幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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戦闘回……の予定が長くなりそうなので2つに分けました。
今回の別タイトル名「パチュリーのユウキ強化計画」です(笑)


第80話 「水晶石(前編)」

「もう雪もすっかり無くなったな。まだ少し日陰に残っている程度か。もう少しで桜も咲きそうだし、そうなったら花見と魔理沙が言ってたな」

 

今俺は神社近くの森の中、その木の枝に乗っている。

周囲をぐるりと見渡し、ゆっくりと深呼吸をした。

両手足を軽く動かすと、やはり若干の重たさを感じる。

少しなまっているみたいだけど、この程度なら特に問題はなし。

 

「ふー……よしっ、やるか!」

 

まずは右下に見える太い枝に跳ぶ。

片足が枝に付いた瞬間、左前方の枝に目をむけ距離を測り跳ぶ。

枝を掴み跳ぶ方向を変え、別の枝に飛び移る。

同じような事を何度も繰り返す。

目で追ってから跳ぶより、跳びながら目で追う、周囲の枝の配置を瞬時に視界に収め連続して跳ぶ。

段々と木の枝を飛びかう速度があがり、しばらくすると魔理沙と再戦した時のように高速で移動できるようになった。

木の枝だけではなく、木の幹を蹴り上がり三角飛びの要領で大樹の天辺の枝に昇った。

 

「あーいい眺めだ。空を飛んでもいいけど、やっぱこういう高い所で見渡すのもいいな」

 

学園都市でもよく高層ビルの屋上に昇っていた事はある。向こうはビルばかりの都会で、こっちは自然が溢れていて見た景色は全く違う。

思えば、こういう大自然の中で高い所に登った事はないな。

ロシアに行った時に数回木に登って辺りを見渡したけど、あの時は余裕あまりなかったし。

 

「少しは感覚戻ったか」

 

手足を軽く振ってみるとさっきまであった違和感がなくなっている。

でも、あまり無茶ばっかしてると後で霊夢と咲夜が怖い。

今もちょっとリハビリに走ってくると、書き置き残したが……不安だ。

 

「ん、この気配は……まぁいいか。早く戻ろう」

 

両手を広げ、そのまま自由落下。

すぐに幹を蹴り隣の枝まで跳び、そこからは次々と枝を飛び跳ねて神社まで向かった。

移動しながらふと、お前は忍者か! と自分で自分にツッコミたくなった。

 

「さて、そろそろか……なっ!」

 

太めの枝を探し、少し力を入れて跳んだ。

そして、空中で回転蹴りの動作をしだした瞬間、飛び出してくる人影があった。

 

「はーい、ユウキさーん! 私の胸にとび……わひゃ!? ウゴッ!?」

 

思いっきり枝に頭をぶつけ悶える文を置いて、そのまま突き進む。

 

「ちっ、外したか。まぁいい、次がある」

 

などと思いっきり悪役なセリフを吐いたが、反省はしていない。後悔はしている。もっとタイミングを測るべきだったと言う後悔だ。

何をしたのかと言われれば、文がこっちに向かってる気配がして、ちょうど俺の前に出ようとしていた。

だから俺は、タイミングを合わせてカウンターの要領で回し蹴りをお見舞いするつもりだったけど、やっぱり少しなまってたようでタイミングを外した。

だけど、文もギリギリ反射的にかわしたせいで頭を枝に思いっきりぶつけてしまった。

涙目で後頭部をさする姿がちょっと可愛かったが、本人には内緒だ。

 

「いたたたっ。い、いきなり蹴りはないじゃないですかー! しかも、そのまま放置!?」

 

後ろで何やらごちゃごちゃうるさいが、これだけ加速しているのに急停止などしたら反動が凄い事になる。

わざわざ止まって文の相手をするのも面倒なので、そのまま速度を落とさず神社に戻る事にした。

どうせ追いかけてくるだろうし。

 

そうこうしているうちに博麗神社に到着。誰かいるようだけど、この気配はレミリア達か?

速度を少しずつ落とし、境内に跳びだし土煙を出しながら着地。

 

「コホッコホッ! ず、随分と派手な着地ねユウキ。ゲホゴホッ!」

「大丈夫ですかパチュリー様!?」

「だから中で待ってなさいって言ったのに……」

「お兄ちゃんおかえりー!」

 

激しく咳き込む声に顔をあげる。

そこには土煙を思いっきり吸い込んだのか咳き込むパチュリーに、それを介抱する美鈴。

そんなパチュリーを呆れたように見るレミリアに、無視して笑顔で俺を出迎えたフランがいた。

 

「よっ、大勢で今日はどうしたんだ?」

「パチュリーがあなたに用があるっていうから、せっかくだからとみんなで来たのよ。当の本人がこの状態だから少し待ってなさい」

「みんな? こぁは留守番か?」

 

こぁがいない事に気付く。いたらいたで文以上にうっとおしい事になるけど、姿が見えないのはいきなり現れそうで不気味だ。

 

