幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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はい、兎が出ます。
兎追いしかの山

兎美味しいかの山
と高校まで歌詞を間違って覚えていたという(爆)


第85話 「竹林の因幡」

桜が幻想郷に咲き誇り、花見の時期になった。

リリーホワイトが忙しかったのは、春の花を早く咲かせる為だったようだ。

異変のせいで春が遅くなり、咲き始めるのも遅くなると夏にまで影響が出る為だそうだ。

幽香も手伝ったようで、ようやく桜も満開になった。

そして、俺は明日の花見の為に食材集めをしている。

本来異変後の宴会であり、前の時みたく首謀者である幽々子や妖夢が主体となって食材と集めるのだが、今回は宴会兼花見なので皆で集める事になった。

 

『あなたの事で白玉楼に色々複雑な思いを抱いてるのもいるから、こういう形になったのよ』

 

と霊夢は言っていた。

和解や贖罪、と言うと大げさかもしれないけど、幽々子も妖夢も明日の宴会で他の皆に馴染んでくれればいいなとは思う。

チルノや大ちゃん、リリー達はこの前知り合った光の三妖精も一緒になって魚を釣ってくると言っていた。

文やにとり達も山で山菜を集め、魔理沙とアリスは森のキノコ集め、紅魔館組は飲み物を用意する。

霊夢は食器やらの下準備をしているが、俺は何もしなくていいと言われた。

最大の功労者だから、と言っていたけどそれなら霊夢や魔理沙達にも何もしなくていいはずなのに。

それに2回連続宴会で何もしないのは申し訳ないので、籠を背負い食材探しに出かけた。

最初は人里で何かないか探そうと思ったけど、異変のせいで食糧不足だった所から宴会の為に大量に買うのは悪いので別の場所へ行く事にした。

 

「そう言えば、こっちはまだ行った事なかったな」

 

人里から魔法の森や博麗神社とは別方向、妖怪の山とは正反対の道へはまだ行った事がない。

幽香が住んでいる太陽の畑とも違う道。

あまり人が通らないようだけど、確かに森と言うか、林に続く道がある。

せっかくだから行ってみる事した。

人里周辺には滅多に凶暴な妖怪は近寄らない事にはなっている。

でも一応出てきた時の為に、霊夢の力はストックとして視てきたので、最悪使って戦うか逃げるなりすればいい。

 

「へぇ、結構見事な竹林だな」

 

獣道を少し進むと森の奥に竹林が見えてきた。

竹林はテレビや資料でしかみた事がなかったけど、こうまで立派なのは初めてだ。

高くたくましく生い茂っていて、奥には深い霧がかかっているようで、まさに幻想郷の竹林に相応しい雰囲気が出ている。

冒険心があるわけではないけど、少し興味が湧いてきた。

 

「これだけ見事な竹林ならタケノコがたくさんあるだろうな。ん? 何か奥に……ある?」

 

竹林の奥に目を凝らした時、違和感とまでは行かなくても何かを感じた。

冥界で見た結界に近いような、別な物のようなともかく変な感じだ。

行ってみようかと足を踏み出した時、竹林から誰かが出てきた。

 

「ちょーっとそこ行くおにーさん。これ以上は危険ですぜい?」

 

出てきたのは、逆三角形のサングラスをかけたウサミミ女だった。

右手で銃を撃つポーズを取って、気分はギャングって所か?

 

「……さーって、タケノコ探すか」

「ちょ、ちょっと!? まさかの無視!?」

 

気を取り直してタケノコを探そうかと思ったが、スル―失敗。

 

「で、何なんだよ。エセギャング」

「むむっ、これをギャングと見抜くなんて、おにーさん外の人だね?」

「まぁな。服を見て……あぁ、そう言えばそうだった」

 

今の俺が着ているのはレミリア達から貰った人里でも違和感のない服だ。

学園都市で着ていたのは、西行妖との戦いで服もズボンもボロボロになって修繕不可能になったんだった。

これじゃ一目じゃ外来人とは分からないか。

 

「あぁ、俺の名前はユウキだ。よろしくな」

「ほうほう、じゃあゆーちゃんだね。私の名前は因幡てゐ。何の妖怪かは見て分かるよね?」

 

ゆ、ゆーちゃん。これまた変わった呼ばれ方だな。

 

