幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!
物凄く長くなっちゃいました・・・


第81話 「水晶石(後編)」

――シュッ! ガッ! ヒュッ! ドッ!

 

神社の境内に風を切る音と鈍い打撃音が連続して鳴り響いています。

 

「やっ、せい!」

 

ユウキさんが下段から上段へと連続回し蹴りを放ちましたが、文は紙一重で全てかわしてしまいました。

 

「はっ、たぁ!」

 

文も負けじと蹴りと手刀を混ぜた連続攻撃を繰り出すと、ユウキさんもそれらを全て両手で捌いていきました。

ユウキさんのリハビリも兼ねての文との戦いは、ある意味私とやった時以上に熾烈になっています。

 

「これなら、どうですか?」

 

文は翼を広げ、高速移動でユウキさんに攻撃をしかけてきました。

 

「この程度ならどうもしない!」

 

ユウキさんは文の高速攻撃を寸での所でかわしつつカウンターで反撃しますが、文には当たりません。

ヒット&ウェイの文に対して、ユウキさんはカウンター狙いです。

 

「霊夢、動き追えてる?」

「……聞かないで」

 

あまりの動きの速さに、人間の咲夜さんや霊夢ではそろそろ目で追えなくなってきているようですね。

 

「うわぁ~2人共速い速い!」

「最初から飛ばすわね」

 

あの動きをちゃんと追えてるのは私とフランお嬢様、それにレミリアお嬢様だけですね。

 

「………」

 

パチュリー様とこぁは黙って見ていますが、身体強化の魔法を使わない2人には追えていないようです。

私の能力で身体能力を数段引き上げたユウキさん、それに天狗としても最上位の力を持つ文。

2人は最初から本気でぶつかりあっています。

傍から見ればユウキさんが構えている周りを文が高速で飛び交っているだけに見えますが、実際は激しい攻防が繰り広げられています。

ユウキさんがあまり動かないのは無理をしない為と、幻想支配の制限時間を少しでも伸ばす為でしょうね。

私の能力である、気での身体能力強化は動けば動くほど消耗し、早く切れてしまいます。

 

「美鈴、あなた2人の動き追えているわよね。どちらが優勢か分かる?」

「文の方が優勢ですね。まだお互いの攻撃はヒットしていませんけど、ユウキさんは文の攻撃をどうにか防御していますが、文はユウキさんの攻撃を余裕で回避しています」

「……そう」

 

先程から聞こえてくる風を切る音、これはユウキさんの攻撃を文がかわしている音。

そして、打撃音は文の攻撃をユウキさんが防御している音。

これでどちらか優勢かは咲夜さんにも分かったでしょう。

霊夢も何だか悔しそうな表情浮かべてますね。

気持ちは分かりますが、状況は文の方が優勢なのは悔しいですけど納得です。

いくらユウキさんが人間の中では一番強いと言ってもいいくらいだとしても、相手はあの鴉天狗最上位の文。

私は異変の時に勝ったと言え、あの時の文はまだ本気じゃなかったですし、勿論私も本気ではなかったです。

中途半端に力を出したせいでお互いボロボロになりましたけど。

 

「それって文はお兄ちゃんの攻撃をかわせるけど、お兄ちゃんは文の攻撃をかわせないから文の方が優勢って事?」

「そうよフラン。でも、それだけじゃないわ。見方を変えれば優劣は逆転して見えるわよ? よく見なさい。今はどちらに余裕があるように見える?」

 

レミリアお嬢様に言われフランお嬢様はユウキさん達を良く見ました。

私にはレミリアお嬢様が言わんとしてる事が分かります。

フランお嬢様もすぐに気が付いたようですね。

 

「あれ? 最初は文の方が余裕見えて笑っていたのに、今はお兄ちゃんの方が笑ってる?」

 

最初は文が余裕の笑みを浮かべながらかわしていました。

ユウキさんの方はほぼ無表情で淡々と防御や反撃を繰り出していましたが、今は違います。

文の表情から焦りはないですが余裕は消えています。

逆にユウキさんは少し笑みを浮かべていますね。

 

「どう言う事? まさかユウキさんが文を押しているの?」

「そうじゃないわ。文は最初こそ違うけど今はユウキの攻撃をかわしているんじゃなく、防御出来ないでいる。そう言う事よ」

 

レミリアお嬢様の説明に霊夢も咲夜さんも不思議そうに首をかしげました。

 