「こぁなら霊夢達とお兄ちゃんを探しに行っちゃったよ」

「……なるほど」

 

こぁは俺がいないのを知って、霊夢や咲夜と一緒に探しに出たようだ。

 

「こぁも心配性だな。せっかく書置き残したのに」

「その書置き、2人共気付いてなかったわよ。部屋に入ってあなたがいない事知ったら、真っ青にして3人共飛びだして行ったから」

「なんで枕に置いたのに気付かないかな」

「すぐに私が書置きに気付いて止めようとしたんですけどねぇ」

 

止める暇もなかったです。と美鈴は苦笑いを浮かべた。

 

「「「ユウキさーーん!」」」

 

その時、怒号と悲鳴と安堵が混ざった叫び声が聞こえてきて、霊夢達が帰ってきたが、なぜか文も一緒だった。

 

「生きてて良かったですよぉ~!!」

「それは大げさにも程があるだろ、こぁ?」

 

どうやったらそこまで深刻な事態を想像するかな。

 

「一体どこに行っていたのよ!?」

「ちょっとそこら辺を散歩してた」

「霊夢やこぁとさっきまで色々探したんですよ!?」

「ちゃんと書置き残してたんだけどな」

「「書置き?」」

 

霊夢と咲夜は美鈴が持っていた書置きを見た。

それでも納得出来ないと言う顔をしてまた俺に詰め寄ってきた。

 

「どうして私達に一言言ってから出掛けなかったのよ。こんな分かりにくい書置き残したって分からないでしょ!」

「……枕にわかりやすーく置いたんだけど? ってか部屋にいなかった程度でそんな大げさな反応するとは思わないだろ」

 

溜息をはきつつ反論すると、霊夢は露骨に視線をそらした。

これじゃトイレや風呂に行くのも一声かけなきゃダメか?

 

「確かに、少し慌て過ぎたわね。大方リハビリに行くと言えば霊夢が許可しないと思ったんでしょ?」

「言っても言わなくても結果は同じだったようだけどな」

 

これなら言ってから出た方がまだ……マシじゃないな、うん。

で、完全に俺に文句を言うタイミングを逃していた文がずずいっと俺の前に出てきた。

 

「ユウキさん、ひどすぎですよ! いきなり飛び蹴りだなんて!」

「いやぁ~急に文が飛び出してきたら回し蹴りしたくなるだろ、普通?」

「あーそれは蹴りたくなりますねぇ、うんうん……ってなるわけないじゃないでしょう!?」

 

なると思うけどな、ならないか?

 

「んで、今日は何しに来たんだ?」

 

俺と文の漫才にあきれ果ててたパチュリーが、何かを思い出したかのように手をポンと叩いた。

表現が古いな。いや、ここじゃまだ新しいのか?

 

「もう色々言うのも面倒になったから簡潔に言うわね。これを付けて幻想支配使って誰とでもいいから戦って」

 

そう言ってパチュリーが手渡してきたのは、小さい透明な水晶が付いたリストバンドが2つと首飾りが1つだ。

マジックアイテムかと思ったけど、特にそういう感じはしない。

両手と首に付けたが、特に変わった所はない。

 

「えらく簡潔に言ったな。で、これは何だ? 幻想支配の源にあるっていう無色透明な力に反応する水晶、って所か?」

「………」

 

ん? 急にパチュリーが黙ってショボンってしちゃったぞ?

 

「説明しようとした事を全部言われてしょげちゃったんですよ。ユウキさん、勘が良すぎます」

「そんな事言われてもなぁ」

 

こぁがこっそりと俺に小声で教えてくれたけど、想像がついちゃったんだからしょうがない。

 

「あーパチュリー。で、これを使って能力使えばいいんだな?」

「……そうよ。誰の使ってもいいわよ」

 

テンション下がってるなぁ。俺のせいか?

慰め方がわからないので、気にしないでおこう。

 

「じゃあ……美鈴のを使うか」

 

美鈴がガッツポーズして他のみんなは残念そうな顔をしているけど、なぜだ?

 

「で、誰が相手してくれるんだ?」

「私がやるわ。たまにはこういうのも悪くないし」

 

さっきから霊夢が静かだったな。てっきり戦うの反対すると思ったのに。

 

「意外だな霊夢。反対しないのか?」

 

紅魔館で似たような事した時は後で怒ったのに。

 

「反対しようとしたけど、もう身体も完治したしリハビリも必要でしょ? それに反対するだけ無駄だしね」

 

霊夢は色々諦めた! うん、人間諦めが肝心な時もあるよ。

 

「ちょっと待って下さい! 弾幕ごっこじゃないし、霊夢さんじゃ役不足でしょう。ここは天狗の私が相手になります!」

「いえ、私が相手になるわ。たまには運動もしないとね」

「えー咲夜さんもやる気ですか、私もやりたいです!」

「美鈴は何度も相手になってるでしょ。お兄ちゃんとは私がやるの!」

「そう言えば、私はまだユウキとまともに戦った事なかったわね。せっかくだし、どう?」

 

