ユウキの意外(?)な弱点の話です。
久々にパチュリーちゃんと楽しくお話しが出来て、アリスちゃんと言う人形遣いの友達も出来た。
だけど、そろそろ戻らないとリリカがまた怒りそうなので私達は客間に戻る事にした。
こぁちゃんはなぜか私達の会話を聞いて目を回して倒れたっけ。どうしたんだろう?
「そう言えば、こぁはほっといて良かったのか?」
「大丈夫よ。一応ベッドに寝かせてきたし」
私達が戻ってきた部屋は、紅魔館でライブをする時に使わせてもらっている部屋。
そこまで広くはないけど、少人数相手にはちょうどいい具合の広さ。
中に入ると、フランちゃんが演奏を終えた所だった。
「失礼します。レミリアお嬢様、フランお嬢様。ユウキさん達をお連れしました。そちらはどうですか?」
「御苦労さま咲夜。えぇ、フランが色々教えてもらったわ。メルランもリリカも教えるのが上手よ」
私達はユウキ君に会いに来るついでに、レミリアちゃんに頼まれていたフランちゃんへの楽器の指導をした。
メルランもリリカもさっきまで笑顔だったけど、ユウキ君の姿が見えると途端に表情を固くした。
いくら出会い頭に肘鉄をもらったからって、ここまで苦手意識持たなくてもいいのに。
ユウキ君へのお見舞いも2人が渋るから行く時期逃しちゃった。
「よっ、久しぶりメルラン、リリカ。元気そうだな」
「え、えぇ、私達騒霊だもの。風邪にも病気にもなりはしないわ」
メルランは相変わらずユウキ君に苦手意識持ってるね。
軽くトラウマになってる?
「そっちは大怪我したみたいだけど?」
「おかげさまでもう全快してるぞ。心配してくれてありがとな」
リリカもメルランよりはいいけど、よそよそしいと言うか、緊張してる感じがする。
それでも彼はそんな2人に普通に話しかけている。
なんか、すごい。
「ユウキ、その顔見るとナイフは完成したようね」
「あぁ、パチュリーとアリスのおかげだ」
それを聞いてパチュリーちゃんもアリスちゃんも恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
で、それを見た霊夢ちゃんや咲夜ちゃん、レミリアちゃんにフランちゃんも面白くなさそうな顔をしている。
知り合ったばかりのアリスちゃんはともかく、パチュリーちゃん達もこんな笑顔を浮かべるようになったんだ。
まるで恋する乙女みたいな笑顔だね。
「……何、達観した顔をしてるの姉さん?」
「メルラン、なんでこっちに来てるの?」
「いや、別に特に意味はないわよ」
私の背中に隠れながら小声のメルラン。
そんなに彼が怖いのかな?
でも、ユウキ君はそんなメルランを見てもケロッとしてるね。
「………」
「うん。分かってるから、その冷たい目はやめて姉さん」
本当に分かってるのかな?
それに私、そんな目をしてるつもりないんだけど。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん! 私、メルランからクラリネットを教わったの。聞いて聞いて!」
そう言ってフランちゃんは嬉しそうにユウキ君にクラリネットを吹いてみせた。
その音色は習って数時間の子が奏でる音色には聞こえず、とても綺麗で透き通っていた。
「おぉ、すごいなフラン」
「本当大したものね」
ユウキ君やアリスちゃんに褒められてフランちゃんは恥ずかしそうだったけど、少し誇らしげだった。
フランちゃんの事は前から聞いていて、いつか楽器を教える約束をレミリアちゃんとしていた。
その約束を今回やっと果たす事が出来た。
「それにしてもフランちゃん、短時間でよくそこまで吹けるようになったね」
「ふふっ、私の妹だもの。物覚えはかなりいいし、それくらいの教養はあるわよ?」
「へぇ~じゃあレミリアも楽器の演奏は得意なのか?」
「勿論。彼女達と一緒に演奏した事もあるわよ」
そうだね。レミリアちゃんは色々な楽器持っていて、よく一緒に演奏したね。
「ちょうどいいわ。咲夜、楽器持ってきて。ユウキや霊夢にも私の演奏を聞かせてあげるわ」
「かしこまりました、お嬢様」
あれ? 今一瞬咲夜ちゃんとユウキちゃんの目が合ったような、アイコンタクトをしたような??
