幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました。
やっと当麻登場です。


第73話 「本物」

8月21日 

 

某研究所内

 

「……ここにもいなかった、か」

 

砥信先輩と別れてからずっと、実験のデータが移送された施設への侵入・内部ハッキングを繰り返してきた。

勿論、侵入とハッキングの痕跡は残さなかったし、誰にも見られず傷付ける事もなかった。

そうまでして俺が探しているモノ、それは打ち止め(ラストオーダー)と呼ばれる妹達の1人。

一昨日の一件で分かった事、それは打ち止めという個体がミサカネットワークを管理する権限をもった個体である事。

他の個体と同じく培養液の中なのか、それとも自由に動き回っているのかは今も分からない。

打ち止めを探しだしてどうするかは、迷っている。

人質にしても全く無意味、ならば実験を中止にするような命令をさせようかと思ったけど、効果があるのかは疑問だ。

とはいえ、他に実験を妨害する方法が浮かば……ない。

ともかく打ち止めを探しだすのが先だ。

それにしても……

 

「打ち止めの情報がなさすぎるのが気になるな」

 

データ移送がされたとは言え、実験主要施設ではなく外部施設だから打ち止めに関する情報が全くないのかもしれない。

もしくは、今までが色々と情報が簡単に手に入り過ぎていたのがおかしい。

俺が実験阻止のためのデータ収集をしていると知って、重要度が比較的低いデータを数打ちで出す事で、本当に隠したいデータにまで手が届かなくなるようにしているのか、ここならありえる話だ。

今に至るまで、俺に何の妨害も中止命令も下されていないのがその証拠だ。

 

「くそっ! こんな事でいつになったら実験を中止出来るんだ!」

 

思わず近くにあったモニターを殴りつけた。

すると、衝撃でモニターのスイッチが入ったのか同列施設への侵入者情報と共に、カメラの映像に切り変わった。

目を向けると、そこには美琴の姿があった。

 

「美琴、まだ施設襲撃を続けていたのか?」

 

一昨日、美琴は病理解析研究所で沈利や理后達と交戦したのは知っている。

昨日は何も行動を起こさなかったので、何かあったかそれとも襲撃を諦めたのかと思ったが、今回また再開したようだ。

それも移設先の施設、183か所全てを標的にしているのかもしれない。

 

「それにしても、なんて顔していやがる美琴!」

 

美琴の電撃によってカメラが破壊されていき、俺はその度に切り替えていった。

モニターの中の美琴は笑っていた。

施設を破壊しながら浮かべる笑みには、狂気しかなかった。

 

『アハッ、アハハハハッ……』

「ダメだ、美琴。そのままだと、お前も闇に引きずり込まれる!」

 

電撃による破壊活動のせいか映像がこちらに送られてくるだけで、こちらからは映像も音声も送れない。

美琴のいる施設は、昨日侵入したうちの1つでここから近い。

急いで向かおうとした、その時だった。

 

『うるさいっ! ならどうすればいいってのよ!? どんな方法があるっていうのよッ!』

 

癇癪を起した美琴の電撃が周囲を破壊していく、幸いカメラには当たっていない。このカメラに気付いていないのか?

 

『ハッ……ハァ……ァッ?』

 

その時、美琴が何かに気付いたように、恐る恐るモニターの1つに目を向けた。

さっきの電撃の影響でモニター画面が粗くなり、何が映っているのか明確にはこちらでは確認できない。

調整しながらカメラをズームする事で、ようやく分かってきた。

 

「どっかの路地裏に倒れる……妹達!?」

 

妹達の1人が誰かに電撃を浴びせるが、それをそのまま跳ね返されて悶え苦しんでいる。

明らかに実験の映像だった。それもどこかの路地裏で行っているものだ。

肩から激しく血を流し倒れこんでいる妹達の元へ歩み寄ってくる人影があった、一方通行だ。

 

『ぁ、ぁぁ……やだっ』

 

美琴はモニターに向けて必死で手を伸ばした、届かないと分かっていても伸ばさずにはいられない。

そのモニターの向こうでは、一方通行が妹達の傷口に指を刺し込んでいく。

 

『やだ、やだぁ、やめて……やめ、っ!?』

 

