今回は……アリスと妹紅回、なのかな?
妖夢が弟子入りして数日経ったある日。
「あはははっ、そんな事あったのね。その時いれば良かったわ」
縁側で横に座ったアリスに妖夢が弟子入りした話をすると、大笑いされた。
「笑いごとじゃないっての。文がいなくてホント良かったと思う。ま、結局次の日きて知られて五月蠅かったけど」
「あの文もなのね。ふーん、霊夢にも驚きだけど、咲夜もそんな一面あったなんて、ちょっとびっくりよ」
「う、うるさいわよ」
ニヤニヤとしたアリスの笑みに、反対側の横でお茶を飲んでいた霊夢はバツが悪そうな顔でそっぽを向き。
「忘れて、本当に忘れて。あんなに取り乱して、これでも今思うと少し恥ずかしいわ」
俺とアリスにお茶を持ってきた咲夜が、少し顔を赤くしながら同じようにバツが悪そうな顔をしていた。
「で、そんな乙女な2人が今の彼の状況、どう思ってるのかしら?」
かなり意地悪な質問をアリスはしている気がするな。主に俺に対して。
「ノーコメントよ」
「流石に、そこまで子供ではないわ」
2人が素っ気なく答えてくれた事は、少し感謝しておくか。
自分でも今の俺の状況、なんだこれって感じだし。
「こんにちは、具合はどうだいユウキ君?」
「お邪魔するわよ。って、また面白い事になってるわね」
そこへやってきた慧音と妹紅。
まぁ、笑顔であいさつしかけてあげた右手をそのまま固まってしまったのは、仕方ない。
何せ今の俺は、アリスと霊夢に挟まれてルーミアが膝の上で器用な姿勢で眠り、頭に上海を載せているのだから。
ルーミアはアリスと一緒にやってきて、いつの間にか俺の膝に乗って眠ってしまった。
地味にこの体制はキツイけど、リハビリにはちょうどいいかも?
「……なんであなたはいつもハーレム状態なの?」
ジト目で若干睨んできてる妹紅の言い分は至極真っ当な問い、だけど俺に言える事はただ一つ。
「もうかったるいから細かい事は気にしない事にした」
隣でアリスが笑い、もう反対側では霊夢が睨み、後ろからは恐らく咲夜のものであろう深い溜息が聞こえた。
「んん~? あ、けーねせんせー……おはよぅ」
騒がしさに目を覚ましたルーミアが目を擦りながら辺りを見回し、慧音を見つけると膝の上からピョコンと飛び降りた。
お前は猫か?
「ルーミア、おはよう。気持ち良さそうに眠ってたね」
「うん、兄貴の膝、とても気持ち良かった」
まだ言ってたんだその呼び名。名前で呼べとあの時言ったはずだけどなぁ。
この前見舞いに来たみすちーやリグルは俺を普通に呼んでくれてたし。
「兄貴、ねぇ。ユウキには似合ってるような似合ってなさそうな呼び方ね」
「笑うなって妹紅。そういうのは一番俺が理解してる」
「シャンハーイ?」
げんなりとしながら答えると、アリスがまぁまぁと笑いながらいい、頭に乗っていた上海も無言で肩に手を乗せた。
どうやら慰めてくれてるようだ。
なんか余計に哀しくなった。
「で、今日は2人して一体何の用? ユウキさんのお見舞い?」
「子供達、特に梨奈がユウキ君の事を心配していたからね。それにいつ来れそうかとも気になっていたよ」
寺子屋の子供達には流石に俺が死にかけた事は言っていない。
ただ、体調を崩して寝込んでいるとだけ伝えたようだ。
