幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしましたー!
しばらくは博麗神社での出来事になります。


日常編Ⅱ
第77話 「なごり雪」


外からの暖かな日差しで目が覚めた。

昨日と同じように春を感じさせる陽の光、そして風。

 

「よっ……まだ、ダメか」

 

布団に誰か乗っている感覚がして、力をいれてどうにか上半身を起こしたけど、まだうまく動かせない。

それでも両腕がある程度自由に動かせるようになったし、体の感覚も元に戻ってきているので昨日よりはマシか。

昨日は霊夢と文が脚に寄りかかるように眠っていたが、今日はチルノと大ちゃんが覆いかぶさるように眠っていた。

 

「今日も2人か」

 

独り言をつぶやき、軽く溜息をつく。昨日目が覚めた後は本当に大変だった。

紫が出ていった後、チルノと大ちゃんがやってきて大泣きしながら俺に飛びついて来た。首に抱きつく2人に危うく窒息させられる所で、霊夢と文が苦笑いを浮かべながら離してくれたおかげで助かった。

 

「あら、やっと起きたのね」

 

昨日の事を思い出していると、襖が開いてなぜかレティがやってきた。

 

「レティ? なんでこんな所にいるんだ? ん? やっと?」

 

そこまで言って何か違和感があった。外からは暖かい日差しが感じられるが朝にしては強い気がする。

まさかと思い携帯の電源を入れると、12時になろうとしていた。

幻想郷へ来ても携帯の時計は自動的に微調整されていたので、この時間は正確なはず。と言う事は?

 

「……寝過ごした?」

「えぇ、咲夜ちゃんがお昼御飯作ってるわよ? あなたの様子を見てきてって頼まれたの。あ、寝ているようなら起こさないようにとも言われたわよ」

 

どうやら俺は昨日の晩御飯を食べた後から、今の今までずっと寝ていたようだ。

レティ達はさっき来たようで俺がまだ寝ていると聞き、チルノ達は様子を見に来てそのまま寝てしまったらしい。

 

「起こしてくれれば良かったのに」

「霊夢ちゃんが言っていたのだけど。無理に起こすよりもぐっすり寝た方がいからって、朝食の時もぐっすり眠っていたから起こさないようにしていたみたいよ? だからチルノ達も静かにしてたみたいだし」

 

なるほどな。体が動かせない以上、起きてるよりは寝ていた方がいいかもしれない。

 

「レティ、ユウキさん起きたの?」

「起きたわよ、霊夢ちゃん、パッチェちゃん」

「えっ、パッチェちゃんって何!?」

 

と、そこへ霊夢とパチュリーがやってきた。

 

「おはよう2人共。悪い、寝過ごしたな」

「おはよう。別にいいわよ。むしろ寝ていた方がこっちとしても楽だしね」

 

霊夢がそっけない顔でそう言うと、パチュリーがクスクスと笑いだした。

 

「あれ~? 朝ユウキが起きないからって怪我が悪化した、とか薬の副作用か、って大騒ぎしてたの誰だったかしら?」

「あらぁ~霊夢ちゃん、そんなにユウキ君が心配だったの? へぇ~? ふぅ~ん?」

 

ただでさえ顔を赤くした霊夢がレティの意味深な笑みを見て、更に顔を真っ赤にさせた。

 

「なっ、なななっ、何よ! 文句あるの!? と、とにかくもうすぐ昼食出来るから準備しなさい!」

 

そう言って霊夢は乱暴に襖を開けて出て行ってしまった。

 

「ふふっ、霊夢ちゃん本当に年頃の女の子っぽくなったじゃない」

「レティは霊夢の事昔から知っているのかしら?」

 

パチュリーの問いにレティは我が子の幼い頃を思い出す母親のような顔になった。

 

「そうねぇ。霊夢ちゃんは幼い頃から博麗の巫女としての貫録があったわね。でも、ぶっきらぼうと言うか、表情があまりなくて心を閉ざしていたわね」

 

表情があまりなく心を閉ざしていた、か。

 

「そう……」

「何でそこで俺を見る、パチュリー?」

「別に?」

 

と、ここでようやく大ちゃんが目を覚ました。

チルノはまだ起きる様子はない。

 

「むにゃむにゃ、ふぁ? おはようございましゅ、ユウキさぁ~ん……ふぅ」

 

むにゃむにゃという人を初めて見た。まぁ、人じゃないけど。

そして、大ちゃんは起きたと思ったら、俺に抱きついてまた眠ってしまった。

 

「おーい? 大ちゃん? 起きてくれないか? せめて、離れてくれ」

「あらあら、ユウキ君やっぱりモテモテねぇ~♪ で、パッチェちゃんも混ざりたそうな目をしてるし、面白いわねぇ君達。お姉さんも混ざろうかしら?」

「やめてくれ、色々とシャレにならない事になりそうだ」

「誰がそんな目をしてる……だからパッチェちゃんは止めてちょうだい」

 

ただでさえ今の状況でもまずい事起きそうなのに。

てかもうお昼なのに、なんでこの子達こんなに寝起きが悪い?