気のせいかな?
「お持ちしました、お嬢様」
咲夜ちゃんはすぐに楽器を持ってきてレミリアちゃんに手渡した。
それを手に持った姿は……うん、とてもよく似合ってるね。
「ありがとう咲夜……ってなんでこれをチョイスしたのよ! もっと別なのあるでしょ、私に似合う楽器が!」
「かしこまりました。」
咲夜ちゃんが持ってきたのは、寺子屋で子供達が使っているような、ソプラノリコーダー。
とっても良く似合ってるよ。と思わず口に出しそうになった。
それはユウキちゃんや霊夢ちゃんも同じのようで、笑いを堪えている。
「それでは、これをどうぞ」
「そうそう、これよこれ。懐かしいわねぇ、昔幼稚園で演奏会……なんてしてないわよ! 私幼稚園なんて行ってないじゃない! なんで鍵盤ハーモニカ!?」
次に持ってきたのは鍵盤ハーモニカ。
確か、さっきのリコーダーと一緒で外の世界では幼稚園や小学校で使うんだっけ。
しかも、少し演奏してみせたらユウキ君や霊夢ちゃんだけじゃなく、パチュリーちゃんまで吹き出しちゃった。
メルランとリリカも顔を真っ赤にして我慢してるね。
「咲夜、私をいくつだと思ってるの!? もっと私に似合うの他にあるでしょ、バイオリンとか!」
「わがまま言わないのレミリア。鍵盤ハーモニカもリコーダーもよく似合ってるじゃない」
「そうそう。俺のいた所じゃ、鍵盤ハーモニカやリコーダーを使ったプロの演奏家もいるんだぞ?」
「そういう問題じゃないわよ!」
霊夢ちゃんとユウキ君がフォローしてるけど、フォローになってるのかな?
「……」
「……ふふっ」
ふと咲夜ちゃんと目が合ったので、無言でサムズアップすると、笑顔でそれに応えてくれた。
でも、これ入れ知恵したの絶対ユウキ君だよね。
「まぁまぁレミィ、楽器なら私が用意してあげたから、これを使って演奏しなさい」
「パチェ……ありがとう。やっぱり一番頼りになるのは親友のあなただけね」
そう言ってパチュリーちゃんが手渡したのは、カスタネット。
「わぁ~これなら誰でも簡単にリズムがとれるわね、うんたんうんたっ……ってアホかぁ!!」
「「ブッ!」」
「こらそこの騒霊! あんた達まで笑うんじゃないの!」
さっきからノリツッコミがうまいねレミリアちゃん。
とうとう堪え切れなかったメルランとリリカまで噴き出しちゃった。
「それと、こぁ! 後ろに隠したそれ出したら、グングニールの刑だからね!」
「ギクッ!」
いつの間にか戻ってきたこぁちゃんが後ろ手に隠したのは、トライアングル。
本当に色々な楽器持っているんだね、レミリアちゃん。
「はぁ~お姉様さっきから我がままばっかり。お兄ちゃんと霊夢は何か楽器演奏できる? 一緒に演奏しようよ! 咲夜もいいでしょ?」
「えぇ、それでは私はピアノを弾かせてもらいますね。美鈴も呼びましょうか」
まだワーワー騒いでいるレミリアちゃん達を尻目に、フランちゃんはどうやらせっかく演奏を覚えたのでユウキ君達と一緒に演奏したいみたいだね。
咲夜ちゃんも美鈴ちゃんも混ざって演奏会した事もあったね。
「私は琴を少しと、あと横笛なら紫に無理やり習わされたわね。ユウキさんは?」
「俺は楽器を触った事すら数回程度だな。基礎知識はあるけど、リコーダーすら演奏した事はないし、楽譜も読めないな」
「へぇ~そうなの。何だか意外ね。確かユウキ君は外の世界の人だよね? 学校で習ったりは?」
リリカの言う通り、ちょっと意外。ユウキ君は何でも出来そうな気がしてたから。
それに外の世界では学校と言う寺子屋みたいな場所で、色々な楽器を演奏したりするはずだけど。
それを聞くとユウキ君は困ったような表情を浮かべた。
「俺は学校あまり行ってなかったからな。家庭教師みたいなのはいたけど、音楽系に関してはさっぱりだ」
何だかユウキ君の昔の事は、聞いちゃいけない話しみたいだね。
霊夢ちゃんも咲夜ちゃんも表情に影が差しこんでいるし。
「そうだ。ユウキ、幻想支配でルナサ達の能力をコピーすれば出来るんじゃないの?」
幻想支配? 私達の能力をコピー?