「何の妖怪……うーん、兎、のコスプレ妖怪」

「おしい! じゃなくて、なんでコスプレ!? 見たまんま、どこからどう見ても兎の妖怪でしょ!」

 

コスプレって言葉は知ってるのか。

それにしてもこのてゐ、見た目は少女だけど……多分、今まで見てきた妖怪の中でもトップクラスに歳いってる気がする。

下手すりゃ紫より年上かも。

 

「ん、どしたの? 私の顔じっと見て、ひょっとして惚れた? 安くしとくよ?」

「安くって何をだ? 兎肉なら興味ないぞ」

「真っ先に兎肉浮かぶってどうなの!? あ、やっぱし私を食べたいの? せいて……ふぎゅっ!?」

 

よからぬ事を言いそうになったので、思いっきり脳天にチョップをかました俺は悪くない。

コイツからは文と同じ感じがするな。

 

「自業自得だ」

「ひ、ひどいよゆーちゃん。こんないたいけな少女に何の躊躇もなく馬場チョップするなんて」

 

馬場チョップとはまた懐かしい言葉を言う。

 

「やかましい。誰がいたいけな少女だ。お前、俺より数千倍歳いってるだろ」

「ギクッ! そ、そりゃ~さ、人間よりは歳いってるけど、流石に……す、数千倍は盛り過ぎじゃないかなぁ~?」

 

この動揺。間違いなく千、いや、数千歳は越えてるな確実に。

 

「全く、人間が迷いの竹林に入ろうとしてるの善意から止めようとしたのに、ヒドイ仕打ちを受けたよ」

「そりゃどーも。あれ、因幡の兎……どっかで聞いた事あるような?」

 

確か歴史関係の本で読んだような……

 

「ゆーちゃん、因幡の兎に引っ掛かり覚えてるのに、そこから先は何も思い浮かばないの?」

「いなば……イナバ……あっ、確か100人乗っても大丈夫!」

「ストーップ!! 何トンデモナイ事言ってるのさ!?」

 

残念。これは違うようだ。

 

「えっと、確か……亀と競争して、昼寝をして、騙されて背中に柴を背負わされて大火傷したんだっけ?」

「ちっがーーう! 確かにどっちも兎出てくるけど! 後半は立場が違う! それ狸! 兎はむしろいい事したの、敵討ちしたの!」

 

はぁはぁ、と肩で息をしながらツッコミをするてゐ。

あれ。間違えたか……あってると思ったんだけどな。

 

「その顔。まさかゆーちゃん、今のマジボケ?」

 

頷くとてゐは脱力しきった顔でうなだれてしまった。

これはボケた方が良かったのかな。

おどぎ話とか民謡って読んだ事ないから、中途半端にしか知らない事が多い。

 

「ゆーちゃんって一体何者なのさ。こんなに会ってすぐに疲れる人間初めてだよ」

 

てゐは疲労感が半端ない顔をしている。

ちょっと気の毒だったか。でも、本当にそう思って答えたんだから仕方ない。

そこへ、妹紅の声が聞こえてきた。

 

「おい、詐欺兎。ユウキに何をして……ホントに何してるんだ?」

 

最初妹紅は警戒心を出して、てゐを睨むように現れた。

だけど、てゐの疲れ切った表情を見て、困惑したようだ。

 

「よぉ、妹紅」

「あ、もこたん」

「よっ……って、もこたん言うな!」

 

妹紅だからもこたんか、可愛いな。

 

「ユウキ?」

「俺は何も言ってない」

 

絶対零度の笑みってああいうのだろうな……炎まで出してたし。

 

「で、こんな所でどうしたの?」

「実は明日の花見で使えそうな食材探しててさ。こっちには来た事なかったからそのついでにな」

「だったら私が後で沢山持っていくよ」

 

そう言えば、妹紅は迷いの竹林に住んでるんだったな。

 

「と言うか、食材探しなんてあなたがする事ないわよ。あなたは異変解決最大の功労者でしょ。そんな事は私達がするわ」

「そう言われてもな。2回連続で何もしないわけにはいかないだろ。霊夢にそう言ったら何か食材探してきてって言われたんだよ」

「なるほどね。でもここは妖精や妖怪ですら迷う危険な所なのよ。だから私が付き合ってあげるから、一緒にタケノコ探しましょ?」

「いいのか? だったらお願いしようかな」

 