その昼まで寝ていた俺が言うのも何だけど。

 

「ぅっ、うぅ~ん……あれ? ここは、どこ?」

「お、チルノようやく起きたか。おはよう」

「あ、ユウキ! どうしてここに!?」

 

これは素なのか、寝ぼけているのか?

 

「チルノ、あなた達はユウキ君のお見舞いに来てそのまま寝ちゃったのよ。それよりも挨拶は?」

「あぁ、そうだったそうだった! おはよう、ユウキ!」

 

レティに言われて、ようやく自分がいる場所や何をしていたか思い出したようだ。

 

「レティってチルノ達のお母さんみたいよね」

「あらやだパッチェちゃん、私これでもまだ若いのよ?」

 

その言い方がすでにおばさんくさい気がするが、わざわざ声色まで変えてわざとだろうな。

 

「妖怪に若いも何もないでしょうに、ってだからそのパッチェちゃんを止めなさいって!」

「ん~大ちゃんは何してるの? 気持よさそ~あたいも~……」

「待て、チルノ。お前まで来るな……ハッ!?」

 

寝ぼけ眼ですり寄ってくるチルノを手で押しとどめていると、不意に部屋の空気が冷たくなり背後が凍りつくような悪寒が走った。

 

「な、なぁレティ、チルノ? 今冷気放出してないか?」

「してない、わねぇ~? でもおかしいわねぇ、春になったはずなのに真冬よりも寒く感じるわねェ~……」

 

レティは笑顔のままだが、冷や汗をかいている。

こっちに寄ってきていたはずのチルノが顔を真っ青にして、無言で後ずさりした。

 

「……よしっ、寝直そう」

「はぁ、気持ちはすごく分かるけど現実逃避してないで、後ろを向きなさいよ。」

 

布団に入り直そうとしたが、パチュリーに止められ仕方なく後ろを振り向く。

そこにはお盆を持った2人の美少女が修羅のようなオーラを放って立っていた。

 

「おはようございます、ユウキ様。よく眠られたようで良かったですわ♪」

 

とてつもなく軽やかで明るくしゃべっているけど、それが余計に怖いぞ咲夜。

 

「ほんの少し目を離しただけで、随分とお楽しみだったみたいね、ユウキさん?」

 

そして、咲夜以上に冷たい目で俺を見下ろす霊夢。

 

「2人共、大ちゃん達にヤキモチ妬くくらいなら、添い寝の一つでもすれば良かったじゃない。せっかくユウキ君動けないんだし」

 

レティがそう言うと、2人共さっきまでとは雰囲気が変わり、あたふたと慌てふためいた。

お母さんみたいと言うのはこう言う感じか。

 

「だ、誰がヤキモチなんて妬くのよ。こんな子供に!」

 

霊夢、お前も十分に子供だ。

 

「添い寝……しようとはしたけれど、その度に霊夢やパチュリー様と鉢合わせに……って何を言わせるのよ!」

 

いや、お前が何を言ってるんだ咲夜!? あ、なんか頭痛くなってきた。

 

「うふふふっ……はいはい、それじゃ昼食にしましょ。せっかく咲夜ちゃんが作ってくれた料理が冷めちゃうわ。ほら、大ちゃんも起きて」

 

そんな様子を笑って見ていたレティが大ちゃんを起こして、ちゃぶ台やらを準備し出した。

それを見て霊夢達が揃ってこう呟いた。

 

「「「やっぱりお母さんだ……」」」

 

昨日の夕食もそうだったが、食事は俺の部屋で食べる事にしている。

体が動かせず、居間に移動するのも大変な俺の為だそうで、今日の朝食は俺が寝ているからと居間で食べたようだ。

昼食の献立はチルノ達がもってきてくれた魚だ。

最初から俺達と一緒に食べる為に持ってきてくれたようだけど、チルノ達は釣りが得意なんだな。

 