「つまりですね。文はユウキさんの攻撃を防御しようとしたら、防御の上から貫かれるって事ですよ。それだけユウキさんの攻撃力と精度が上がっているんです、この短時間で」

「あなたの能力をより引き出しているようになってきてるわね。幻想支配が強まっていると言う事かしら。面白いわね」

 

パチュリー様の言う通り、ユウキさんの力がますます上がってきています。

気の力で潜在能力を引き出し尚且つ高める、それが私の能力の1つです。

本人に出来る事は出来るけど、出来ない事はできない。それが幻想支配。

ですが、気の力で自身を強化する上限は本人次第です。

ユウキさんは私と前に戦った時以上に力を引き出しています。

 

「今のユウキさん相手では、私でも苦戦するかもしれませんね」

「そうね、まるでどこかの戦闘民族みたいね彼は。あっ、文を捉えれたみたいよ!」

 

ユウキさんがカウンターの掌底で文を弾き飛ばすのがはっきりと見えて、レミリアお嬢様が感嘆の声をあげました。

フランお嬢様や咲夜さん達も思わずガッツポーズを出しました。

最初は反対していた霊夢も嬉しそうです。

しかし、ユウキさんのリハビリは過激ですね。

やり過ぎる前にいつでも止めれるように身構えておきましょうか。

 

 

 

念願とも言えるユウキさんとの1対1での対戦。

紅魔館ではレミリアさんや門番などと乱戦になって思う存分ユウキさんと戦えなかったけど、今回はタイマンだから思う存分やれる。

そう思ってついつい最初からちょっと本気を出してみたけれど、やっぱり彼は面白いし、強いわ。

門番の能力で身体能力を極限まで高めているとはいえ、彼の攻撃は鋭く重い。

最初はそれでも私の方が速いから、難なくかわしていたのだけど段々とそうはいかなくなってきたわ。

彼の攻撃は段々と重みを増して行き、天狗の私でも防御の上から潰されそうな勢いになった。

逆に私の攻撃を、彼はかわせずに防御するしかなかったけど、カウンターを狙われるようになった。

あの魔女が作ったアミュレットのおかげ? いえ、そうは見えないわね。

それでも、私に攻撃が当たるとは思わなかったけど、私は攻め方を得意のヒット&アウェイに変えた。

高速移動でユウキさんを攻め続けて、どちらにも有効打は与えられず半ば膠着状態になった。

けれどもその状態も長くは続かなかった。

 

「見えた」

「ぐほっ!?」

 

何度目かの高速移動からの蹴り。ユウキさんはそれを紙一重でかわし、鋭い掌底がタイミングよく私のお腹を直撃した。

 

「ありゃ? 大丈夫か文?」

「だ、大丈夫です……結構効きましたけど」

 

彼にとってもこのカウンターは予想以上に効果があったみたいね。

人間よりは頑丈なつもりですけど、流石に応えたわ。

今の攻撃を受けて思いましたが、やはりユウキさんの力が上がっている。

これは防御するのは危ないわ。

 

「ふふっ、やっぱりユウキさんは強いですね」

「楽しそうだな文」

「あやや、分かっちゃいました? 何せこうも本気を出す事なかなかないもので」

 

天狗の中でも大天狗様を覗けば上位の実力を持つと言う自負がある。

でも、私ほどの者が本気を出してぶつかる相手はそうそういないし、使う機会はない。

それにそもそも力を見せびらかすのは天狗ではなく、鬼のする事。

弾幕ごっこのルールが出来てからは尚更の事。

勿論、弾幕ごっこに不満はないわ。でも、やっぱりたまには本気を出したい時もある。

ユウキさんは初めて会った時から私をからかったりヒドイ目にあわされたけど、それでも私を侮ってもなめてもいない。

ちゃんと自分よりも強いと認めてくれている。

たかが人間に認められても、なんて最初は思ったけど今はそれがとても嬉しい。だから彼が大好きになった。

私が人間のそれも外来人にここまで惚れ込むなんて、半年前の私には想像もつかなかったわね。

 

「第一ラウンドはこの辺でいいだろ? 次はもっと違う趣向でやろうぜ?」

「いいですねぇ。ですが、時間は大丈夫なんですか?」

 

幻想支配で門番の力を使ってから結構立つ。

前回紅魔館での時を考えるとそろそろ時間切れになりそうだけど。

 

「うーん、まだしばらくは持ちそうだな。初めて使う能力じゃないし、美鈴の能力は俺との相性いいみたいだ」

 

彼がそう言うと門番は照れくさそうに笑った。

ちょっとムカっとくるわね。

私の能力使ってくれればもっとあなたは強くなると言うのに!