おぉ、妹紅が付いていてくれるなら安心だな。

 

「ちょっとお二人さん。私の事忘れない?」

「「なんだ。まだいたのか」」

 

てっきり帰ったかと思った。

 

「ちょっ! 2人して息ぴったしだし!?」

「あー悪い悪い。んで、詐欺兎が何でユウキと一緒にいるんだ?」

 

てゐを詐欺兎と呼んでるけど、そんな兎には見えないけどな。

 

「確かにてゐは紫並に胡散臭いけど、別に詐欺られてはいないぞ?」

「胡散臭い!? しかもあのスキマ妖怪と同列!?」

「……一応、結構昔から知ってるけど、コイツがこんなにツッコミする奴とは初めて知ったよ」

 

さっきからツッコミしてばっかりだもんな。

 

「てゐと知り合いなのか、竹林仲間って所か?」

 

それを聞いて心底嫌そうな顔をして、妹紅は大げさに両手を振った。

 

「冗談。そんなもんじゃないわ、ただ竹林に住んでるってだけ。てゐはここら辺の妖怪兎の親玉なのよ」

「妖怪兎? それってさっきからいるあんなのか?」

 

指さす先には、竹藪の中からこっちの様子の窺っている丸っこいのが数匹。

良く見れば長い耳があって、兎にも見える。

 

「そうそう、あれよあれ。別に害はないけど、警戒心と好奇心の塊って所ね」

 

警戒心も好奇心も高いのか……矛盾してるようなしてないような。

 

「ゆーちゃん見慣れないから警戒してるんだよ。で、興味も持ってるみたい。呼んでみたら?」

「もう来てるぞ?」

「うおっ、早っ! いつの間に? ゆーちゃんすごっ!」

 

さっき目が合った時にⅠ匹がピョンピョンと跳んで来たので、抱っこしてみた。

良く見ると俺の知ってる兎よりも真っ白で、丸っこいな。

今は俺に抱き抱えられて安心したような顔をしている。

 

「顔が少しにやけてるわよ? ユウキって小動物好きよねぇ。狐が一番好きなのよね?」

「あぁ、元々猫や犬が好きだったけど、間近で狐を見た事あってな。その時にな」

 

呆れるように妹紅が言うけど、好きな物は仕方ない。

ロシアで偶然見た時はなんか和んだんだよなぁ。あの時は戦争中だってのに。

 

「ところでゆーちゃん。その子ね人型にもなるんだよ?」

 

てゐが悪戯っ子のような浮かべる笑みをしたかと思えば、急に腕の重みが増した。

で、さっきまでいた子兎が兎耳をして、てゐとおなじ服をきた少女へと変わっていた。

 

「……へっ?」

「ど、どうも~」

 

その子は恥ずかしそうにしながらも、潤んだ目で俺を見上げて挨拶までしてきた。

小さな兎を抱き抱えていた体勢が、突然女の子に変わって、お姫様だっこになった。

ものすごーく嫌な予感がして、妹紅の方をチラ見すると。

 

「…………」

 

睨んでたよ。ちょっと殺気が籠ってる目で俺とこの子を睨んでる!

この子は妹紅の視線に気付いてないようだからいいけど、気付いたら失神しちゃいそうだな。

てゐがまたそれを見て、面白い玩具を見つけた子のような目を……いや、あれは獲物を見つけたハンターの目だ。

 

「うっしっしっ、そうじゃないかと思ってたけど、ゆーちゃんがそうだったんだねぇ、もこたん」

「な、なんだよその目は」

「いやぁ~別に~? ただあの時の必死なもこたんの姿を思い出しただけだよ。そうだよね~、ゆーちゃんいい子だもんね~そりゃああなるよね~?」

「うっぜーー!」

 

何の話で盛り上がってるか知らないけど、とにかくこの子どうしよう。

降ろすか、と考えてたら哀しそうな表情を浮かべてきた。

この手の攻撃って反則だよな、やっぱ。

 

「ゆーちゃん、出来ればそろそろ他の子達も抱っこしてあげて欲しいな。ちゃんと順番待ちしてるし」

「順番? ってうぉ!?」

 

足元を見ると、丸っこい兎が数匹列をなしていた。

みんなして俺と抱っこしてる兎っ娘を羨ましそうな目で見上げている。

 