「でも私や大ちゃん達が兄貴は元気になってきてると言ってるから、大丈夫だよー」
「そっか、ありがとなルーミア」
フランは寺子屋には行っていないが、ルーミア達が行って俺の事を話している。
だから問題ないとは思ってなかったんだけどな。
「梨奈は、相変わらず?」
「あぁ、自分の風邪が移ったのではないかと落ち込んでいたよ。何度も違うと言ったのだけどね」
風邪どころじゃすまないし、でも本当の事を言うわけにはいかないからなぁ。
早く寺子屋行って元気な姿見せた方がいいか。
手足も完全に動くようになったし、リハビリも順調だし、そろそろ……
「ユウキさん、まだダメよ?」
と、心を読んだかのように霊夢が俺を睨んできてる。
慧音と妹紅にお茶を出した咲夜も心配そうな顔で見てきてるけど、もう問題ないんだけどなぁ。
「れ、霊夢、それに咲夜も俺ちゃんと治ったって言ったよな? 身体もほら、元通りだ」
縁側から降り、軽くそこらを飛びまわって宙返りまでしてみせたが、霊夢の顔は怖いままだ。
「はぁ~、過保護ねぇ霊夢は。私から見てもユウキはもう完治してるわよ? むしろ動かないとリハビリにならないくらいよ。パチュリーはなんて言ってるの?」
アリスに言われ、パチュリーが最近来てない事に気付いた。
目が覚めて数日は俺に付きっきりだったけど、最近はたまにしか来ない。
代わりに美鈴やこぁが来て、俺の様子を見たりしてくれる。
今日も午前中に美鈴がやってきて、はち合わせた文と弾幕ごっこやってたな……何しに来たんだろ、2人共。
「そう言えば、妖夢達が来て以降パチュリー来てないな。咲夜は何か聞いてるか?」
「いいえ。だけど、もう少しで研究が完成するからとか、言っていたわね」
研究、か。何をしてるんだか。
「ともかく、それだけ動けるようになったのは、安心したわ。ねぇ、慧音?」
「そうだな。それにしても……異変の度に重傷負っているが、元いた場所でもこうだったのか、君は?」
何気ない慧音の質問にみんながハッとなった。
なぜか意表をつかれた顔をしているけど、それは普通質問された俺がする顔だと思うけど?
まぁ、俺はと言えば、別にどうとも思っていなかったので慧音が知りたい事を答えた。
「こういうのは俺じゃなくアイツの役割だったし、大怪我まではした事あまりないな。怪我はしたけど、後能力の使い過ぎで倒れた時はただの疲労だったし」
思い出してみると、結構俺も病院送りにはなってるけど、重傷は当麻ばかりだったな。
魔術絡みの時は、天草式に治療されたりしていたな。
当麻には魔術が効かないから病院送りは当たり前だし。
それでも死にかけた事は、数回あるか。
「あなた以上に病院送りになった人って、一体どんな人よ」
霊夢が呆れた風に言うがそれは俺も同意。
「アイツは、当麻はクラスメートでとにかく不幸の塊みたいな奴で、馬鹿でお人好しだったし甘くて、でも正義感が強くて困ってる人を放っておけず自然に身体が動くような、まぁ絵に描いたような善人だったな。後ものすごーく鈍感」
「「「「………」」」」
あれ? なんでみんなしてそんな意味ありげな視線を俺に送って来るんだ?
「わはー、なんだか兄貴みたいな人だね、そのトーマって人」
「……へっ?」
ルーミアがそう言うと、みんな真剣な表情へと変わった。
ひょっとして霊夢達もそう思ったのか?