 

「そうですかそうですか、それじゃあ容赦も手加減もいりません、ねー!」

 

言うが早いか、私は懐から葉団扇を取り出し素早く振い風の弾幕をはなった。

 

「容赦も手加減もする暇与えないさ!」

 

対するユウキさんも両手を振い、門番の弾幕を放ち相殺させた。

うーん、しかしこの程度でヤキモチ妬いちゃうなんて、我ながらちょっと子供っぽかったかしら?

 

「対応が速いですね」

「天狗に褒められるのは光栄。これでも早撃ちは得意だったんでね」

 

元の世界にいた頃は拳銃を良く好んで使ってたんだっけ。

その装備の彼とも戦ってみたいけれど、ここじゃ無理ね。

 

「じゃあもっともっと早撃ち見せてください、ね!」

 

葉団扇を何度も振い、さっきよりも速く濃密な弾幕を放つ。

 

「そういうやり方じゃないんだよな、俺の弾幕ごっこは!」

 

彼は自分に向かってくる弾幕のみ迎撃して、そのままその場から飛び跳ねた。

行く先は森の中、そこは彼のテリトリーね。

わざわざ追いかけるのもあれだけど、天狗の速さをもっと体感してもらいましょうか!

 

「弾幕ごっこで鬼ごっこですか!」

「おーにさんこっちら♪」

「私は天狗です!」

 

などと軽口を言い合いながら、私は彼に向けて弾幕を放ち続けた。

彼は先程していたリハビリと同様に、木の枝を飛びはねながらかわしていく。

ただ空を飛んでいるだけじゃ、私に速度で敵わないのが分かっているから、自分の得意の移動方法で避けているわね。

魔理沙との再戦でも同じように飛び跳ねて彼女を翻弄していた。

あの時は能力の補助はなかったけど、今回は違う。

身体能力が強化されて、脚力もアップしているので前後左右縦横無尽に飛び跳ねている。

その速度は単純に空を飛んでいる私に匹敵するほど。

やっぱり彼は戦い方が上手。

これじゃ椛程度じゃ絶対に勝てないわね。

 

「よそ見禁止だぜ?」

 

いつの間にか私の真横にいた彼が、両手を構えた。

あれは門番のスペルカードを使おうとしているわね、ならばこっちも!

 

「【虹符・烈虹真拳】!」

「【風符・天狗道の開風】!」

 

彼の放つ虹色の乱打と、私が放った烈風が激しくぶつかりあい、お互い吹き飛ばされてしまった。

すぐに私は体勢を立て直し、木の幹を蹴り彼を追撃しようとした。

彼も空中で受け身を取りながら勢いを利用して森を出て、境内に戻って行った。

私は更に加速して行き、彼の着地と同時に次の攻撃に移るつもりでいた。

けれども、彼は空中でスペルカードを発動させていたようで、両手に気を練り込んでいた。

って、このスペルカードは……まずっ!?

 

「【星気・星脈地転弾】!」

 

身の程もある巨大な気弾が私に向けて放たれた。

紅魔館の時もこのスペルカードを、同じような状況で放たれて負けた。

けれども今回は……

 

「【風符・天狗報即日限】!」

 

自身の周りの風の流れを操り一時的に速度をあげ、紙一重で急上昇する事でかわす事ができた。

 

「あのタイミングならいけると思ったんだけどなぁ」

「ざ、残念でしたね! 天狗の速度を甘く見ないでください!」

「それにしては結構焦ってたな」

 

正直、門番の時と同じシチュレーションじゃなかったらさっきので負けていたかもしれない。

門番が向こうで意味深な笑みを浮かべてこっちを見ているのも、癪に障るわね。

 

「じゃー今度はこっちの番ですよ! 【突符・天狗のマクロ……っ!?」

 

風の塊を眼下の彼に向けて落としたけど、彼はそれよりも速く飛び上がっていた。

 

「おりゃ!」

 

気がついた時には私の少し上にまで飛び上がっていて、右足を高く上げてカカト落としの体勢になっていた。

 

「ぐっ!?」

 

何とか両手を交差させて防御したけれど、思ってた通りその一撃はとても重く、地面に叩きつけられた。

 