「どう言う事、アリスちゃん?」
「そっか、あなた達はユウキの能力知らないのね。ユウキは他人の能力をコピー出来る能力の持ち主なのよ。で、あなた達の能力は音を操る他に、手で触れずに楽器を演奏出来る能力があるでしょ? それを使えば演奏出来るんじゃないかと思って」
へぇ、ユウキ君そんな能力の持ち主だったんだ。
そう言えば最初に会った時も魔理沙ちゃんの力をユウキ君から感じていたような?
「じゃあ、リリカの能力を使わせてもらうか」
「えっ、私?」
いきなりユウキ君から指名されて戸惑うリリカ。
なんで、私の力を使わないのだろう?
私達全員演奏する能力持ってるのに。
「ルナサやメルランだと躁や鬱になる音出すんだろ。まぁ、ここにいるメンバーに聞きそうにはないけど、念の為な」
そっか。確かにリリカの音は私かメルランと一緒じゃないと意味ないものね。
「なるほどね。まぁ、別にいいけど……い、痛くしないでよ?」
「リリカに何かするわけじゃないっての」
「うん、大丈夫だよリリカ。お兄ちゃんがリリカを視るだけだから」
ユウキ君がリリカを視るだけ。何だろ、その響きがものすごーく……
「視るだけ……ってエ、エッチ! 変態!」
あ、やっぱそう思っちゃうよね。
「フラン、間違ってないけどもう少し言い方あるだろ。で、リリカ、もう終わったぞ」
呆れた目をしたユウキ君からさっきまで感じなかった力を感じる。
「えっ、もう? あ、あれ? あなたの目が青くなった?」
「本当だ。それにリリカの力を感じるわ」
メルランの言う通り、今のユウキ君から感じるのはリリカの力?。
「何だか懐かしい反応ね」
「そうね。もう皆知ってるから大抵慣れちゃったわよね」
霊夢ちゃんやレミリアちゃんは懐かしそうに言うけど、ユウキ君の能力を知った時は皆私達みたいな反応したんだね。
「ふーん、目が青いって事は、騒霊の力は霊夢や咲夜と同系列の力と認識してるみたいね」
「確か青い時は使っている力が霊力だからよね」
「そうだな。妖夢を視た時も青い目になってたみたいだし」
パチュリーちゃんとアリスちゃんはそんなユウキ君を何やら観察してる。
妖夢ちゃんは半人半霊で、騒霊として生まれた私達とは微妙に違うのだけどね。
「ま、ともかく使ってみるか。えっと、フランそのクラリネット借りるぞ」
「うん、いいよ」
ユウキ君が両手をかざすと、フランちゃんの持っていたクラリネットが宙に浮き、音を奏で始めた。
リリカはキーボードを担当する事が多いけれど、楽器全般が得意だから当然かな。
「確かに演奏はしてるわね」
「えぇ、音も普通に出てるわね」
「でも……」
「「「……下手」」」
レミリアちゃん達の言うように、クラリネットは綺麗な音色を響かせているけど、演奏と言うには程遠い。
さっきのフランちゃんの演奏に比べるまでもないね。
「ん~やっぱりこうなるか……フラン、ありがとう」
クラリネットをフランちゃんに返して、ユウキ君は苦笑いを浮かべた。
確かに下手だったけど、ユウキ君はこうなると分かっていたみたい。
パチュリーちゃんもどこか納得した表情を浮かべている。
「でも、ちゃんと音は出せてたのに、どう言う事?」
