですが、その分危険地域や人間に害を及ぼす妖怪も増えて、書き留める事が多くなってしまったんです」

「妖怪は人間を食らい、人間は妖怪を退治する。それは昔から変わらないルールだ」

 

慧音の言う通り、それは幻想郷のルールだ。

俺も何度も霊夢達から警告されていた事だ。

でも、実際はとてもうまく共存してると思うけどな。

たまに人間を襲う変な妖怪は俺も退治してるけど。

 

「しかし、別に不幸も不満も思っていなくても大変な仕事だな。人間に妖怪の恐ろしさを伝える書物を書くなんて」

 

資料集めもそうだし、実際に見てみないといけない場合もありそうだ。

 

「そうでもないですよ。私には一つ能力がありますから 【一度見た物を忘れない程度の能力】 この能力があるから初代当主稗田阿礼はこの仕事を任されたのです」

 

それを聞いて、俺は目を見開いた。

阿求の能力は、まさに完全記憶能力。

阿求はインデックスと同じ能力を天性で持っている。

こればかりは俺の幻想支配でも真似できない。

完全記憶能力は霊力や魔力に頼らない能力だからだ。

まさか幻想郷でもその能力者に出会うとは。

完全、記憶能力……か。

 

「? どうかされましたか?」

「い、いや何でもない。ちょっと能力に驚いただけだよ」

 

と、その時だった。襖の向こうから声が聞こえてきた。

 

「阿求様。失礼いたします。霊夢様がお見えになりました」

「分かりました。いつもの部屋にご案内して差し上げて下さい」

「「霊夢?」」

 

思わぬ訪問客に俺も慧音も思わず声に出た。

 

「霊夢が一体阿求に何の用事なんだ?」

 

阿求は少し考えるそぶりを見せたかと思えば、笑い出した。

 

「急に笑いだして一体どうした?」

「いえ、少し思い出した事がありまして。霊夢さんは先日の異変以来ちょくちょく来ているんですよ」

「霊夢が? どうして?」

 

今のお手伝いさんとの話から察するに阿求に用があるわけじゃなく、ここにある何かに用があるみたいだけど。

 

「……なるほど、そう言う事か」

 

慧音は何か思い当たる事があるようで、納得した顔をした。

 

「慧音、何が分かったんだ?」

「霊夢も博麗の巫女としての心構えを見直したのさ。最も動機はそれだけじゃなさそうだけど」

 

慧音は俺の顔を面白そうにジッと見た。

阿求も慧音と同じように暖かい目で俺を見ている。

霊夢がここに来てるのは俺が原因って事か?

 

「ともかく、霊夢さんのいる部屋に行きましょうか」

 

と阿求に案内されたのは屋敷の奥にある倉庫だった。

 

「ここには沢山の書物があります。外の世界の古い書物もありますよ」

 

阿求の部屋にも沢山の本があったけど、ここはそれ以上って事か。

中に入ると、確かに数多くの本が並んであった。

流石にパチュリーの大図書館までとは行かなくても、資料庫としては十分な広さだ。

霊夢は2階の奥からひょっこり顔をのぞかせた。

 

「あら阿求。今日もお邪魔させてもらって……えっ? ユウキさんに慧音? なんであんた達までいるのよ!?」

 

俺と慧音の姿を見るなり、なぜか恥ずかしそうに顔を真っ赤にワタワタしながら降りてきた。

 

「よっ、霊夢。用事があるってここの事だったのか」

「そ、そうよ。悪い?」

「ん? 別に悪くないけど?」

 

霊夢の様子が何かおかしいな。

隠しごとがバレたような顔をしている。

 

「む~わ、笑えばいいでしょ」

「笑うって、何をだ?」

 

さっきから話通じてないような気がするんだけど?

阿求も慧音もクスクス笑ってるだけだし、何なんだ?