「俺が……馬鹿だと?」
その時、何人かは飲んでいたお茶を吹きだしていた。
「そこじゃないわよ!! あ、いや、そうだけど、も!」
俺がバカだとは思ってたのか霊夢。
否定は……出来ないか、うん。
「うーん、でもアイツの馬鹿はなぁ俺のとは違うからなぁ。あ、そうだ。当麻はラッキースケベの塊でもあったな」
「ら、ラッキースケベの塊? ナニソレ?」
アリスが疑問に思うのも当たり前だな。
俺も自分で言ってて、何っているんだと思ってしまう。
「転べば女性の胸に飛び込む。使用中のシャワールームを開けて、丸裸を見てしまったりとかとか」
「いや、もうそれただの変態じゃない」
……妹紅の言う通りだな
「それを本当に偶然やってしまうのが当麻のすごい所だったな」
「ほうほう、でユウキさんはそんな彼が羨ましかったんですか?」
いつの間にか文が屋根からこちらを覗き込んでいた。
「羨ましがるわけないだろ。関係ない俺にまで飛び火する事もあったんだし……で、さらりと会話に混ざってくるな、文」
ま、ルーミアが起きた辺りからいたのは知ってたけどな。
「ちょっと文。来るときは正面から来なさいよ。屋根から盗聴なんて、問答無用で退治されても文句は言わせないわよ?」
霊夢そこは言えないじゃなくて、言わせない、なのか。
「まぁまぁ、バ鴉は屋根に上るのが好きだから仕方ないじゃない」
「おーこれが大ちゃんの言っていた、バ鴉と言う名の射命丸文なのかー」
「いや、せめて最低限そこはカラスと言って下さい、アリスさん。それにルーミア、私は射命丸文と言う鴉天狗です。大ちゃんにもよーく伝えておいてくださいね?」
文……と言うバ鴉のおかげでどうにか話題は反らせたかな?
「そろそろ夕食の支度をするけれど、ルーミア、それに慧音達も食べていくでしょう? 構わないわよね、ユウキさん、霊夢?」
空を見上げると向こうがうっすらと夕焼け空になってきていた。
なんだかんだでもう5月だし、日が傾く時間も遅くなってきたな。
「おっと、もうそんな時間か。せっかくだから食べていってくれよ。お礼を兼ねて俺が手料理御馳走するぜ?」
「そこは家主の私に最初に聞く事でしょ! まぁ、いいわよ」
「わーい、ごっはんごっはん!」
「シャンハーイ!」
ルーミアは嬉しそうに踊っている上海と一緒に居間へとかけていった。
まだ食事の支度をすると言っただけなのに気が早すぎだろ。
「ユウキが作る御飯か、楽しみね」
「アリスには紅魔館での食事の約束もしたけれど、どうせならユウキさんの手料理も込みの方がいいでしょ?」
「えぇ、そうね……って深い意味はないわよ!? 霊夢、だからそう睨まないで!」
そう言えば、異変の時咲夜とアリスがそんな約束してたな。
で後日、紅魔館でアリスを招いてもっと豪華な食事会をした。なぜか俺や霊夢も込みで。
「慧音と妹紅は? 無理強いはしないけど」
「いや、ここは君の手料理をじっくりと品評してあげよう」
「そうね。あなたが料理するってなかなかイメージ出来ない事だし」
「ははっ、流石に咲夜程じゃないけど、期待には応えてみせよう」
こうして、夕食は大人数で楽しいものとなった。
「あ、あの~? スル―は勘弁して欲しいんですけど~? 私も夕食を……「文様!」 げぇ~!? 椛、はたて!?」
「何が、げぇ~ですか! もう戻って下さい。今日は天狗の会合があるの忘れたんですか!?」
「愛しいユウキに会いたいの分かるけど、会合には出てこい。って大天狗様からの伝言よ。ほーら、いくわよ!」
「ちょっ、せめてユウキさんの手料理を、そんな殺生、なぁー!?」
何だか背後ではたてと聞き慣れない声が混ざって騒がしかったけど、すぐに静かになったので俺達は無視した。
ユウキ君と咲夜の手料理をたっぷり堪能し、私と妹紅は帰路についた。
途中まで一緒だったルーミアとアリスは魔法の森で別れた。
