幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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花見回!


第86話 「花見」

満開の桜が咲き誇る博麗神社。

その神社に大勢の妖怪や妖精が集まった。

 

「それじゃ、みんなグラス持ったな! 今日は念願の花見っだー! 飲むぞ―騒ぐぞ―!」

「「「おぉー!」」」

 

幹事、と言うよりは発起人の魔理沙の掛け声で皆思い思いに飲み始めた。

プリズムリバー三姉妹の演奏も始まり、すぐに賑やかになった。

花見と言っても宴会と変わらないんだな。

花見、か。言葉でなら知ってるし見た事もあるんだけどな、ニュースでなら。

 

「でも結局、みんな花より団子、もしくはお酒なのよね」

「別にいいじゃないか。何にもない所で飲むよりは綺麗な所で騒ぐ方が風情あって」

「そりゃあ、まあそうだけどね」

 

始まってすぐにどんちゃん騒ぎし出した面々を尻目に、俺と霊夢は境内に座りながら飲んでいる。

ちなみに霊夢は日本酒を猪口で、俺は咲夜が作ってくれた果実ジュースをグラスでだ。

未成年の飲酒についてアレコレ言うのは前回で止めたので何も言うわないが、お酒の飲み方が様になっている15歳って……

 

「ん、どうしたのユウキさん? 人の顔じっとみて」

「いや、日本酒飲むのが霊夢に良く似合っているなと思って」

「ブッ!? ケホケホッ、い、いきなり何を言い出すのよ! もしかしてもう結構酔ってる?」

 

酔ってるのは霊夢の方だと思うけど、なぜにそこまでむせる?

 

「そこまで驚く事かな。俺はアルコール入ってないこれしか飲んでないぞ?」

 

やっぱり猪口と巫女服って合うののかもしれないな。

 

「はぁ。で、さっきからボーっとしてるけど、どうしたの?」

 

ちっ、霊夢がずっと俺の事を見ているのは知ってたけど、そこまで見てたか。

 

「……別に、大した事じゃない。おっ、あそこにいるのはっと」

 

視界の箸に隅っこの方で、皆と外れて静かに食べたり飲んだりしている妖夢と幽々子を見つけた。

幽々子は平然と桜を見つつ飲み食いしてるけど、妖夢はどこかそわそわしているようだな。

ちょっと声かけてみるか。

勘のいい霊夢から逃げれる口実にもなるし。

 

「何、逃げようとしてるのよ」

 

逃げられなかった!

知らなかったのか、魔王からは逃げられない……なんてな。

 

「御師匠様、霊夢さん。お久しぶりです!」

「こんにちは。今日はお誘いいただいて感謝するわ」

「別にいいわよ。宴会は大勢で楽しむものだしね」

「そうそう。んで、2人は何静かに飲んでるんだ?」

 

やっぱり妖夢の師匠呼びにはまだ慣れないな。

 

「宴会もいいけど、静かに桜を愛でるのもまたいいんじゃないかしら?」

「こいつらが騒いでるのはいつもの事よ。ここ、座るわよ」

 

俺と霊夢が座るが、妖夢の様子がまだおかしい、どこか落ちつかない様子だ。

幽々子は気にせず黙々と料理を食べている、と言うか結構食べてるな。

そう言えば、妖夢と初めて会った時も大量に食糧買いこんでたけど、納得だ。

 

「妖夢、少しは落ちつきなさいな」

「どうしたんだ妖夢? まさか緊張してるのか?」

「……実はこういう大勢で飲み食いする場は初めてなので」

 

これは意外だった。白玉楼は冥界にあるから、亡霊こそいても生者はいないから仕方ないと言えば仕方ないか。

 

「でもなら幽々子だって初めてでしょ。やけに落ちついてるけど、そこはやっぱり年季の差ね」

「ふふふっ、これでも昔は色々や宴に出た事があるんですよ。妖夢が生まれてからは行っていませんけど」

 

霊夢の嫌味もさらりとかわして、余裕の笑みを浮かべる辺り流石だな。

しかも、紫と違って胡散臭くない笑顔だし。

この前のような上品なオーラ全開だったらどうしようかと思ったけど、これならまだ話しやすい。

ホントにアイツの親友なのかな……いや、疑う余地はないけどさ。

 

「うぅ~師匠の言う通り、私には色々と経験不足なのですね」

「いや、俺が言ったのはそういう意味じゃないから」

 