 

「お、面白いでしょ! 博麗の巫女である私がこの前の異変で、白玉楼とか幻想郷の事で何も知らないから、こっそりとここで色々と昔にあった出来事とかそういうの学んでるなんて!」

 

あーなるほどなるほど。要するに霊夢は幻想郷の事を勉強し直そうとしているわけか。

確かに異変の時、レミリアや魔理沙達に知らない事多すぎて呆れられてたな。

で、勉強しに来てる事を俺達に知られたくなかったから黙っていたわけで、たまたまここで居合わせてしまってバツが悪いと。

別に気にする事ないと思うんだけど、博麗の巫女としてのプライドって奴か。

 

「何よその顔。ま、まさか阿求から私がここに来てる理由聞いたんじゃないの!?」

「いーや。霊夢がよく来てるって事しか聞いてないけど? でもそっか、ここなら歴史の勉強にはもってこいだよな」

「~~~~っ!!?」

 

そう言うと、霊夢がさっき以上に顔を真っ赤にした。

顔から湯気が出そう……あ、出た。

 

「霊夢さん。見事な自爆ですね」

「うむ。隠し事をするとタメにならないという良い見本だな」

 

阿求、こうなると分かってて俺に黙ってここへ通したろ?

そして慧音、それは少し違うんじゃないか?

 

「霊夢、そんなに恥ずかしがる事じゃないって」

 

影で努力してる所を見られるのは恥ずかしがるのは、思春期の女の子には恥ずかしいよな。

魔理沙の時もそうだったし。

 

「う、うるさいうるさいうるさい! そうよ。私はお勉強に来てるの! だから邪魔しないで!」

 

霊夢は大声で叫びながら資料庫の奥へと飛んで行ってしまった。

 

「やれやれ、しょうがない子だな霊夢は」

「ふふっ、可愛らしいじゃないですか」

 

俺としてはイマイチ腑に落ちない所もあるけど、霊夢はあれで放っておいた方がよさそうだな。

 

「それにしてもすごい本の数。これ全部把握してるのか?」

「えぇ、目録はつけていますし、整理整頓もお手伝いさん達皆さんでやっていますから」

 

パチュリーの大図書館は洋書ばかりだったけど、こっちは巻物まであって和風大図書館だな。

こういうの見ると何かワクワクしちゃうな。

 

「ユウキさん、よろしければしばらくご覧になられますか?」

「えっ!? いいのか!?」

 

見てみないと分からないけど、秘蔵の書物とかも混ざってそうだし、部外者の俺が見て良いものなのか?

 

「良いも何もここへ案内した時点でこうなるとは予想していましたから。外へ持ち出さなければ構いませんよ。貴方は悪用しないでしょうし」

「私もよくここへはくるんだ。で、必要な資料は借りるか、写させてもらっている。きっと君も気にいると思ってね」

 

俺が紅魔館ではよく図書館で本を読んでいるのを慧音は知って、ここも気にいると思ったのか。

 

「その代わりですが、後で貴方の能力や外の世界のお話を聞かせてくださいね」

「あぁ。それくらいなら構わないぜ」

 

文みたく取材と言うわけじゃないし、能力や学園都市の事も他の皆も知ってる事だ。

慧音が信頼している阿求に話すのは全く問題ない。

 

「あちらが幻想郷の歴史に関わる書物が置いてあって、こちらには妖怪の資料があります。後でお茶を用意させますから、ごゆっくりご覧になって下さい」

「私と阿求は少しやる事があるから部屋に戻っているよ。霊夢と一緒に勉強するといい」

 

2人はそう言って戻って行った。

霊夢と一緒と言われても、今はあっち行かない方がよさそうだな。

さて、許可も得た事だし、早速読んで行ってみるか。

 

「まずは妖怪の資料を見てみるか。えっと、天狗や河童の事も本になってるな。後は……鬼か」

 

天狗や河童、妖狐や幽霊と言ったありふれた妖怪には出会ったけど、鬼と言う日本のポピュラーな妖怪にはまだ出会った事ないな。

 

「霊夢達からも鬼の事聞いた事ないな。でも本があるって事はいるんだよな。よしっ、これから出会うかもしれないしこれを読んで予習するか」

 

この数日後、鬼と出会い、戦う事になるとはこの時の俺は全く思っていなかった。

 

 

 

続く

 




萃夢想編といいつつ、ちょっと変則的になりそう。
原作が原作なので話の進め方が……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。