「で、その箸は一体何だ、霊夢、咲夜、パチュリー?」

 

俺の目の前には煮物がのった箸が三膳差し出されていた。

こんな光景、数ヶ月前に紅魔館で見たな。

チルノ達は不思議そうに眺めているけど、混ざる気配がないのが幸いだ。

 

「何って早く口開けて食べなさいよ。昨日もしたでしょ?」

「アレは完全に両手が使えないから仕方なく頼んだけど、今日は両手が使えるからそういうのいいってさっき言ったよな?」

 

昨日は霊夢と咲夜とパチュリーと美鈴と文、計5人が交互に色々食べさせてくれたからなぁ……正直、食べにくかった。

まぁ、本当に両手動かせなかったしお腹もペコペコだったし、世話してもらってるのに文句言うのは筋違いってのは分かるけどさ。

 

「確かに言ったわね。で、それがどうかしたかしら?」

「観念しなさいよ。腕だってまだ完全に動くわけじゃないでしょ」

「世話係としては当然です。いい加減に慣れてください」

 

三者三様に詰め寄る霊夢達をどうしようかと思っていると、ふと背中をつつかれた。

 

「ユウキく~ん?」

「ん、なんだレティ? 今いそが……んんっ!?」

 

振り向いた途端、口に箸が突っ込まれた。

思わず噛んでしまったけど、この触感は漬物だな。

 

「どう? 美味しい?」

「あ、あぁ……美味しい、ぞ?」

「そう、良かったぁ♪ これ私が漬けた漬物なのよ?」

 

笑顔で嬉しいそうに話すレティだったが、その笑顔はどーみても悪魔の笑みにしか見えない。

こう確信犯的な笑顔だな。で、なぜそう思ったかと言うと、霊夢達からどす黒いオーラのようなものを感じたからだ。

レティ、分かっててやったな。

 

「「「ユウキ(さん・様)?」」」

「はい」

「「「黙って食え」」」

 

絶対零度の笑顔で迫る三人に対して見動きが取れない俺が出来る事は。

 

「……はい」

 

素直に従う事だけだった。

こんなの慣れるわけないっての!

 

 

 

「あははは、あ~面白かった」

「そりゃそうだろうな……」

 

食後咲夜は買い物、霊夢は魔理沙と用事があると言って外出した。

チルノは大ちゃんと外で遊んでいる。

 

「パチュリー、夕食からは自分で食べるから、いやマジで。紅魔館の時より疲れたぞ」

「わ、悪かったわね。ついムキになっちゃったの。はい、あなたの両手はもう完全に動けるようになったわ」

 

たかが昼食にこんなに疲れるとは……そんな俺に午後の診察を終えたパチュリーはバツが悪そうな顔をした。

元凶でもあるレティは悪気のない顔で、ニヤニヤと俺達を見ている。

 

「それでレティは今日どうしたんだ? 見舞いに来ただけ、じゃないな。ひょっとしてお別れでも言いに来たか?」

「えっ? ど、どうして分かったの!?」

 

レティの様子からそう思っただけだが、図星のようでかなり驚いている。

 

「ただの勘だ。様子も何かおかしかったしな」

「あちゃー流石ユウキ君ね。まぁ、霊夢ちゃんも気付いていたみたいだけど」

 

そう言うとレティは先程までとは打って変わって真面目な顔になった。

 

「そうよ。いつもなら今頃はとっくに眠っている頃だもの。異変のおかげ……と言うのは変だけど、それで冬が長引いてそれでいれたけど、もう眠らないとね」

 

空を飛びまわっているチルノ達を眺めながら、レティは寂しそうに言った。

外はもう空気は春で、暖かい日差しのおかげで雪もだいぶ無くなってきている。

 

「四季がめぐるのは自然の摂理、なんてこの前は言ったけれど……ね」

 

レティは掌に冷気を出したが、どうにも弱々しい。

 

「去年も一昨年もその前も、ずっとずーっと同じ事繰り返してきたはずなのに、今年は半年以上も出てきちゃったから、ちょっとね」

 

いつもより長くチルノ達といたから、別れがいつもよりも辛く感じる、か。

 

「なーんて、こんな事ユウキ君に言ってもしょうがないのにね。あ、でもメインはお見舞いよ? でも、良かったわ目が覚めてくれて……もう眠るつもりだったからね」

「雪女とはいえ、夏や秋はいちゃいけない、なんて決まりでもあるわけじゃないでしょ?」

「冬以外が苦手とは言え、レティ程強い力を持っているならば眠る必要はないんじゃないか?」

 