美琴の手の中で、妹達が爆ぜた。

モニターいっぱいに広がる赤い血。

まるで美琴の手が妹達の血で染め上げられていくかのようだ。

 

『ぅっ……うぅ……』

 

静かに泣き崩れていく美琴。その小さな泣き声がやけに耳に入ってくる。

気が付けば両手からは血が滴り落ちていた。

無意識のうちに爪が食い込むほど、両手を強く握りしめていたようだ。

 

「やって、くれたな……やってくれたな、アイツらぁ~~~!!」

 

あんなに激しい電撃の中で、実験の様子が映し出されたモニターだけが正常に映るわけがない。

美琴が襲撃していると分かり、誰かの手によってわざと映し出したとしか考えられない。

そして、そんな美琴の様子が、俺がいるこの施設の、この部屋の、このモニターに、このタイミングで映し出されるはずがない!

 

「そうかよ。そうまでして堕としたいのか、美琴を、俺を!!」

 

上層部がどんな目的かは知らないけど、俺と美琴を地獄の底すら突き抜けさせたいらしい。

 

「上等だ。俺は底なし沼地獄で生まれたんだ。これ以上どこにも落ちようがねぇ……けど、美琴までそうはさせねぇぞぉ!」

 

このままだと美琴がまずい。精神的に壊れるか、自暴自棄になってしまう。

だから、まずは美琴を見つけるのが先だ。

 

「でも、その前に……ふんっ!」

 

――ドンッ!

 

近くの柱に思いっきり頭をぶつけて、興奮を冷まさせる。

あの時のように頭に血がのぼったまま暴れても裏をかかれるだけだ。

でももう限界だった。ミクを死なせた数日前とは違う。

今度こそ、徹底的に、全てを破壊する。

一方通行を、実験に関わった人間を、そして、それでも尚実験を続けようとする全てを、今度こそ皆殺しにする。

本当は、最悪の場合として打ち止めを見つけてから実行するつもりだった。

冷静に、確実に……今度こそ皆殺しにする。

 

「はい、下がって下がって。ここから先は危険だから立ち入り禁止ですよ」

「……だよなぁ」

 

すぐに美琴がいた施設に向かったが、空振りだった。

施設は火の海と化し、警備員が辺り一面を封鎖していた。

無線を傍受すると、施設内部に生体反応はなく、美琴は既に逃亡した後のようだ。

また、この火事も今まで通り不審火として処理される事も分かった。

 

「関係ねぇ」

 

呆然と立ち尽くす研究員達を皆殺しにしたかったが、人が多すぎたので諦めた。

あいつらは後で殺す。

 

 

 

それから美琴を探そうとしたが、監視カメラなどには反応はなくどこにいるのかは分からなかった。

恐らく、これからアイツがする事を誰にも邪魔されたくないから映らないようにしているか、カメラを操作しているかだろうけど。

 

「それとも、こんな時間だから一度寮に戻ったか? いや、それはないか」

 

最後に見た美琴の目、あれは死ぬ覚悟を決めた目だった。

だったら今更門限を気にするはずがない。

しかし、最後に黒子に会いに……どうもモヤモヤするから、それもなさそうだ。

一度アジトでちゃんと探そうかと、ふと上を見上げると、風力発電のプロペラが回っているのが見えた。

周りにいくつかプロペラがあったが、回っているのは一部だけだ。

 

「風もないのになんで……っ、そうか! これだ!」

 

まだ頭に血が上っていたみたいだ。

冷静に考えれば美琴の居場所なんてカメラで追わなくても、他に方法はいくらでもあった。

その中の一つがこのプロペラだ。

プロペラは風を受ける以外にも、モーターに特定の電磁波を浴びせる事によって回転する。

これが常に電磁波を発し続けている美琴への道しるべになる。

 

「よしっ、これおを追えば……んっ? えっ? 当麻?」

 

バイクを走らせようとした時、脇を走るツンツン頭が見えて思わず声をかけた。

 

「おわっと! な、なんだユウキか。こんな時間にどうしたんだ……って今はそれどころじゃない。悪い、ユウキ!」

 