リリカは不思議そうな顔をしていて、私もメルランも同じ事を思っていた。
「俺の幻想支配って能力はコピー出来ても、技能まではコピー出来ないんだよ。今のだと、手で持たずに演奏と言っても、ただ吹くだけ。楽譜が読めないからちゃんとした音色にならない」
「ちゃんとした音楽になっているのは、プリズムリバー達の能力じゃなくて技術って事ね」
「あ~なるほど、そういう事ね」
レミリアちゃんに言われて納得できた。
手を使わずに演奏出来る能力を使っても、演奏する本人であるユウキ君に音楽の才能や知識、経験がないと意味がな。
「あれ? でもユウキさん、あの時妖夢の技使ってたじゃない。あれは違うの?」
「妖夢の力使った時も剣術と言うか、妖夢の霊力を使った技だから使えたんだよ。霊力を使わない妖夢の剣術はコピー出来ないさ。美鈴のだって気を使った技しか使えないし」
「そうなんだ。便利そうに見えてなかなか不便な面もあるんだね。ユウキ君の能力って」
万能な能力なんて幻想郷にすら存在しない。
いつだったか、閻魔様に言われたっけ。
「ま、別に演奏出来なくても……うっ、フラン、そんな目で見ないでくれないか?」
「ぅ~……」
フランちゃんがとても寂しそうな表情でユウキ君を見上げている。
これはきっとユウキ君と一緒に演奏したいって事だよね。
それにしても、ユウキ君の困った顔は何だか面白い。
最初に会った時は何でも出来て余裕があるような子に見えたけど、結構苦手な事とかあるんだね。
レミリアちゃんや霊夢ちゃん達もそれを見て笑っているし。
メルランもリリカも、さっきよりはかなりユウキ君に対して怖がったりはしてないみたいで、良かった良かった。
「ねぇ、ユウキ君。良かったら私達が教えてあげるよ? フランちゃんにだってまだ教え始めたばかりだし。一緒にどうかな?」
「あ、うんうん。それがいいよ、お兄ちゃん! ね、お姉様?」
「そうね。ルナサ達の予定にもよるけど、紅魔館なら楽器がたくさんあるわけだし。私もあなたと一緒に演奏してみたいわ」
レミリアちゃんがそんな事を言うのが何だか意外かも。
咲夜ちゃんやこぁちゃんも少し驚いてるね。
「ちょうどいい機会だし、そういう趣味も持った方がいいわよ、ユウキさん?」
「器用なあなたならすぐに覚えるんじゃない? 私もあなたの演奏聞いてみたいわ」
「霊夢にアリスまで……分かった。ルナサ、リリカ、メルラン。俺に演奏の仕方教えてくれないか?」
根負けしたユウキ君が私達に頭を下げた。
私は最初から教えたいと思っていたし、リリカもメルランもそれを見てやる気が出てきたみたい。
「うん。いいよ、覚えたら今度演奏会開こうね」
「よーっし、そうと決まればビシバシ鍛えるから、覚悟しなさいよ!」
「はぁ~……姉さんとリリカがいいなら、私も何も言わないわ。しょうがないわね、教えてあげる」
こうして、紅魔館でフランちゃんとユウキ君、それに霊夢ちゃんやこぁちゃんにも教える事になった。
そして、数日後のお花見で大演奏会が開かれ、大盛況になったのはまた別の話。
続く
さーってお花見までにやりたい話がいくつかあるけど、どれからやろうかな。