「いたたたっ、ちょっと両手痺れました。容赦ないですねユウキさん」

 

冗談半分で抗議の視線を送ったけれど、彼は全く気にする様子はない。

 

「対して効いてないだろ。それにあの速度でも反応されると思ったし」

 

不意をついた攻撃をしたようにみえて、私が防御するのを読んでたのね。

でも、腕がしびれたのは本当だったりする。

 

「さてと、そろそろ制限時間になりそうだし。次が最後だな」

「そうですね。もっと楽しみたかったですけど、これ以上は……」

 

チラリと横目で霊夢達を見ると、案の定睨まれた。

これ以上はダメのようね。

 

「じゃ、いくぜ!」

「行きますよ!」

 

彼と同時に飛びだす。私は空を飛び、彼は地を翔ける。タイミングも速度もほぼ同じ。

ちょうどぶつかりそうになる直前、最後のスペルカードを放つ。

 

「【彩符・彩光乱舞】!」

「【竜巻・天孫降臨の道しるべ】!」

 

彼の放った虹色の竜巻と、私の生み出した竜巻が激しくぶつかり、一つの巨大な竜巻へと変貌した。

これは予想外すぎる!?

 

「うわわっ!?」

「あややっ!?」

 

彼も私も竜巻に翻弄され、そのままきりもみ状態となり吹き飛ばされてしまった。

 

「ユウキさん!」

「危ない!」

 

受け身も取れないまま大木に激突すると思った次の瞬間、私は門番によって抱き止められていた。

彼もメイド長が時間を止めて受けたようで無事だ。

 

「あなたに助けられるとは正直言って予想外でした。彼の方に行かなくて良かったのですか?」

 

彼女が私を助ける理由はないけど、超お人好しなのね。

 

「そうですね。助ける義理もないし、あの時の意趣返しでユウキさんを助けたかったし、ライバルが1人減った方が良かったですけど……なんて、冗談です。咲夜さんと役割分担、適材適所ですよ」

「なるほど……」

 

彼よりも私の方が速く大木にぶつかるから、私を優先させた。

ホント、妖怪らしくないですね門番……美鈴も。

 

「……助かりました、美鈴」

「いえいえ、どういたしまして、文」

 

などと初めて嫌味なしで名前を呼び合い、2人で笑い出した。

はぁ~これも彼の影響かしらねぇ……

 

「何、友情深めあってるのよ!」

「いだっ!?」

 

唐突に霊夢から頭に陰陽玉が投げらた。

霊力が籠っていたので、地味に痛い。

 

「いきなりどうしたんですか、霊夢さん?」

「どうしたもこうしたもないわよ! やりすぎにも程があるでしょ、何なのよさっきのは!」

「さっきのは、と言われても、これくらいの事。美鈴も紅魔館で彼のリハビリに付き合う時にやってましたよ?」

 

鬼の形相で睨む霊夢、それを美鈴は明後日の方をみながら口笛を吹いてごまかしていた。

直後、美鈴も陰陽玉を脳天に食らっていた。

 

 

 

「全く、あの時といい今回といい、リハビリなんてレベルじゃないでしょ!」

「あははっ、ごめん、咲夜。ありがとう」

 

スペルカードでのぶつかり合いで弾き飛ばされた俺は、咲夜に助けられた。

文の方は美鈴が助けに入ったようで、あっちも無事だ。

 

「本当にあなたって見てる方がハラハラする戦い方よね。でも大事なくて良かったわ」

「ユウキさん、大丈夫ですかぁ!?」

「お兄ちゃん、どこも怪我してない!?」

 

パチュリーがジト目で睨み、こぁとフランが心配そうに駆け寄ってくる……アレ、なんか見た事あるような光景だなこれ。

 

「ふふっ、相変わらず血を滾らせる戦いをするわねユウキ。霊夢や咲夜が何度も飛びだしそうになってたわよ?」

 

レミリアは今の戦いをみて非常に満足そうだった。見ているだけで収まるのなら前みたいな事にはならないか。

 

「で、パチュリー。この水晶一体何だったんだ? 最初はブースト効果でもあるのかと思ったけど違うみたいだし」

 

美鈴の能力を使った時の違和感、それはただ単に幻想支配が美鈴の妖力に適応して効果を増加させたからにすぎなかった。

ならこの両手と首につけた水晶が光ったのは一体何だったんだ?