なぜこんな所で子猫を抱えて全力疾走しているのか気に放ったけど、急いでいるようだったし俺も急いでいるので構わないでおこうと思った。

が、突然ビル風が吹き、当麻のYシャツがめくれて腰に隠すように差さっているコピー用紙の束が見えた。

一瞬、ほんの一瞬だけそこに書かれている文字が、妹達と書かれた文字が俺の目に止まった。

 

「おい、待て当麻!」

 

俺は走りだそうとする当麻の肩を掴んだ。

 

「なぁっ!? って、ユウキ、さっきも言ったけど俺は今急いで……「妹達」……っ!?」

 

ただちらっと見えた文字を言っただけで、当麻は明らかに動揺した。

間違いない、当麻は実験の事を知った。それも背中に隠しているレポートで。

 

「ユ、ユウキ? あのな……」

「当麻、その腰にさしている用紙を見せろ、早く!」

 

俺の剣幕に何か察したのか、当麻は黙ってコピー用紙を俺に差しだした。

そこには俺の思っていた通り、実験と妹達に関する詳細なレポートが書かれていた。

内容自体は既に知っている事しか書かれていなかったが、問題はこれをどこで手に入れたかだ。

レポートの最後には地図があり、何箇所か×印が描かれていた。

 

「当麻、これ美琴にもらったのか?」

「いや、御坂の部屋で見つけた」

 

当麻がどうやって美琴の部屋に入ってコレを見つけたのかは気にはなったが、それ以上に俺の頭は真っ白になった。

 

「ユウキ、まさかその内容……お前も実験の事を?」

「あ、あぁ……知っている」

 

当麻に嘘も誤魔化しもする必要はない。

後で面倒事が増えそうだけど、俺は実験を知っていてそれを潰す為に美琴を探している事を伝えた。

当麻も、たまたま妹達の1人と美琴と出会い、その時の美琴の様子がおかしく思い、寮まで様子を見に行った。

そうしたら、たまたま美琴が入手した実験の事が書かれたレポートを見つけて、美琴を探して走っている最中だった。

 

「っ! そ、そうか……良かった」

 

俺の話を聞いて当麻はなぜか安堵の表情を浮かべた。

 

「当麻?」

「あーいや、安心した。さっきはユウキが実験の関係者かも、って思ったけど、実験を止めようとしてたんだな。疑って悪かった」

 

当麻が頭を下げるのを見て、俺はさらに衝撃を受けた。

右手で殴られたわけでもないのに、1つの幻想が殺された間隔がした。

 

「ぷっ、ははっ……あはははっ、あーっはっはっははっ!」

「ユウキ? もしもーし、ユウキさーん!?」

 

当麻が心配そうな顔をしてきたが、俺は笑わずにはいられなかった。

木原であり、木原殺しの為にヒーローという属性を埋め込まれた ≪ニセモノ≫ の俺がこの数日学園都市を駆けまわってようやく手に入れた情報。

それを当麻は誰かに頼まれたわけでもなく、自分から行動してその結果実験の事を知り、いても経ってもいられず美琴を心配して走っている。

当麻は実験には何も関係ない。いや、今思えば幻想殺しの事には実験の資料には何も書かれていないのもおかしな話だが。

それでも上条当麻は自分から進んで実験の事を知り、巻き込まれた当事者の1人である友達を心から心配して行動した。

 

「あははっ……これが、本物って奴か」

「ユ、ユウキさま? 一体全体どうしたんでしょうか?」

「なんでもねぇよ。それより、今は美琴だ。乗れ、当麻!」

「わわっ、っとそうだな。行こうぜ、ユウキ」

 

バイクに備え付けてあった折り畳み式の簡易ヘルメットを当麻に被せる。

2人乗りとかそういうのを気にしてる場合じゃない……なぜか子猫もいるが、気にしない、そんな時間もない。

 

待ってろよ、美琴。今、本物のヒーローが行くぜ。

 

しかし、この後本物のヒーローがどういうものか、改めて見せつけられる事になるのだった。

 

 

 

続く

 




後2、3話程で過去編を終える予定です。
早く幻想郷に戻って見動きが取れないユウキを大ちゃんや咲夜、パチュリー達がアレコレする話を……かけたらいいな!(爆)

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