挙動不審だったのは収まったけど、今度は物凄く落ち込んでしまった。

 

「面倒な弟子をもったものね、ユウキさん」

「そう思うなら代わってくれないか、霊夢?」

「絶対嫌」

 

だろうね。

 

「ささっ、妖夢はほっといて2人共飲んで飲んで。とっておきのお酒持ってきたのよ」

 

そう言って幽々子が取り出したのは少し大きめの徳利だ。

 

「ひどい主だな。でもとっておきのお酒には惹かれるな」

「あら、ユウキ君が飲んでいたのはジュースね。ひょっとしてお酒はダメだったかしら?」

 

俺の持っていたグラスを見て、幽々子が少し意外そうな顔をした。

 

「別にダメって事はないけど、せっかく咲夜が作ってくれたジュースだからな」

「あらそうなの。ユウキ君はモテモテね」

 

楽しそうに言うのは良いけど、横目で意味深に霊夢を見ながら言わないでくれ。

霊夢が不機嫌になっていってるし。

 

「もう飲み終えたし、お酒は飲めないわけじゃないから、これは遠慮なく頂くよ」

「はい、どうぞ。霊夢ちゃんもこれ使ってね」

「ん、いただくわ」

 

幽々子が渡してくれた猪口少し大きめで、変わった形をしたものだった。

色も淡い赤で、猪口には似つかわしくないと思ったが良く見ると似合っている。

それに見た限りかなり高級そうにも見える。

霊夢もそれが分かるようで、興味深そうにまじまじと見ている。

 

「お酒も徳利も猪口も全部私が作ったのよ」

「へぇ……って全部!?」

「お酒はお手製だと思ったけど、まさか徳利と猪口までか」

 

改めて2つの容器をみると、どことなく職人技もあるけど趣味が入った造形になっているのが分かるな。

 

「冥界の管理と言っても、年中多忙と言うわけではないのよ。だから、暇つぶしを兼ねて最初はお酒を作ってみようと思って、それなら陶芸の真似事をしてみようとも思ったのよ」

「趣味って。確かに形や色が拘りあるみたいだけど、それでも職人技だぞ」

「徳利と猪口とはいえ、人里でもこれだけの見た事ないわ」

 

陶芸には詳しくはないけど、絵画同様贋作や密輸に関しての捜査の時、歴史的価値が非常に高い美術品として何度か見た事がある。

これはそれに負けず劣らずの作品だ。

 

「幽々子様は結構凝って作っているので、昔の物も劣化せずに結構残っているんですよ」

「2人にそこまで褒めてもらえると嬉しいわ。でもこう見えても千年以上も造り続けてきたもの。うまくもなるわよ」

 

妖夢は主の作品が褒められて、自分の事のように嬉しそうだ。

幽々子はさらっと自分の歳を飛んでもなく言う辺り、本当にすごいな。

下手に若作りしてるどっかの誰かさん達にも見習わせたい。

 

「ささっ、肝心なお酒も飲んでね。あ、そうだわ。どうせなら日本酒よりもこれがいいわね。2人共梅酒は飲めるかしら?」

「梅酒か、飲んだ事ないけど多分大丈夫だ」

「私は大好きよ、梅酒」

 

そう言えば、霊夢は人里でよく梅酒を飲んでたな。

 

「そう、良かったわ」

 

幽々子は後ろに置いてあったいくつかの包みを取り出した。

中から出てきたのは、梅が漬けこんである大きい瓶。

梅酒には詳しくないけど、色からして結構漬けこんでいる感じがする。

 

「他にも果実酒いくつかあるけど、私のオススメはこの梅酒なのよ。どうぞ」

 

瓶のふたを開けると、中から梅の良い香りがしてきた。

これはかなり期待できそうだ。

幽々子に注いでもらって、匂いをかぎつつ一口飲んだ。

 

「んっ……なにこれ、甘いのにすごく飲みやすい。こんな梅酒初めてだわ」

「へぇ、こういう味なのか、梅酒って」

 

梅を漬けるから酸味が強いのかと思ったけど、そんな事なかった。

 

「外の世界では氷を入れたり、他の飲み物を混ぜたりするのが流行り、と紫が言っていたわね。でも私はそのまま飲むのが一番好きよ」

「あーロックとか水割り、お湯割りでしょ? 前に飲んだ事あるわ。でも、私もそのまま飲むのが好きよ」

 