 

「ふふん、これはね幻想支配の元になっている力、無色透明なあなたの力に反応する新しい魔法石よ!」

 

ババーンと盛大に発表したパチュリーだったが、何の用途の為の石かピンとこない。

レミリアや咲夜達も同じようで、皆首をかしげている。

俺達の反応がイマイチだったのが拍子抜けだったようで、パチュリーは不満そうだ。

 

「あ、あのね。要するに通常魔力で生み出される魔法石はその術者の魔力に反応するんのだけど、これはあなたの持っている力にのみ反応するの」

「それは何となくわかるけど、これが一体何になるんだ?」

 

俺に魔力とも妖力とも違う力があるのは前に聞いた。

学園都市の科学力でも、イギリスやローマの魔術サイドにも解けなかった力の一端を解明したのはすごいと思った。

そして、今回その無色透明な力に反応する石をパチュリーがここ数日で錬金術を使い作りだした。

それもすごいと思う。

 

「あなた……本当に自分の事には淡白よねぇ」

「いや、パチュリーはすごいと思ってるって」

「そういう事じゃないのだけど、まぁともかく話を続けるわね。この石が完全にあなたの力に反応するかの実験はこれで大成功。次の段階へと進める事が出来るわけ」

「ふむふむ、次の段階?」

 

石を作って次は何をする気なんだ?

 

「そう。これを使ってあなた専用の武器を作る。これが第二段階よ。まぁ第三段階も考えてるけど、それはまだ出来あがってから話すわね」

「俺の……武器?」

 

この水晶のような石が俺の武器になるのか? 見た所とても頑丈そうには見える。

加工すれば武器にはなりそうだ。

 

「ただの石じゃない事くらいあなたにも分かるでしょ? これを元に練成したまさにあなただけの武器を作る。あなたが今まであの時の一件の報酬を決めないから、私が勝手に決めさせてもらうわ」

「えっ? あれはこの前の異変でのマフラーで十分だって、おかげで死なずに済んだんだし」

 

てっきり美鈴にもらったマフラーにかけた身代わりの魔法。あれが報酬だと勝手にそう思ってた。

 

「それじゃ魔女としての私の沽券にかかわるの。いいから、どんな武器が良いか言いなさいよ。刀でも槍でも斧でもなんでも出来るわよ。流石に銃は無理だけど、それでも数本作れるわよ?」

「へぇ、やるじゃないパチェ。しばらく実験ばかりやってて何してるかと思えば、こういう事してたのね」

 

そう言えば、パチュリーはここ最近、図書館に籠りっぱなしだったな。

そこまでしてもらう事は全くないのだけど、咲夜もフランも素直に受け取れと目で言っている。

正直、武器の事は考えなかったわけじゃない。

幻想支配はあくまで他人の力を借りるのであって、相手次第で弱くも強くもなる。

能力もち相手だといいけど、火織やアックアみたいに能力をコピー出来ず、身体能力でもこっちを圧倒する存在には相手にならない。

ここでは妖夢がそれに該当する。

彼女には勝てたが、それは経験値の違いと、俺の得意なナイフを咲夜から借りて使ったからというのもでかい。

俺専用の武器が出来れば、それはそれでかなり助かるだろう。

 

「大体分かったけど、これを使って俺専用の武器を作っても、どんな効果があるんだ?」

 

俺の力に反応してビカビカ光るだけの武器なんて、目立つだけだ。

 

「例えば、この石を使って刀を作るとするわ。そして、その刀に幻想支配を使うように視たり、力を籠めたりすると、切れ味があなた次第でいくらでも変わる刀が出来るのよ。豆腐すら斬れない刀も、鉄をもさくっと切り裂く刀もあなたの力の入れ次第ってわけ」

 

そう聞くとこれはかなり便利な武器が出来あがりそうだ。

切れ味がよすぎると相手を簡単に傷付けちゃうからな。

でも、切れ味を意図的になくす事が出来れば、相手を気絶させて無力化するだけにする事も出来る。

 

「へぇ、随分と便利なものが出来あがりそうね」

 

いつの間にか霊夢や文、美鈴もこちらにやってきてパチュリーの話を聞いていた。

 

「いくらあなたでも能力無しの素手じゃどうにもならない妖怪は沢山いるわ。そんな相手に出くわして周りに誰もいなかった時、武器があると便利よ」

「そうですね。ユウキさんに専用の武器があれば、まさに鬼に金棒じゃないですか」

「私もいいと思いますよ。素手だけじゃ無駄にキズを増やすだけになっちゃいますから」

 