あれよあれよと言う間に、文やフラン達までもが俺と戦いたいと言い出した。

そんな中こぁとパチュリーはその輪の中に加わらず、ちゃっかり俺の隣に立って成り行きを見守っている。

 

「2人はいいのか?」

「冗談。あなたの相手が務まるほど自惚れてはいないわよ。それに私は観測しなきゃいけないしね」

「わ、私なんかがユウキさんのリハビリ相手になんて無理すぎますよ!」

 

魔法特化の2人じゃ分が悪いとは思わないけど、でもどちらかと言えば今は身体を動かしたいから格闘特化の美鈴か文がいいな。

レミリアやフランじゃパワーがあっても体格差あるし、咲夜はナイフで相手してもらうのは今度にしたいし。

霊夢はどうなんだろ。強力な霊力で身体強化するとは聞いてるけど、格闘は出来るのかな。

軽くストレッチしながら霊夢達の言い争いが終わるのを待っているんだけど、あいつらいつまでやってるんだ?

 

「「「「「じゃーんけーん、ぽんっ! あいこでしょ!」」」」

 

あ、あいつら結局じゃんけん始めやがった。

で、何度かのあいこで勝ったのは……文だった。

 

「やったー! 勝ちましたー!」

 

よほど嬉しいのか、そこら辺をピョンピョン跳ねまわって全身で嬉しさを表現している。

対照的に霊夢達はとても悔しそうだ。

中でもレミリアが一番苦虫をつぶしたような顔をしている。

案外負けず嫌いだからなぁ。

 

「良かったな、文。おめでとう」

「ありがとうございます、ユウキさん」

「じゃ!」

 

と片手を上げて文を見送る。

 

「はいー! では私はこれで……じゃないですよ! 勝ったんだから私と戦って下さい! 何のためのじゃんけんですか!?」

 

わざとじゃなかったんだけど、何となくお約束的な意味でやりたくなった。

 

「しくしく。ユウキさーん、やっぱり私の事嫌いですか―?」

 

涙目+上目で抗議してくる文がちょっと可愛いかも思ってしまった。不覚。

 

「いやそんな事ないぞ?」

「じゃ、じゃあ私の事好きですか?」

「いやそんな事ないぞ?」

「どっちですかー!?」

 

文との漫才をするのも楽しいと言えば楽しいけど、そろそろイライラしたギャラリーから何か飛んできそうだな。

と思っていたら、陰陽玉やナイフや火球や弾幕が文目がけて沢山飛んできた。

 

「「「「「いいからさっさとやれ?」」」」」

「……はい」

 

文はじゃんけんで勝った時とは正反対にテンションが急降下している。

目なんてどんよりと暗くなってるし。

 

「おいおい、文とタイマンでやるの初めてでこれでも結構楽しみなんだから、もっとやる気出してくれよ」

 

そう言うと文の尖った耳がピクンと動いた。

 

「楽しみ? 私と戦うのがですか?」

 

おっ、目に少し生気が戻ってきた。

 

「あぁ、だから早くやろうぜ」

「っ、はい!」

 

また霊夢達が睨み利かせてきてるからな。

さてと、俺も久々に幻想支配を使うか。

 

「美鈴力使うぞ」

「はい。早く終わらせて下さいね」

 

文のやる気を見ると、そうもいかなさそうだな。

 

「んっ……んん?」

 

幻想支配は問題なく使えた。

そして、美鈴を視るて能力を発動させると、これも問題なくあの時のように全身に力が漲ってきた。

だけどなんだろう。以前よりも身体が軽く感じる。前よりももっと強く能力を使えている気がする。

 

「これは……?」

 

この違和感は美鈴も気付いたようで、驚いた声をあげている。

リストバンドと首飾りを見ると、水晶がうっすらと白く輝きだしている。

チラリとパチュリーに目を向けると、無言でニヤリと笑みを浮かべ親指を立ててきた。

これは、パチュリーの企みが成功しているって事かな?

 

「問題はないのよね、パチェ?」

「えぇ、説明は後でするわ。今は思う存分やっちゃいなさい、ユウキ!」

 

レミリアが少し心配そうにパチュリーに聞くと、パチュリーは自信満々に頷いた。

 

「おう! いくぜ、文!」

「な、何だかよく分かりませんが、いきます!」

 

文は仕舞っていた羽を大きく広げ、戦闘態勢を取った。

前に紅魔館でレミリアや咲夜達も交えてやりあった時よりも、本気の構えとみた。

今回は弾幕ごっことは少し違い格闘主体だけど、弾幕も飛行もありの模擬戦みたいなものだ。

文相手に手加減の必要はないし、思いっきりやるか。

 

 

続く

 




なんだかんだで文回でした。
どーしても文が出るだけで目立つと言うかフラグが立つと言うか……好きなキャラだからいいんですけど(笑)
うーん、万遍なくフラグが成長していると言う事で(爆)
次回は本格的にVS文です。

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