ソーダ割りやカクテルを混ぜて飲むのもあったな。

俺は飲んだ事ないから分からないけど、拘りがある人はいるのは知ってる。

 

「あら、何かいい匂いがすると思ったら、梅酒だったのね」

「とても良い匂いがするわね」

 

と、そこへ梅酒の匂いにつられたのか、レミリアと咲夜がやってきた。

以前会った時はレミリアは露骨に幽々子達に警戒心剥き出しだけど、流石にもう平気なようだ。

 

「よっ、2人共。これ、幽々子が作った梅酒なんだ」

「これを幽々子が? もしかして後ろに見えるお酒も?」

「えぇそうよ。私の趣味なの。良かったらどうかしら?」

 

幽々子が梅酒を勧めると、レミリアは少し困った顔をした。

 

「……せっかくだけど、私は遠慮するわ。前にパチェが作った梅酒飲んだ時、ヒドイ目にあったのよ」

 

以前、パチュリーが気まぐれで梅酒を作った所、最初は酸味が強すぎてレミリアが卒倒。

次に甘さを加えたら入れ過ぎてまたレミリアが卒倒。

ちなみに咲夜や美鈴は顔をしかめる程度で、倒れたりはしなかったそうだ。

……レミリアばかり被害被ってるな。

でも、何だか勿体ないな。そんな理由で梅酒嫌いになったのなら、尚更幽々子の梅酒を飲んで本物の梅酒を味わって欲しい。

 

「幽々子の梅酒は大丈夫だって。初体験の俺でもすんなり飲める程美味しいんだ。一口だけでも飲んで見ろよ」

 

そう言って手に持った猪口に梅酒を注ぎ、レミリアに差しだした。

 

「……ユウキがそう言うのなら、一口だけ……」

 

猪口を受け取る手が急に止まった。

何かと思ってレミリアを見ると、顔が少し赤くなってきてる?

 

「レミリア? もう酔っ払ったのか? あ、悪い。まだ手を付けてないのが良かったな……じゃあ、これは俺が」

「飲むわ、飲むわよ!」

 

勿体ないので俺が飲もうとすると、レミリアはひったくるように猪口をぶんどり、一気に飲んだ。

大きめとはいえ、猪口だからそれほど入ってはいないが、そんなに一気に飲んで大丈夫か?

 

「んぐっ、ぷはぁ~!……あ、本当に美味しい。幽々子、あなたすごいわ!」

「それは重畳。こちらもいいモノ見せてもらったわ」

「いいモノ?……っ!! ぁ、いや、それは……さっきのは何でもないわよ!」

 

幽々子が面白そうに笑って、レミリアが顔を真っ赤にさせてあたふたしだしたけど、何が何だか分からないな。

 

「霊夢さん、咲夜さん? どうしました顔が物凄く怖いですよ?」

「「黙れ、妖夢」」

「は、はいー!?」

 

こっちはこっちでなぜか妖夢が霊夢と咲夜にメンチを切られて涙目だ。

何があったのかと首を傾げた時、向こうの空から誰かが飛んでくるのが見えた。

 

「ユウキさーん、遅くなりましたー!」

 

やってきたのはリリーホワイトだ。彼女は遅れてくると大ちゃんから聞いていた。

と言っても、別に始める時間は決めてなかったし、途中参加もオッケーなので何も問題ない。

 

「よっ、リリー。別に遅れてはいないぞ。始まってまだ間がないしな……ってどうした?」

 

リリーは笑顔で飛んできたが、妖夢の姿を見ると俺の後ろに急いで隠れてしまった。

どうやら襲われた時の事が、少しトラウマになっているみたいだ。

 

「あっ……どうも。あの時はまことに申し訳ございませんでした」

 

妖夢もリリーが自分を怖がっているのが分かっているようで、バツが悪そうな顔をしている。

これは、あまり良くないか。

 

「ほらリリー、もう全部終わったし襲われる事はないから大丈夫。何かあっても俺や霊夢達が近くにいるんだし」

「そうよ、リリー。そんな所に隠れてないで一緒に楽しみましょ」

 

リリーは俺と霊夢に言われ、恐る恐る背から出てきて俺と霊夢の真ん中に座った。

それでもまだ表情は硬いな。

 