意外にも霊夢は賛成のようだ。

文も美鈴も俺を心配して勧めてくれている。

うん、ならここはパチュリーに任せてみよう。

 

「パチュリー、じゃあこれで俺の武器製作頼むよ。形状の違うナイフが2本。具体的な形状は後で紙に書くよ」

「そう、あなたはナイフが得意だものね。でもナイフ2本だけでいいの? 精製したものはまだあるから、それ以外にも刀も作れるわよ?」

「ナイフだけで十分だ。刀もいいけど、ナイフの方が持ち運びに便利だし、使いなれてるからな」

 

刀を作ってもらえば妖夢への稽古にも使えそうだけど、あまり出番なさそうだし。

 

「分かったわ。じゃあ、早速製作に取り掛かりましょうか。出来れば2、3日図書館に居てほしいのだけど、どう?」

「えー!?」

 

紅魔館に泊りって事か、体は問題ないし今の戦いでもかすり傷も負ってないから大丈夫か。

で、なぜか霊夢が反応している?

 

「善は急げと言いますものね、流石はパチュリー様」

「えっ、おい美鈴。俺はまだ何も言ってない」

 

俺が返事をする前に美鈴がすでに乗り気だった。

 

「ユウキさんの着替えの用意は出来てるから、後はその身一つで紅魔館に向かうだけね」

 

咲夜まで俺が紅魔館に泊まる事を前提に話を勧めているし。

しかも、いつの間にか俺の着替えまで用意してる!?

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」

「ユウキさんのお部屋はこの前泊まって頂いた部屋ですよ。掃除もばっちし私がしましたので大丈夫です!」

 

霊夢が抗議の声をあげようとしたが、こぁに遮られた。

 

「わーいお兄ちゃんお泊りだ!」

「ふふふっ、これでしばらくはまた楽しくなりそうね」

 

この吸血鬼姉妹は……諦めよう、うん。

 

「いやぁ~これでまた紅魔ハーレム生活が始まるんですよね。どうですかユウキさん?」

「急にインタビュワーになられても、俺は何も答えられないっての! で、霊夢……?」

 

どこからか取り出したマイクを向ける文にチョップをして、さっきから無言で睨んできてる霊夢に声をかけると。

 

「……何よ?」

 

声色が怖すぎる……これはとんでもなく不機嫌な時の声だな。

 

「と言うわけで、ちょっと紅魔館に行ってくる」

「………はぁ~、分かったわ、分かってたわよ。あなたが断らないって事くらい。行ってきていいわよ」

 

霊夢も色々と諦めてくれてるな、うん。

 

「じゃあ行きましょうか。そうだ、霊夢。ついでと言っては何だけど、今日の夕食は豪華にするつもりなの、だからあなたもいらっしゃい。咲夜、問題あるかしら?」

「いえ、問題ありませんレミリアお嬢様。霊夢の着替えもここに、戸締りも大丈夫です」

「手際良すぎでしょ!? 人の下着まであさるな! あぁ~もう分かったわよ! 行ってやるわよ! ユウキさんだけあんた達に任せておけないものね!」

 

あれよあれよと言う間に話は進み、霊夢も俺と一緒に紅魔館へお泊りする事になった。

 

「あの~ついでのついでに私も、いいでしょうか?」

「あら、あなたはダメよ。せっかくユウキと戦う権利を譲ったのだもの。次は私達の番よ?」

「えぇ~!? なんでそう来ますか!?」

 

文もついてくるつもりだったようだけど、レミリアに言いくるめられて泣く泣く山へと帰る事になった。

何だか可哀相だけど、俺は招待される側だから何も言えない。

仕方ないから今度飯でも御馳走するか。

 

「文、今日は楽しかった。また今度やろうぜ?」

「あっ、はい! こちらこそ、こんなに楽しい時間は久々でしたよ。またぜひお相手して下さいね!」

 

さっきまでのどんよりとした空気を漂わせていたのに、一瞬で明るく軽やかになった。

そんなに戦うのが好きだったのか、天狗は好戦的じゃないと聞いてたけど、文は別かな?

 

ともかく、こうして俺と霊夢は紅魔館に泊まる事になった。

道中アリスを見かけ、そのままレミリアに招待されて一緒に紅魔館へ向かい、騒がしい食事会を堪能する事になった。

 

 

続く




はい、文回です。
早く萃夢想編に行きたいですが、まだまだ日常が続きます(笑)

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