パチュリーの疑問は俺も感じていた事だ。

 

「うーん、確かに私は普通の雪女よりも妖力強いから、例え夏でも平気と言えば平気なんだけど。そのせいで季節に影響が出ちゃうのよ、冷夏とかね。随分前に一年中寒い年になった事あって、当時の博麗の巫女に退治された事もあるわ。それ以来冬以外は眠る事にしたの」

 

俺達の問いにレティは寂しそうに笑って答えた。

なるほど、力が強すぎるからこそダメなのか。

 

「本当は春の光が幻想郷を包みこんだ時、すぐにでも眠ろうと思ってたのよ。せっかくの春の到来を邪魔したらダメだから」

「でもここまで起きていたのは、ユウキの事で?」

 

レティはパチュリーに頷くと、俺をじっと見つめてきた。

 

「ユウキ君が死にかけたと聞いて、チルノも大ちゃんもルーミア達もみんな泣いていたのよ。そんなあの子達ほっといて眠れるわけないじゃない」

「うっ、それは……悪かった」

 

1週間も眠っちゃったからなぁ。

 

「冗談よ。チルノ達もだけど、ユウキ君の事も心配でね。命が助かったと聞いた時、せめてあなたが起きるまではいようと思ったのよ」

「どうして俺にそこまで?」

 

追いかけっこをしているチルノと大ちゃんの方を見て、レティは優しく微笑んだ。

 

「霊夢ちゃんや魔理沙ちゃん、寺子屋の子供達の事話す事は今までも沢山会ったけど、ユウキ君の事を話すあの子達の目は今までと違って見えたから、かしらねぇ」

「……いや、そこで俺を睨む理由が分からないんだが、パチュリー?」

 

それでもジト目のまま無言で睨んでくるパチュリー、何なんだ一体?

 

「うふふっ、ユウキ君も霊夢ちゃんもパッチェちゃんもこれから色々苦労しそうね。」

 

そう言うレティの体が少しずつ透けてきたような気がする。

 

「レティ? 体が……」

 

空で遊んでいたチルノ達も、レティの様子がおかしい事に気付き降りてきた。

 

「レティ!」

「レティさん!」

「ごめんね2人共。これ以上いると、いつまで立ってもいけそうにないから、このまま行くわ」

 

レティはチルノや大ちゃんの頭を撫で、俺達へと向き直った。

2人が動揺していない所を見ると、眠ると言うのはこういう事を言うのだろうな。

てっきり山奥かどこかで眠るのかと思ったけど、違ったようだ。

 

「もう、いいのか?」

「えぇ、チルノ達とは昨日一日、夜中もずっと色々と遊んだから大丈夫よ。ね、2人共?」

 

俯いたままうなずくチルノと大ちゃん。

そっか、だから2人共あそこまで眠たかったのか。

 

「それじゃあ、ユウキ君。春を取り戻してくれてありがとう。それとチルノ達とこれからも仲良くしてあげてね」

「あぁ、言われなくてもそのつもりだ」

 

仲良く、と言うのが何か含みあるような言い方してる気がする。パチュリーがまたジト目になったし。

 

「パッチェちゃんもそんな顔しないの。美人が台無しよ?」

「よ、余計なお世話よ。ま、今度の冬に来た時は宴会に顔を出しなさいよ。レミィ達もあなたと話したがっていたしね」

「考えておくわ。あ、霊夢ちゃんや咲夜ちゃんに、次に私が出てきた時には何かしら進展あると期待してるからがんばって。と伝えておいて」

「それこそ余計なお世話よ!」

 

意味深な笑みを浮かべたレティにパチュリーは苦笑いで応えた。

反応しない方が身のためだな、うん。

チルノと大ちゃんは泣いているのかと思ったけど、2人共寂しそうにはしているが、そこまでではなかった。

それを見たレティも少し驚いた顔をしている。

 

「レティ、また冬に遊ぼうね!」

「レティさん、ありがとうございました!」

「2人共……ふふっ、これも誰かさんのおかげかしらね?」

 

誰かさんって誰の事だろうなー

 

「では皆さん。よい春を……また木枯らしと共に会いましょう」

 

笑顔で手を振りながらレティは溶けるように消えていった。

後には、雪がハラリハラリと舞っていた。

 

 

続く

 




今回は、レティ回……かな?
レティの出番これでしばーーーーらくないです(笑)

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