暗い夜道だったが、妹紅に炎を出してもらいながら歩いて帰る事にした。
森の中も雪がすっかり溶けて、歩きやすくなっている。
「いやぁ~意外だったわね。ユウキが料理上手なんて」
「そうだな。咲夜には負けると言っていたけど、そんな事はなかったな」
ユウキ君の手料理を食べた妹紅は神社にいた時とは大違いで、さっきから上機嫌だ。
そんな彼女をみて、思わず笑みがこぼれる
「な、何よ慧音急に笑いだして」
「いや何、今の表情をユウキ君にも見せてあげれば良かったのに。ぶっきらぼうにうまい、としか言わなかったじゃないか」
「あ、あれは、別に深い意味はないわよ。何となく霊夢達に恨まれそうだからわざとよ!」
何を誤魔化しているのか分からないけど、こんな妹紅を見るのは久々だ。
不老不死の彼女は、昔から私以外にはぶっきらぼうに接する事が多い。
霊夢や魔理沙はそんな妹紅を気にする事はなかったけど、人里では良い印象を抱いてない。
それがここ最近は変わってきた。
よく笑うようになり、笑顔も愛想笑いではなく年頃の少女のような笑顔になってきた。
そう言えば、霊夢も同じように変わってきた。
2人が変わった理由、その共通点……
「恋する乙女、か」
「ぶっ!? い、いきなり何を言い出すのよ慧音!?」
「おや? そんなに過敏に反応するとは、自覚はあったのかな?」
「っ~~! 慧音の意地悪!」
「あははっ、すまない」
これはからかいすぎたか。
妹紅もユウキ君の事が好きになっているようだけど、どうも霊夢や咲夜に遠慮しているようだ。
蓬莱人である自分よりも、普通の人間である霊夢や咲夜の想いを優先しているのかもしれない。
そこまで深く考える事ではないが、これはまだ強く言う段階ではないな。
「……そう言えば、ユウキの奴。文が乱入したおかげで、当麻って友人と自分が似ているって話題が反れてほっとしていたわね」
「そうだな。そこら辺は相変わらずだった。外の事を話す事を線引きしているようだ」
妹紅は当麻をユウキ君の 【友人】 と言ったが、彼の口ぶりからは当麻という 【知人】 の話に聞こえた。
それは話の内容ではなく、話し方に違和感があった。
自然に話しているように振る舞っていていたが、まるで実際にいる人物ではなく、本に書かれた登場人物を紹介するような話し方だった。
霊夢や咲夜、アリスもその事に気付いていたけど、誰も触れる事はなかった。
「そういう所を聞きたくて、あんな質問をしたんでしょ? 文がいなかったらもっとルーミアが突っ込んだ事聞いたでしょうね」
私は外の世界での彼の事をもっと聞こうとした。
それが、彼がなぜ幻想郷に来たのか、その手掛かりになると思ったからだ。
でも、その話は中断された。
「そうだな。子供は特に核心を突く事を遠慮なく聞くからな」
――わはーなんだか兄貴に見たいな人だね、そのトーマって人
――へっ?
あの時の彼の表情、何か突拍子もない事を言われたような顔だった。
「馬鹿でお人好しで甘くて、そして、困っている人を放っておけない。そのまんまじゃない」
「後は……ラッキースケベで鈍感?」
前者はともかく、後者はどうだろうな。
「鈍感、なのかしら? それとは違う気がするわね。あれだけされて気が付いてない、ようにはみえないし」
それは何となく理由が分かる気がする。
当麻を友人と心の中では思っていないように 【偽っている】 理由と似た理由な気がする。
「何にしても、ユウキは……偽悪者で、偽善者で、善人ね」
彼の言う当麻は彼そのものに思えたのは、きっと私達だけではないだろう。
続く
ユウキの事を段々と分かり始めた霊夢達。
ですが、肝心の事はまだ分かっていないです。
後、妹紅とアリスのフラグ成長させたかったですが……ちょっと難しいなぁ(汗)
次回は久々の戦闘回です!