「リリー、これ幽々子が作った梅酒だ。すごく美味しいから飲んでみたらどうだ?」

 

ここで妖夢に目で合図を送ると、向こうも俺の意図が読めたようでハッとした顔になり、すぐに新しい猪口に梅酒を注いだ。

 

「こちらをどうぞ。幽々子様特製の梅酒です」

「あ、はい頂きます……甘くて、美味しい」

 

リリーは妖夢に差しだされた猪口を少し飲むと、味が口にあったようで一気に飲んだ。

 

「あの、もう一杯もらえますか?」

「はい、勿論! 沢山あるのでどんどん飲んで下さいね」

 

リリーはよほど気にいったようでいつも通りの笑顔になり、妖夢におかわりをお願いした。

妖夢もそれが嬉しいようで、笑顔でおかわりを注いだ。

 

「流石ねユウキ。あの2人の空気をすぐに変えちゃうなんて」

「大した事してないってレミリア。宴会はみんなで楽しむのがここの流儀だろ」

 

レミリアはさっきから上機嫌で咲夜と梅酒を飲んでいる。

こっちのトラウマも無事に解消されたようだ。

 

「あ、こんな所にいたんですね。私達も混ぜて下さいよ!」

「おーいい匂いがするね」

 

そこへ、文とにとりがやってきた。

はたてはどうやら今回は用事で不参加のようだ。

 

「ちょっと、せっかくの梅酒の風味が鴉臭さときゅうりの匂いで台無しになるじゃない。少し離れて座りなさいよ」

「そんなーと言うか鴉臭さって何ですか!?」

「キュウリは臭くないよ!」

「そう言う問題じゃないんじゃない、河童?」

 

文とにとりの抗議にレミリアが呆れたように言う。

でも、すぐに2人も話に混ざり、一気に場が賑やかになった。

あ、レミリア、俺の猪口使ったままだ。

ま、いいか。

 

「はい、どうぞユウキさん……2人共、今日はありがとう」

 

新しい猪口を俺に渡しながら、幽々子は俺と霊夢に礼を言って来た。

 

「いきなり礼を言ってきて、何の事よ?」

「今日の宴会に誘ってくれた事もだけど、今も私達に気を使ってくれたのでしょ? 私達が皆に馴染めるように」

「別にそんなんじゃないわよ。異変が終われば宴会はいつもの事だし。今だってたまたま視界に最初に映ったから来ただけよ。でしょ、ユウキさん?」

「だな」

 

まぁ、気を使うまでもいかなくても、気にはなった。

幽々子も妖夢も、宴会の騒ぎには自分からは加わろうとせず、少し離れて参加しているように見えた。

異変の首謀者である幽々子と妖夢にいい印象を抱いていないのは、今日の参加者にもいる。

でも、異変が解決した以上何も文句は言わず、水に流すのが流儀だ。

だから、俺と霊夢が気を使う必要はなかったかもしれないけどな。

 

「ふふっ、そういう事にしておきましょうか。それにしても……ユウキさん、あなたも経験不足な事、結構あるのね」

 

幽々子は突然変な事を言って来た。

 

「レミリアお嬢様、今日は参加されて良かったですね。えぇ、本当に」

「咲夜!? まださっきの事根に持ってるの!?」

「んん? 私達が来るまでに何かあったのですか?」

「どうせ彼がらみじゃない?」

「ブッ!? ち、違うわよ! 見当はずれな事言わないで、河童!」

「その反応、まさか!?」

 

その視線の先にはレミリアがさっきの事で咲夜にからかわれて、文とにとりがそれに反応している。

いや、文、こっちを睨まれても困るんだが。

 

「はぁ……で、幽々子が言ってるのは何の事だ? 確かに俺も経験不足な事沢山あるけど?」

「さぁ、何の事でしょう? ねぇ、霊夢ちゃん?」

「ん、霊夢は何の事かわかるのか?」

「わ、私に聞かないで!」

 

扇子で口元を隠しながら笑う幽々子の仕草は妙に似合っている。

だけど、本当に何の事を言っているのかは分からない。

霊夢は幽々子が言いたい事分かっているけど、聞いても何も答えてくれなかった。

 

 

 

続く

 




たまにはレミリアにも得をさせようと思いました。
本人全く気付かずですが(笑)

花見は後1回程で、萃夢想編に行きます。
でもこれまでよりは短いかも?

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