「人型になれる兎は近くにはその子だけだから大丈夫だよ」

 

何が大丈夫なのか分からないけど、この子のように急にだっこしたら人型になるわけじゃないのは少し安心だな。

妖怪兎の中には、人型になったりしゃべったりする兎もいるようだ。

とりあえず兎を順番に抱っこして撫でると、どの兎も気持ち良さそうに目を細めている。

てゐもその気になれば兎型になれるのかな。

 

「うーん、どうだっけかな。ずーっとこの姿だから忘れちゃった」

「ユウキなら分かると思うけど、コイツこんな身なりで数千年以上生きてるお婆さんだからね」

「ちょっ、せめておねーさんと言ってよ」

 

お姉さんか……ならば呼んでみよう。

妹紅とアイコンタクトをして、2人で頷きあう。

 

「分かったよ。てゐ姉さん」

「これでいいか、てゐ姉ちゃん」

「……やっぱり、てゐでいいよ」

 

妖怪には精神攻撃が効くのが良く分かるな、うん。

 

「さてと、この兎達も満足したみたいだし、そろそろタケノコ採りに行くかな」

 

もっともっとー、と言いたげな視線を足元から感じるけど、気にしたら負けだ。

人型の子もじーっとこっち見てきてる。

話せはしても無口な子なんだな。

 

「そうね。暗くなる前に終わらせましょうか」

「ゆーちゃん、真面目に言うけどここら辺は幻想郷でも危ない場所だから、近寄ったらダメだよ?」

 

急にてゐがお姉さんっぽく言いだした。

でも、顔を見れば本気で言ってるのは分かる。

ま、根はいい兎ってのは最初に分かってたけどな。

 

「もこたんに会いたくなったら、竹林の入り口で叫べばいいんだよ。もこたーん、デートし……あっつ!?」

「お前は何言ってんだ! 燃やすぞ!?」

「もう燃やしてるでしょ。熱かったなぁ」

 

根は……いい、けど一言余計なんだな。

 

「ふんっ。行くわよ、ユウキ。」

「あぁ、じゃあ、またな皆」

 

兎達を一通り軽く撫でて、不機嫌な妹紅の後についていく。

 

「できればここ以外でねーばいばい、ゆうちゃん」

「さようなら」

 

てゐともう1人の兎っ娘の挨拶を聞きながら、竹林の奥へと進んで行った。

 

 

「あー面白かった。かなりの変わり者だったけど、良い子だったねゆーちゃん」

 

私が満足そうに言うと、お菊ちゃんも笑顔で頷いた。

他の子達も同じようで、面白かった―楽しかった―と騒いでいる。

 

「あ、てゐこんな所にいたのね。探したわよ!」

 

とそこへ、私達とは違う兎耳をしてブレザーを着た鈴仙ちゃんがやってきた。

 

「鈴仙ちゃんこそ、こんな所まで出てくるなんて珍しいね」

 

鈴仙ちゃんが竹林の、それも人里に近い入り口に来るなんて珍しいにも程がある。

 

「私だって来たくて来たわけじゃないわよ。御師匠様があんたを連れて来なさいって言うから、こんな所にまで来る羽目になったんじゃない」「そっかそっか。じゃあ早く戻ろうか」

 

兎達をひきつれて、永遠亭に戻ろうとしたけど鈴仙ちゃんがなぜか固まってしまった。

 

「ん? どしたの鈴仙ちゃん?」

「いや、てゐが素直に言う事聞くなんて、それに他の兎達もだけどすごく機嫌がいいわね。何かあったの?」

「うーん……秘密だよ☆」

「何よそれ」

 

人間やもこたんと楽しく遊んだ、なんて知ったら鈴仙ちゃん何言うか分からないからね。

全く、兎の中で警戒心の塊なのは、実は鈴仙ちゃんだね。

でもゆーちゃんと出会えば、鈴仙ちゃんも何か変わるかも?。

勿論、御師匠様やお姫様もだけど。

あの子にはそんな目に見えない不思議な力があるような気がした。

 

「何にせよ。これから楽しくなりそうだねー」

 

 

 

続く

 




てゐ回なのか妹紅回なのか……謎な話。

次回は花見!で、萃夢想が近くなってきた―!

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